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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第10部:箱入り娘の反抗期 〈星野家三姉妹編・星野由愛END〉
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第3章:初めての恋《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


 由愛ちゃんと付き合う事になった。

 その夜に俺の携帯電話にある人から連絡が入る。

 

『――鳴海朔也、緊急招集。いますぐ、私の家まで来なさい』

「さ、さー、いえっさー!」

 

 雫さんに逆らえるはずもなく俺は頷いた。

 彼女からの呼び出し。


「もしや、早くも由愛ちゃんとの交際が発覚した?」


 ……それはないな、まだ誰にも言ってないし。

 電話を切ると、俺は出かける準備をする。

 その後で、俺は隣の由愛ちゃんの部屋をノックした。

 

「はい? どうしました?」

 

 お風呂から上がったばかりの彼女はまだ濡れた髪を拭いてる最中だった。

 可愛さの中に色っぽさが見え隠れする。

 女性が濡れた髪を拭く仕草って男は結構好きだよな。

 

「由愛ちゃん。俺はちょっとこれから友達の所へ行かなくちゃいけなくなったんだ」

「そうなんですか。私は大丈夫ですよ。今日はお酒も飲んだので、眠くなってきました。もう、寝ようかと思っていたんです」

「……えっ。まだ9時なんだけど? こんなに早く?」

「ふふっ。私、あんまり夜に強くないんです。大抵10時ごろには寝ちゃってますね」

 

 普段はそのくらいの時間に寝ているらしい。

 箱入り娘のお嬢様は夜は早く寝て、朝早く起きると言う健全な生活らしい。

 夜更かしばかりしてる俺も少しは見習いたいものだ。

 

「分かった。それじゃ、家の鍵はかけていくから。おやすみ、由愛ちゃん」

「はい、おやすみなさい」

 

 微笑する彼女に見送られて俺は家を出る。

 夜道を歩きながらすぐに星野家に向かう。

 お酒を飲んでいなければバイクにも乗ったんだけど。

 ここ最近は何かと星野家に縁があり、訪れている。

 すっかりと馴染みになった街灯の少ない山道を抜けた先に星野家が見えてくる。

 昼間に訪れて以来の数時間ぶりの星野家だ。

 

「到着、と。さて、雫さんに俺と由愛ちゃんの関係も伝えなければいけないし、気が重いなぁ。どうするかね、これは……」

 

 脳内でシミュレートするが、何度考えても無事に伝える方法が思いつかない。

 俺が対応に悩んでいると、門から雫さんが現れる。

 

「……鳴海、ついたのね。こちらにきなさい」

 

 相変わらず、雫さんを相手にすると緊張する。

 いつもなら出迎えてくれる茉莉の姿がない。

 

「あれ、静かですね。茉莉はどうしたんですか?」

「あの子なら、友達に誘われてお泊りに行ってるわ」

「そうなんですか。アイツにもそう言う友達がいるんですね」

 

 単純に姉とふたりっきりの状況が嫌で逃げただけかもしれないが。

 

「たまにあるのよ。私としてはうるさいのがいなくなって静かでいい。今は由愛もいないし、自由を楽しんでいるの」

 

 そう言いながらも、雫さんの横顔には寂しさのようなものが見えた気がした。

 ひとりになってしまうと、この家は広すぎる。

 ……別にひとりじゃなくても、素で迷子になるくらいに広いんだけどね。

 雫さんに案内されたのは庭だった。

 まさか、この展開は……。

 

「まずは花火に付き合いなさい。話は花火をしながらでもいいでしょ?」

 

 花火の袋を持ちながら、準備を始めていた。

 相変わらず、おひとり様の花火を楽しんでいる雫さんでした。

 彼女は夏の間はほぼ毎日、ひとりで花火をしてるのだ。

 

「お付き合いしましょう」

 

 断る理由もないので、花火を袋から取り出して火をつけ始める。

 

「そうでなくちゃ」

 

 花火を片手に笑う雫さんの意外な可愛い一面。

 花火の眩しい光を見つめながら、雫さんは問う。

 

「……由愛の様子はどう? 昨日からずいぶんと落ち着いた?」

「えぇ、落ち着いてます」

 

 何だかんだで妹思いの良いお姉さんなのだ。

 家出したとしても由愛ちゃんの心配をとてもしている。

 喧嘩の原因も妹を想っての事だったし。

 

「家出なんて無謀な真似をして、結局、鳴海の所でお世話になって。あの子も茉莉並に単純よね。素直でいい子なんだけども、自分で物を考えて行動するのが苦手なの」

 

 家出したのは昨日の話だったんだな。

 もうずいぶんと前みたいな気がしていた。

 

「……由愛はしばらく、鳴海の家に住むつもりなのかしら?」

「はい。俺はそれを許可しましたけど、いいですか?」

「あの子がそう望むのなら。これも甘やかせてるうちに入ってるとは思うんだけども。この家から出て初めて分かる事もあるわ。適当に面倒をみてあげて」

 

