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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第9部:もう一度キミに 〈千歳編・一色千歳END〉
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第1章:けじめの旅《断章3》

【SIDE:一色千歳】


 海を満喫した私はお腹がすいたので、飲食店を探していた。

 先程の商店街の方へ向けて歩いていると、海が見えるテラスがあるお店を見つけた。

 

「オシャレなお店だ。カフェかな?」

 

 でも、入口に少し段差があるので、車いすで入るのは難しそう。

 困って中を覗くと、可愛らしいウェイトレスの服を着る女性と目が合う。

 

「いらっしゃいませ。お手伝いしましょうか?」

 

 彼女はお店の外へ出てきてれると可愛らしい微笑みを浮かべてくれる。

 気付いてくれてホッとした。

 車いすは段差があると不便なので、人に手伝ってもらうことが多い。

 

「はい、お願いします」

 

 私はお願いをすると、車いすを後ろからついてくれる。

 お店の中も外装と同じく、とても雰囲気のあるお店。

 落ち着いた感じがして、私好みだった。

 

「良い雰囲気のお店ですね」

 

 彼女は嬉しそうに「ありがとうございます」と笑って見せる。

 お昼時と言う事もあり、店内もお客さんで賑わっている。

 

「こちらへどうぞ」

「……このお店のお勧めってなんですか?」

「そうですね。人気なのはオムライスです」

 

 ウェイトレスの女性がすすめてくれるオムライスは、メニュー表でも美味しそうなオムライスの写真がのっていた。

 

「それじゃ、オムライスとアイスティーをお願いします」

「アイスティーは食後でよろしいですか?」

「はい、お願いします」

「では、少々お待ち下さいませ」

 

 すごく雰囲気が穏やかな人で、和み系って言うのかな。


「……ああいうタイプ、朔也ちゃんは好きかもしれない」


 なんて事を思いながら、隣の席に視線を向ける。

 そこに座っていたのは姉妹の様子を見せる女の人達だった。

 

「由愛お姉ちゃん。マンゴジュース、まだ~?」

「こら、茉莉。同じものを何杯も頼まない」

「いいじゃない。喉が渇いてるんだもん。ここのジュースは美味しいから好きなの」

「人のおごりだからって好き放題ね」

 

 明るい女の子の方はまだ中学生くらいかな。

 天真爛漫と言う表現がよく似合うような可愛らしさがある。

 その子を呆れた様子で見つめるのはクールビューティーなお姉さん。

 私よりも年上っぽいけど、雰囲気がすごくクールで憧れるタイプだ。

 

「茉莉ちゃん。お待たせしました」

「ありがとー。うん、やっぱり美味しい」

 

 マンゴージュースを飲みながら幸せそうに微笑む。

 何だか見ているととても可愛らしい女の子だ。

 

「……由愛、ここの支払いは、別々でお願いするわ」

「ひどぃ!? 雫お姉ちゃん、ひどいよ。おごりだって言うから好きなだけ頼んでるのに」

「お前を甘やかせるとろくなことにならないと思うの。あと何かムカつく」

「うぇーん。雫お姉ちゃんがひどすぎるよ。由愛お姉ちゃん、助けて。私のお財布の中には数百円しかありません」

 

 拗ねる彼女は先程のウェイトレスの女性に泣きついていた。

 

「ふふっ。姉さん、あんまり茉莉ちゃんをいじめちゃダメですよ」

「……由愛は甘すぎなのよ。この妹はもっと厳しくしないと調子に乗るわ」

「私は褒められて伸びる子なのです。だからもっと甘やかせてね?」

「自分で言うな。まったくこれだから茉莉は……」

 

 どうやら、3人は姉妹らしくとてもいい雰囲気だ。

 ああいう仲の良さは自分の家族を思い出させる。

 

「お待たせしました、オムライスです」

「うわぁ、美味しそう」

 

 デミグラスソースのかかったオムライスは美味しい。

 窓辺の席から見える海、この景色を見ながら食事ができるなんて良いお店だ。

 満足しながらオムライスを食べ終わり、アイスティーを頼む。

 

「そう言えば、茉莉。お前、今日は部活じゃなかったの?」

「え、まだ時間には余裕が……って、もう30分も過ぎてるじゃん!?」

「今さら気付いたの? ホントにバカだね、お前って」

「くっ。知っていて黙っていたなんてひどい~っ。鳴海センセーに怒られるじゃない」

 

 鳴海、と言う名に私は思わず反応してしまう。

 

「……鳴海。鳴海、朔也?」

 

 私の大好きな人の名前が出てきたので思わず呟いた。

 

「え?」


 私の声に子供っぽい少女の方が振り返る。


「もしかして、その鳴海という人は学校の先生なんですか?」

「うん。鳴海朔也っていう高校のセンセーなの。お姉さんはセンセーを知ってるの?」

 

 女の子の口から出た名前に私はホッとした。

 彼はちゃんとこの町にいて、先生になっているんだ。

 私は思わず泣きそうになるのを、お水を飲んで誤魔化した。

 

「朔也ちゃん、学校の先生にちゃんとなれたんだ」

「……貴方、鳴海の知り合いなんだ?」

 

 私が彼を知っている事に、クールなお姉さんの方が反応する。

 

「え、あ、はい。大学時代の……同級生だったんです」

 

 彼氏だとは言えなかった。

 元恋人であることも、今の彼がどう思ってるのか怖かったもの。

 もしも、なかった事にカウントされていたら辛い。

 

「と言うことは、貴方は東京から来たってこと?」

「……そうです」

 

 私は自分の名を名乗ると彼女達も自己紹介してくれる。

 一番年下の可愛い女の子が末妹の茉莉ちゃん。

 ウェイトレスの女の子が次女の由愛さん。

 そして、クールビューティーなお姉さんは長女の雫さん。

 彼女達3人とも姉妹で美人揃いなんてすごいと思う。

 

「ほら、茉莉。お前はさっさと部活にいきなさい」

「えー!? ここで行けとはひどくない? お姉さんが気になる」

「ひどくはない。部活に遅れたら皆に迷惑になるでしょ」

 

 彼女は頬を膨らませながら「あとでお話を聞かせてね」と由愛さんに言った。

 ……どうやら、長女の雫さんとは仲が良くないみたい。

 茉莉ちゃんが喫茶店からいなくなると、いつのまにかお店も私達だけしかいない。

 お店に残っている雫さんは私に言うんだ。

 

「貴方、鳴海の恋人だったんじゃない? 鳴海に会いに来た、とか?」

「どうしてそう思うんですか」

「……貴方は鳴海の事を朔也ちゃんって呼んだ。それだけ親しい関係って事でしょう。それに千歳さんみたいな可愛い子に鳴海が手を出さないわけがない」

 

 鋭い指摘に私は思わず頷いてしまった。

 

「はい……大学時代に付き合っていた事はあります」

 

 朔也ちゃん、この町の女の人にも色々とちょっかいだしたりしてるのかな。

 

「やっぱりねぇ。あの男にたぶらかされた女の子がまたひとり……」

「姉さん、そう言う言い方はよくないです。朔也さんはいい人ですよ」

「軟派男には正しい評価だと思うけど?」

 

 言葉が厳しい雫さんは朔也ちゃんにあまり良い印象を抱いてないみたい。

 

「あの、雫さんと由愛さんは朔也ちゃんの事を知っているんですか?」

「詳しく知るほど、親しくはないけども。多少の事なら知ってるわ」

「……できれば、今の彼について教えてもらえませんか?」

 

 私が彼と別れてからの2年間。

 空白となっている時間を私は知りたい。

 

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