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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第2部:想いは過去に巡りて 〈ファーストシーズン・追憶編〉
48/232

第16章:朔也の過去《断章1》

【SIDE:相坂神奈】


 季節は6月後半になり、梅雨に入ったせいで、ここ数日は雨が続いている。

 特にここ数日は強い雨が降りはじめて、しばらくは大雨が長引きそう。

 私は雨はそれなりに好きだったりする。

 土砂降りの雨は苦手だけども、小雨程度は見ていて心地いいから好き。

 窓の外は昨日から続く雨が見える。

 

「朔也は雨は好き?」

「……雨か。俺は嫌いだな」

 

 毎夜のように朔也は私のお店で食事をしてくれる。

 この雨と同じように最近の彼は様子がおかしい。

 

「そうなの? 雨のどこが嫌いなの?」

「雨は嫌いだ。思い出したくない事を思い出すし、憂鬱な気分になる」

 

 彼が雨嫌いなんて初めて聞いた気がする。

 中学の時にはそう言う事もなかったはず。

 となると、大学時代に何かあったのかな?

 

「……ねぇ、朔也? どうかしたの?」

 

 数日前から朔也は気分が落ち込んでいるように見える。

 私から話しかけても生返事しかしない。

 

「ん、まぁな」

 

 言葉少なめに肩を落として元気がない彼が気になる。

 何があったんだろう?

 気になっても、朔也はあまり自分の事を自分から語らないので教えてもらえない。

 私は彼の食べ終わった料理のお皿を片づけながら、

 

「学校で何かあったの?」

「別に。問題はないさ」

「……私生活で問題とか?」

「女の子が傍にいない生活って、いろんな意味で寂しいのは確かだよな」

 

 こいつ、一回、痛い目に合わせたい。


「私がそばにいるでしょうが!」

「訂正、好き放題にできる恋人のいない日々が……いひゃい」

「この女の敵めっ」


 今まで本当に女の子と縁のある生活をしてきたみたいね。

 ここでずっと待ち続けてきた私の気持ちなんて知らないで……もうっ。

 

「神奈の方が悩みありそうだよな?」

「そう? お店も順調だし、今は特にないけど?」

「どんなに努力しても胸のサイズが大きくならないとか」

 

 彼の発言に私はムッとしながら顔を赤らめる。

 

「ば、バカっ。余計なお世話よっ、うぅ……」

 

 地味な努力だとバカにしないでよ!

 ……と、怒らせたりするいつものパターンにも覇気がなかったり。

 本当に朔也はどうしちゃったの?

 

「心配しないでも何でもないって。ただ気乗りしないだけなんだよ」

「だって、表情も暗いし、何かあったんじゃないの? 私、相談に乗るわよ?」

「もしも、その時が来れば、そうするけれど、今の俺は悩みを抱えているわけじゃないから心配なんてしなくていい」

 

 そう言って笑う朔也だけど、その笑顔は瞳が全然笑っていなくて。

 とても言葉に出来ない何かを抱えている気がして。

 私も胸の奥からきゅっと締め付けてくるものがあった。

 

「さ、朔也っ!」

「……お、おい? 神奈?」

「我慢してないよね? 辛いこと、あるのなら言ってほしいの」

 

 思わず店内で彼を抱きしめてしまう。

 お店の常連客が冷やかしの声をかけるし、お姉ちゃんには「積極的ねぇ?」とからかわれるけど、そんなのは関係ない。

 朔也が寂しそうな顔をするのは嫌なの。

 彼は私にとっては大切な人だもの。

 

「お前って、本当にいい奴だよな」

 

 彼は軽く私の頬に触れてそう囁く。

 

「……悩みがあれば神奈に話すから」

「絶対よ? 最初に私に相談してよね?」

「あぁ、そうする」

 

 朔也が何か悩みを抱えているのなら、私はその力になってあげたい。

 

「……と、そろそろ離してもらってもいいか?さすがに店内のこの雰囲気は気まずい」

 

 周りの視線を集めてしまっている現状。

 

「ご、ごめん。つい……」

 

 恥ずかしくなって彼の身体から離れる。

 冷静になると気恥ずかしさでいっぱいだ。

 

「ついに神奈ちゃんにも彼氏ができたのか?」

「美帆ちゃんもこれで安心してお嫁にいけるなぁ」

「先生相手なら大変だろうけどな、ははは」

 

 そんな風にお店の常連客にからかわれてしまう。

 

「違いますってば」

 

 私は誤解を解こうと言い訳をしてみたりして。

 朔也は隣で苦笑いをしていただけだった。

 ……彼がどんな悩みを抱えていたのか、それを知るのはもう少しだけ後のお話。

 

 


  

「というわけで、ここ最近の朔也は様子がおかしいの。作戦会議をします」

 

 翌日も外は雨で、私はお昼になってある人物をお店に呼びだしていた。

 お客のいないお店ってガラッとして静かでイメージが変わるの。

 

「……なんで、私が呼ばれているのか意味が分からないわ」

 

 ふて腐れた表情で、私に視線を向けるのは千沙子だ。

 今日はお休みらしく、駅前のスーパーで買い物をしていたところを見つけ、無理やりつれてきた。

 お店の椅子に座りながら、この作戦会議に加わっている。

 

「前に話をしたでしょ? 朔也絡みの過去についてはお互いに協力しあおうって」

「そういう話をしたような記憶もあるけど……何で、今になって朔也クンが関係するの? 何か進展でもあったわけ?」

「千沙子って昔に比べて性格が悪くなったわよね」

「……成長したと言って。昔は大人しすぎたのよ」

 

