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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第4部:願いごと、ひとつだけ 〈神奈編・相坂神奈END〉
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序章:妹以上恋人未満

第2部の続きから。相坂神奈ルートです。

【SIDE:鳴海朔也】


 夏の半ばを過ぎて、俺はお盆休みを迎えていた。

 この時期は学校もないのでのんびりとできる。

 朝から斎藤と釣りに出かけた帰り、俺は彼にあることを告げた。

 

「あのさ、斎藤。神奈と俺って他人から見て、どう見える?」

「何をいまさら。相坂はお前の事を好きだし、幼馴染以上の関係にしか見えん」

「……妹以上、恋人未満。それが俺たちの関係なんだよなぁ」

「それはお前が相坂を妹のように思ってるだけだろう?」

 

 アイツとはずっとそういう関係だったからな。

 

「でも、一番気になる子は誰だと言われたら神奈なんだよ」

「……おい、君島はどうした?」

「千沙子は……その、昨日、正式に告白を断ってきたんだ」

 

 彼女には泣かれたけども、今の俺に2人の女の子の想いを受け止められない。

 一晩考えて、どちらがいいのかと思ったら、俺は神奈の方を選んだ。

 

「ついにそっちは決着か。君島に恋する同級生には朗報だな。けじめをつけたのか?」

「俺の責任だからな。これからも友達ではいてほしいって千沙子に言われた」

「やるなぁ、鳴海。俺はお前を見直したぞ。このままふたりとも中途半端にするかと思いきや、相坂に決めるとは」

「それがな、神奈のことなんだけど……」

 

 もちろん、神奈の事がどちらかと言えば好きだから決めたんだけど。

  

「俺、神奈を女として見て、好きかどうかよく分からない」

「おい、鳴海。……友達として一発ぶん殴ってもいいか?」

「呆れるなよ。ホントに神奈が気になるのは事実なんだが、今まで妹扱いしてきたからさ。分かるだろ? 大事な子には違いないんだけど、恋かどうか分からないんだ」

 

 こんなことはあまり言いたくないが、幼馴染として近くにいすぎたせいだ。

 女の子としての神奈が好きかどうか。

 ただの妹しての好きなのかどうか。

 今の俺には気持ちが入り混じってよく分からない。

 

「結局、お前は相坂にラブってわけでもないのか。まだ昔の恋を引きずってるとか?」

「千歳の事はある程度、心で割り切ってる。いまさら、アイツは戻ってこないし、次の恋をしなきゃってのも分かってる。その相手が神奈がいいと思ったから、千沙子の告白を断ってきた……んだが」

「相坂に正直に言えばどうだ?」

「それで神奈を傷つけるのは嫌だ。まぁ、俺もアイツを本気で異性としてみればきっとうまくいくような気がする」

 

 幸いにも神奈も俺には一定の理解はしてくれている。

 アイツしかいないと決めている。

 あとは自分の中の気持ちをどう向き合うかだけなんだが……ゆっくりとやるしかないかな。

 

「何気に俺ってひどい奴だと思うか?」

「ひどいとは言わないが、お前も東京でいろいろと遊んでたわりには恋愛には真面目なんだって見直してはいるぞ」

「遊び言うなって。……こっちはもう失敗したくないだけなんだがな」

 

 千歳のような辛い思いはもうしたくない。

 それと、大事な子を傷つけたくない。

 ……今の俺にできるのはさっさと気持ちを整理して、神奈を好きになることだ。

 

 

 

 

「ねぇ、朔也? お願い事があるんだけどいい?」

「んー。なんだ? お金の貸し借り以外なら提案を受けよう」

 

 いつものように神奈のお店で夕食をとっていた。

 賑わう店内で彼女は小声で俺に話してくる。

 

「しばらく、朔也の家に泊まってもいい?」

「……おや、純情な神奈にしては大胆発言。俺に襲われたいのか?」

「ち、違うってば。変な意味にとらないで」

 

 これくらいで照れるとは相変わらず可愛い奴だ。

 神奈の話によると、住居スペースをリフォームするので明後日から5日ほどはここには住めないらしい。

 そういや、最近何やらバタバタしていると思ったらそういうことか。

 

「住居スペースのリフォームって?」

「実はここにお姉ちゃん達が住むことになりました」

「……え?美帆さんの旦那って隣町にいるんだろ?」

 

