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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第1部:再会と蒼い海 〈ファーストシーズン・帰郷編〉
31/232

第10章:天文部へようこそ《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 天文部廃部の危機を救うための手段。

 望月に悲しい思いをさせたくない。

 最後の希望を求めて、俺達はある生徒達を勧誘する事にした。

 昼休憩、それぞれ食後に集まり、目的を目指して歩きはじめる。

 

「これから、どこに行くんですか?1年の教室ですか?」

「いや、彼女達がいないのは確認済みだ。別の場所にいる」

「でも、こちらは……屋上ですよね?」

 

 俺達が階段を上って行く先は屋上しかない。

 不思議そうな顔をする望月。

 

「その屋上にいるって聞いたんだよ」

「あまり生徒はここには来ませんけど?」

「昼休憩は食事する子達はいるんだろ」

 

 俺は屋上の扉を開けると、あいにくの曇り空で今日は太陽は隠れている。

 雨こそ降らないようだが、ここ最近は曇り空ばかりだ。

 湿った空気を肌で感じながら俺達は辺りを見渡す。

 いくつかのグループが食事をする屋上に彼女達はいた。

 既に食事は終わったのか、のんびりと雑談をしている。

 

「よぅ、おふたりさん。ちょっといいか?」

「朔也先生? どうしたの、こんなところに?」

「あー、お兄ちゃん先生だ」

 

 俺の声に振り向いたのは千津と桃花ちゃんだった。

 仲良く屋上で食事をしているらしい。

 

「桃花ちゃん。お兄ちゃんか先生か、どっちかに呼び名を決めてくれ。お兄ちゃん先生って何だ」

 

 このふたり、最近はずっとふたりでいると聞いていた。

 千津の当面の目標である友達作りはまずは桃花ちゃんとの関係修復から始めている。

 そう本人から聞いており、ここ数日は屋上にいると言う情報を得ていたのだ。

 

「千津、桃花ちゃん。今は暇か?」

「暇だけど、何?」

「唐突だが、この先輩のお姉さんのお話を聞いてあげてくれ。望月、彼女達は俺の個人的な知り合いでもあってね。説明を頼むぞ」

 

 俺は緊張した面持ちの望月の肩を軽く叩く。

 

「は、はい。あの、お二人とも初めまして。2年の望月要と言います」

「初めまして、斎藤桃花だよ」

「私は黒崎千津。その望月先輩が一体、私達に何の用事なの?」

 

 ここから先は俺がどうこういうよりも、望月に任せよう。

 ここで説得できないとすると、それは仕方ないと思うしかない。

 強引にするわけにもいかないし、全ては望月にかかっている。

 

「私、天文部の部長をしているんです。今日はその天文部に入ってもらえないかの勧誘のために、鳴海先生にお二人を紹介してもらったんです」

 

 彼女は誰にでも敬語口調なのか?

 うむ、大和撫子、お嬢さまっぽくていいなぁ。

 ……こほんっ、俺はセクハラ教師じゃないからね?

 

「天文部? ねぇ、先輩。天文部って何なの?」

 

 まず、くいついてきたのは桃花ちゃん。

 彼女の場合は天然系に見えて気配り上手な女の子だ。

 緊張している望月に配慮して話しやすい言い方をしてくれている。

 そう言う所は兄貴の斎藤によく似ていると思うんだ。。

 

「天体観測をするのが主な部活動です。おふたりは星に興味はありますか?」

「星? そう言えば、最近、星なんて見上げてないな」

 

 千津にとっては星も見る余裕がなかったわけだが。

 

「私も。去年の流星群は美人兄や神奈さん達と見に行ったけど」

「そうですか。私もあの流星群は見に行きました。とても綺麗だったでしょう?」

「うんっ。流れ星って本当に流れるのが早くて綺麗だった。先輩は星が好きなの?」

「はい、大好きですよ。星にはひとつひとつの輝きが特別なものなんです」

 

 彼女は自分の星が好きな想いをふたりに話しだす。

 流れ星、あれは星が実際に流れているわけではない。

 本当にあれだけの星が流れていたら、驚きだろう。

 星自体が宇宙を拘束で移動するのは隕石や彗星と呼ばれる。

 流星は宇宙に散らばる塵や小石が大気圏で燃え尽き、消滅する際に発生した光だ。

 

「朔也先生って顧問だっけ?」

「まぁな。あと2人ほど集めないと廃部の危機って奴で焦ってるんだよ」

「ふーん。あの先輩、ホントに星が好きなんだ?」

 

 熱心に星について語る望月。

 それを聞いてあげている桃花ちゃん。

 

「……活動曜日は?」

「主な活動は水曜日と金曜日。時々、観測会として休日にもあるくらいだな」

「先生の補習は月曜と木曜だから、かぶらないね」

 

 ここ最近、俺は放課後に補習として大学進学を目的としている少数の生徒を教えていた。

 校長も認めてくれて、今では千津を含めた6人程の生徒を特別に教えている。

 少しでもこの学校から大学進学者を出すためのもので、周囲の先生からも協力してもらっている。

 通常の授業とは違う、補習と言う形なので俺自身の担当科目外も教えられるが、その分、大変なではあるけどもやってみる価値はあると思う。

 

