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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第1部:再会と蒼い海 〈ファーストシーズン・帰郷編〉
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第13章:星の大海《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


 予想外の神奈も加わった天文部の天体観測会。

 無事に出来あがった料理も存分に楽しんでキャンプ気分を満喫していた。

 食後のデザート、フルーツ(缶詰め)を食べながら、夜が来るのを待つ。

 その間に女性陣は近くの銭湯でお風呂に入ってきたらしい。

 湯上り美人な彼女たちと共に、キャンプファイヤーの代わりに大型ライトを皆で囲んで雑談する。

 

「やっぱり、神奈さんがいると安心できるよ。正直、朔也先生だけだと身の危険も感じそうだったし。先輩もそう思うよね?」

「え? あ、いえ、私は……ち、違いますよ、ホントです。先生を信じてますからっ」

 

 ガーン、望月にまで警戒されていたのか?

 年頃の女の子から拒絶と警戒をされる俺は自信を喪失しかけていた。

 

「お、落ち込まないでください。私は先生の事を信頼してます」

「お兄ちゃんには神奈さんがいるんだから問題ないよ」

 

 桃花ちゃんと望月はフォローしてくれるが、先ほどから神奈の視線が痛い。

 

「ふーん。でも、どうかしら? 可愛いウサギ達を前に都会のオオカミが大人しくしてるわけないもの」

「ご、誤解だ。俺は教師だぞ? そんな破廉恥な真似をするはずがない」

 

 可愛い物を可愛いと思う気持ちはあるが、それはまた別問題だ。

 

「いい? 朔也って昔から女の子にだらしなくて、女の子を見れば声をかける軟派男だったんだから……」

「何を堂々と嘘を吹き込もうとしている、こらっ」

「痛い~っ。おでこを叩かなくてもいいじゃない」

 

 俺は軽く神奈の額を小突いた。

 

「適当な嘘を堂々と教えるんじゃない。昔の俺は真面目でした」

「今の朔也は不真面目な女ったらしだけどね」

「……否定はしませんが、生徒の前で言うのはやめれ」

 

 俺の今後の顧問としての立場を潰す気か。

 千津や桃花ちゃんはともかく、望月に警戒されるのは非常に悲しい。

 

「ふふっ。本当にお二人は仲がいいようです」

 

 俺と神奈のやり取りを見て、望月はくすっと微笑む。

 大和撫子美少女は微笑むだけで様になるから可愛いなぁ。

 

「それ、よく言われるよ」

「愛し合ってるんですね……羨ましいですよ」

「それは違う……ぐふっ!?」

 

 否定しようとすると神奈に邪魔される。

 俺は無理やりに口に入れられた桃缶の桃のせいで喋られない。

 その隙に神奈は勝手にあることない事を彼女達に話しだす。

 

「昔はそれほどじゃなかったのに、今は私以外にも何人か手をつけようとしたりして、かなり軟派な性格になってるのよ。誰でも可愛い子なら手をつけようとする子なん皆も気をつけた方がいいわ」

 

 違う、俺だって人は選ぶぞ?

 そりゃ、ここのメンバーはそれなりに美人揃いなので誰でも歓迎だったりするわけだが。

 俺は何とか桃を飲み込んで、話をそらそうとする。

 

「そろそろ暗くなってきたし、星も見れるんじゃないか?」

「そうですね。準備しましょうか」

 

 ふぅ、生徒達に情報流出は防げたようだ。

 既に夕方のうちにセットし終わった2台の望遠鏡。

 月があると逆に明るくて星が見えにくいので、今日は月が見えない日を選んだそうだ。

 彼女達はそれに集まりながら、望月が説明をしはじめる。

 

「いいですか?春の星座についてはプリントで説明した通りです」

 

 望月は今回初めて観測をするふたりに星座の話を始める。

 桃花ちゃんはともかく、千津は既に大体の事を把握しているようだ。

 

「先輩、春の大三角形っていうのは?」

「それは実際に見てもらった方が説明しやすいです。来てください」

 

