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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第9部:もう一度キミに 〈千歳編・一色千歳END〉
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最終章:もう一度キミに

【SIDE:一色千歳】


 晴れわたる青空と暑い日差しが照らす海。

 また、夏の季節がやってきた。

 私がこの美浜町に引っ越してきてから4度目の夏。

 私と朔也ちゃんが結婚して4年目。

 充実した毎日を過ごしてきた。

 友達もたくさんできたし、お仕事の方も順調。

 この町は都会よりも時間の流れがゆっくり。

 自然も豊かなので穏やかに過ごす事ができて私には合っている。

 そして、大好きな人が私の傍にいてくれる。

 

「ぜ、絶対に手を離さないでね?」

「はいはい。分かってるって。そこまで怯える事じゃないだろう?」

「朔也ちゃんは意地悪だから、悪戯心でひどいことをするもん」

「……俺のこと、もうちょっと信用して欲しいものだ」

 

 肩をすくめるように目の前の朔也ちゃんが苦笑いを浮かべる。

 冷たい水しぶきがあがる、夏の海を泳いでいた。

 浮輪につかまりながら、波に揺れるのに耐える。

 

「大体さ、泳ぐ事はリハビリのプールで慣れてるんじゃないのか? 足の治療のためにプールも使ってたんだろう?」

「それはそれ、これはこれ。本物の海とプールは違うよ」

「そうか? どの辺が違うんだ?」

「えっと……海はしょっぱいよね」

 

 私の発言に朔也ちゃんは「味かよ!?」と驚いた顔を見せて笑う。

 

「千歳らしいよ。うん、確かにしょっぱい。だからこそ海は浮きやすいんだぜ」

「ホントに?」

「もっと海を楽しめって。ようやく、約束を叶えられたんだから」

 

 そう、私と朔也ちゃんの約束。

 それは、私達が結婚する時にしたもの。

 

『いつか一緒にこの海で泳げるようになりたいな』

 

 その約束を叶えられるようになったの。

 もう一度、自分の足で歩けるようになる。

 全然結果の出ない日々に不安を感じ、辛いリハビリを続けて、正直に言えば何度も心が折れそうになった。

 それを必死に支えてくれたのは、朔也ちゃんだった。

 私を支えてくれる。

 その言葉の通りに私と共に痛みも苦しみも分かち合ってくれていた。

 折れそうで、諦めかけた私の心を支え続けてくれて。

 障害を乗り越えて、私は再び自分の足で歩けるようにまで足が回復できたの。

 

「私が歩けるようにまで回復できたのは朔也ちゃんのおかげだよ。私一人だったら、もう無理だって諦めてたかも」

「本当によかったよな。辛くて泣いても、頑張り続けてたんだから。俺、お前と再会できてホントによかったと思ってる」

 

 あの時、勇気を出して朔也ちゃんに会いに来なかったら、私の人生はきっとまた違うものになっていた。

 もう一度、“運命”を取り戻しに来てよかった。

 

「というわけで、海を楽しめ」

「きゃっ!? さ、朔也ちゃんっ!」

 

 私はいきなり手を離されて波に揺られる。

 浮輪があるとはいえ、足のつかない場所で泳ぐのは不安。

 

「ひどいよー、朔也ちゃん。手を離さないって言ったのに。嘘つき、嘘つきっ」

「ははっ、こういうのも楽しいだろ?」

「そうだけど……えいっ!」

 

 私は頬を膨らませながら朔也ちゃんに水をかける。

 

「うわっぷっ!?」

 

 それが面白い具合に顔面に海水が直撃した。

 私に悪戯をした仕返しとしては満足。

 

「あははっ。やった、当たった」

「ぐふっ。千歳、お前なぁ……ちくしょう、塩水がしょっぱい」

 

 怒った朔也ちゃんが私の浮輪をつかんで揺らしに来る。

 