 最近、結婚したばかりの神奈の姉の美帆さんは今はまだ別々に暮らしている。

 いずれは隣町で一緒に住むとか言っていたような。

 

「それが、旦那の方がこっちに住むんだって」

「なぜにここ?」

「このお店のオーナーはお姉ちゃんじゃない。私的には結婚したら、お店を私に譲って、この町から出ていくと思ったの。それがなぜか違う展開になったのよ。私を追い出すつもりなのかな。まだよく分からないけど」

 

 美帆さんは今日はお店にいないので話は直接聞けない。

 リフォーム後にいろいろと話し合う予定ではあるらしい。

 

「……もしかして、お前じゃお店がつぶれると思ったんじゃ」

「そ、そんなことないわよ。朔也ってば意地悪なんだから」

「悪い。それじゃどういう意味で?」

「お店はお姉ちゃんが続ける。旦那もこっちに呼んで2人で暮らすんだって」

 

 うーむ、新婚夫婦の家には居づらいだろうに。

 そのことを神奈も理解しているようだ。

 

「今回のリフォーム計画もお姉ちゃんが主導だし。なんて言うか、私の居場所がないっていうか……追い出されそう」

「まぁ、追い出すっていうよりはお前には好きに生きろってことじゃないのか?」

「……多分ね。前からそんな話は出ていたから」

 

 元々、このお店は神奈の両親が経営していたお店だ。

 それを娘の二人が引き継いだ形になる。

 

「神奈のこと、自由にさせてやりたいってことならお前も考えてみれば?」

「いやよ。私はこのお店が好きだし、ここにいたいもの」

「……お店はともかく、お前がこの家にいると気まずくないか」

「うぅ、分かってるわよ。つまり、その、いろいろとあるの」

 

 だから、そこで照れるな、22歳の女の子。

 どちらにしても、ここがしばらく使えないってのは分かった。

 美帆さんもしばらくは旦那の家に滞在しているようだ。

 

「分かったよ。とりあえず、うちにくるのは許可しよう」

「ホント? いいの?」

「もとは神奈の親戚に借りている家でもある。家も広いから使ってない部屋もある。料理とか洗濯とか掃除とかしてくれるのなら俺も助かるし。来たいのなら来てくれていいぞ」

「……私に家事を押し付けてるだけな気がするわ。別にいいけど」

 

 というわけで、神奈が我が家にくることになった。

 今までも彼女が泊まる程度の事は何度かあるので問題はないだろう。

 

 

 

 

 お店の閉店後、バッグに入った荷物を持って、部屋の空き部屋に移動させる。

 引っ越しというほどの荷物もなく、着替えとか旅行する程度の荷物だ。

 

「この部屋は自由に使っていいぞ」

「……うん。ありがとう」

「布団も予備のがあるから、それを使うとして……あとは……?」

 

 俺が適当に準備をしていると、神奈は家の中を見渡している。

 

「どうした、なんかあったか?」

「ここ最近、この家に来れなかったらずいぶん汚れているなって。お掃除してないでしょ? 汚いなぁ、明日は掃除ね?」

「お前は俺の母親か!? ……そういや、最近は神奈も家にこなかったよな?」

 

 掃除とかはよく家に来てくれる神奈に頼むことが多かった。

 だが、ここ2週間ほどはあまり訪れる事もなかったんだよな。

 俺が不思議そうに言うと彼女は頬をむぅと子供のように膨らませる。

 

「だ、だって、千沙子を部屋に連れ込んだりしてたじゃない。私も、他の女の子を連れ込んでる人の家には気軽に行けない」

「……そういうこともあったなぁ」

 

 俺は遠い昔を思い出すように、少し前の修羅場を思い出す。

 花火大会の翌日なんかマジで焦ったし。

 ベッドの中に千沙子がいて、それを神奈に発見されるという。

 どこの昼ドラの修羅場かと思ったぞ。

 

「何を他人事のように。最近、千沙子は来てないの?」

「……あー、えっと、その、な?」

 

 神奈本人にどう言えばいいか迷うのだが。

 千沙子との件はすでに終わったと伝えるべきか。

 この際、正直に答えておいた方がいいか。

 

「――千沙子の告白は正式に断ったんだ」

 

 夏の最中、少し蒸し暑い夜。

 俺と神奈の関係がこれからどうなっていくのか――。

  

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