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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第8部:星々の彼方 〈星野家三姉妹編・星野雫END〉
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第9章:安らぎの場所《断章1》

【SIDE:鳴海朔也】


 雫さんと共にやってきた海水浴場は、家族連れでよく賑わっていた。

 空は快晴だが風もあるし、心地よく過ごせそうだ。

 

「いい天気ですし、泳ぐにはいい感じです」

「そうね。日焼けするのは嫌だけども、適度に雲もあるし悪くないわ」

「雫さんはいつもは誰と来るんですか?」

 

 さすがにここもおひとり様ではないだろう。

 そう信じたい。

 だが、彼女はあっさりとした口調で言う。

 

「……ひとりで来るわね」

「そ、そうっすか」

 

 俺が言うのもなんだが、寂しい人生を送ってませんか?

 

「あのねぇ、誤解のないように言うけども、私はスキューバがメインだから。ひとりで泳いでるのが多いってだけ。誘う相手がいないわけじゃないわ」

「そう言うことにしておきます」

「もうっ、ホントに分かってる?」

「雫さんが海を好きだってことは分かりました」

 

 まぁ、大人になれば子供の頃と違い海で泳ぐ機会も少なくなる。

 家族や恋人でもいれば話は別だろうけども……。

 

「……スキューバ? 雫さんもスキューバダイビングできるんですか?」

「そうよ。ちゃんと免許を持ってるし。家に道具も置いてあるわ」

「へぇ、俺もそうなんですよ。それなら今度は一緒にスキューバをしましょう」

「ふーん。鳴海もできるんだ?」

 

 同じ趣味を持ってるなんていいね。

 ここの海は本当に綺麗なので泳ぐのも楽しいのだ。

 今日の所は純粋に海で泳ぐ事を楽しもう。

 

 

 

 

 雫さんが水着に着替えるまでの間、俺は砂浜で彼女を待つ。

 いいねぇ、こういうドキドキする時間。

 雫さんはスタイルもいいし、きっと素敵な水着のはず。

 いろんな想像をしながら待つこと数分、ようやく彼女は俺の前に姿を見せてくる。

 

「こっちを見るな」

「それは無理って話ですよ。……おー、かなりいいじゃないですか」

「……こんな姿、お前にしか見せないわよ」

 

 黒いビキニ姿の彼女は大人の妖艶さを感じる。

 胸の大きい彼女にはビキニとか似合いすぎです。

 上から下まで凝視する俺に彼女は不快感を態度で示す。

 

「変な目で見ないでくれる?」

「恋人ならば許される行為ですよ」

「嘘つけ。はぁ、もういいから海に入りましょう。恥ずかしいわ」

 

 雫さんはどうやら照れやでもあるらしい。

 うむ、付き合う前には想像もできない事だな。

 恥じらないの表情などほとんどみせなかったお人である。

 もう少し態度的にデレてほしいが、これはこれでありだ。

 海に入ると気持ちの良い冷たさ。

 

「さぁて、泳ぎますか」

 

 俺達はしばらくの間、のんびりと泳ぎ始める。

 

「鳴海はどれだけ泳げるの?」

「普通に泳げます。むしろ、泳ぐのは得意です」

「へぇ、見せてもらいましょうか。鳴海の実力ってやつを」

「勝負でもします?」

 

 スキューバの免許を持っているのだから、雫さんも泳ぎは上手だろう。

 だが、泳ぎならば俺も得意だから負けないぞ。

  

「……勝負か。いいわねぇ」

 

 彼女も何だか乗り気なので勝負でもしてみることにした。

 

「負けた方が勝った方の言う事を聞く、この王道的な条件でよろしいですか?」

「いいんじゃない。どうせ、私が勝つもの。好きにすればいい」

「自信ありますねぇ。それじゃ、あの岩場辺りまで勝負ということで」

 

 ここから500メートルほど離れた岩場をゴール地点とする。

 中学時代はよくこの辺りで皆と遊んでいたっけ。

 俺にとっては場所的には有利だと言える。

 波も穏やかなので、これはいい勝負になるだろう。

 

「スタート!」

 

 俺達は一斉に泳ぎ始める。

 だが、開始から10秒もしないうちに雫さんと距離が開いていく。

 

「……嘘だろ、早すぎ!?」

 

 俺は驚きながら彼女を追いかける。

 雫さんは綺麗なフォームで、まるで競泳選手みたいに泳いでいる。


「これがおひとり様で海を楽しむ女の人の泳ぎかよ(かなり失礼)。」


 くっ、油断していたわけではないが……圧倒的すぎる。

 

「ちくしょう!」

 

 神奈と泳ぎに行った去年を思い出した。

 あの時も同じ条件でチャレンジして無様な負けをさらした。

 同じ失敗を繰り返す俺はではない。

 というか、二回も女の子に負けたら俺のプライドはズタズタだ。

 今後、泳ぎが得意だと言う事を自慢げに言えなくなる。

 

「はっ、まだまだやれる」

 

 俺は本気を出して泳ぎ出す。

 激しい水しぶきをあげて強引な泳ぎをみせる。

 なんとか彼女に追いつき始めるが、残り100メートル少し。

 ……間に合うかどうかギリギリだ。

 だが、雫さんの方はここにきて失速し始めている。

 彼女の泳ぎには当初の勢いもなく、こちらはまだ体力的には余裕がある。

 逆転をするために、俺は全力を出して泳いだ。

 

 

 

 

 結果、俺はラストわずか数メートルで逆転勝利。

 いわゆる、タッチの差って奴だった。

 

「……ぎ、ギリギリ、勝てました」

「はぁはぁ……最後の追い上げで負けるなんて、屈辱ね……」

 

 両者ともに息も絶え絶え、岩場に持たれながら呼吸を整える。


「自分の年齢を嫌というほど痛感させられたわ」

「同感です。若いころのようにいかないものですね」


 もう昔とは違うんだな……。

 常に運動している人間と違うので、体力が低下した気がする。

 雫さんはこちらに悔しそうな表情を浮かべながら、

 

「……はぁ、鳴海に負けたわ。あと少しだったのに」

「雫さん、早かったですね。泳ぎは得意なんですか?」

「一応、昔は水泳部だったし。こう見えて、昔はインターハイも出た事があるのよ」

 

 やべぇ、相手はホントに元競泳選手だった。

 インターハイ経験者とか、俺はよく勝てたものだ。

 話を聞けば、あの神奈に泳ぎを指導したのは彼女らしい。

 同じ高校の水泳部で先輩後輩だったそうだ。

 ……世間って狭い。

 

「でも、最後の失速は……?」

「単純に男と女の体力の差でしょ。後は、お互いに昔ほど泳げないってことじゃない。鳴海も限界そうだし。でも、素人のわりには早くてびっくり」

「……男には負けられないプライドがあるんですよ」

 

 ここで負けたら俺はもう立ち直れなかったであろう。

 その後はふたりで軽く泳ぎながら、海を楽しむ。

 夏の海を満期した後、陸に上がった俺は言った。

 

「雫さん、勝負に勝った俺の言うことを聞いてもらいましょうか」

「お好きにどうぞ。何をさせるつもりなのかしら?」

 

 晴天の空の下で、俺はあるお願いを雫さんにしてみることにした。

 

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