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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第1部:再会と蒼い海 〈ファーストシーズン・帰郷編〉
40/232

第13章:星の大海《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 今日は夜から天文部の観測会。

 その前に夕方には集まる予定になっていた。

 

「斎藤、車を借りに来たぞ」

「おぅ、これが鍵だ。桃花、おい、桃花! 鳴海が来たぞ」

 

 今日は斎藤の軽トラを借りる事になっている。

 テントや道具など、女が多いので重い荷物は車で運ぶ予定なのだ。

 

「はーい。お兄ちゃん、こんにちは。今日はよろしくねっ」

「うん。ほら、桃花ちゃんは車に乗って」

 

 狭いトラックなので、他の子達は自転車で来てもらうことになっている。

 七森公園までは距離があるとはいえ、十分に自転車で行ける範囲だ。

 その代わり、俺と桃花ちゃんは学校に置いてある荷物を回収していく担当なのだ。

 

「とりあえず、学校に行くか」

 

 俺達は軽トラに乗りながら校舎へと向かう。

 ゴールデンウィーク中なので部活の生徒もまばらだ。

 

「約束の時間まで後少しか。急いで積みこもう」

 

 心配していた天気の方は、天気予報では快晴だと言っていた。

 台車を使い用意していた荷物をトラックへ運び込み、七森公園へと移動する。

 『七つの森公園』、通称は『七森公園』。

 美浜町の中でも特に山付近のほとんどされていない森。

 七つの森という名前の由来通り、その場所には七つの小さな森がある。

 その中に公園として整備された場所がポツンとあるのだ。

 本当はここは森を開拓してゴルフ場が整備される予定になっていた。

 だが、その予定はホテルの場所の都合で変更になり、この森は残される事になった。

 既に開拓してしまった場所は公園として整備して、キャンプなどを行えるようにしたというのがこの七森公園なのである。

 星も綺麗に見えるために、天文部の天体観測会は毎度ここで行われているらしい。

 

「到着、と。皆はいるかな?」

 

 俺は軽トラから降りると、既に到着していた望月がまず出迎えてくれる。

 

「先生、忙しい中、ありがとうございます」

「あぁ。望月、荷物はこれでいいか?」

「はい、大丈夫ですよ。すみません、その、言い忘れていたんですが……」

 

 申し訳なさそうな顔をして望月は謝罪する。

 彼女から話を聞くと今日は木下と橋爪は都合が悪くなりこれなくなったらしい。

 

「数日前にふたりから聞かされたんです。本当ならばすぐに先生に連絡するべきなんですけど、まだ連絡先も知らなくて」

「そういや、そうだったな。今度、ちゃんとした連絡網を作ろうか」

「そうですね。ふたりとも旅行の予定が入ってしまい残念がっていましたが、また今度、楽しむと意気込んでいました。今日は月もありませんからいい感じの星空が見えるはずですよ」

 

 家族優先は仕方ないので、俺と望月、桃花ちゃんと千津の4人になってしまった。

 これでも天体観測をするには特に問題はない。

 

「望月は予定とかなかったのか?」

「もうすでに旅行はしてきましたから。それに私は今日が楽しみだったんです」

 

 いいなぁ、俺も旅行とかしたいな。

 人生を見つけるたびに出かけたい。

 なんて、適当な事を考えていたら俺はある事に気づく。

 

「……それで千津は?」

「あれ? 千津ちゃんいないね?」

 

 桃花ちゃんは辺りを見渡すが、まだ来ていない。

 

「千津さんはまだ来ていません。そろそろ、約束の時間なんですが」

「この場所を知らずに迷子になってるとかないよな?」

「それないと思うよ。千津ちゃんと小学校の頃に来た事はあるもん」

「となると、何かあったか?」

 

 俺は彼女の携帯電話に電話をかけてみる。

 すると、慌てた声で俺に彼女は助けを求めてきた。

 

『朔也先生~、助けて~っ。ここはどこなの~っ!?』


 子供のころの記憶なんて当てにならないものである。 

 予想通りに山道で迷子になっていました。

 すぐに軽トラで千津を回収して無事に観測会を開始する事になった。





 

「というわけで、まずは何をするんだ?」

 

 俺は全体的な流れを知らないので、望月に尋ねて見る。

 部活動である以上は俺はあくまで補助。

 彼女たちの自主性に任せるつもりだ。

 望月は用意していたテントを指差して、

 

「まずはテントを用意します。その後に明るいうちに望遠鏡の準備をしてから、食事の準備をして……夜が来てから天体観測をするという流れです」

「ふーん。それじゃ、テントの組み立てか」

 

テントは2人がいないので、千津達は3人でひとつのテント、俺用のテントと2つのテントをくみ上げる事になった。

 

 こういうアウトドアは昔、よくやっていたのですぐにテントを仕上げてしまう。

 雨は降らなくても露対策にビニールシートを下にひいてから、テントを作る。

 

「うわぁ、先生って早いんですね」

「慣れているからな。そういう望月達は……おい、千津、何をしている?」

 

 テントの設営に初体験の千津と桃花ちゃんは大苦戦だ。

 一度、学校の方で組み立て方の練習はしたはずなのだが、どうにもうまくいかない。

 

「だって、意外と難しいんだよ? これって、どうすればいいの?」

「しっかりと端をもって、ゆっくりと広げていくんだ」

 