 雫さんからの許可がもらえた。

 ホッとすると同時に俺は言わなくてはいけない事がある。

 緊張した面持ちで俺は花火をしながら勢いに任せて、

 

「……あのですね。実は、由愛ちゃんとお付き合いする事になりました」

 

 俺の告白に雫さんは「……」と黙り込んでしまう。

 

『うちの妹がお前の毒牙にかからない事を祈るわ。由愛と恋愛関係になる、なんて想像はしたくないけども。そればかりは自由意志だからね。あの子がそう決めたのなら、それも仕方のないこと。決められたら、の話だけども』

 

 昨日、彼女は俺に言っていた。

 怒られる事はないと思うんだけど、一応、警戒だけはしておこう。

 やがて、雫さんはごそごそと花火の入った段ボール箱の中からロケット花火を取り出す。

 

「鳴海、これをお前に向けて放ってもいいかしら? いいわよね?」

「ま、間違っても花火は人に向けて発射してはいけません!?」

 

 俺の命の大ピンチ!

 交際を全然、許してくれていなかった!?

 雫さんは俺に見せたことのない満面の笑みを浮かべながら楽しそうに、

 

「弾け飛んで綺麗な花火を咲かせなさい」

「ろ、ロケット花火は音だけです」

「……なら、弾け飛べ! 手が早いにも程があるでしょうが、オオカミ野郎!」

 

 容赦なさすぎる!?

 俺に向けて容赦なくロケット花火を打ちこもうと火をつけようする。

 

「ま、待ってください。俺の言い分も聞いてくださいよ」

「……聞いてあげない。死ね、死んでしまえ」


 この人、マジで怖い!?

 俺は物陰に隠れながらロケット花火の脅威に怯える。

 

「……ちっ」

 

 彼女は舌打ちをひとつして、火を付けたロケット花火を空へと打ち上げた。

 気持ちのいいパンっという音が山に響く。

 この人、本気で俺に向けて打つ気だったんだろうか、やべぇよ。

 

「あ、あの、昨日は交際してもいいって言ってませんでした?」

「えぇ、ある程度は認めるつもりだったわ。貴方の所へ泊まると言う事はそう言う可能性もあると思っていたから。でもね、鳴海。たった1日で可愛い妹を口説き落とすというのはどういうことなのか説明してもらえる?」

 

 顔が怖いっす。

 雫さんに睨まれると本当に怖い。

 あと、危険すぎるのでロケット花火は手から離してください。

 

「説明しなさい。次は本気で狙うわよ。さぁ、早く」

 

 今度はロケット花火ではなく小型の打ち上げ花火をちらつかされる。

 そっちはマジでヤバい奴だ!

 この人はやる時はやるお方だ、怒らせないようにしなければ。

 

「ゆ、由愛ちゃんから告白されました」

「……由愛の方から?」

「えぇ。彼女が一番興味を抱いているのは恋愛らしいんですよ。恋をしてみたいんだって言って。まぁ、その相手に俺が選ばれたみたいな感じです」

「はぁ。由愛は男を見る目がないわ」

「……同感です」

 

 真面目な顔をして呟くと雫さんはそんな俺に、

 

「……お前って時々、変に影のある顔をするわよね」

「どうですかね?」

 

 そう誤魔化しておくことにする。

 自分で自分を良い奴だなんて俺は思っていないだけだ。

 

「あの子は以前からお前を気に入ってたし、恋愛感情のようなものが薄々と芽生えても不思議じゃない。けれど、やっぱり家出して一日も経たずに付き合いだすのは問題ね」

 

 呆れた言葉と共に彼女は最後の線香花火をまとめて火をつける。

 ……なんとも豪快な線香花火だ。

 

「雫さん、線香花火くらい風情を楽しみましょうよ」

「私は風情なんてどうでもいいの。花火は派手だから好き。線香花火って言うより閃光花火って感じの方が楽しいでしょ」

「豪快すぎますよ」

 

 閃光花火って、まさしく見た目がホントに眩しいんだけどさ。

 小さな光も5つも重ねられたら大きな輝きになる。

 

「由愛のこと、鳴海の気持ちはどうなの?」

「好きですよ。彼女を大事にしたいと思っています」

「……そう」

 

 彼女は小さく呟くと、ちょうど閃光花火が終わった。

 どうやら俺達の事は認めてくれた様子である。

 後片付けをしながら彼女は俺に言ったんだ。

 

「純粋無垢な箱入り娘に手を出すなんて。鳴海なんて社会的に痛い目にあうといいわ」

「なんて不吉な事を……」

「星野家をなめない方がいいわよ。権力って言うのはね、お前の人生を狂わせるくらい簡単なのよ。無事に教師でいられるかしらね。この意味、分かる?」

「こ、怖すぎですよ、雫さん。普通に交際を認めて下さい」

 

 とんでもないプレッシャーを与えられてビビる俺だった。

 結局、雫さんは俺達の関係を何とか認めてはくれた。


「可愛い妹よ。大事しなかったら、本気で許さないから」


 予想以上に夏の暑さを忘れるような、背筋の凍るような思いをしたのだった。


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