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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第10部:箱入り娘の反抗期 〈星野家三姉妹編・星野由愛END〉
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第5章:星に願いを《断章1》

【SIDE:鳴海朔也】


 ついにこの日がやってきた。

 美浜高校、天文部の夏合宿の開始です。

 

「……鳴海センセー、見てみて。私の新しい水着。どう?色っぽい?」

 

 茉莉がビキニの水着を着て俺の前に現れた。

 思っていた以上にスタイルがいいね、茉莉って。

 胸元の谷間につい視線が向かうのは男の性だ。

 これは分かっていた事だけども、成長するとかなりの美人さんになるのでは?

 

「って、待てい。なぜさっそく、水着を着てるんだ」

「えーっ。センセーのために決まってるじゃない。現役女子高生の水着姿はどう? センセーを悩殺するために新しく水着を買ってきたんだよ。私の合宿の目的はセンセーとの関係を深めることにあるんだから。由愛お姉ちゃんには負けません」

「いろいろと突っ込みどころがありすぎるわ。待ち合わせに水着で来るやつがあるか。とりあえず、雫さんに通報、と……」

「なんで!? 雫お姉ちゃんは関係ないでしょう」

 

 慌てて、茉莉はバッグから取り出したTシャツを着始める。

 

「こ、これでいい?いいよね? だから、通報だけはやめてぇ」

「……茉莉は雫さんにホントに弱いんだな」

「だって、怖いんだもんっ。先生も自分の姉だと思って想像してみてよ」

 

 唇を尖らせて拗ねる茉莉に同情はする。

 あの人が自分の姉だと思うと……想像して途中で怖くなってやめました。

 

「センセーの意地悪~っ」

「はいはい。茉莉はおいといて。皆も集まったようだな」

 

 他の皆はちゃんとした私服姿で安心だ。

 

「現地には水着集合でしたっけ?」

 

 と、誤解した要が不思議そうに尋ねる。

 

「そんなわけない。まずは今回の合宿地である浜辺にテントを敷く作業から開始だ。はいはい、皆さん、作業開始ですよ」

「はーい」

 

 我々は遊びに来たのではない。

 天文部の合宿が目的なのである。

 俺達は浜辺でもキャンプがOKな場所へと移動して、テントを張り始めた。

 まずはこれで準備完了。

 ちなみに、海辺と言う事で高価な天体観測用の機材は直前まで俺の家に置いてある。

 高級なものなので、盗られてしまってはしょうがないからな。

 テントを張り終えてから、準備体操をして夕方までは海で遊ぶ。

 それぞれ、水着に着替えて砂浜へと再び集まる。

 眩しい太陽が照りつける暑い夏空。

 すぐにでも冷たい蒼い海へと飛び込みたくなる。

 

「八尋君、そ、その……どうでしょうか?」

 

 大人しい性格の要にしては珍しく、黒を基調としたビキニタイプの大胆な水着を選んだ。

 

「す、素敵だと思いますよ。要さん、良く似合っています」

 

 八尋は顔を赤らめてそう答える。

 

「よかった……私、こういう肌を見せるタイプの水着はほとんど着ないから自信なくて」

 

 どちらも赤くなっちゃって、まったく、見ていて初々しいカップルだね。

 

「ふむ……若いって良いな」

 

 こう言う純粋さはもはや俺にはない感覚だ。

 若さって言うのはいろんな体験をして成長していくものなんだぜ。

 そんな俺の真横で冷たい視線を向けるのは千津だ。

 

「朔也先生、視線がやらしい。女子高生に鼻の下を伸ばしすぎ」

「……若いって言った意味はそう言う意味じゃないぞ」

「ニュースで見たんだけど、どこかの高校で教え子に手を出した先生がいたらしいよ。しかも、二股だって。鬼畜と言うか、やる事ひどくて最低だよね。ねぇ、先生?」

「なぜ、今、それを俺に言う」

 

 生徒に手を出す鬼畜な野郎になった覚えはありません。

 

