最終章:星々の彼方
【SIDE:星野朔也】
俺は“鳴海朔也”から“星野朔也”になった。
あれから特に大きな問題もなく、俺と雫さんは結婚をした。
星野家に婿入りすることの大変さ。
正直に言えば、かなり大変であっさりと一言で決めてしまうものではない。
だけども、俺は自分の選択を悔いてるわけじゃない。
雫さんと毎日を充実して過ごせている。
結婚してから1年後、俺達に待望の子供が生まれた。
初めての子供は双子で、ちょうど男の子と女の子だった。
男の子の名前は星野翼(ほしの つばさ)。
女の子の名前は星野詩(ほしの うた)。
どちらも雫さんが名前を付けたのだが、お母さん譲りの名前センスらしい。
親としての責任。
家族を守ると改めて心に誓い、慌ただしくも幸せな日常を過ごしていた。
月日ってのは流れるのが早いもので俺が美浜町に戻り、もう10年になる。
夏のある日、今日は家族で星野家の近くにある七森公園で遊んでいた。
河原で子供たちと共に水遊びを楽しむ。
夕暮れ近くで、夕焼けが綺麗だ。
今日はこのまま星を見たいと思っている。
「パパ、抱っこしてください~」
「いいよ、詩。甘えたがりさんだな」
「わたしはパパが好きなんです♪」
先月に5歳になったばかりの愛娘が俺に甘えてくる。
俺が詩を抱き上げると楽しそうに笑う。
「そっか。俺も大好きだぞ」
「えへへっ。パパに抱っこされるとうれしいです」
言葉づかいも年のわりに丁寧で礼儀正しい。
まさに天使のように可愛らしい自慢の娘である。
詩は由愛ちゃんみたいに優しい子になって欲しいので、特別な思いで育てている。
目指せ、純情可憐な大和撫子、育成計画!
「……またウタばかり。お父さんはウタに甘すぎる」
少し小生意気に育ってしまっている、双子の兄の翼。
昔馴染みや友人達からは小さな頃の俺によく似ていると言うが、どちらかというと雫さん似だと思うんだ。
まだ幼いながら知的で賢いし、何よりも冷静さに物事を判断できる。
ただ、雫さんによく似すぎて、ひねくれてる所があるので若干心配だ。
ちなみに容姿は俺に似てるので、女の子にモテるらしい(プチ自慢)。
「なんだ、翼も抱っこしてあげようか?」
「いいよ。僕はウタほど甘えたがりじゃないんだから」
「……さすが、おにーちゃんはクールです。カッコいいです」
「だろ? 僕は幼稚園ではクールで通ってるからね」
自慢げに胸を張りながら、クールって自分で言ってる翼。
子供のくせにカッコつけな所は俺に似てるような気がしている。
子供っていろんな言葉を覚えるのが早くて、成長は楽しみなんだけど、翼には将来、女ったらしにだけはなって欲しくない。
無邪気にはしゃぐ子供たちと遊んでると、雫さんが夕食の準備を終えてやってくる。
「あっ、ママです。ママー、こっちですよ」
「抱っこしてもらってるんだ。詩は相変わらず、朔也が大好きね」
「はいっ。ママも好きですよ。パパの次に好きです♪」
「ふーん。まぁ、二番目でもいいわ。娘とはいつかは父から離れてしまう運命だもの。今のうちだけよ。せいぜい、娘が甘えてくれる残りわずかな時間を楽しみなさい。限りある時間をね」
負け惜しみ的にひどい事を言ってくる。
娘が父親離れするなんて事を想像させないで欲しい。
「ひどいなぁ、雫さん」
「娘を溺愛する朔也を見ていたら、子供の頃に由愛と茉莉だけを溺愛していた自分の父親を思い出したわ。娘を持つ父親は皆、そうなのかしら」
「……由愛ちゃんと茉莉だけ? 雫さんは?」
「昔から父よりも母が好きだったの。私は早い時期に父離れしたから寂しかったみたい。だからこそ、妹ふたりにはとても甘かったもの」
雫さんと由愛ちゃん達は歳が離れているので、お父さんも寂しかったのであろう。
今なら俺にもその気持ちはとてもよく分かる。
「詩はパパの事をずっと好きでいてくれるよな?」
「もちろんですー。パパはずっと大好きですよ」
「素晴らしい。我が娘が可愛すぎて困る」
「……娘を溺愛するダメ親がここにいるわ」
可愛く微笑む娘のの頭を撫でながら、可愛がる。
俺の天使はいつまでもこのままでいて欲しい。
「お母さん……」
「どうしたの、翼?」
それを見ていた翼が雫さんの方に近寄る。
甘えたいのに、素直になれない所は彼女譲りの性格なのかもしれない。
その気持ちを察したのか、彼女が翼の手を握ると、彼は嬉しそうに笑う。
雫さんはちゃんと子供の気持ちが分かるいい母親だ。
「翼はパパとママ、どちらが好き?」
「お母さんが好き。お父さんは女の子に甘いから。女の子にモテるけど、男の子に嫌われるタイプだって、みんなが言ってる」
「そうね。この人は悪い男だわ。ひどい男にならないでね、翼」
「子供に嘘を吹き込まないで!?」
……誰に言われてるのだ、それ。
翼の言葉に同調するように雫さんも頷きながら、
「そうね。翼はもう少しちゃんと育てないと、誰かさんみたいになりそう」