「私はいいよ。入ってあげる」

「え? いいのか?」

「先生も言ってたじゃん。何でも挑戦してみろって。それに朔也先生が顧問なら安心できるし、あの先輩もいい人そうだから。勉強に支障ない程度で参加するよ」

「ありがとう。千津、そういう前向きな姿勢はいいことだ」

 

 あの一件で千津もずいぶんと変わった気がする。

 

「桃花、私は天文部に入るけどどうする?」

「へぇ、千津ちゃんが入るんだ? それなら私も入ろうっと。先輩のお話、すごく面白いから私も星に興味がわいてきたし」

 

 桃花ちゃんも入部の意思を見せてくれた。

 俺は驚いている望月に声をかける。

 

「よかったな、望月。これで廃部は免れそうだ」

「は、はい……ありがとうございます。あの、ふたりとも、よろしくお願いしますね」

 

 丁寧に頭を下げる望月。

 本当にしっかりとしている子だ。

 

「よろしく、望月先輩。朔也先生」

 

 こうして千津と桃花ちゃんというふたりの部員を確保した天文部。

 廃部の危機は何とか去ったようだ。

 

「それじゃ、これから入部届けを取りに来てくれ。職員室に行くぞ」

「先生、その、本当に面倒をかけてすみませんでした。それにありがとうございます。おかげで天文部として活動できます」

「俺も顧問として出来る限りはサポートするよ。ふたりをよろしく頼むな」

「はいっ」

 

 望月が可愛らしい笑顔を見せる。

 やっぱり、女の子は笑顔が一番だと思うんだ。

 

 

 

 

「……あら、朔也クン。学校からの帰りかしら?」

 

 夜になって仕事を終えた俺が繁華街を歩いていると千沙子と出会う。

 私服姿と言う事は今日はお休みなのだろうか。

 

「そうだ。千沙子は今日は休みだったのか?」

「うん。今日は隣街まで遊びに行ってきたの」

 

 この町には娯楽も店も少ないが、隣街まで行けばほとんど何でも揃う。

 その隣町まで電車でちょっと時間がかかるわけだが。

 

「そうだ、夕食はまだ? 出来たら一緒に食べにいかない?」

「あぁ。そうするか」

 

 いつもなら神奈の店に行くのだが、千沙子と食事に行く場合はあの場所を避けるようだ。

 ふたりで連れ添ってきたのは以前に紹介された彼女の馴染みのお店「Bar浪漫」だ。

 相変わらず、雰囲気のいいバーでジャズのメロディが流れている。 


「いらっしゃいませ。君島さんと鳴海さんじゃない。今日も仲良いわね?」

「ふふっ。そこで偶然あっただけよ」

 

 店員である沢渡さんが出迎えてくれた。

 俺達は席に座ると適当にメニューを注文した。

 

「お仕事の調子はどう?もうすぐ一ヵ月、教師生活にはなれた?」

 

 そう言ってワイングラスにワインを注いでくれる。

 

「ありがとう。そうだな、いろいろと問題はあったが何とか乗り越えられたよ」

 

 俺は千津の話は伏せて、部活の顧問の話などしてみる。

 

「今日も廃部危機の部活を何とか救ったところさ」

「朔也クンって顧問とかするんだ? 何部の顧問?」

「天文部。人数が少なくて危なかったけどな。何とかメンバーも揃って、本格的に部として盛り上がろうとしている」

「天文部か。私が高校の時にもあったわよ。その時は文化系でも中々人の集まりにくい部活だったわね。……って、確か沢渡さんって天文部じゃなかった?」

 

 思わぬ発言に俺は驚きながら、注文したスパゲティーを持ってくる彼女に尋ねる。

 

「沢渡さんって天文部のOGなんですか?」

「天文部? 懐かしいわね、そうよ。高校3年間、在籍していたわ。それが何か?」

「朔也クン、天文部の顧問をするようになったんだって」

「そうなの、まだ潰れてなかったんだ?」

 

 ギリギリ潰れそうだったのを回避した事を告げると彼女は笑う。

 

「昔から廃部危機が続いてるけど、潰れそうで潰れない部活なのよ。鳴海さんも何か分からない事があれば聞いて。一応、OGとして質問には答えてあげるわ」

「えぇ、その時にはぜひよろしくお願いしますね」

 

 俺達はワインを飲みながら食事をする。

 千沙子は「教師って楽しい?」とワイングラスを傾けながら尋ねてくる。

 

「難しいがやりがいのある仕事だと思うよ」

「朔也クンは教師に向いていると思うわ。誰にでも優しくて頼りになるもの。生徒にも慕われる良い先生に慣れると思う。だからって生徒に手を出しちゃダメよ」

「さり気に危険発言はやめてくれ。俺にそちらの趣味はない」

「そうそう。手を出すなら……私にしておいて、ね?」

 

 甘い言葉、危険な香り。

 俺に顔を近づける千沙子は香水のいい香りがする。

 

「……考えておくよ」

「もうっ。いつでも、朔也クンの望みに応える準備はできているのに」

 

 残念そうに語る千沙子はワインを飲んで少しほろ酔いだ。

 この子も、酔うと積極的になるので扱いに注意しなくては……。

 俺の周りには酒に弱い女が多いのは気のせいじゃない。

 お酒は危険だ。

 どんな女の子でも小悪魔か魔女に変えてしまうから。

 

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