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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第4部:願いごと、ひとつだけ 〈神奈編・相坂神奈END〉
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第1章:幼馴染の壁《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 朝、目が覚めて俺はリビングに出る。

 

「さぁて、と。神奈はまだ寝ているのか?」

 

 朝の7時過ぎ、いつもなら起きてジョギングをしている神奈も、昨日は夜遅くまで彼女と話をしたりしていたのでまだ寝てる様子だ。

 部屋をのぞいたが案の定、ぐっすりと眠っていた。

 

「まだ起きそうにないな」

 

 しょうがない、神奈に頼まれていたことをしてくるか。

 俺の手にはメモ用紙とカギがある。

 昨日、家に忘れてきた荷物を取ってきてほしいと言われたのだ。

 

「さっさと行ってくるか」

 

 今日にも業者がはいってリフォームの工事が始まるらしい。

 俺は神奈の家に行くと、既に家には人の気配があった。

 

「あら、朔也君じゃない」

「美帆さん。おはようござます」

「おはよう。昨日から神奈は朔也君のところでお世話になってるのよね?」


 昨夜、メールで美帆さんに連絡したと神奈は言っていたっけ。

 

「えぇ、そうですよ。工事は今日からなんですか?」

「うん。もう少ししたら業者の人が来てくれるわ。今日は確認の打ち合わせもあるから。朔也君はうちに用事があるの?」

「これ、神奈から頼まれたんです。持ってきてほしいものだって」

「まだ残してた荷物があるのね。すぐに持ってくるわ。それにしても、あの子の面倒を朔也君に見てもらってごめんね?」

 

 くすくすと微笑む美帆さん。

 神奈の事を俺に押しつけようとしたふしがある。

 

「聞いてもいいですか? 神奈のこと、どうするつもりなんです?」

「今回のリフォームの事? そうね、あの子も気づいてるかもしれないけど私は神奈をこの家をから追い出すつもりなの」

「マジですか?」

 

 神奈も予想していたが本当らしい。

 

「あの子ってさ、この町しかしらないじゃない。外の世界も知らない神奈には一度、外を知って欲しいのよ。あの子だってまだ22歳だし、こんな所でお店するより、何か他の事を探すのもいいことだと思ってるの」

「……美帆さん」

 

 神奈の事を思ってのことなんだろう。

 美帆さんは姉として神奈を心配しているようだ。

 

「まぁ、それでもお店がしたいって言うのなら、考えるけども。それで、朔也君にはお願いがあるんだよね。しばらくの間、神奈のことをよろしく」

「俺に預けていいんですか?」

「朔也君なら、もしもの事があれば、ちゃんと責任をとってくれる。もしもの事がないなら、朔也君なら手も出さないだろうし。安心できるから」

「その安心はされていいのか悩みますが」

 

 俺にも神奈を思う気持ちはあるので別にいいんだけどな。

 

「本気で迷惑してる?」

「いえ、そんなことはないですよ」

「そっか。朔也君がその気なら、もらってくれると嬉しんだけどね。あの子の幸せは朔也君と一緒にいることだもの」

 

 美帆さんは神奈に頼まれていた荷物を持ってきてくれる。

 別れ際に彼女から俺は言われたんだ。

 

「神奈にも朔也君にも考えるいい時間になればいいわ」

「考える時間ですか?」

「都合のいい“幼馴染”の関係もそろそろ通用しないんじゃないかな? 子供じゃない、ふたりは大人なんだもの。関係を見つめなおす時期に来ているんじゃない?」

 

 彼女の言葉は的を得ている。

 俺たちの関係はもう幼馴染という関係では誤魔化せない。

 

「……俺たちも変わらないといけないな」

 

 ただ、ふたりとも怖いんだよ。

 幼馴染ではなくなり、男と女として触れ合うことが。

 俺も、神奈も……仲のいい“幼馴染”のままでいた方が楽だから――。

 

 

 

 

 美帆さんから荷物を預かり、俺は家に帰ると、神奈が起きて朝食を作っていた。

 

「朔也、おかえり。荷物はもってきてくれた?」

「あぁ。美帆さんに頼んで持ってきてもらった」 

「ありがとう。って、お姉ちゃん、家にいるの?」

「リフォームのことで話をするそうだ。昼にはまた旦那のところに戻るらしい」

 

 神奈としてはすぐにでも美帆さんと話がしたいようだが、今日は諦めるようだ。

 

『あの子を追い出すつもりなの』

 

 神奈のために。

 姉として美帆さんがしようとしていることを知った俺は黙っておく。

 それが神奈のためかどうかは分からないが、それは姉妹の問題でもある。

 俺は下手に何かを言うべきではない。

 

「そうだ、朔也。冷蔵庫の中身が少ない。ていうか、食材がほとんどない」

「俺は自炊しないからな。神奈がいないと何もないのが普通だ」

「なんで偉そうに言うかなぁ。ホント、朔也って私がいないと全然ダメなんだから」

 

 それでも、なぜか嬉しそうな神奈。

 実際、神奈がいないと俺の食事はほぼレトルトかカップラーメンになる。

 

「あとでスーパーに買いに行こうよ」

「そうだな。その前に朝食が食べたい」

「うん。すぐに用意するね」

 

 神奈は再びキッチンに戻り支度をしてくれる。

 その後姿を眺めながら俺は独り言をつぶやく。

 

「いつまでも……幼馴染のままじゃいられないか」

 

 美帆さんの言うように子供の頃ならその言い訳も通じた。

 今の二人はもう立派な大人で、ただの幼馴染がこんな風に同居生活などしない。

 俺もいつまでも下手な言い訳してないで、現実をみろってことか。

 

「もう少しだけ、時間をくれ。神奈……必ず答えは出すからさ」

 

 千沙子の事、千歳の事……乗り越えるべきものを乗り越えて、いつかは……。

 神奈が大切だと思う心に偽りはない。

 

「アイツを泣かせる前に、俺がすべきことは……」

 

 今はただ、悩み続けることしかできない。

 自分の中で答えがでるその時までは――。

  

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