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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第8部:星々の彼方 〈星野家三姉妹編・星野雫END〉
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第7章:恋の病《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


 雫さんに誘われて二度目の花火をすることになった。

 花火が苦手だという由愛ちゃんは家の中へとはいって行ってしまう。

 

「一度、ちゃんと姉さんと向き合ってみてくださいね?」

 

 何やら意味深な事を言われたが、どうなることやら。

 雫さんは花火の袋を箱から取り出す。

 

「また新しいのを買ってきてるんですか?」

「違うわ。これは夏の初めにスーパーでまとめ買いしてるの。大量に買うと割引してくれるから助かるわ」

 

 なんと段ボール箱には家庭用花火の袋がぎっしりと入っていた。

 ……まさかの花火の大人買いです。


「これだけ買ってくれるのなら、担当者も大喜びでしょうね」

「わざわざ、毎回、買いに行くのも面倒だもの」

「ちなみに花火って毎日するんですか?」

「そうね。夏の間は雨以外の日はほとんどしてるかしら」

 

 そこまで好きだとは思わなかった。

 この量をひと夏の間に、ひとりでしているのか……。

 さすが、としか言えません。

 

「おひとり様の花火って寂しくないですか?」

「お前に花火を向けられたくなかったら、それ以上の追及は許さないわよ?」

 

 深く追求したら人生がさよならの様相なので、口にチャックをする。

 あぶねぇ、俺の命が花火のように儚く散りそうだったぜ。

 しばらくの間、花火をしながら2人は黙り込んだ。

 何かしゃべろうと思っても、さっきの由愛ちゃんの言葉を思い出して話題を出せず。

 雫さんの事をどう思ってるか。

 改めて考えてみたりして。

 俺は新しい花火に火をつけて楽しむ。

 うむ、これは確かにハマるかもしれない。

 ひと夏中するほどではないけどな。

 

「……黙ってないで何か話しなさいよ」

「え? あ、そうですね……えっと」

 

 沈黙を破ったのは雫さんの方からだった。

 俺は話題を探しながら、彼女について聞いてみる。

 

「雫さんの理想な男性ってどんなタイプっすか」

「……はぁ? お前、いきなり何よ? タイプって言われても」

 

 雫さんにとって異性に関心があった時期はないのだろうか。

 

「例えば、カッコいい男が良いとか、優しい男が良いとか」

「……私に尽くして、奴隷のように扱っても文句ひとつも言わない男?」

「貴方はどこの女王様ですか」

 

 そんなどSな性格についていける男は限りなく少ない。

 彼女は軽く肩をすくめながら、

 

「真面目に答えると、面倒くさくない男がいい。結婚してから、あれしろ、これしろって、相手に命令ばかりしてるような亭主関白とか気取る男は嫌い。男が偉いと思ってるのは論外。私の自由を認めてくれる相手じゃないとダメね」

「……束縛されるのは主義じゃない、と?」

「恋人が束縛するような男なら、私が粛清するわ」

 

 さらっと危険な発言を言ってしまう辺り、魔女ですよね。

 

「鳴海はどんな女が好みなの? 由愛みたいなお世話好きの可愛いタイプの子?」

「由愛ちゃんは男から見れば理想的なお嫁さんタイプですよ」

「やっぱり、由愛狙いか。こいつ、今すぐ処分しておくべきかしら」

「今の発言で俺の処刑決定!?」

 

 怖いよ、聞かれたから答えただけなのに。

 だけど、雫さんは意外な言葉を続けたのだ。

 

「……ホントに好きなら、反対はしないけど」

「あれ? そうなんですか?」 

「お互いに好きなら、妹の幸せを思えばそれもありなんでしょう」

 

 雫さんってかなり妹思いの所があるよなぁ。

 性格がアレなので伝わりにくいけども。

 

「由愛ちゃんを俺のお嫁さんにください」

「私を倒すことができたら許してあげるわ」

「すみません、諦めます。俺にその覚悟はありませんでした」

 

 今の俺ではレベルが足りてません。

 レベルが足りても、彼女の場合、多分ワンターンキルの必殺技があるぜ。

 ラスボスである雫さんを倒せるって相当だよなぁ。

 

「冗談はおいといて、ホントに狙うつもりでもある?」

「由愛ちゃんですか? そうっすね、可愛いけど、俺の場合は妹的な子は恋愛しても、難しいんですよ。どうにも上手くいかない事が多いので。多分、縁はないと思います」

「……鳴海は恋愛下手だものねぇ」

「まったくもって、返す言葉もございません」


 俺達はいつのまにか結構な花火を消費して最後の線香花火に突入していた。

 

「風情を楽しみましょう。線香花火こそ、花火の王道です」

「これ、地味だから好きじゃない。いつもはまとめて5本くらい同時にしてるわ」

「うわぁ、なんてことを。ひとつずつ楽しむのが線香花火の魅力でしょうに」


 そんな大胆な線香花火は本来の趣旨から離れてるよ。 

 チリチリと小さな花火を見つめ続ける。

 

「鳴海……私さ、今から変な事を言うけど笑うな」

「なんっすか?」

 

 彼女は花火に視線を向けたままで言った。

 

「――私、お前の事、好きかもしれない」

 

「え、えぇ!?」

 

 思いもよらぬ突然の告白に俺は動揺する。

 あの魔女と呼ばれた雫さんが俺のことを好きだと、ありえるのか!?

