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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第4部:願いごと、ひとつだけ 〈神奈編・相坂神奈END〉
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第6章:想いの指輪《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 過去の想いからの解放。

 千歳への想いにとらわれていた俺を神奈が解放してくれた。

 たくさん傷つけてしまった。

 思い悩ませてしまった。

 けれども、今、ようやく幼馴染の関係から抜け出せて恋人になれたんだ。

 

「……うぅ、朔也のエッチ。朔也のバカ。朔也の変態……朔也の……」

 

 そのはずなのだが、なぜか神奈は俺の目の前で凹んでいた。

 しかも、俺への文句を小さな声で連ねている。

 あれから台風の中を何とか家に帰り、シャワーを浴びたのだが……なぜに彼女はここまで凹んでいるのだろう?

 お風呂上がり。

 着替え終わった後の彼女はソファーに座り、なぜかうつむいたままだ。

 

「神奈、どうしたんだ?」

 

 また何か嫌なことでも思い出してしまったのか。

 

「だ、誰のせいだと思ってるのよ!?」

 

 と、思ったら違うらしい。

 顔を真っ赤にさせている神奈は怒っている。

 怒りの矛先は俺に向けられている……なぜだ?

 

「えっと、俺のせいか?」

「そうに決まってるでしょ! 私の裸を見たくせに!」

「シャワー浴びるために、ちょっと脱がしただけで、ちゃんとは見てない」

「うぅ……それでも、見られたのには変わりないし」

 

 あれだけの雨に打たれていた事もあり、神奈は身体が冷え切っていた。

 一時的に調子を崩し、家に帰った頃にはぐったりしていたくらいだ。

 だから、シャワーを浴びるために俺が彼女の服を脱がせた。

 変な意味じゃないぞ?

 その後は、特に何もなく普通にお風呂に入って出た、それだけなのだ。

 残念ながら、色っぽいイベントひとつ起きてない……ホントに残念だ。

 

「ぐすっ、朔也にお尻を見られたぁ」

「お前は子供か!? それくらいで赤くなるなんて。大体、タオル着用だっただろう」

 

「……ふんっ。そりゃ、朔也はいろんな経験があるかもしれないけどね。私にとっては大事なのよ。人が弱ってるのをいい事に好き放題するなんて。朔也と付き合うと身に危険を感じるわ」

 

 恋人になっても、神奈は神奈だということか。

 

「俺と付き合うのならある程度は覚悟しておけって言っただろ」

「……変な事はしないって約束しなさい」

「変なことってどこまでのこと?」

「アンタの頭の中にある欲望の事よ! 朔也のバカ~っ」

 

 クッションを投げられて顔面に直撃する。

 これくらいの元気が戻った事はホッとする所なんだろうな。

 

「……怒ってるのか?」

「恥ずかしいのよっ。朔也は気配りが足りない」

「気配りねぇ……?」

 

 俺はパジャマ姿の神奈を見つめた。

 神奈ってスタイルはあまりよくないんだよなぁ。

 特に胸は寂しい……小柄な方なので、可愛さはあるのだが。

 

「ぐはっ!?」

 

 神奈を見ていると、クッション攻撃(2回目)が俺の顔面を直撃する。

 

「じ、地味に痛いんだからな、それ?」

「うるさいっ。変な目で見ないでよ」

「別に見てないよ。スタイルがもう少し豊かだったらよかったなって願望だ」

「余計に悪いわ!? スタイルのことは気にしてるのに、うぅ……」

 

 千沙子とかと比べても「もう少し頑張りましょう」なんだよな。

 悪くはないが物足りなさはある。

 

「今、千沙子と比べたわよね? あの子と比べられるのは不愉快よ」

「ぐはっ!? な、なぜに分かった!?」

 

 俺は本日3度目のクッション攻撃に襲われる。

 

「朔也の考えそうなことだもの。ツーン、私に触らないでよ」

「恋人関係になったというのに、ガードが堅い」

 

 威嚇する子猫のような神奈の態度に俺は肩をすくめる。

 

「だ・か・ら、私には私のペースがあるの! それに合わせるのも恋人でしょう?」

「その考えだと俺に合わせてくれてもいいだろうに」

 

 思ったよりも神奈は手ごわそうだ。

 そうじゃなければ、これまで2人で暮らしていて何もなかったわけがないのだが。

 昔から、そう言うネタはNGというか、ピュアっていうか。

 今時いない純粋タイプを相手にすると戸惑う。

 まぁ、恋人だっていう自覚が出てきてくれたら、神奈も変わると信じよう。

 

「キスぐらいならいいのか?」

「……普通のならいい」

「変なキスってどんなキスだよ」

 

 過激なキスはパスってことだろうか。

 俺は神奈を抱きよせて軽くキスをする。

 

「んっ」

 

 照れてる神奈は可愛い。

 キスの後、彼女は頬を赤く染める。

 