 天文部は望月を中心にした彼女たちの部活動、邪魔しないようにしよう。

 興味津々に望遠鏡を望みこむ千津。

 部活経験もいい経験になると勧めたが、すっかりと星の魅力にハマっている。

 本人いわく、宇宙は壮大で面白いから好きになったと言っていた。

 こういう経験を積んでいくのは千津にとってもいい事だと思うんだ。

 

「まずは北斗七星が分かりますか。輝いている七つの星です。その先の延長戦にある星、それがおうし座のアークトゥルスと言います。その下の方にあるのがおとめ座のスピカ。そして、右方向にある、しし座のデネボラを結び合わせると……」

「あっ、三角形になった」

「そう。それが春の大三角と呼ばれるものなんです。綺麗な三角形ですよね」

 

 ここからは俺はあまり干渉せずに部活動を始めた彼女達を俺は見守りながら、もう一台の望遠鏡を使って星空を眺める。

 

「ほぅ、こういう風に見えるのか?」

 

 望遠鏡のレンズ越しに覗いた夜空。

 輝き光る星は幻想的という言葉以外に言い様がない。

 星の一つ一つがくっきりと見える。

 

「すごく綺麗な星空だな」

 

 俺も望月に言われた通りに星を探すのだが、中々、北斗七星すらよく分からない。

 これだけ星があると分かりにくいな。

 強い光を放つ星は限られているので分かりやすいはずなのだが。

 

「分かんないの、朔也? 私にも見せて」

 

 神奈と交替するが、やけに身体を俺に近づけてくる。

 俺の身体に寄り添う形で、俺の方がドキッとする。

 

「ほら、杖みたいに北斗七星があるのは分かる?」

「んー。杖か。なるほど、最後の星は案外、離れているんだな」

「その星がアークトゥルスで、その下がスピカ。そこから右斜め上の星がデネボラ」

「よく知ってるな? 星に詳しいとか?」

 

 神奈は呆れた様子で俺に手元のプリントを見せつける。

 

「さっきもらったこれに書いてるんだけど?」

 

 この観測会の前に配られたものだ。

 望月が用意してくれた今回の観測目標のプリントだ。

 

「さすが、望月。準備がよくできている」

「顧問は星に素人で役に立たないから」

「グサッ!? か、神奈、言ってはいけない台詞をさらりと言うな。俺は今、勉強中なんですっ。一流大学卒をなめるなよ。これくらいね、すぐに覚えますよ」

 

 神奈の説明に俺は感心しながら、北斗七星を見つけ、春の大三角を見つける。

 ややこしいが隣同士の星ではなく、大きく三角形を描くように星を見つけていくと分かりやすいことが判明した。

 おおっ、星同士を結び合わせて見つけると楽しいものだな。

 

「あーくなんとかはオレンジ色の星なのか」

「アークトゥルス。オレンジっぽい星。スピカは白色だし、星っていろんな色があるのね? 私、黄色ばかりだと思っていた」

「俺もそうだ。へぇ、すごいものだな」

 

 俺達は感心していると、望月が興味深い話をしてくれる。

 

「知ってますか、先生? アークトゥルスは地球から37光年、スピカは270光年と距離が離れているんですよ」

「確か1光年と言うのは……ぐぅ」

「寝るな。朔也も大学出てるくせに、無知ねぇ? そんなのも知らないの?」

「俺は文系なんだ。源氏物語や漢字についてなら任せてもらおう。漢検は1級持ってる」

「あんまり関係ないし。1光年は光が一年かかってたどり着く距離よ」

 

 と、自信満々に言う彼女だが、その事もプリントに書いてあるらしい。

 俺もちゃんと読んで星について勉強しようか。

 

「くすっ。先生、例えばあのアークトゥルスは37光年と言いましたけど、私達が今見ている光はあの星が放った37年前の光なんですよ。そして、スピカの光は270光年という事で、270年前の光。同じ星の輝きでも年月が全然違うんです」

「宇宙は広大だと言うが、そう言われると星の見方が変わるものだ」

 

 何となく見上げた星の輝きのひとつひとつは長い年月を経て地球に光を届けている。

 

