第5話
今回はダリア女王の城の内部の話です。
この視点は...これから重要になる...かも笑
「失礼します女王陛下。」
私は城の中で1番広い部屋に入った。陛下は食事中だった。部屋の中は得体の知れないものの匂いで溢れかえっている。本日の昼食は"肝臓のスープ"のようだ。
「リンダ...わらわの可愛い子...もうおつかいが終わったのかしら?」
陛下は口をナプキンで吹きながら、母親のような声でささやく。
「私なりに。」
「素晴らしい。話を聞きましょう。」
私が口を開いたとき、扉が開いた。
「姉上。」
「あら...我が弟よ。」
陛下は立ち上がり、銀の鎧をつけた男に近寄る。男は身長が低いせいか強そうに見えないが、陛下の弟であり軍隊の隊長である。
「リンダより先に"乙女狩り"の報告を聞こうか。ブレインよ。」
ブレインは鎧をガシャガシャいわせながらひざまずく。
「女王陛下...我々は全力を尽くしました。この国の領土の隅から隅まで...」
「言い訳はいい。結果は...」
「....若い女は...もうこの国には...いないかと....」
バシッ
ブレインが最後の言葉を言い切る前に陛下は平手打ちを食らわせた。
美しい顔を怒りに歪め、ワナワナと震えている。ブレインは涙目だ。
「それが...それがお前の誠意か?!わらわに見せる誠実さか?!情けない!!」
ひざまずいていたブレインの体がふわりと浮かんだ。
「....っかぁっ!へっ...へい....!!!」
「黙れっ!!!」
陛下の手の動きは人の首を締める動きだ。だが手の中は空気のみ。それに対してブレインは宙に浮かんだまま必死に首をさすっている。まるで苦しみから逃れるように。
数分それが続いたあと、やっとブレインは地に足がついた。ブレインはむせてゴホゴホと咳をした。
「目障りだ。下がれ弟よ。これだから男は信頼できん...!!!」
ブレインは逃げるようにして、部屋から出て行った。
「...だがわらわは慈悲深い。殺しはしないのだからな。そう思うだろうリンダよ...?」
「さようでございます陛下。」
少し機嫌を直したのか、陛下はフフフと上品に笑い私の頬を撫でた。
「リンダよ...そなたはいい。決してお世辞も言わず、わらわの機嫌をとらん。ありのままの姿でわらわに接しているのが分かる。」
「恐れ入ります。」
私は頭を深々と下げた。陛下は軽く私の頭を撫で、ゆっくりと歩き出す。
「さて、あやつのせいで聞きそびれたそなたの報告を聞こう。」
陛下は椅子に腰掛け、私も座るように指示した。
「はい。まず、ミアーナの件ですが...」
私は椅子に座りつつ頭の中に記憶した情報を整理する。
「どうやら、アージュドールが保護している子どもたちが数名いなくなった模様です。もう1人の子どもを探しにいったとか...。なので裏切り者を探している余裕も無く、ミアーナは精神的に追い詰められているとのことです。」
「なるほど。つまり魔力も弱まっているか。」
「ええ。ですが、どうやら"影使い"も結界を張る手伝いをしているようなのでやはり直接暗殺をした方がいいかと。」
「ふん、忌々しいヤツらめ。」
私は冷めたスープの上に手のひらをかざし、移動呪文でスプーンごと消した。
陛下はまた満足そうに微笑む。
「あとは、2年前の反乱の主犯格の居所が分かりました。」
「すぐに始末なさい。」
「ご安心を。もうアイリーンを手配済みです。そろそろ終わっているころでしょう。死体はこちらに持って来て本日の夕食にするようにとシェフに言ってあります。」
「いつも通り完璧だ。」
「恐れ入ります。」
「キングに明日会談をしたいと伝えてほしい。...乙女狩りについて話さなくては。」
「それについてですが...なにも女にこだわる必要はないのでは?」
少し失言かとも思ったが、陛下は特に不快には思わなかったようだ。顎に指をあて、考え込んでいる。
「確かに...若さがこの体に取り込めればいいからな。だが、最近2人くらい前に"奪った"唇の劣化が早くてな。その代わりを見つけなくては。若すぎても老け過ぎてもダメだ。」
「なるほど、失礼しました。」
「いや、いい。気にするな。そなたは賢いからな。私はそろそろ風呂に入る。」
そう言い陛下が腕を上げた瞬間、台座も机も消えあるのは私たちが座っている椅子のみになった。
それを合図に私は指で四角を描く。赤く光ったそれを床に押し付けると、床の大理石がデコボコに動き始めた。2人で椅子を消し、脇に避けた。
「今日は最高級のミルクにつかる。これが最近好きでね。」
大理石は巨大な四角をかたどっている。
「外の見張りを頼む。汚らわしい男どもが入ってこぬよう。」
「はい陛下。」
今はさっきまで食事を同じ場所でしたとは思えない、大浴場が広がっていた。
部屋の中からは液体と液体がぶつかる音がする。私は扉の前でナイフを握り、行ったり来たりしていた。ふと窓をのぞくと、陛下の部屋のパイプから白い液体が吹き出している。そして、汚い愚民どもがそれを飲もうと必死に群がり押し合い、殴り合っている。
「バカバカしい...」
フンと鼻で笑った。醜い争いだ。
コツコツと誰かがこちらに近づく音がした。
すぐに扉の前に戻り、身構える。
「このおべっか使いめ...」
ブレインだった。ハアハアと息づかいが荒く、服も乱れていた。
「陛下に用がある。どけ。」
「残念。湯呑中よ。それに...またお姫様に乱暴したのね。」
「...なんだと?」
「あら、結構有名な話だけど?あなたが陛下に叱られると八つ当たりに塔に閉じ込められているお姫様のところに行くってね...最低ね。」
言い終わらないうちに向こうは剣をかざしてきた。
「この先には陛下がいるのよ。なのにそんなものを?」
右手で剣の先をしっかり握っている私にブレインは目を見開いている。私の右手からは血がポタポタと滴り灰色の床に落ちていく。
「...ふんっ。意気地なし。」
私は右手を離す。ブレインはハンカチで汚らわしいといわんばかりに血を丁寧に拭き取る。
「俺を...!!誰だと...!!!」
「陛下の弟。それだけね。...あと、罪もないお姫様に八つ当たりするのはやめたらいかが?」
「罪がないだと?あいつの存在が罪だ。だが陛下のご慈悲で生かしてやってるのだ。」
「でも、あなたの仕事の失態には他ならぬあなた自身の責任。」
ブレイン魔法で皮膚の裂け目が無くなっていくのをぼんやりと見つめている私にツバを吐きかけ、ドスドスと足を踏み鳴らして消えて行った。
「ガキ...」
このくらい言っても罪にはならないはずだ。本当の話だもの。
頭の中でチリンチリンとベルの音がなった。
陛下の湯呑が終わった合図だ。
では、私はこれで失礼します。
心の中でそうつぶやいた後、私は陛下の部屋を離れた...
