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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第2部:想いは過去に巡りて 〈ファーストシーズン・追憶編〉
46/232

第15章:一途な想い《断章2》

【SIDE:君島千沙子】


 朔也クンが私の友達になってくれた。

 それはすごく嬉しい事だった。

 中学校で出会った中では一番仲良くなりたいと思っていた相手だったから。

 私は彼に興味があったのかもしれない。

 人当たりも良くて、誰にでも好かれる、そんな彼の魅力に――。

 

「さ、朔也クン? その、重くない?」

「別に。これくらいなら、全然大丈夫だよ。君島の方こそ、足は痛むか?」

「う、ううん。今は大丈夫……」

 

 海へと沈んでいこうとする赤い太陽。

 夕陽に包まれながら私は朔也クンの背中に背負われていた。

 日が暮れるまで、彼は釣りを楽しみ、私は雑談をかわしながら彼に付き合った。

 だけど、いざ帰ろうとすると足が痛んで動けない事に気づいたの。

 思った以上に足は怪我をしていたらしい。

 そして、動けなくなった私を彼はわざわざ背負って家まで送ってくれると言う。

 

「……ありがとう」

 

 もう、本当に朔也クン荷は感謝の言葉しか思い浮かばない。

 彼はそれを気にしない素振りで受け答えてくれるからこちらも気が楽なんだ。

 本当に彼は優しい男の子だ。

 彼の背中につかまりながら私はその体温を肌で感じる。

 男の子の背中に乗る事も、触れる事も、こんなにも間近に迫る事も初めてだ。

 それゆえに、私はすごく緊張して身体が強張っている。

 

「そんなに緊張しなくても変な事はしないけど?」

「違うの。これは、その、そういうんじゃないから」

「そうか?それならいい」

 

 男の子はやっぱり女の子と全然違う。

 こうして、背中越しに彼を感じると男女の違いがよく分かる。

 筋肉の付き方ひとつでも全く違う物に思える。

 

「君島の家はこの海沿いの道でいいのか?」

「うん。いいよ。港地区の方に家があるの」

 

 山側と海側、そして中心部、この町は大きく分けて3つの地区がある。

 朔也クンは中心部の方に家があるけど、私の家は海側の港地区と呼ばれる方角だ。

 あの砂浜からは歩いてもそう遠くない。

 

「そういや、君島の家って確かお医者さんじゃなかったか?」

「そうだよ、お父さんがお医者さんで、お母さんが看護師をしてるの。開業医で、よくお年寄りの人とかが来るわ」

 

 君島医院。

 地元の開業医で、この町には大きな病院もないので、高齢者はよく使ってくれる。

 元々は都会の方に暮らしていた両親。

 それが私が生まれる前にこの町で医院を始めることになった。

 都会みたいな喧騒が苦手な私には落ち着いたこの町の方が合っている。

 

「……朔也クン。私も聞いてもいい?」

「何でもどうぞ」

「相坂さんと付き合ってるって噂は本当なの?」

 

 私がそう言うと彼はガクッと体勢を崩す。

 

「きゃっ」

「す、すまん。つい、君島が変な事を言うから」

「私、そんなに変な事を言ったかな?」

 

 別におかしなことを言ったつもりはない。

 彼と相坂さんが交際しているのは雰囲気的にもよく噂されている事だし、付き合ってると言われても違和感も微塵もない。

 あの相坂さんの懐きようを見れば、私だってそう思うの。

 

「あのなぁ、神奈とは全然、そう言うんじゃないから」

「そうなの?」

「そう。噂は噂。俺と神奈はただの幼馴染で、それ以上でもそれ以下でもない。いわゆる兄妹みたいな関係だってよく言われるが、そちらの方が表現的にはあってるぞ」

 

 こちらに表情を見せない彼はきっと困った顔をしているに違いない。

 

「……そっか。付き合ってはいないんだ?」

「そうそう。本当にただの幼馴染です」

「でも、これから付き合う予定はありそう」

「うぐっ。だ、だから、何もないってば」

 

 相坂さんとの恋愛ネタはあまり追求して欲しくない話題みたい。

 うろたえる朔也クン、こういう動揺の仕方をするんだ?

 

「……だって、相坂さんの態度を見ていれば誰だって思うじゃない?」

「あれは長い付き合いからくるもので、特別な意味は……」

「あるよね? 絶対にアレはある」

 

 それでないと言い切られると相坂さんが可哀想だ。

 彼女が朔也クンを愛しているのは誰が見ても明白だもの。

 

「……まぁ、好意に似たものを感じる事はあるよ」

「ホントにそれだけ?」

「それだけ。それ以上は俺もよく分からない」

 

 彼はそう言って苦笑いをする。

 違うんだ、と思ったの。

 彼は分からないんじゃない、分かろうとしないだけなんだって。

 居心地のいい関係がそこにはあって、壊したくないから目をそむけてしまう。

 

「羨ましいようで、羨ましくないような……」

 

 私は思わずそう呟いていた。

 好きな人と間近にいられるのに、好きな人に好きだと認めてもらえない。

 それはある意味、生殺しのような複雑な気持ちになる。

 

「……君島?」

「朔也クンって、悪い男の子かも」

「げっ。そう言われると辛いな」

 

 私達が港の方面までやって来た時だった。

 こちらに向かって走ってくる人影に気づいたのは……。

 

「朔也っ!!」

 

 いきなり彼を怒鳴る女の子。

 朔也クンは足を止めると、こちらに来ていたのは噂をしていた相坂さんだ。

 私は「嫌だなぁ」と思わずつぶやく。

 朔也クンに背負われている今の姿。

 アクシデント絡みとはいえ、彼女には見られたくなかった。

 だって、どうなるか簡単に予想ができるんだもの。

 

