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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第10部:箱入り娘の反抗期 〈星野家三姉妹編・星野由愛END〉
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第4章:恋を知る《断章2》

【SIDE:星野由愛】


 駅前にある喫茶店「SERIKA」は私の働いてるカフェです。

 海に近い場所にあり、夏場は観光客で店内がとても賑わっています。

 忙しいお昼時を終えて、ようやくお客が途切れて一休みできる時間帯になりました。

 

「由愛ちゃん、休憩してもいいよ」

 

 彼女は店長でもあり、雫姉さんの知り合いでもある芹香せりかさんです。

 元は彼女のお父さんのお店だったと言うこのお店をリニューアルする時に、当時、婚約破棄されて高校卒業後の行き場のなかった私を雇ってくれたんです。

 お嬢様育ちで外の付き合いに不慣れな私にいろいろと教えてくれた人でもあります。

 

「さすがに夏は忙しいです。休憩させてもらいますね」

「うん。何か冷たい物でも飲んでよ。あと、それと……雫ちゃんが来てる」

 

 彼女は軽く手で背後を促すと、雫姉さんは窓辺の席に座っていました。

 

「……いつのまに。気づきませんでした」

「今さっき、こっそりと入ってきたわ。由愛ちゃんに話があるんだって」

 

 雫姉さんはこちらに気付くと、冷たい視線を向けてきます。

 

「……うっ」

 

 実は家出してから雫姉さんに会うのは久しぶりです。

 あれだけ言い争ってしまったので、緊張してしまいます。

 思い返してみれば、姉さんは常に正しくて、浅はかだったのは私なんですけども。

 

「まだ雫ちゃんと喧嘩中? あれから一週間くらい経ってるんじゃないの?」

「え、えぇ。時間の経過はどうやら私達の関係改善の役に立っていないようです」

「仲直りしてあげなよ。ああ見えて、雫ちゃんも結構気にしてるのよ」

 

 芹香さんはそう笑うと私にマンゴージュースと、アイスコーヒーを手渡します。

 逃げ場を失った私は覚悟を決めて、

 

「休憩、入らせてもらいます」

「どうぞ。私も今のうちに休憩するわ」

 

 また3時になれば人も増えてくるので、私は今しかないと姉さんの所へと行きます。

 

「お待ちどうさまです。アイスコーヒーです」

「どうも。貴方もそこに座りなさい」

「は、はい。姉さん、お仕事はどうしたんですか? 今日は平日ですよね?」

「今日は有給よ。暇な時には有給消化もしたいから。朝から家にいたの。貴方は家出してるから知らないでしょうけど」

 

 私は彼女に向き合う形で椅子に座ります。

 ここの窓から見える景色は、海が綺麗に見えるので人気があるんです。

 綺麗な蒼い空と青い海……そして、冷たい視線を向ける雫姉さん。

 ミスマッチです、夏の海に清涼感と言う意味でしか合っていません。

 

「貴方が家出して1週間ね。その間に、鳴海と付き合う事になったんだって?」

「……な、鳴海さんから聞いたんですか?」

 

 私は姉さんと連絡をとっていなかったのでドキッとしてしまいました。

 

「そうね。アイツには、最初から私の指示で動いてもらってるから」

「え? ど、どういうことですか?」

 

 思いもよらぬ言葉に私は驚きます。

 

「……鳴海は私の協力者だもの。情報交換くらいしてるわ」

「協力者?」

「由愛が家出した時に鳴海が偶然、保護したとでも? どんな偶然よ、それ」

「あっ……」

 

 私は思いだしました。

 家出をして不安になっていた時に朔也さんが私を助けてくれました。

 けれども、あれは偶然ではなく待ち構えていたと言うこと。

 

「偶然なわけないでしょう。あの日、由愛が家出なんてしてどうなるか分からなかったから、アイツに貴方の事を頼んだのよ」

「……そう、だったんですか」

 

 偶然ではなく、私のために最初から……。

 朔也さんは姉さんに言われて、あの場所で私を待っていたんです。

 そして、家に泊めてくれたことも、すべて……。

 