「朔也は今まで何人の女の子と付き合った事があるの?」

「……プライベートな質問にはお答えできません」

「千歳さんを含めた数を言いなさい。恋人として聞くわ」

 

 今まで聞きたくてもきけなかった質問らしい。

 神奈らしいと言うか、ただ俺としてはそんなに言いたくないと言うか。

 

「朔也が東京で遊びまくってた過去があるのは知ってる。さぁ、覚悟はしてるから」

「何の覚悟だ。えっと……付き合った数だっけ」

 

 俺は指折り数えながら考えてみた。

 

「高校時代は含める?」

「もちろん。当たり前でしょ。朔也って浮気とか平気でしてたっぽいから。それも含めての数よ」

「千歳の時は……まぁ、反省してるけどさぁ」

 

 あの頃は俺もまだ若かったんだよ、若い頃は誰も過ちを犯すものでしょうが。

 という言い訳が通用すればいいのだが……神奈に通用するはずもなく。

 

「えっと、4人くらいかな」

「嘘つき。次に嘘ついたらひどい目に合わせるわ」

「な、何で嘘だって分かるんだよ?」

「朔也の写真立てに入ってる子はもっと多かったもの。過少申告は許さないからね?」

 

 写真立てに俺の歴代の恋人の写真が残ってる。

 俺は必ず恋人の写真を飾るこだわりみたいなものがあるんだよな。

 くっ、あの写真立ての秘密にも気づかれていたとは……。

 

「って、それなら数も分かってるんじゃ?」

「できれば本人の口から聞きたいじゃない。7年間で何人?」

「7年間で付き合ってた子の数は……」

 

 言わなければいけないのか。

 俺の過去を、ちょっと、あまり人には言いたくない過去を。

 

「リアルに言うと、9人くらいです、嘘はついてません」

 

「普通の交際人数がどれくらいの平均か知らないけど、多くない? そりゃ、朔也はカッコいいし、モテるだろうけど……はぁ、朔也って本当に遊び人だよねぇ。私は付き合う自信がないわ」

「大きなため息をつきながら言うなよ!? だから、言いたくなかったのに」

 

 付き合って数週間で破局、合コンで気が合う子と付き合う、また破局。

 そんな繰り返しが、大学の1年の頃にあったのだ。

 大学の初めごろって合コンが楽しいっていうか、女の子も積極的でつい勢いで、何て言う、そんな時期があるだろう?

 と、心の中で言い訳をする。

 

「千歳さんとは長かったんでしょ?」

「アイツとは実際には1年ちょい、その後、1年は留学してたからな」

「……ふーん」

 

 完全に信頼を損ねてしまったらしい。

 神奈はふてくされて拗ねている。

 

「あのな、神奈。人には人の過去がある。それは仕方のない事なんだ」

「また話を戻すけど、中学の時に告白しておけば、その9人の交際歴はなかったわけだよね? それを思うと、少し辛いの。私は朔也にとって10番目なんだなって」

「ぐさっ。そう言われると俺はとんでもない悪い奴に思えるのだが?」

「そう言ってるの。聞こえなかった? はっきり言いましょうか?」

 

 思いっきり、責められてました。

 

「私は初恋なのに、相手は10番目の恋……正直、辛いわ」

「……謝るべきところなのか、これは?」

 

 俺にも反省するべきところはあるが、こればかりはどうしようもできない。

 神奈には大いに不満があることだろうけどな。

 俺も逆の立場なら悲しくなるね。

 

「それなら、私を最後の恋人にするって約束できる?」

「善処はするよ」

「ちゃんと約束して。そうしたら許してあげる」

 

 ……最後の恋人か。

 その意味、神奈はちゃんと分かって俺に約束を求めているんだろうか?

 

「それって、深い意味での約束?」

「朔也はまだ気持ち的に決まってないかもしれないけど。私には安心が欲しいの。朔也の言葉で安心させてほしい」

 

 過去は消えない、俺の過去も、神奈の過去も……だから気になるのも仕方ない。

 これは俺の責任だな。

 俺が不安にさせてきた分、彼女を安心させるのも俺の役目だ。

 俺はポンッと彼女の頭を撫でながら、

 

「俺にとって神奈が最後の恋人であって欲しい」

「うん。私も……最初で最後の恋人が朔也でいてほしいの」

 

 神奈と付き合うこと。

 

「神奈ってさ……結構、独占欲がある方なのな?」

「悪い? こっちは朔也の事をずっと好きで、恋人になれるのを待ってたんだからね?」

「そうか。それなら、素直に独占されておくよ。好きな女に独占されるのはいいことだ」

 

 俺のさりげない言葉に彼女は照れくさそうに笑う。

 俺は神奈から愛されているって実感する。

 幼馴染から恋人へ変わる関係……その変化を俺は楽しんでいた。

  

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