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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第4部:願いごと、ひとつだけ 〈神奈編・相坂神奈END〉
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第2章:あと少しだけ《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


 多種多様の魚が住む、綺麗な海がこの町の魅力の一つ。

 全国からもこの時期には多くの人がスキューバをしに来る。

 俺と神奈はスキューバダイビングの装備を付けて海の中に入っていた。

 

「朔也、あっちの方に魚の群れがいたよ」

「ホントか? 俺も見に行こう」

 

 それにしても、改めて思うが神奈は泳ぎがうまくなった。

 スキューバダイビングできるようになるとは……小さな頃とは大違いだな。

 海に近い町に住んでいながら泳ぐのが大の苦手だったのに。

 2人で海の中をもぐりながらサンゴの影に隠れる魚を眺める。

 水中の世界は別世界だと思う。

 青く透き通る海の中は地上とはまた違う光景が広がっている。

 黄色の魚を追いかけてると視界の端で神奈が岩陰で何かをしている。

 何をやっているんだろう?

 俺が神奈に近づくと、彼女は淡い青色の魚をじっと眺めていた。

 好みの魚なんだろうか。

 しばらくすると、魚は群れの中へと消えていく。

 俺はその光景を見つめる神奈に視線を向けていた。

 やがて、海から浮上すると俺は神奈に尋ねてみた。

 

「さっきは何を見ていたんだ?」

「お魚だけど? とても綺麗な魚がいたから。ここ最近、魚の種類が増えているんだよね」

「へぇ、そうなんだ?」

 

 神奈の話だと、温暖化でこれまでここには来ていなかった魚も増えているらしい。

 逆にいなくなる魚もいるようで、その辺も問題になりかけているらしい。

 温暖化ってのは自然にとって大きな影響を与えているんだな。

 なんてことを思いながら、俺たちは適当に海を楽しんでいた。

 


  

 

 スキューバダイビングを終えて、俺は岩場に座って休憩をする。

 普通に泳ぐよりも体力を使うからな。

 

「あれだけ泳いだのにまだ元気があるのか」

 

 それにも関らず、神奈は目の前の海で泳いでいる。

 朝は元気がなかったけども、少しは元気を取り戻したらしい。

 

「元気のないアイツも寂しいからな」

 

 神奈は元気な方がいい。

 彼女の明るさは傍にいるだけで心地よさのようなものを感じる。

 

「ていっ」

「ぷはぁ!? な、何しやがる、神奈!?」

 

 いきなり、顔面に海水をぶっかけられた。

 彼女は楽しそうに水と戯れながら、

 

「朔也もそんなところでのんびりしてないで、遊ばない?」

「お前みたいに無尽蔵の元気はない」

「年だなぁ。朔也、昔と体力なくなったでしょ? おっさん化してる?」

「俺をおっさん扱いするな」


 確かに都会に行ってから体力は落ちたかもしれないが。

 

「はぁ。分かった、俺もそろそろ泳ぐか」

「ふふっ。えいっ」

 

 水に入ると神奈が俺に抱きついてくる。

 水着姿の彼女、胸を背中に押し当ててくる。

 背中に伝わるのは柔らかな感触。

 

「……当たってますよ、お姉さん?」

「――当ててるのよ」

「というセリフが似合うくらいにスタイルがよかったらいいんだが。いたっ!?」

 

 思いっきり背中を叩かれてしまった。

 正直に答えたらこういう反応をみせるのはどうだろうか。

 

「ふんっ。朔也のエッチ」

「人に抱きついておいてよく言う」

「朔也はねぇ、私を過小評価しすぎだと思うのよ。わ、私だって……それなりにあると思うのに……」

「それなりに、ねぇ? ……正当な評価だと思うけどなぁ」

 

 スタイル抜群とは残念ながら言えないわけで。

 それを自覚しているのか、神奈も頬を膨らませる。

 自分の胸に手を当てて拗ねる彼女。

 

「――本当に朔也ってば意地悪なんだから」

「……っ……」

 

 脳裏によみがえるかつての恋人のセリフ。

 

『朔也ちゃんって意地悪だよね? 意地悪すぎる、うん、意地悪さんだ』

 

 千歳もよく俺に同じことを言っていたっけ。

 

「俺は意地悪か。確かに……そうかもしれないな」

「……朔也?」

 

 気になる女の子に悪戯をする。

 そんな子供みたいなことをしてしまう時がある。

 からかってしまうのは、その反応が楽しいから。

 一緒にいるのが楽しいから。

 俺はあの頃と何も変わっていないのか。

 

「おーい。朔也?」

「……なんでもない」

「なんでもないって顔をして言ってほしい。いきなりボーっとするからびっくりするじゃない。ほら、呆けてないで遊ぼうよ」

 

 神奈が俺のを手を引いて海に誘う。

 

「……くすっ。たまにはこういう時間もいいよね」

 

 水しぶきをあげて、泳ぐ彼女は何だか嬉しそうだ。

 

「せっかくの夏なんだから楽しまなくちゃ」

「そうだな。夏、だからな」

 

 俺にとって、神奈は今、もっとも傍にいてほしい存在だった。

 好きだから、気になる相手だから。

 どういう感情か、自分では分からないけども、彼女を俺は必要としていた。

 もしも、神奈まで失うことになったとしたら、俺は――。

 

「神奈、そういや可愛い水着を着てるな」

「むっ。可愛いってスタイルのこと? 小さくて悪かったわね」

「なんで、そこに反応するんだよ。デザインの事だっての」

 

 例え、俺たちの関係が変わったとしても、今みたいに一緒にいられるのか。

 夏の暑い日差し、爽快な程に晴れ渡る空の下で。

 蒼い海の中、神奈と戯れながら俺はそんなことばかりをずっと考えていた――。

 

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