 昔の千沙子は人見知りしまくり、常におどおどとして怯える根暗少女だった。

 朔也と出会い始めた頃から、見た目も性格も変わったんだよね。

 そして、今では私のライバルとして立ちはだかっている。

 

「千沙子の性格が悪いのは今さらだとして、問題はそれじゃないわ」

「言いたい放題に言ってくれるじゃない……。それで問題って?」

「最近の朔也よ。あからさまに元気がないでしょ?」

 

 千沙子もそれなりに会ってる様子だし、気づいているはず。

  

「確かに近頃の朔也クンには元気がない」

「でしょう? 何があったかどうか話してもくれないし」

「……それが気になる事? 誰だって元気くらいない時があるでしょ」

 

 呆れたように鼻で笑う彼女。

 ムカつくけど、今は敵対するより情報が欲しい。

 

「美人、アンタも何か知らない?」

「……俺はとりあえず、飯の方が優先だ。うん、美味い」

 

 美人も今日は波が荒くて漁に出られず暇そうにしていたので誘ってみた。

 男友達と言う事で、何か知っているかもしれないと思ったから。

 ただでは参加しないというので、ありあわせで昼食を作ってあげたの。

 

「鳴海とは昨日、会ったが相坂の言うとおり、元気がないのは確かだな。こっちに帰ってきてから鳴海があんな風に落ち込む姿は初めてだ。今になって何かがあったと思うのが妥当だろう」

「うん……だから余計に心配なのよ」

 

 朔也が東京で何かがあったのは知っている。

 彼の抱える悩みは根っこが深い問題のような気もしている。

 

「何か事情があって、この町に戻ってきた。その理由を知りたいの。そのためには情報の共有をしましょう。千沙子、何か知ってる事は?」

「……神奈さんに協力する意味ってないし」

「まだ、そう言う事を言うワケ?」

「ひっ。に、睨まないでよ」

 

 いくら千沙子の性格が変わっても、昔と同じように睨めばすぐにひるむ。

 

「昔からいじめっこの神奈さんに睨まれるのは怖いのよ」

「失礼な。ちょっと脅かしただけなのに」

「全然、ちょっとじゃないわよ……はぁ。情報ねぇ、まずは神奈さんから言ってよ」

 

 私は軽くコップに入った水を飲む。

 気になった事はいくつかあるの。

 

「朔也は雨が嫌いよ。昔はそうじゃなかったのに。今回の元気がないのもそれが原因のひとつかもしれない。あとは昔の恋人は千歳さんって名前らしい」

「……ふーん。それだけなんだ?」

「そういう千沙子は何か情報を握ってるの?」

「朔也クン、結婚してるかもしれないってこと」

 

 千沙子の発言に私は「は?」と言葉を間抜けに素で返す。

 何をワケ分からない事を言ってるの?

 

「自分が婚約者だとか言いたいの?」

「それはまた未来の話で今の話じゃないわ。残念ながら私じゃない。けどね、私、彼の家で指輪を見かけたの。婚約指輪……だと思われる女物の指輪よ」


 指輪なんて普通は女性への贈り物くらいしか持つ理由はない。

 でも、私は何度か彼の部屋を掃除してるけど、見つけた記憶がない。

 この子、いつのまにアイツの部屋に入ったことがあるんだろう。

  

「なるほど。でも、その割には千沙子にショックが見られないのは気のせい?」

「だって、多分、過去の話だもの。今は誰とも付き合ってないのは事実。婚約者になっていたとしても彼が持ってる事は破談して渡せなかったとかそう言う意味でしょ。バツイチという可能性がないわけではないけども現実味がない」

 

 千沙子の余裕はそこなんだ。

 ドキッとはするけど、話に納得ができる。

 

「その相手が千歳さんって人の可能性もあるわね」

「雨が嫌いなのは雨の日に朔也がフラれたってことかな?」

「多分だけど、話を総合的にまとめるとそう言う事じゃないの?」

「……何で、お前らは俺の顔を見て言ってくるんだ? あいにく、相坂と君島に話せる情報は持っていないぞ」

 

 美人はそう言って私達から視線をそらそうとする。

 怪しい、何気に真実を知っている人間のような気がする。

 

「嘘ね。美人は朔也の親友だもの。何か知ってるはずよ、答えなさい」

「……知っていても答えられないものは答えられない」

 

 そう言って逃げようとする美人だけど、私と千沙子は彼に詰め寄り、

 

「素直に吐けば許してあげるわ。吐かないと精神的に痛い目を見せる」

「例えば、ここで私達二人で抱きつく写真でも撮って貴方の恋人に見せればどうなるかしら? 斎藤クンも幸せに生きたいでしょう? どうすればいいのか、貴方なら簡単に判断できると思うのだけど?」

「……お前ら、やり方がえげつなさすぎる。しかも、こういう時だけ仲がいいのな」

 

 彼はため息をついて、自分可愛さに仕方ないと話してくれる気になったらしい。

 

「ヒントだけだ。鳴海には婚約者がいた、それは間違いない」

「え? 本当にそうなの?」

「……ただフラれただけ、と言うワケでもなさそうだ。あくまでも予想だが、アイツ、婚約者を亡くしているかもしれない」

 

 思わぬ展開に私と千沙子は顔を見合わせて驚くしかなかった。

 朔也がこの町に戻って来た本当の理由。

 それは一体、どのようなものだったんだろう?

  

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