「雫姉さんの指示だったと言う事ですか」

「指示というか、お願いね。私が頼んだのは由愛を保護して欲しいって言うだけ。あとは鳴海なりに貴方を家に泊めたりしたんでしょう。アイツの人となりは理解してるから由愛を任せても特に害はないと思っていたの。……さっそく妹に手を出されて、私の信頼をぶち壊してくれたけども」

「……私は朔也さんに甘えてばかりいるんです」

 

 今回の事、最初から鳴海さんは知っていたんですね。

 私はそれを知り、彼の優しさを感じました。

 

「私に家出なんて無理だったんです。姉さんの言う通りでした。私、家を出て3分で挫折気味だったんです。朔也さんと出会わなければ、どうなっていたでしょうか」

 

「今はあの時と違って落ち着いてるからいいけど。ムキになってたお前なら、何をするかは分からなかった。……実際しても大したことはできてないと思うけど」

「姉さんも心配してくれていたんですね。すみません」

 

 私は何も分かっていませんでした。

 姉さんは私を嫌ってなどいなくて、ちゃんと心配して見守り続けてくれていました。

 朔也さんにお願いまでしてくれていたなんて。

 私は自分の事もちゃんと考えずに、衝動的な行動しかできませんでした。

 

「姉の心、妹は知らず。とはよく言ったものです」

「……微妙に違う気もするけども。それで、家を出て、何か変われたの?」

「少しだけ、自分について考えるようになりました」

「自分について? 例えば?」

「恋をしてみたいと思ったんです。今まで私は恋を知らずに、生きてきました。大事な経験をしてみたいと思ったんです」

 

 恋を知れば、私は変われるかもしれません。

 そんな風に思って、朔也さんにお付き合いをして欲しいとお願いしたんです。

 雫さん姉さんはアイスコーヒーを飲みながら、呆れた口調で言う。

 

「……由愛、バカでしょ」

「うっ。そんなに真正面から言わなくてもいいじゃないですか」

「恋をする。それは悪くないわ。恋を知れば人は変わる、と言うもの。けれども、よりにもよって相手があの女好きな鳴海よ? どうしてアイツなわけ? 他の相手じゃダメなの?」

「朔也さんはいい人です。私が一番、信頼して頼りにしてる人です」

 

 朔也さんではなければ、ダメなんです。

 私は彼に恋をしたいんです。

 冷たいジュースで喉をうるおしながら姉さんの反応を待ちます。

 

「鳴海となんて付き合っても、意味があるのかしら」

「姉さんは朔也さんに対して評価が厳しくありませんか?」

「そりゃ、厳しいわよ。……星野家にふさわしいか、という目で見てるんだもの」

 

 私は思わず「え?」と呟いてしまいました。

 

「……姉さん」

 

 そうです、私は朔也さんとのお付き合いを遊びでしてるわけではありません。

 私は星野家の次女ですから、また縁談の話が来るかもしれません。

 

「付き合うのなら、両親にも報告しておきなさい。また変な相手とお見合いさせられてももいいのなら、止めはしない」

「い、いえ。それは困ります。その事は雫姉さんから言ってもらえたら嬉しいです」

「……しょうがないわね」

 

 両親に逆らうのは今の私にはまだできそうにもありません。

 姉さんが間に入ってくれるというのはすごく助かります。

 

「まったく、なんでアイツなワケ? 鳴海は女の子を弄ぶ卑劣な奴よ」

「過去の彼はそう言う人だったと朔也さんは言ってましたけども、今は違います」

「……アイツの過去を聞いたの? それでも、鳴海がいいの?」

「はい。朔也さんじゃないとダメなんです」

 

 私がそう笑って言うと彼女は大きくため息をついた。

 

「……ホント、鳴海は油断ならない相手だったわ。こんなに早く由愛を落とすのは、私の予想を超えてるもの」

「姉さん」

「でも、しょうがない。アンタが好きになった気持ちを尊重しましょう。ただし、弄ばれてフラれて泣きついても。私は海に沈める手伝いしかしないわよ」

「そんなことはお願いしませんからっ!?」

 

 恋をする気持ち。

 彼と生活を初めて、私は自分が誰かを想う心に気付きました。

 無自覚ながらも、もうずっと前から朔也さんに恋をしていたのかもしれません。

 

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