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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第1部:再会と蒼い海 〈ファーストシーズン・帰郷編〉
39/232

第13章:星の大海《断章1》

【SIDE:鳴海朔也】


 世間ではゴールデンウィークの真っただ中。 

 その日の夜もいつものように神奈の店で夕食を食べていた。

 

「……天文部の活動?」

「そう。明日の夜は七森の公園で天体観測会だってさ。顧問の俺は引率で付き合うことになっている。部活の顧問も、いろいろと大変なんだよ」

 

 俺は白身魚のフライを食べながら、神奈に明日の事を話していた。

 俺が顧問になった天文部の初めての野外活動。

 どういう事を彼女達がするのか、こちらも楽しみだったりする。

 

「朔也にも教師らしい所、あるんだ」

「……それ、どういう意味だ?」

「別にからかってるんじゃないわよ? 私は感心したの。ちゃんと先生らしく頑張ってるんだなって。朔也が普段、生徒の前で教師として頑張ってるのは分かってるつもり」

 

 神奈の場合は褒めてるのか、けなしてるのか微妙な時がある。

 

「天文部って何をする部活なの?」

「綺麗な夜の星を見る、以上だ」

「……あっ、いらっしゃいませ」

 

 おーい、無視か!?

 だって、それ以外はよく知らないんだからしょうがないだろ。

 俺に呆れたのか、神奈は新しく入ってきた客の方へ行ってしまう。

 このタイミングで放置されるのは悲しいです。

 

「ふふっ。相変わらず、仲がいいのね。神奈と朔也さんは幼馴染でずっと仲が良かったけれど、今も変わらないって言うのは良い事だと思わない?」

 

 俺の相手をしてくれるのは神奈の姉の美帆さんだ。

 この店の店長で、昔から俺達の事もよく知る俺にとってもお姉さん的な存在である。

 

「7年離れても、昔と変わらないってのは確かに不思議な事ですが」

「神奈はそれだけ一途だからね。朔也さん、うちの妹をお嫁にする気はない?朔也さんなら神奈を任せられるんだけどなぁ」

 

 何やら期待を込めた視線に俺は苦笑いをする。

 

「それは、えっと、その……」

「朔也さんは神奈じゃ満足できない?」

「そういうわけじゃありません」

 

 俺はその視線を避けるように飯を食べる。

 こういう、雰囲気は少し苦手だ。

 どうでもいい相手なら冗談ですませられるが、顔見知り相手だとそうもいかない。

 

「美帆さんは彼氏いたんでしたっけ?」

「いるよ、もうすぐ結婚する予定もあるもの」

「そうなんですか? おめでとうございます」

「ありがとう。婚約したのは朔也さんがこっちに帰ってくる前だったものね。結婚は6月を予定しているの。まぁ、結婚してもこのお店は当分の間は続ける予定だけど……って、私の事はいいのよ。こうなると気になるのは年頃の妹でしょ?」

 

 神奈はただいま厨房で料理中。

 それなりに賑わう店内で俺達は会話を続ける。

 

「さすがにまだお見合いとかは早いと思うけど、こんな町だからあんまり出会いもないじゃない? 幼馴染で気心知れた朔也さんなら安心できるもの。それにあの子にとっても想い人なわけだし」

「俺もまだ今はそう言う事を考えていないので」

「考える時になったら、一番最初に考えてあげてね?」

 

 ここでそう念を押されるとある意味、プレッシャーだ。

 しかも、この笑顔で言われると頷くしかないじゃないか。

 

「お姉ちゃん、何を教師見習いとお話をしてるの?」

 

 注文された料理を運び終えた神奈が俺の方をみて嫌味を言いやがる。

 

「俺はちゃんとした教師だって」

「……自分が顧問している部活くらいしっかり把握してなさい」

「ごもっともです」

  

 その神奈は俺の真横の席に座ってくる。

 仕事中なのに珍しい。

 彼女はあまり仕事をしている時は積極的に俺に絡んでくる事はないんだが。

 

「神奈のお嫁の貰い手探しをしてたのよ」

「意味が分かんない」

「ふふっ。朔也さん、そのお話、考えておいてね?」

 

 美帆さんは逃げるようにお店の奥へと行ってしまう。

 残された神奈は自分用にチューハイを作っていた。

 

「おいおい、お酒って……仕事はいいのか?」

「今日は馴染みのお客さんばかりだからいいわ。あの人達は野球観戦してるでしょ?」

 

 確かにおじさん連中は揃ってテレビの方を向いて、野球中継を見ながら雑談している。

 お酒を飲みながら好きなチームを応援する光景は普通の居酒屋の光景だ。

 

「注文がない限りは私も暇なの。それとも朔也はすぐに帰る?」

「いや、せっかくの休みだからお酒を飲みたい」

「ホントはダメなんだけど、朔也相手だからいいわよね。はい、どうぞ」

 

 食事を終えた俺はビールとおつまみを用意してもらう。

 普段は翌日に仕事があるのでお酒を飲むのは1杯程度にしているが、休日はお酒をよく飲めるから楽しい。

 神奈を交えて、俺達は酒を飲み合う。

 

「それで、さっきの話だけど、天文部って星を見るだけなの?」

「俺は顧問を担当しているだけで詳しい事はまだほとんど知らないんだが、明日の夜は泊りがけで星の観測会をするって話だ。生徒達の引率として俺も付き合う事になっている。この前、犬を連れてた生徒の子がいたのを覚えているか?」

「うん。ぬいぐるみみたいで可愛かったよね、あのワンちゃん」

「その子が天文部の部長なんだ。彼女に頼まれて部の顧問をする事になった」

 

 俺はある程度の経緯を説明する。

 部の顧問になって分かったのは、生徒たちのためにサポートをしてやる存在だと言う事。

 彼女達が部活動を楽しむために俺が出来る事は少なくない。

 

「お泊りってテントとか使うの?」

「そういうことらしい。夜通しで望遠鏡で星を眺めるんだそうだ」

「ふーん。楽しそうね、懐かしい青春だわ」

「……そうか、お前にとっては青春が懐かしいか」

 

 そう言ってビールを飲むとお隣の神奈は不満そうだ。

 

「むぅ、私もアンタと同い年なんですけど?」

「冗談だよ、冗談。俺達もまだ若いって」

 

 ふんっと、拗ねてしまう彼女のご機嫌とりに必死だ。

 自分のチューハイを飲み終えて、彼女は勝手に俺の方のビールの片づけを始めようとする。

 

「まぁ、待て。神奈もまだまだ若いってば……」

「どうせ、私はアンタの生徒と比べれば若くないし」

「十代女子と比べるってどれだけおこがましい……ハッ、い、いや、違うって。たった5、6歳違いで全然、問題ないから!?」

 

 本気で神奈に睨まれて俺はビビって低姿勢に出る。

 女には年齢の話題は禁句だということか。

 

「ていうか、朔也の天文部って女子ばっかりでしょ?」

「そういや、そうだな。だから、力仕事は俺がしなくちゃいけない」

 

 大変だなと今からも思っている。

 

「可愛い女子たちと一晩一緒に……怪しいわ?」

「変な考えはやめてくれ。桃花ちゃんや千津もいるんだからさ」

「信用できないっ。絶対に変な真似はしちゃダメよ?」

 

 神奈は俺に対して説教をはじめる。

 そりゃ、可愛い子達に囲まれて一夜を過ごすのは悪くはないが。

 なんていう本音を言えば俺は警察にご用な気がするので深くは考えないようにしよう。

 

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