 俺は彼女達に指導しながらテントを組み上げさせていく。

 ここは俺がやってもいいが、それじゃ練習にならないからな。

 村瀬先生からのアドバイスで何でも俺がやるのはいけないらしい。

 生徒たちに苦労してでも行動させ、楽しませる事が大事なのだと聞いた。

 ……それを言うわりにはあの人は何も部活の顧問をしていないけど。

 テントの準備も終わり、望遠鏡も2種類、組み上げが終わる。

 本格的な調整とかは望月に任せるしかない。

 素人の俺には星座の事も未だによく分からないのだ。

 ここまではほぼ順調に進んでいたのだが、俺達に致命的な問題が起きた。

 

「……なるほど、事情は大体理解した」

「す、すみません。普段は木下さんや橋爪さんがしてくれるので失念していました」

 

 そう嘆く望月、大和撫子で完璧そうな望月だが思わぬ落とし穴があったのだ。

 

「料理か。せっかくの野外料理も、誰もできないってどういうことだよ」

 

 お嬢さまの望月は料理はおろか、包丁もろくに持った事がないらしい。

 それは千津と桃花ちゃんも一緒の様子だ。

 

「私は出来ない事はないけど?」

「千津ちゃんはダメだよ。家庭科の授業だけは毎回、苦しんでるじゃない」

「うぐっ。と、桃花だって、料理が下手なのは昔からじゃない!」

 

 と、ふたりして、お互いの古傷をつつき合うありさま。

 

「女の子が3人もいて、料理ができないとは……」

「何よ、朔也先生? そういう先生はできるんでしょうね?」

「自慢じゃないが、普段から女に料理を作らせた事はあるが、自分では即席ラーメンくらいしか作った事はないっ!」

「うわっ、開き直ったし。先生だってできないんじゃない」

 

 だって、面倒で覚える事もなかったんだ。

 俺達の目の前には料理されることのない材料達がある。

 今日のメニューはバーベキューと自炊のご飯。

 水はキャンプ場でもあるこの公園で簡単に手に入るが、それが問題ではない。

 

「バーベキューだぜ。適当に作ればなんとかなるだろ?」

「そうだよね、切って焼くだけだもん。それくらいは誰でもできるはず」

「……自信はありませんが、これも挑戦ですね! やりましょう」

「そうそう。頑張れば大丈夫だよっ。先輩、千津ちゃん、頑張ろうっ」

 

 これも挑戦だと言う事で彼女達は努力しようする姿勢を見せる。

 うむ、部活動とはこういう頑張りが大事なんだよな。

 


  

 

 ……1時間後。

 無謀な挑戦はするべきではないと我々は悟り後悔した。

 

「野菜はこういう切り方をした方が火の通りがよくなるの。肉は食べやすいように切るんだけど、皆は女の子だから小さい方がいいわね。ほら、こうやって一口の大きさくらいに切りそろえていけば……」

「おおっ、さすが神奈さん。分かりやすく教えてくれる」

 

 野外活動に新しい先生が一人加わりました。

 悪戦苦闘の末に諦めたので、料理が得意な神奈を俺は呼びだしたのだ。

 誰ひとりまともに調理すらできず、材料を切る時点であまりにも彼女達の包丁の使い方が下手で危なくて見てられず。

 今日は居酒屋が休みの日の神奈にわざわざ来てもらったのだ。

 

「ごめんね、神奈さん。わざわざ来てもらって。でも、誰も出来なくて困ってたの」

 

 あの家出騒動以来、千津はかなり神奈を慕っている様子だ。

 神奈も別に面倒とか嫌がる素振りもなく俺達に協力してくれる。

 

「怪我をされるよりはいいわよ。私も暇していたから。望月さんだっけ? 貴方は包丁の持ち方から教えた方がいいわね。そう言う持ち方だと怪我をするから、こうして、ちゃんと持ったら大丈夫でしょう?」

「す、すみません。普段から全然料理をしないので……」

「一度ちゃんと覚えれば簡単よ。緊張しないで。切り方はこうして、ゆっくりと引けばいいから。そう、上手じゃない。手を切らないように注意して」

 

 優しい声色の神奈に望月も安心しているようだ。

 普段から面倒見のいい彼女らしい。

 

「さすが朔也先生の恋人。いざという時の切り札だね?」

「千津、言いたい事はいろいろとあるが、とりあえず手を動かしてくれ」

 

 だから、恋人じゃないってのに。

 本格的に否定しだした方がいいのか、神奈の外堀を埋める作戦は地味に効果が出ている。

 

「朔也お兄ちゃん、私達は寝床の準備でもしてよ」

「そうだな。ここは二人に任せるか」

 

 俺はお米を炊くという、ミッションを既に終えているので桃花ちゃんと一緒に寝袋をトラックから下ろす。

 寝袋を人数分、テントに放り込むだけなのだが、望月が思わぬ事を言いだした。

 

「そうだ、神奈さん? せっかくですから、神奈さんも天体観測に参加してみませんか?」

「私が? ……そうね、せっかくだし、私も仲間にいれてもらおうかな」

 

 本格的に神奈がこの天体観測に参加する事になったのはいいが、問題は寝床だ。

 

「神奈さんは朔也先生の恋人なんだし、一緒のテントでいいでしょ? ラブラブだもん」

 

 千津の一言により、俺は窮地に陥るのだった。

 俺と神奈が同じテントっていいのか。

 ……って、いいわけないじゃん!?

 

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