表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第11部:人魚が見た輝き 〈伝承編・鳴海彩音END〉
224/232

第2章:フィールドワーク《断章2》

【SIDE:鳴海彩音】


 片倉神社での約束もしてもらい、私のフィールドワークは順調に進んでいた。


「腹が減ったし、お昼にしようか」


 朔也君が海沿いの通りにあるカフェへと入る。

 オープンテラスの素敵なカフェ。

 可愛らしい店員さんが出迎えてくれた。


「こんにちは、朔也さん。今日は素敵な彼女をお連れですね?」

「お連れですよ。由愛ちゃんも今日も可愛くて……いてっ」

「誰が彼女か。私は彼女じゃないので否定して」

「細かい事を気にする子だな。まったく。由愛ちゃん、この子は俺の親戚の子なんだ」


 穏やかで天然そうな女の子。

 年齢は私と同じくらいだろうか。


「そうでしたか、ふふっ。よく似ている兄妹みたいに見えます」

「……それはそれで嫌だわ」

「いや、それくらいは歓迎しろよ。俺と彩音はよく似ていると昔から言われてただろ。顔つきとか似てるから実兄妹だと親戚でも思われるくらいだ」


 確かに、鳴海家の顔立ちと言うべきか、容姿は親戚ながらも似ている方だ。

 昔はそれが嬉しかったものだけど、今はちょっと困る。


「私は星野由愛と言います。お名前を聞いてもいいですか?」

「鳴海彩音です。うちのダメ従兄が迷惑をかけますか?」

「かけてねぇよ。彩音、俺をダメ従兄扱いするのはやめてくれ」


 私の頬を引っ張りながら、彼は「俺の印象が悪くなるじゃないか」と咎める。

 この子の前ではいい恰好をしたい様子だ。


「自業自得でしょ、朔也君」

「いえ。朔也さんは迷惑をかけるような人ではありません」

「え?」

「いつもお世話になってるんですよ。優しいお兄さんみたいな存在なんです」


 キラキラとした純粋な瞳。

 この天使のような女の子が眩しく見える。

 いかにも天然&純粋な朔也君好みだ。


「ずいぶんと信頼されてるんだね」

「昔の彩音もあれくらい純粋に俺を慕ってくれていたのに」

「……その信頼を裏切ったのは朔也君自身だと言う事をお忘れなく」


 私だって好きでこうも彼に愛想がつきかけているわけではない。

 きっと今だって私の中には彼への想いが眠ってる。

 席に案内されて、お勧めのお昼のランチセットを頼んだ。


「この店はよく来るの?」

「お昼を食べる時によく利用するかな。由愛ちゃんにも会いに来たいし」

「朔也君、会うたびに綺麗な女性が多いのは気のせい?」

「気のせい、気のせい」


 それは嘘だぁ。


「いろんな女の子に手を出してるようで。株価下落中は変わりません」

「その誤解はやめなさい。由愛ちゃんは誰にでもあんな風に天使さんなの」


 聞けば、由愛さんはこの町屈指のお嬢様でもあるらしい。

 なるほど、いかにも箱入り娘的な純粋さに納得。


「悪いオオカミに捕まって食べられなきゃいいけど」

「ん? 悪いオオカミなどこの俺が追い払ってくれるわ」

「オオカミは朔也君でしょ!」

「……わぉーん」


 それはワンちゃんだ。

 朔也君の女癖の悪さが改善されていない。

 この町でも多くの女性を毒牙にかけていそう。


「お待たせしました、ランチセットです」


 美味しそうなバジルソースのパスタ、ジェノベーゼ。

 いい匂いにつられて食欲がわいてくる。


「ありがと、由愛ちゃん。そう言えば、茉莉はどうしてる?」

「茉莉ちゃんなら、今は両親と共に旅行中ですよ。東京に連れて行って欲しいとねだられて、しばらくおでかけしてます」

「東京って……ホントに憧れてるんだな。そうだ、お土産は東京バナ●がいいと伝えておかねば。あれ? 由愛ちゃんは一緒に行かなかったのかい?」


 彼女は少し困った顔をして、

 

「私はこの町から出ていくことが苦手なんです。両親からのせっかくのお誘いでしたがお断りしました。彩音さんは東京の方から来たんですよね?」

「えぇ、そうですよ」

「都会から来た人には退屈な町でしょう? でも、自然も多くて過ごしやすいいい街だと私は思ってるんです。彩音さん、楽しんでいってくださいね」


 笑顔で言われて私もつられて笑顔になる。

 人を笑顔にさせてくれる女の子。

 由愛さんはとても素敵な子だと思った。


「由愛さんって良い子だね。悪影響だけは与えちゃダメだよ」

「与えませんって。由愛ちゃんは俺にとって可愛い妹みたいなものさ」

「ホント、あんな純粋な子、都会じゃ絶滅危惧種だもの」


 絶対に都会にはいないタイプ。

 でも、私には気になることもあった。


「由愛さんって何で都会が苦手なの?」

「ざわついた雰囲気が嫌いらしい。この町だけが彼女の世界なんだよ」

「それはもったいない。世界はこんなに広いのに」


 由愛さんはウェイトレスとして楽しそうに接客する。

 若い女の子、やりたいことなんてたくさんあるはず。

 なのに、こんな狭い町だけが全てなんて言うのは、実にもったいない。

 私が思ったことを彼も思ったらしく、


「あの子も自覚しているんだけどね。人間、性格って中々に直せないものだから」

「……そうだね」


 棒読みで私は貴方が言うなとばかりに朔也君の横顔を見た。


「俺を見て言うんじゃない。ほら、さっさと食べなさい」


 ジェノベーゼはバジルの爽やかな香りのする、満足感のある味だった。

 お腹が満たされた所で、食後の紅茶を飲んでいると、


「噂の彼女と仲良くお食事中のようね、朔也クン」

「千沙子?」


 今度は誰ですか。

 また綺麗な女性の登場に私はちょっとばかりげんなりとする。

 黒髪ショートが良く似合う大人美人。

 昔から朔也君は女ったらしだけど、モテるのも事実だから複雑だ。

 大勢の女性の知り合いがいるんでしょうねぇ。


「神奈さんから朔也クンの従妹が来てるって聞いて。貴方が彩音さん?」

「そうですけど。貴方と朔也君の関係は?」

「……一言で言えば、愛人?」

「ちげぇよ!?」


 思わず、朔也君が全力で否定する。


「あら、愛する人と言う意味でだけど?」

「別の意味でしか聞こえないから。あのね、千沙子。その手の冗談はやめよう」

「……大丈夫だよ、朔也君。ふたりの関係が特別なものだって理解した」

「だから、違うっての。千沙子は俺の中学時代の同級生です」

「ぐすっ。朔也クンに全力否定されるのは悲しいわ」


 可愛く拗ねる千沙子さんだった。

 意外に可愛らしい性格の様子。


「それで、千沙子。俺達に会いに来ただけなのか?」

「まぁね。せっかくの休日なのに、ひとりで暇をもてあましていたから。ねぇ、ふたりとも。お暇なら私に付き合ってくれない?」


 千沙子さんの提案。

 そして、私はある記憶を思い出す事になる――。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