「……二股疑惑、最低」

「そっちかよ。二股もしてません」

「女の子を弄んでばかりの先生いつか背中をさされてしまうんじゃない?」

「その辺は上手くやるから大丈夫……って、しない、しない」

 

 危うく千津の口車にのって、変な事を言いそうになった。

 まったく、俺と言う男を皆、どう思ってるのやら。

 

「さて、と。俺も水着に着替えてくるかね」

「……センセーの水着姿にわくわく、ドキドキ」

「野郎の水着に何を期待するのやら。ブーメランパンツではないから安心しろ」

「そっちでもいいよ。際どいほど燃える」


 消火作業開始。

 勝手に想像して燃えないでくれ。

 俺は更衣室でさっさと着がえて海へと繰り出す。

 

「うわぁ、鳴海センセー、意外とすっごい。腹筋が割れてる。触っていい?」

「いいぞ。こうみえて、常に鍛えてますから」

 夏前にしっかりと、筋トレしてました。


 茉莉は俺の腹筋に触ると「すごく固い~」と驚いてみせる。

 

「……私、分かったことがある」

「なんだ?」

「鳴海朔也の“なる”は“ナルシスト”のなるだ。間違いない」

「違うわ! 千津、人を勝手にナルシストにするんじゃない」

 

 もちろん、人様に見られて恥ずかしいボディはしてませんが。

 イケてる男は、ちゃんと見た目にこだわるもんなんです。

 

「引き締まった男の人の身体……センセー、素敵♪」

「ええいっ。ハグは禁止です」

 

 茉莉が俺に抱きついてくるのでそれを引き離しながら海で遊ぶ事にした。

 生徒達と海で遊ぶなんて経験は合宿でもなければできないからな。

 ひんやりと冷たい水の中へと入ると、茉莉は上手に泳ぐ。

 

「へぇ、上手いものだな。茉莉は結構、泳げるんだ?」

 

 由愛ちゃんが泳げなかったのを思い出した。

 

「海しかない町だからねぇ。夏に遊ぶとなるとこれくらいでしょ。ばっちりと泳げるよ。だって、雫お姉ちゃんに鍛えられましたもの」

 

 どこか遠い目をして語る茉莉に俺は苦労を感じさせられた。

 

「雫さん、競泳が得意だったんだよな?」

「インターハイに出たって聞いてる。あれだよねぇ、小さな頃から友達も少なくてひとりで泳ぐ事が多かったから、上手になったんじゃないかって私は思うの」

「本音をぶっちゃけすぎだ、雫さんに聞かれたら海に沈められるぞ」


 しばらくすると、水しぶきを上げながら浮輪でぷかぷかと浮いてる少女を発見。

 千津は泳げない子らしくて、浮輪を使って海で遊んでいる。

 

「……千津、浮輪の空気を抜いてもいいか」

「そんな事をしたら私と付き合ってるって校長先生に直訴してやる。冤罪だろうと信じてもらえないでしょうね。ふふふっ、朔也先生の教師生命を終わらせてあげるわ」

「やべぇ、この子本気だ。超怖い」

 

 千津が不気味に笑うので俺は顔をひきつらせた。

 

「懲戒免職だけは勘弁してくれ。そこまでするか」

 

 さすがに教師人生を終わらせるのはやめて欲しい。

 

「お兄ちゃん、意地悪はダメだよ。千津ちゃんはホントに泳げない子だから」

「桃花、それはまったくフォローしてない~」

「あははっ。ごめんねー」

 

 桃花ちゃんいわく、千津は昔からカナヅチタイプで泳げないらしい。

 

「勉強ができても、何でもできるってわけではないことだな」

 

「その言い方がムカつく。沈め、沈んでしまえっ」

 

 こちらに水をかけてくる千津に俺はやり返しながら、

 

「泳げないならこの俺が教えてやるぞ」

「そして、女子高生と親密な関係になろうと虎視眈々と狙う極悪教師を私は見た」

「……女の子に優しいだけの先生ですよ、俺は。もうちょい信頼してくれよ」


 たまにはこういうのもいいよな。 

 蒼い海で青春を満喫する。

 生徒達との楽しいひと時を俺は過ごすのだった――。

 

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