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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第2部:想いは過去に巡りて 〈ファーストシーズン・追憶編〉
49/232

第16章:朔也の過去《断章2》

【SIDE:君島千沙子】


 朔也クンの過去が気になる。

 神奈さんに言われたからじゃないけれども、私自身も彼の空白7年間は知りたい。

 今は恋人はいないと言っていた。

 そんな彼に婚約者がいたかもしれないと思わされたのは再会の夜の出来事。

 久々の再会に酔ってしまった彼を介抱していた時のこと。

 私はなんとなく彼の部屋で目に付いた段ボール箱をあけてみた。

 その中に入っていた写真立てと小さな箱に気づく。


「……朔也クンの元カノかしら?」


 最初はそう思いながら、女性と一緒に写真に写る彼を見ていた。

 けれど、箱の中身が指輪だった事に私は少なからず衝撃を受けたの。


「これって指輪? どうして……?」


 彼に婚約者がいたなんて思いもしていなくて。

 そのまま、ショックで私は箱を片付けてしまった。

 あれからずっと気になっていたけれど、具体的な話が聞ける事もなく今に至る。

 





「……図書館か。神奈さんにしては発想がいいじゃない」

「私をバカ扱いしないで。失礼すぎる」

「しかし、過去の事件や事故を調べて出てくるものなのか?」

 

 斎藤クンはそう言いながら図書館の中へと入る。

 私の知らない朔也クンの過去、失われた婚約者。

 その手掛かりが得られないかどうか、私達はまず事故と言う線を探ってみる。

 新聞記事等で手掛かりを知るには図書館が便利だ。

 受付には斉藤クンの恋人である川島さんがいた。

 図書館の司書の仕事をしている彼女ならば検索を頼める。

 

「……と、いうわけなの。水守さんどうかな? 調べられそう?」

「個人名絡みは難しいかもしれませんがやってみます」

 

 彼女はパソコンを操作して過去の新聞記事等を調べ始めてくれる。

 神奈さんが次々と検索ワードを考えていく。

 

「キーワードは鳴海朔也と千歳、そして雨」

「……個人名はダメですね。個人名だと全く、出てきません。雨も漠然とし過ぎていますし」

「うぅ、やっぱり? それじゃ、どういうのがいいの?」

「事故か事件か、どちらかに引っかかると言うのならば、もう少し絞れる検索ワードが欲しいですよ。名前と雨、その程度じゃ検索をかけても……」

 

 神奈さんは首をかしげて「分かんないなぁ」と呟く。

 

「どいて、神奈さん。貴方には元々期待していないもの」

「ひどっ!? 私だってやる時はやる女よ」

「はいはい。いつか見せてね。今はどーでもいいわ」

 

 私は神奈さんをどかせて、川島さんの隣に座る。

 パソコンは有効活用すれば情報量は半端じゃないもの。

 

「検索ワードは東京、大雨、事故、婚約者、千歳。これで調べてみて」

「あれ、千沙子? 事故って決まりなの?」

「とりあえず、調べるためのものよ。何かヒットは出てこない?」

 

 キーボードを操作して文字を打ち込んでいく川島さん。

 過去の新聞の記事がずらっと並ぶけども、それらしい記事はなさそうだ。

 

「雨の事故は車、電車、飛行機とその他、災害もありますね」

「うーん……絞り込めないわ。斎藤クン、何か追加でヒントは?」

「俺に聞くなよ。知らないものは知らない」

「そう。川島さん、実はさっきこういう写真が……」

 

 私は携帯電話を彼女に見せると?と言う顔をする。

 斎藤クンは慌てて「それはないっ!」と動揺する。

 もちろん、脅し風に見せかけているだけで実際に何か写真を撮ってるわけじゃない。

 

「わ、分かった。ヒントだろ、ヒント。えっと、うーん。それなりにヒントになるようなものはあったかな……そうだ、飛行機?」

「……何で飛行機なのよ。美人、適当な事を言ってない?」

「今朝、ある記事を見て思いだしたんだよ。東京の方の空港である飛行機墜落事故から一年、って新聞に書いてただろ? その事件はどうだ? 時期的にも関係があるとは思わないか?」

 

 一時期、テレビで騒がれていた飛行機事故で私も記憶にある。

 ヒントと言うか、思いっきり答えに近い。

 もしも、そうなら、時期的にも当てはまる。

 

「なるほど。一年前と雨と言うキーワードにも当てはまるからありえる」

 

 検索していくとすぐに一年前、ある事故が起きていた事を知ることができた。

 本当にこの事件と朔也クンが関係しているかはまだ分からない。

 

「君島、これが一年前の記事らしい。水守、皆が見えるようにできるか?」

「うん。ビジーさん、任せて」

「ビジーさんって呼ばれているのね、斎藤クン」

「そこには突っ込むな」

 