「ちなみに実際の距離にすると1光年は約9兆4600億キロメートルと途方もない数字になりますから、それぞれの距離はものすっごく遠いと思ってください」

「宇宙は壮大だ、と言う事かな?」

「うわっ、分からなくなったらからって誤魔化したし」

 

 神奈の追求は無視をしておく、教師としてのプライドくらいはあるんだ。

 

「それじゃ、他の星座を見ましょうか。下の方にある星座は……」

 

 望月は再び千津や桃花ちゃん達に説明をしだした。

 俺はふと、間近に寄り添う神奈の顔に視線を向ける。

 

「星ってあんなに近いように見えて、実はものすごく離れている。そう思うと人の関係にも同じような事を考えたりしない?」

「近くて遠い距離ってか?」

「そう。近いように見えて本当はまだ遠い。例えば……私と朔也みたいにね」

 

 それは一瞬の出来事だった。

 神奈がこちらを見上げたと思ったら、彼女の唇が俺の唇に触れていた。

 

「んっ……!?」

 

 数多の星の下、俺は夢か幻か、区別のつかない現実に戸惑うだけだった。

 本当に軽く触れただけのキスで、彼女は唇を離すと、

 

「でも、人と星はやっぱり違う。その気になれば人の方は近づけるもの。勇気はいるけど……頑張れば、ちゃんと近づく。そうだよね、朔也?」

 

 神奈は普段と違い、大人の女性の雰囲気で俺は何も言えずにいた。

 触れられた唇の感触だけが残り続けて、星空を見上げるしか俺にはできなかった。

 そこにいたのはいつも妹のように接してきた女の子じゃなく、ひとりの女の子だったから――。

 

 

 

 

 翌朝、同じテントで俺と神奈が一夜を共にした。

 俺はあまり眠れずに目が覚めると、ギュッと俺に抱きつく神奈が寝息を立てている。

 

「すぅ……」

 

 心地よさそうに寝やがって、昨日のキスに下手に意識させられてるのは俺だけか?

 

「寝袋から抜けだして意味ないし。ったく、離れてくれ。こんなところを誰かに見られたらいいワケができんだろうが……?」

 

 俺はそう言って、ようやくテントの入り口に人影がいるのに気付く。

 

「あ、あの、別に覗くつもりはなくて……お邪魔してすみませんっ。恋人同士ですものね、自然なことだと思いますっ」

 

 ばっちりとこの光景を目撃して赤面する望月が逃げるように後ずさる。

 

「そろそろ、朝食の準備をしようと声をかけにきただけで覗き趣味じゃなくて、あぅあぅ……ご、ごゆっくりしてくださいっ!」

 

 生徒に見られるとは最悪のタイミングだし、一番このメンバーでは見られたくない相手に見られた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!? 違うんだ、これは違う。誤解だ、変な事は一切してないからって……逃げないでくれ!? おい、神奈……離せってば! 今、マズイ事になってるんだよ」

「うぅ……んぅ……何よ、朔也?まだ眠いの……」

 

 寝ぼけている彼女は俺を離そうとしない。

 ちくしょう、無防備な寝顔が可愛いとか思ってしまった自分が憎い。

 神奈は幼馴染で、あまり女らしさを意識した事もなかったのに……。

 

「……って、今はそれどころではない!? このままでは俺の教師としての評価、尊厳がっ!?」

 

 このままでは望月を含めた部員メンバーから俺の評価が下がる事になる。

 それは何としても避けたい。

 その後、俺の必死の言い訳に望月は何とか誤解を解いてくれたようだ。

 教師としてらしく振る舞うのって本当に大変だ。

 ちなみに俺の邪魔をした神奈は呑気に「よく眠れたわ」といつも通りの態度。

 昨日のキスは夢だったのか、それ以上、向こうからも追及することもなかった。

 ……神奈の気持ちと本音、近すぎて見えないものがあるのかもしれない。

 こうして、俺達のゴールデンウィークは波乱を起こして終わった。

 季節は春を終えて、初夏へと移ろうとしていた――。

 

蒼い海への誘い、第1部、終了です。第2部は朔也の過去絡みのお話がメイン。神奈や千沙子視点のお話になります。

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