「ひぃっく....ひぃっく....」
塔の中に女の子のすすり泣く声が響く。
今、ここには本来ならこの国の女王であるはずの少女がいる。この国...フロールはかつて向かいの国に負けないくらい花や木々に溢れた町だった。
国王はカリスマ性を持ち、国民からの信頼もあつかった。王妃は既に亡くなってはいたものの娘もおり、その娘はよくお城を抜け出しては周囲を困らせてまた、癒していたそうだ。
そんな平和な国も国王が再婚したことで、狂いだした。国王が参加した奴隷解放運動で解放した奴隷の1人に"その人"はいた。あまりの美しさに国王は一目惚れし、身寄りの無かった"その人"を連れて帰ったという。
結婚して数ヶ月後、国王は暗殺された。
権力を握った陛下は弟を引き連れ瞬く間に侵略を進め、国民から高すぎる税金をむしり取るようになった。最初国民は次々と反乱を起こしたが強い軍隊にあっさりとやられ、処刑。
だが収まることのない反乱に女王は太陽の光と植物が原因だと考え、黒魔術で黒い雲で太陽の光を消し植物を枯らした。そのおかげか国民は気力や連帯感を失い、生きることに必死になっていった。
一方で王位継承者は代々血が繋がってないといけないというルールが存在した。もしも王位継承者の血が断たれた場合城が崩壊するという。この城は古くから伝わる伝統的なもので貴重なものが大量にあるのだ。陛下は"慈悲"と称して当時10歳だった王女を閉じ込めたというわけだ。
「ひぃっく....」
もう5年もここに幽閉されているのだ。狂ってしまっても不思議じゃない。でも...
スタンとなにかが着地する音が聞こえた。
私は即座に身を隠す。ブーツのきしむ音がした。
「こんにちは、お姫様。」
男の声だ。誰かはすぐに分かったが。
「こん...にちは...。」
「大丈夫?涙で顔がぐしゃぐしゃだよ?またあいつに嫌なことを?」
「う...ん。ひぃっく...」
そっと覗いてみると、男が檻ごしに髪が長い女の子の頭を撫でている。
男の横顔は私の知っている顔とは違い、穏やかで優しかった。
「いきなりね...入ってきて...ぶったの...」
「どこをぶたれたの?」
「ほっぺた。」
男は自分のポケットをゴソゴソとして、緑色の液体が入ったビンを取り出し液体を手にとった。
「赤くなってるからこっちかな?」
「うん。」
男と話して少女は少し落ち着きを取り戻していた。
「ほら、少し痛みがひくだろ?」
「うん!ありがとう!」
2人でフフっと笑っている姿は兄妹のようでどこか微笑ましくもあった。
「ねえ、お兄さん?」
「ん?」
「妹、みつかった?」
少女は男の様子を伺うようにおどおどと聞いた。男は悲しそうに笑う。
「いや...まだだよ。」
「そう...悲しいね。」
今度は少女が男の頭を撫でた。
「...ありがとう。君はどうなのかな?最近これてなかったから、ご飯ちゃんと食べれたかな?」
「うん!お姉さんが持ってきてくれるの!」
しまった...!!!思わず右手に持っているパンを握りしめる。
「お姉さん?」
「うん!冷たい汚いご飯じゃなくてあったかくて美味しいの!それにね、忙しくなければ外の世界のお話もしてくれる!」
「...どんな人?」
「髪の毛が真っ白の人だよ。」
完全に私だとばれた。まずいな。
「髪の毛が真っ白な人...なるほど。」
私は少し潰れたパンをお皿にのっけその場に置き、音を立てぬように立ち去った。
「それは良かったね、イリーナ姫。」
そんな声が出て行き際に聞こえた。
もっとも、ジョーカーには私の匂いも出て行く足音もばれているだろうが。
次はまたダンスト視点に戻ります!