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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第9部:もう一度キミに 〈千歳編・一色千歳END〉
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第4章:太陽と向日葵《断章1》

【SIDE:鳴海朔也】


 千歳は俺のことを「太陽みたいな人」とよく言っていた。

 

「朔也ちゃんは太陽だよね」

「……俺が太陽? そうか?」

「うん。だって、触れればこんなにも温かい」

 

 千歳が俺に抱きつきながら満面の笑みを見せる。

 

「それじゃ、千歳は何なんだ?」

「私? 私は……」

 

 彼女は考える素振りを見せて言う。

 

「私は向日葵だよ。朔也ちゃんの方ばかり見ている向日葵」

「向日葵みたいな明るい性格ってのはよく分かる」

「向日葵の花言葉はね。一途な想い。貴方だけを見つめてるって言うの」

「……千歳らしい純粋な想いだな」

 

 確かに向日葵は千歳のイメージによくあう。

 

「朔也ちゃんは私を照らしてくれる太陽だから離れちゃ嫌だよ?」

「離れるわけがないだろ」

「だよね。こうやってずっと一緒にいたいなぁ」

 

 千歳の存在が愛しくて。

 彼女と過ごす時間は常に幸せに満ちていた。

 あの笑顔を失った時、俺は心底、世界に絶望したものだ。

 失ってから気づいたことがある。

 それは千歳が自分の人生で最も大切な人だったこと。

 俺は今もなお、千歳の事を愛している――。

 

 

 


 

 ……千歳の夢を見た気がする。

 

「休日だからってちょっと寝すぎたな」

 

 俺が時計を見ると、朝の11時過ぎ。

 軽い二日酔い気味だ。

 

「昨日は久々に酔うほどに酒を飲んだな」

 

 いつもは翌朝の仕事を考えてセーブしてるからな。

 俺は身支度を整えていると玄関のチャイムが鳴る。

 

「はいよ……って、神奈と千沙子か。どうした?」

 

 俺の家にふたりで来るのは珍しい。

 そもそも、この二人が一緒にいる所も滅多にない。

 

「ご飯まだでしょ。作ってあげる」

「それは助かるが……千沙子も一緒なんて珍しいな」

「すぐそこで出会ったのよ。朔也クンの所に行くのなら私も行きたいと思っただけ」

「そうか。まぁ、中に入ってくれ」

 

 すぐに神奈は料理を作り始める。

 この町に戻ってきてから何度も見てきた光景だ。

 

「……お前にはずっと世話になりっぱなしだったよな」

「んー? 何よ改まって」

「良い幼馴染を持ってよかった。ありがとうな」

「やめてよ、何か朔也からお礼を言われると照れる」

 

 顔を赤らめる神奈に俺は感謝していた。

 神奈や皆がいたから俺はこんなにも早く立ち直れたのだ。

 この町に来るまで傷心した俺の心を癒してくれたのは仲間達なのだ。

 

「……俺はこの町に戻ってきてよかった」

 

 これで何度目かになるその言葉を呟いた。

 俺は料理ができる間に千沙子と話をする。

 

「ふたりとも最近は仲が良いと言う噂だな」

「そうでもないけど。お仕事上の付き合いはあるわ」

「プライベートでも仲良くすればいいのに」

「そうね。これからは“戦う理由”もなくなったし、仲良くするのもいいかもね」

 

 戦う理由?

 このふたりって何でこんなに仲が悪いんだろうね。

 

「朔也クンの幸せを願ってる。だから、頑張って」

「え?」

「……幸せになってくれないと、許してあげない」

 

 千沙子がそっと俺の頬を撫でた。

 

「ふたりとも料理ができたよ……って、なんかイチャイチャしてるし」

「その表現も古いわよねぇ。仲良くしてるだけよ」

「くっ、千沙子。ホントに貴方って……」

 

 言い争うふたりを見て俺はもう少し仲良くして欲しいと思うのだった。

 神奈の料理を食べ終わったあと、千沙子から言われた。

 

「そう言えば、言い忘れてたわ。朔也クンが探してる“向日葵”は海が好きだって」

「……は? 海が好き?」

「誰もいない海を見てるのかも、とか言ってみたり?」

 

 それって、まさか……千歳の事か?

 

「そーいうことは先に言っておいてくれ」

 

 まさか、千沙子達が千歳の居場所を知ってるとは思わなくて。

 俺は急いで家を出たのだった。

 

 

 


 

 誰もいない海、それは海水浴場ではなく、隠れ浜を指しているのだと思った。

 俺達が幼い頃から遊んでいた人気の少ない秘密の場所。

 溺れていた神奈を助け、大人しかった千沙子と出会った場所でもある。

 たくさんの思い出がある隠れ浜につくと俺は辺りを見渡す。

 

「千歳は……いないようだな」

 

 期待していただけにちょっとがっかりする。

 ここじゃなかったのか。

 その時だった、俺の携帯電話に着信が入る。

 

「……誰だ? 知らない番号だな」

 

 俺は携帯電話に出てみると、その相手は俺のよく知る声だった。

 

『久し振りだね、朔也ちゃん』

「ち、千歳……? 千歳なのか!?」


 千歳からの電話に俺は声を荒げてしまう。

 

「びっくりした、お前から電話をもらえるなんて……」

『朔也ちゃんの声を聞くのは本当に久しぶり。ずっと聞きたかったんだ』

「俺もだよ。今、どこにいるんだ? この町に来ているんだろ」

『知ってたんだ? そうだよね、私も朔也ちゃんの知り合いにたくさん会ったもの。この町は本当にいい場所で、朔也ちゃんが皆に愛されてたのが分かった』

 

 電話越しに千歳は笑い声を聞かせてくれる。

 

『でも、朔也ちゃんらしいと思うのは、知り合いの子、全員が女の子ってことだよ。しかも、皆、綺麗だったり可愛いの。……朔也ちゃん、変わってないなぁ』

「うぐっ。言い返せない」

『あははっ。朔也ちゃんのそう言う所が変わってなくて逆に安心したかも』

「安心するなよ。人を女ったらしにしないでくれ」

 

 思っていたよりも、千歳の元気そうな声にこっちも安心だ。

 こうして話をするのは2年ぶりなのに。

 全然、そう言う事を感じさせない。

 

『私は朔也ちゃんに会いに来たんだよ』

「俺もお前に会いたい」

『……うん。それじゃ、後ろを向いて』

 

 電話が切れてしまったので俺は思わず振り返る。

 さざ波の音が響く浜辺沿い。

 そこには車いすに乗った女性がひとりいた。

 昔よりも髪が伸びてほんの少しだけ大人っぽくなった千歳がそこにいたのだ。

 

「――貴方に会いたくて、ここまできたよ。朔也ちゃん」

 

 だけど、彼女が浮かべた微笑みは昔と何も変わらない。

 長い時間とすれ違いを経て。

 俺達はようやく再会を果たしたのだった。

 

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