「え? 何で、朔也がその子を背負ってるわけ? ていうか、誰?」

「落ち着け、神奈。いきなり怒鳴るとびっくりするだろ」

「だって、朔也が知らない女の子を……」

 

 嫉妬心丸出しで私を睨みつける彼女が怖い。

 予想していても、怖いものは怖いの。

 

「知らない子じゃない。同じクラスメイトの君島だ。知ってるだろ?」

「君島? 誰? ……そんな地味な子、知らない」

 

 ……ですよねぇ。

 どうせ私は地味で存在感もないから知らないって言われても普通だ。


「君島、少しだけおりてくれるか?」

 

 彼は私を降ろすといきなり相坂さんの頬を引っ張る。

 

「い、いひゃいじゃない。な、何するのよ~っ」

「神奈、俺はいつも言ってるよな? 人の悪口を言うなって」

「だ、だって、今のは悪口じゃなくて、ホントのこと……ご、ごめんなさい」

 

 今にも泣きそうな顔をする彼女は私に渋々謝罪をする。

 教育的指導、本当に朔也クンがお兄さんみたいな関係なのね。

 

「……悪いな。神奈も悪気があったわけじゃないんだ」

「ううん。私も自分で地味な方だって思うもの。気にしないで」

「そんなことないのに。君島は可愛いんだから自信を持てよ」

 

 爽やかな微笑みを浮かべて言ってくれるのは嬉しいけど、背後の彼女が阿修羅の形相で睨んでくるので私は震える。

 

『私の男にちょっかい出してんじゃねぇー』

 

 と言うのが思いっきり顔に出ていた。

 この顔は怖い、今まで朔也クンの周囲に彼女以外の女の子が急接近しないわけだ。

 

「そうだ、神奈。俺と君島は友達になったから、お前も仲良くしてあげてくれ」

「はぁ!? 意味分かんないし。何で私が……いひゃい」

「神奈が人見知りなのは分かってるが、その性格を少しは直さないとな」

 

 人見知りと言うか、ただ朔也クンに自分以外の女の子が近づくのが嫌なだけでは?

 目に見えて拒否の視線を見せていた彼女だけど、朔也クンの命令には絶対なのか、嫌々ながら私と仲良くしてくれるらしい。

 友達が増えるのは嬉しいけど、無理にしなくてもいいんだけどな。

 少し強引な彼だけど、神奈さんなりに絶対的な信頼を抱いてるのは分かった。

 

「……君島さんの名前は?」

「千沙子だよ。よろしくね」

「千沙子さん。私は神奈って呼んで。私は友達は名前で呼ぶ主義なの……例え、嫌な相手だろうと……朔也がそう言うなら仕方ないし、仲良くしてあげる」

「あ、ありがとう。神奈……さん?」

 

 不機嫌そうに言われて私はビクビクする。

 彼女は彼には聞こえない声で私の耳元に囁くんだ。

 

「――私の朔也に手を出したら、どうなるか覚えておいて?」

「は、はい……」


 敵意全開でした。 

 低い声に私は殺されちゃうかもと危機感を抱く。

 怖いよ、この人……朔也クンが好きすぎて周りが見えてない気がする。

 それだけ朔也クンには魅力があるんだろうけど。

 

「神奈。君島さんをいじめるなよ? 何の話をしてるんだ?」

「いじめてないし。千沙子さんって前髪を短めに切ったら、可愛くなると思わない? この暗い前髪の長さが地味さを演出しているの」

「髪か。確かに、切ればもっと可愛くなれるかもね」

 

 帰り道、私の髪をどういじるかなんて話を3人でしながら、神奈さんの監視付きで家まで送ってもらった。

 神奈さんは怖いけど、悪い人ではないらしく、私の足の心配もしてくれていた。

 ホントに朔也クンが好きなんだ。

 そういう純粋な感情が羨ましいと思っていた。

 私は誰も好きになった事がなかったから。

 家に帰った私は母に足の治療をしてもらいながら、前髪を切ってもらうように頼む。

 髪の毛はいつも母に切ってもらっていた。

 

「千沙子、いいの?」

「うん。ばっさり切って。朔也クンもそう言ってくれたし」

 

 前髪を切れば多少は印象が変わるって彼は言ってくれていた。

 私のために、そう言ってくれたんだもの。

 

「……千沙子、何だか楽しそう。いい事があったのね?」

「うん……友達ができたの。中学でやっと……できたんだ」

 

 私はそう言って微笑しながら母に髪の毛を切ってもらったんだ。

 

 

  

 

 翌日、学校に登校した私は皆に驚かれて逆にびっくりした。

 私の周囲に集まる人々、それまでと違う世界が私を待っていた。

 

「えーっ。アレって君島なのか?めっちゃ可愛いじゃん!」

「まるで別人よねー。私も髪切ろうかな?」

 

 こんなに反応されるとは思っても見なくて朔也クンの所へと向かう。

 彼は私の顔を見つめて「思っていた以上に可愛いね」と褒めてくれる

 

「あ、ありがとう。朔也クンのおかげだよ」

「これからも仲良くしような」

 

 私は差し出された手をゆっくりと握り締める。

 

「……うんっ」

 

 私は照れながら精一杯の笑顔で彼に答える。

 思えばきっとこの時から私は彼が好きになっていた。

 私の世界を変えてくれた大切な男の子、朔也クン。

 

「……ふんっ。前髪切ったくらいで何も変わってないんだからねっ! か、可愛くなったとかあんまり調子に乗らないでよっ」

 

 拗ねた口調で私を責める神奈さん。

 私にとってライバルの彼女との宿命もこの時から始まったんだ――。

 

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