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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第11部:人魚が見た輝き 〈伝承編・鳴海彩音END〉
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第3章:いざ、人魚の島へ《断章2》

【SIDE:鳴海彩音】


「この辺りから潮の流れが急になるんだ。揺れるからしっかり掴まれ」


 斎藤さんの漁船で黒重島に向かっている。

 先ほどまでと違い、波は荒く、激しく船は揺れる。

 

「こんなに潮目が変わるとはな」

「近づくまでが大変なのさ。近づくと逆に波は穏やかになる」

「確か、昔は灯台があったんだっけ?」

「昭和の時代まではな。今は使われてない」


 やがて、徐々にではあるが揺れが収まりつつある。


「斎藤の言う通り、この辺りまで来ると穏やかだな」

「昔は台風の時とか時に船を避難させる場所でもあったらしい。その名残というわけでもないが、何かあれば灯台にいけばいい」

「灯台に? どういう意味だ?」

「最低限の非常食などの備蓄がある。いざという時にあの島に泊まれるようにな」


 斎藤さんいわく、十年前に一度、実際に漁船が故障してあの島に漂着、一夜を泊まり、助けを待った人がいるらしい。


「ほぅ、そういう不測の事態にも備えてるわけか」

「そういうことは、滅多にないけどな。備えは必要だろ。そろそろ接舷するぞ」

まもなくして、船が接舷できる港のような場所に到着した。


 船から降りて、最初に目に入ったのは、大きな石の鳥居だった。


「古い鳥居ですね。恋波さん、これは?」

「黒重神社の鳥居だよ。人魚の伝説があった時期に作られたんだって」


 私はカメラで写真を撮りながら、


「書かれている年号から察するに江戸時代くらいですね」

「そんな昔から建ってるのか。すごいな」

「鳴海。感心するのは良いが、さっさと荷物を運んでくれ」

「はいはい」


 男の子がふたりもいれば大荷物もあっというまに運んでしまう。

 荷物を運び終えると、斎藤さんは眠そうな顔をしながら、


「それじゃ、俺は一旦帰るぞ。そろそろ眠い。夕方にはまた迎えに来る」

「仕事あがりで疲れたところを悪いな。存分に寝てくれ」

「そうさせてもらう。何かあれば連絡してくれ」

「斎藤さん、ありがとうございました」


 急な話でご迷惑をかけた事に礼を言う。

 彼が去っていく船を見送りながら、


「さて、と。まずは祭祀の準備から始めるか」


 私達が向かった先は目的地である黒重神社だった。

 境内には古いながらも小さな本殿がある。

 まずは空気の入れ替え、室内の掃除から始めることにする。

 

「この島は人魚の島って言うだけあって神秘的な場所だな」

「年に数回しか人も入らない場所だもん」

「恋波ちゃんは何回かここに?」

「祭祀の手伝いで毎年来てるよ。お祖父ちゃんによく連れてきてもらったの」


 その祭祀の下準備が今回の目的のひとつ。

 本殿の奥から装飾物を出してきて、祭祀のための飾りつけを始める。


「先生、そっち側にこれを置いて。見た目よりも重いからね」

「この台だな。彩音、足元に気を付けろ」

「はい。恋波さん、この紙束はどちらに?」


 慌ただしくも、本殿内で準備を始めてから数時間が経過して。

 無事に祭祀の準備は終了するのだった。





「うまいっ。こういう海を眺めながらおにぎりを食べるのって最高だな」


 海が見える場所に腰を下ろして、私達はお昼ごはんを食べていた。

 たくさんのおにぎりの入ったお弁当箱。

 

「……朝から食パン一切れの空腹を我慢したかいがあったぜ」

「まだ言いますか、それ」

「空腹だからこそ、更に美味しく感じるものなのさ。これって恋波ちゃんの手作り?」

「残念。私じゃなくて、お姉ちゃんの手作りです。皆で食べてって作ってくれたの」

「なるほど、姫香さんか。それはそれでよし」


 美人の手作りなら何でもいい人でした。

 だけど、確かにこのおにぎりは味がしっかりして美味しい。

 口に広がるお米の味わいと塩の風味、それに具材も種類が豊富で食べても楽しい。


「このおにぎりは塩加減が抜群ですね」

「えへへ、お姉ちゃんは料理上手だもの」

「うーん、定番の昆布おにぎりも最高だ。ちなみに、恋波ちゃんは料理できる?」

「お姉ちゃんほどじゃないけど自炊スキルくらいはあるよ」


 すると、朔也君は「ちょっと感激した」となぜか目を細めながら、


「素晴らしい。最近の女子は料理スキルを持たない子が多くてなぁ」

「そうなの? 料理なんて覚えたら簡単じゃない」

「甘いな。俺の部活の女の子なんて皆、料理スキルないぜ。マジで悲しい」


 女の子は誰でも料理ができるという幻想を男の子は持ちすぎです。

 私もさほど得意な方ではない。

 男って料理が出来ない子はできないと言う現実を見ないから。


「先生って何の部活の顧問をしてるの?」


 恋波ちゃんの質問に彼はドヤ顔をして、


「天文部だよ、天文部。壮大な宇宙の浪漫、星を眺める部活だ」


 そう言えば、そんなことも言っていたっけ。


「へぇ、天文部なんだ。マイナー部活だね」

「ぐさっ。はっきり言わないで」


 恋波さんの言葉が朔也君の胸に突き刺さる。


「マイナー過ぎて、毎年のように部員集めに苦労してる部活なのだ」


 それは意外だった。

 私の通っていた高校にも天文部はあったけども、それなり人数がいた部活だったため不人気と言う印象がなかった。


「これだけ星が綺麗に見える街なのに、意外な感じ」

「それゆえに、だな。田舎すぎて、星に魅力を感じてもらえず」

「あー、都会だと逆に星が綺麗に見えないから人気なのか。私が入ってた登山部も、都会じゃ中々、山登りを楽しめないからって入ってきた子も多かったもの」


 人ってないものねだりをする生き物だから。

 それにしても、朔也君も顧問の先生として頑張ってるようだ。

 先生としては真面目っぽい……私生活の乱れは半端ないけども。


「一度魅力を知れば楽しい部活なんだけどな。部員集め、来年はどうなることやら」

「よければ、私が入ってあげてもいいよ? 美浜高校に入学予定だし」

「ホントか、恋波ちゃん!? それは嬉しい朗報だな」

「運動神経いい方じゃないから文化系の部活に入りたいと思ってたの。今だって中学は書道部なんだよ。楽しくもないし、地味過ぎるけどね」


 ただ、そのおかげで字はかなり上手らしく、神社の手伝いにも役立ってると言う。


「我が美浜高校は来年、恋波ちゃんの入学を心待ちにしている。その際はぜひ友達を連れて天文部へ入部してください」


 恋波ちゃんの手を取り握手する彼に「セクハラですか」と釘をさす。

 そうやってすぐに女の子に触ろうとするのは彼の悪い癖です。


「ふぅ、お腹もいっぱいになったし。活力を取り戻したぞ」

「それじゃ、この島の散策に行く? 彩音さんの目的だったんでしょ」

「人魚の島のフィールドワーク。恋波さん、案内してもらえますか?」

「うんっ。この島の案内なら任せて」


 人魚の島。

 かつて、そう呼ばれていた黒重島。

 美浜町の人魚伝説、フィールドワークも本格始動だ――。

 


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