 

「熱っ!?」

 

 動揺しすぎて、手に持ってた線香花火を落として火種が指先をかすめる。

 

「だ、大丈夫? すぐに水で冷やして」

「大丈夫です、やけどした様子じゃないんで……」

「バカ! もしも、火傷したらあとが残るでしょう。こっちにきなさい」

 

 雫さんが慌てて庭の水道の蛇口をひねり、俺の指を水で冷やす。

 

「……ごめん。変なタイミングで言ったわ」

「い、いや、別にそれはいいんですけど……ホントですか?」

 

 今までの話の流れをぶち壊すように、いきなりの告白だったのでびっくりだ。

 

「散々、恋愛に興味ないようなふりして、この話の流れだったので」

「お前が由愛を好きかどうか、確認しておきたかったのよ。もしも、そうならこんな告白もするつもりがなかった。でも、違うみたいだから告白した。それだけのことじゃない」

 

 ……覚悟の決め方が極端な人だぁ。

 そして、俺は今、人生で一番動揺している。

 心臓の動悸が半端なく、卒倒してしまいそうだ。

 

「鳴海とは色々とあったから興味があったのよ。それで自分なりに考えみたの」

 

 雫さんは自分の想いを語りだす。

 

「前の嵐の日にさ、お前は私に言ったじゃない。素直になれって」

「えぇ。貴方は我慢しすぎる人ですからね」

 

 雷に怯える雫さんに向けて俺が言った言葉。

 

『雫さんは我慢する事に慣れている。それがいけないと思うんです。怖いのなら叫べばいい。自分に素直になってください』

 

 彼女に必要だったのは叫ぶことで、恐怖心をため込まずに解放する事だった。

 

「あの時、ああ言ってくれて嬉しかったのよ。あぁ、怖いのを我慢しなくてもいいんだって……そう思わせてくれた」

「雫さん……」

「鳴海とっては些細な一言だったのかもしれないけども、私はそれに救われたの」

 

 自分の何気なく放った言葉が相手にどう届くのか、それは人次第だ。

 こんなにも、雫さんの心に届いてたのに驚く。

 気恥ずかしさと嬉しさが俺の中にある。

 昔の誰かが言っていた、人を愛することより人に愛される事の方が難しい。

 ……人から愛されるって大変で、でも、だからこそ嬉しいんだろう。

 

「美帆からも自分と鳴海のことを考えてみろって言われた。あの子は鋭いし、昔から私の弱い所を知ってるの。私が自分でも分からない気持ちに悩んでたのに気づいたんだろうけど。そのおかげで分かった。私はお前が、好きだって」

「……悩んだ結果がこれだったと?」

「そう。笑っちゃうくらいに単純でしょう? 散々、自分で悪口叩いてた男を、気になる自分がいるとは思わなかった。だけど、そんな嫌な性格の私だから答えは分かってる」

 

 雫さんは後ろを振り向くと、俺に顔を見せないで言うのだ。

 

「私は鳴海の事が好き。でも、それだけ。お前の答えは良いよ。どうせ、ダメなのは分かってるし。私はお前に好かれるような事をしていない。好きになってもらえるような女じゃないのは自分が一番よく分かっている」

 

 雫さんは決して強い女性なんかではなかった。

 

『それに姉さんは誤解されやすいですが、決して強い人ではないんです。その心は私達の誰よりも、壊れやすくて繊細な方なんですよ』

 

 由愛ちゃんの言う通りだったんだな。

 告白しておいて答えが怖いなんて……普通の女の子じゃんか。

 それはどこにでもいる女の子の反応で、だから、それが可愛いとも思ってしまえて。

 

「……一方的なのはずるいと思いませんか?」

 

 俺は後ろを向いたままの彼女を抱きしめてみた。

 

「な、鳴海、何をしてる?」

「ずるいですよね。それはずるい。俺の答えを聞かないでいいってのはダメですよ。俺が許しません。だから、聞いてください」

 

 今の自分の気持ちと向き合い、思いを告げる。

 

「俺も……雫さんが好きです。あらゆる意味で刺激的だし、傍にいて楽しくて、普段は強気なのにふいに見せる弱さが可愛くて。そんな貴方とこれからも、もっと傍にいたいって思えるんです」


 だから、言おう。


「俺と付き合ってくれますよね?」

「う、嘘だ。お前はいろんな女の子と恋愛してるから、私みたいな面倒な女なんて相手にしないだろ。……私なんかでいいわけ?絶対後悔するし。私は、普通の女みたいに可愛げとか持っていないのに。お前に好かれる所なんてないのに」

「自信持ってくださいよ。いつもみたいに、自分は良い女だって胸張ってください。俺が保証します。貴方はとても魅力的な女性なんですから」

「……バカ。そうやって、お前は口ばかりうまくて皆、騙されるんだ」

 

 抱きしめ続ける俺に彼女は振りかえると、初めての満面の笑みを見せてくれた。

 とても綺麗で思わず見惚れる。

 

「でも、嬉しいよ。鳴海、私の事を好きだって言ってくれて本当に嬉しい」

 

 人生って何が起きるか分からない。

 抱きしめれて、俺はその言葉をしみじみと感じていた。

 雫さんが俺の恋人になる日がくるなんてな――。

 

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