第2話
「そんな....!!!」
キャンディスが頭を抱え、長いブロンドの髪をくしゃくしゃにしだした。
兵器番号22....なぜ、ジョーカーと一緒にいるんだ?ドゥンケルハイトにいたからという理由なら納得できるがそのあとこいつは、9と101と共にアージュドールに保護され、簡単に手だしできないようになったはずだ。それなのにこんなに親しい関係なのかこいつらは。
「これ...イリーナじゃない...?」
女の1人がそうつぶやいた。もう1人も納得するように頷く。
「それにこの人、イリーナのお兄さんよ!」
「なにか知ってるのか?」
俺が聞きたいことを他の奴らが聞いてくれるのは楽だ。
「私たちがバラリオの調査で働いていたところで一緒にいた子よ。すごくいい子で...」
聞きたい話をする前にキャンディスが遮った。
「ああ!私の計画が....!!!!」
計画...?この男か22番が何かしらの計画に関わってたのか?
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ、可哀想なキャンディスちゃん...」
何を知っているのか、クライドは曰くありげに笑う。そもそもこいつは曰くありげに笑うことしかないが...
「このお嬢ちゃんにまた"完璧な"計画を挫かれるとはね~。」
...22番が計画を挫いた?何をいってるんだ?
キャンディスは自分のバックからなにかを取り出そうと震える手で開けた。
「....!?ない!!ない!!ない!!ない!!ない!!ない!!」
いろんなところにバックの中身を投げつけたため、周辺にいた奴は被害にあった。
「なにがないんだ...?」
俺は物をよけながら、キャンディスに近づく。
「日記....!!!あの子の記憶...!!!」
日記....??ハッとした。
こいつの探しているものは...俺のリュックの中に入っている...!!あの女がよこしてきたやつだ...22番の唯一の手がかり。まさかこいつのものだったとは。正確にはこいつが元の持ち主から奪ったんだろうが。
「許さない.....!!!!イリーナ...!!!!」
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ、ワガママな女王様のご機嫌が麗しくないみたいだねぇ。」
「やめろクライド。」
遅かった。キャンディスがクライドに向かって腕を伸ばし、その5本の指の先からナイフが放たれた。クライドはまだ机に座り、笑ったままだ。俺は素早く拳銃を取り出し全てのナイフに弾を当て、ナイフの方向を変えることでなんとかクライドに当たることはなかった。
「お~っ。いつも悪いねミスター•ダンスト。さすが雑種だ。」
「お前の脳天ぶち割ってやろうか?」
俺は一瞬であいつの首を持ち、上に向けさせてやった。
「ひぃっ、ひぃっ...暗闇でも物が見える狼人間の能力、そして常人以上の身体能力をもつヴァンパイアの能力...今この瞬間に素晴らしいショーを見させてもらった。ひぃっ、」
「勝手にショーにするな。要はただのバケモノだって言いたいんだろ?さっきそういう風に言ったもんな。」
今右手で掴んでいるこいつの首をひねり潰したいという衝動を抑え、自分の胸の前で腕を組んだ。
「で、これからどうするんだキャンディス?」
さっきの状況をただただぼんやりと見つめてた奴らがよく言うな。
「...イリーナの居場所は...もう分かってる。彼女を捕まえるのよ...ダンスト。」
俺か。ラッキーだな。言われなくてもやりたくてウズウズしてたところだ。
「クリスティーンと一緒にね。」
クリスティーンという名前を聞いたみんなが再び身震いをした。知らないわけがない。キャンディスの妹でヴァンパイア。普通のヴァンパイアよりも高い嗅覚を利用し今までキャンディスから逃げた奴らを追跡し、殺してきた。あいつから逃れられた者はいない。
「私の持ち物を盗んだ報いを受けさせてやる...」
さっきよりかは落ち着いてはいるが、近くにあった地図をくしゃくしゃに握りしめ周辺に殺意を撒き散らしている。
これで、俺が日記を持っているなんて知ったら殺されるな。クリスティーンとは合流せずに単独で行こう。兵器番号22には聞きたいことがいくつかあるし。
部屋で、ある武器を全て身につけリュックに日記のあることを確認した。
かなり重く、絡まるように金属が誰にも見られぬようフタをしている。本人しか見られないようになっているらしく、俺は今だに開けることは出来ていない。
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ、女王様に怒られちゃうよぉ~?」
声のする方向に拳銃を向けた。あいつの腐ったような匂いが鼻をつく。俺のベットでくつろいでやがる。扉のドアは閉まっている。
「どうやってこの部屋に...」
「鍵穴からスルーっとね。」
腹立つ。俺が気がつかなかったから今さっき入ってきたんだろう。
「その日記は、あのお嬢ちゃんのだろ?複雑な呪文がかかってるね~。おそらく髪の毛かなんかが鍵だろうね~。」
「髪の毛?」
「まあ、持ち主だと分かればなんでもいいだろうね~。髪の毛、血、目玉....ひぃっ、ひぃっ。」
「キャンディスに言ったら殺すぞ。」
「ひぃっ、ひぃっ、ワガママ女王様なんかにこの情報を提供するより君の方がずっと面白くなりそうだからねぇ。」
「情報じゃない。俺がこの日記を持っていることだ。」
今度はぶひゃひゃひゃひゃと声をあげて笑った。その拍子にフードが取れ、髪の毛がないシワだらけの顔が現れた。
「今はね~、君に警告をしに来たんだよ~。」
「警告?」
「そう。今晩中にここからどこか遠くに逃げた方がいいねぇ~。」
ベットから立ち上がり、顔に不気味な笑いを浮かべる。前歯がない。
「なぜだ?」
「君が君じゃなくなる....ひぃっ、ひぃっ。」
徐々にこちらに近づいてくる。後ずさりしながらこいつの言葉の意味を考えた。
「俺が俺じゃなくなる...?」
角まで追い詰められた。こいつは再びニヤリと笑い、ネズミを今にも食べそうなネコのようだ。
「そうだよ。」
シワだらけの人差し指を俺に向けると、俺の体が硬直した。
金縛りか...!!
「狼人間の血が混じってるけど、純血みたいに全く効かないってわけじゃないんだね~。」
「や.....め....!!」
もがく俺にクライドは耳元で囁いた。
「面白いことになってきたねぇ....」
「....っはぁっ!!!」
囁きと同時に金縛りは取れクライドの腹に蹴りを入れた。だが、防衛呪文を使ったのか吹っ飛ばされるだけでダメージは一切ないようだった。
「ひぃっ、ひぃっ、威勢がいいねぇ。思ったより早く金縛りが破られてしまったよ。」
「...まあいい。夕暮れにはここをでるつもりだ。」
「ひぃっ、ひぃっ、そうすればいいさ...」
そう言い残し、あいつはこの部屋から消えた。何もなかったかのように静かな部屋。無音の世界。俺は再び用意を再開した...