「いやー、やーめーてー」

「お仕置きだ、お仕置き」

 

 まるで子供のように無邪気に、ふたりで海で戯れる。

 この綺麗な海で泳げる日が来るなんて思ってなかった。

 海を見てるだけじゃつまらなくて、ずっと泳ぎたかったの。

 

「……良い海だよね。私、ここの海が好き」

「ちゃんと泳げるようになったら、スキューバでもするか。海の中はもっとすごいぞ。千歳が好きな可愛い系の魚も間近で見られる。まぁ、今のままじゃ千歳が溺れるから泳ぎ方を覚えてからだろうけどな」

「スキューバダイビングかぁ。私もやってみたいかも」

「それを俺達の次の目標にしようか」

 

 朔也ちゃんがそうやって、私に次の目標を与えてくれる。

 彼がくれた夢は私の希望になる。

 

「うん。そのためにもちゃんと泳げるようになりたいな」

 

 だから、私もまた頑張ろうと思えるんだ。

 

 

 


 

 海を満喫した私達は陸にあがり休憩をする。

 今日はそんなに日差しが強くないので、私は砂浜に寝転がる。

 

「千歳、そんな所で寝てると砂だらけになるぞ」

「楽しいからいいの。朔也ちゃんもしてみれば。すっごく気持ちいいよ」

 

 見上げると、ゆっくりと流れていく雲。

 海風が心地ちよくて、私はリラックスした気持ちになる。

 

「……この海に来年は3人で来たいね」

 

 思わず、自然に口からもれた言葉。

 私はあっと口を押さえる。

 

「3人?」

 

 朔也ちゃんが不思議そうに尋ね返す。

 本当はもっとちゃんとした形で言いたかったけども。

 どう言えばいいのか、悩んでいたのもあり、私は勢いに任せて言う。

 

「朔也ちゃん。聞いて欲しい事があるの」

 

 彼の目を真っすぐに見つめながら、

 

「あのね、子供ができました」

「……え?」

「私達の赤ちゃん……できたの。今、3ヵ月目なんだ。えへへっ」

 

 結婚してからは自分のリハビリの事で精一杯だった。

 子供の事とか、ちゃんと考える事ができたのは最近になってから。

 結婚も4年目、そろそろ欲しいなぁと思い始めた矢先に授かった新しい命。

 

「何て言うか、その……素直に驚いた。前から千歳は欲しいって言ってたもんな」

「うん……いつかはって思ってたけど、こんなに早くに叶うなんて。……子供ができて嬉しい?」

「もちろん嬉しいよ。そっか、子供か。俺も責任が増えるから頑張らなきゃいけないな。あははっ、俺、父親になるのか」

 

 私も彼も、まだ人の親になる実感はわいていない。

 けれど、子供が生まれるという幸せだけは嬉しい気持ちとして実感する。

 

「足が治って、子供ができて……私は幸せだよ」

 

 想いを諦めなくてよかった。

 一度は諦めてしまった想いを取り戻してよかった。

 朔也ちゃんが私の肩を抱くように抱きしめてくる。

 この温もりが好き。

 

「千歳も子供も……大切にするから」

「うん。大事にしてね」

「でも、千歳って子供っぽい性格だからな。俺にとってはふたりも子供がいる気になりそうだ。それは困るか」

「ひ、ひどいよ、朔也ちゃん~。もうっ、ホントに意地悪なんだからっ!」

 

 笑いあう私達。

 太陽と向日葵の関係はずっと変わらないでいたい。


「ホント、意地悪な人。でも、大好き」


 意地悪だけど優しくて大好きな朔也ちゃん。

 大切な人と事に幸せを感じながら。

 蒼い海が見えるこの町で、私達はこれからの人生を生きていくの――。

 

【 THE END 】

 

真ヒロインの千歳編、完結しました。すれ違いながらも、諦めずにいた想い。その結末を楽しんでもらえたら幸いです。

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