「えーと」
「女ったらしで、多くの女の子を泣かしてきた私の旦那。翼をこんな男にさせるわけにはいかないわ。容姿だけじゃなくて性格も似てるから大いに心配なの」
「また厳しいお言葉で」
返す言葉もなかったので、大人しく認めておこう。
抱っこしていた詩がお腹を押さえながら俺に言う。
「パパ、お腹がすきました。お腹がぎゅーって鳴りそうです」
「そうか。お腹すいたな。よし、夕ご飯にしよう。それが終わったら星が見れるぞ」
「あっちに準備してるわよ。早く食べにきなさい」
夕食はカレー、アウトドアの定番だ。
自然の中で食べるカレーは上手い。
家族そろってのアウトドアはとても楽しい。
俺も家族を持つ身になったのだと改めて実感できる。
すっかりと辺りも暗くなり始めて、食事が終わったあとは花火だ。
もちろん、雫さんの趣味である花火は今も続いている。
子供たちを花火好きに“教育”している事もあり、思う存分に楽しんでいる。
「ふたりとも花火は好きよね?」
「うん。花火は大好きだよ。派手に光るのが好き」
「ぴかぴかするのが綺麗です」
花火を見つめながら、子供達もご機嫌だ。
「ふふっ。花火好きで嬉しい。子供がいて良かったと本当に思うわ」
「そう言う所で実感するんですね」
「何か文句でも?」
「いえ、まったく。温かい家族に囲まれて幸せだと思ってますよ」
それは嘘偽りのない本音だ。
双子の子育ての大変さを乗り越えながら、俺達は今の幸せを体感している。
「お父さん。大きな花火に火をつけて」
「いいぞ。よし、任せてくれ」
「ねぇ、朔也に向けてロケット花火をしてもいい?」
「危険すぎるし、子供が真似するので絶対にやめてください。人に向けちゃダメ。ていうか、旦那に向けて放つのは鬼嫁すぎるでしょ!」
相変わらずの雫さんがさらっと危険すぎる発言をするので焦る。
それを見て子供たちが楽しそうに笑う。
しばらく、花火を楽しんでいると、いつのまにか夜空に星が見え始めていた。
「あー、空に星が出てきたぞ。ウタ、見てみて」
「ほんとうです。パパ、お星様がキレイですよー」
詩が小さな手で夜空を指さして言った。
「おっ、星空が綺麗に見えるな。詩、翼、こっちに来い」
「僕はお母さんに抱っこして欲しいからいかない」
「えぇー。詩はそんな寂しい事を言わないよな。ほら、お父さんの膝元に来なさい」
ちょっぴり翼の拒絶に俺の心は傷ついた。
「えへへっ。わたしはパパの方が好きです」
「詩はお父さんの天使だもんなぁ」
それを純粋無垢な詩の笑顔が癒してくれる。
我が娘が可愛すぎてたまらない。
詩を膝元にのせて、地面に座りながら星を見上げた。
「パパ、お星様がたくさんです」
「あー、そうだな。夏は星が綺麗でよく見える」
「……流れ星ってどういうものなの? お母さんは見たことがある?」
「えぇ。とても綺麗な光よ。翼も空をジッと見ていれば見えるかもね」
家族4人で星を眺めながら、夏の夜空を満喫する。
子供たちは流れ星を見ようと星空に夢中だ。
「そう言えば、由愛が2人目、妊娠したって言っていたわ」
「おめでたいですね。最初は男の子だったし、次は女の子かな。今度、会った時にはぜひお祝しないと」
「そうね。……ねぇ、朔也。家族が増えることについてどう思う?」
いきなりの話に俺は「え?」と尋ね返す。
彼女はどことなく恥ずかしそうな顔を見せながら、
「その、もう一人くらいなら余裕もあるし、この子たちも手を離れ始めてきたわ。そろそろもう一人、欲しいと私は思うのだけど?」
ほんの少し顔を赤らめて照れくそうに言う雫さん。
俺のお嫁さんも十分に可愛らしい。
「いいですねぇ。俺も良いと思いますよ。星野家の未来のためにもね」
「……えぇ。貴方と一緒なら毎日が幸せよ」
俺は雫さんの肩を抱きながら家族計画を語り合う。
家族との幸せな日常を、もっと幸せに暮らしていくために。
「あっ、今、何か光がみえた! ……ねぇねぇ、ウタも見た?」
「わたしもみました。ぴかって綺麗な光です~。あれが流れ星ですか、パパ?」
「ごめん。俺、見ていなかった。ホントに流れ星だった?」
「うん! 僕とウタだけが見たんだ。いいでしょう?」
初めての流れ星に興奮して、自慢げに語る子供たちに俺は笑いかけながら、
「俺も流れ星を見たいな。よーし、翼と詩。誰が先に見つけられるか勝負だ」
「いいよ。どうせ、僕が勝つけどね」
「くすっ。楽しそうじゃない、お母さんも混ぜなさい。負けないわよ」
「はいなのです。ママには負けません! パパ、一緒にみつけてください」
愛する人がここにいる。
愛しい妻がいて、可愛い子供たちに囲まれて。
大事な、家族の幸せな日常がずっと続きますように。
俺はそんな願いを星々に込めて、夜空を見上げた――。
【 THE END 】
星野家編、雫ルート終了です。次回からは千歳ルート完結編になります。