 どういう意味でビジーさんなのかよく分からないわ。

 川島さんが調べてくれた記事を呼んで私達は事件の詳細を知ることができる。

 その事件は1年前、大雨の降る夜の出来事だった。

 天候が悪く雨風の強い日、アメリカのニューヨークから来た海外便の飛行機が激しい雨天が原因による墜落事故を起こした。

 様々な要因で運が悪かったとしか言えないその事故は結果として死者12名、負傷者50名以上という惨事だった。

 当時のニュースは連日報道されていた。

 私もテレビでその事件の映像を見た事がある。

 空港で炎上した飛行機の映像が流れていた気がする。

 この事故を中心に調べていくと朔也クンとの接点が浮かび上がってくる。

 事故の写真を幾つかの新聞記事などで調べていた。

 その中の一枚に写る一人の男性、そこに写っていたのは……。

 

「これって朔也じゃない?」

「……本当だ。本当に朔也クンがいた」

 

 神奈さんが見つけた写真に私達は息をのむ。

 一枚の写真、悲痛な表情を浮かべる男性。

 その横顔は……朔也クンのものだった。

 

「……っ……」

 

 思わぬ現実に皆が黙り込んでしまった。

 悲愴な表情を浮かべて絶望に沈む彼が記事の写真の端の方に写っている。

 遺族や関係者の写真。

 そこに彼がいる事実は彼が失ったものを意味している。

 

「朔也の当時の恋人は千歳さん。その人については何か分からない?」

 

 川島さんに再度検索を頼む神奈さん。

 私達が彼女について調べようとパソコンを眺めていた時だった。

 ふっと私の視界が暗くなって、私はびっくりする。

 誰かの手に覆われている。

 

「――だぁれ、だ?」

 

 いきなり、顔に手に触れて見て、私はドキッとした。

 男の人の手。

 私はつい最近、この手と手を繋いだ記憶がある。

 

「……さ、朔也クン?」

「正解。皆さん、集まって何をしているんだ?」

 

 私の背後からぎゅっと肩に触れる朔也クン。

 思わぬ彼の登場に皆も慌てていた。

 

「朔也クンこそ、どうしてここに?」

「ん? 俺は調べ物があってここにきただけだ。そうしたら、受付に皆がいるから、何をしているんだって思ってな?」

 

 どうやら、本当に偶然、ここにきたらしくて、まだ私達が何を調べていたかについては気づいていない様子。

 視線で合図して川島さんはパソコンに表示されていた記事を消す。

 

「実は来月のお祭りについて調べていたんだよ」

 

 そう言って話題を変えてくれたのは斎藤クンだった。

 

「お祭り? 何の話だ?」

「そうか、鳴海は今年が初めてだったな。実は俺は青年会として来月の祭りの手伝いをしている。ほら、片倉の神社があるだろう? あの場所でするんだ」

「あぁ、片倉神社の祭りか? へぇ、青年会って大変なんだな」

「お前も暇なら手伝ってくれよ」

 

 確かに彼ら、若い人間が集まる地元の青年会は祭りに関わっている。

 なので、その話題の変え方は自然で間違いはない。

 

「ふたりはどうしてここに?」

「私は食べ物関係で協力できないかなって。今年はいつもと違う、お祭りにしたいなって美人から相談をされていたから、ここで調べていたの」

「ふーん。そういうことか。あれ、それじゃ千沙子は?」

 

 私は苦笑いをしながら、彼に言う。

 

「暇そうにしてたら彼女達に捕まったの」

「なるほど。神奈たちらしい。と言う事は、千沙子は暇なわけだ?」

「え? あ、うん……そうだね」

 

 なぜか私だけ、彼が離してくれない。

 普段なら嬉しいけど、今日は負い目があるだけにあまり嬉しくない。

 神奈さん達は「私達は調べ物があるから」と見捨てられた。

 この場面で私だけ、裏切られてひとりフリーな状態に。

 

「それなら、千沙子は俺と一緒にきても問題はないよな。ちょっと、調べ物があって、手伝ってほしいんだよ」

「え、えっと……」

 

 困っていた私に神奈さんが余計な後押しをする。

 

「いいよ。朔也の方に行ってあげて。ここは私達だけで十分だから」

「そうか。それなら、借りていくな。帰りは皆で一緒に帰ろうぜ。それじゃ、行こうか」

「ちょっと待ってよ、あ、あぅ……」

 

 友人達に見捨てられ、私は一人で朔也クンについていく。

 何とかばれないようにしないといけないわ。

 彼が連れて来たのは雑談しても大丈夫な閲覧室の端の方。

 

「あの、朔也クン、どうしてここに?」

「……千沙子なら、俺に対して嘘ついたり誤魔化したりしないかなって」

「え?」

 

 彼は既に私達の事なんてお見通しとばかりに分かっていたの。

 

「千沙子。本当は何を調べていたんだ?」

「それは……」

 

 私は朔也クンの問いつめに困り果てる。

 真実を告げてもいいけど、それは彼を傷つける事になるような気がして。

 

「千沙子がそういう顔をするなら俺の読みは正解か。怒らないから言ってみな? 千沙子は素直だから俺は信じてるぞ? あのふたりはちょっと嘘ついたりするからなぁ」

「ごめんなさい。朔也クンの過去について……その、千歳さんとの事件について調べていました」

 

 私は正直に彼に言うと、「俺の過去、か」と朔也クンは顔色を曇らせる。

 そして、私達は知る事になる。

 彼の過去に何があったのかを、知るんだ……。

 

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