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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第8部:星々の彼方 〈星野家三姉妹編・星野雫END〉
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第6章:花火の輝き《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 茉莉に連れられて、俺は隣街の繁華街まで来ていた。

 美浜町の田舎の風景とは違い、ずいぶんと賑わっている。

 

「やっぱり、こういう所でデートした方が楽しいよね、センセー」

「デートじゃないから。そこ重要です」

「えーっ。いいじゃない、デートっぽい方が私はいいの」

 

 彼女は俺の手を取り、握りしめてくる。

 

「暑いからやめてくれ」

「ひと肌の方がひんやりして冷たいのに」

 

 何も知らない人間に見られたら、恋人同士にでも思われるだけですむ。

 だが、知っている人間に見られたらいろんな意味で困るのだ。

 夏も真っ盛り、俺がなぜ茉莉と共にここまで来ているかと言うと、

 

「さっさと買うモノを買ってくれ。後は何がいいんだ?」

「ツーン。つれないの。センセーには愛が足りていない。次は服が欲しい~」

 

 つまり、茉莉の買い物に付き合わされているのである。

 俺も隣街に用があって来ていたのだが、同じように遊びに来ていた茉莉に見つかり、一緒に行動する事になった。

 

「茉莉はいつも、こっちに来てるのか?」

「んー、隣街の方が買い物も便利だからよく利用してる。ホント、美浜町は田舎で嫌いだよ。面白くもなんともないもん」

「故郷を悪く言うのはどうかと思うけどな」

 

 何もないのには同感だけども。

 

「センセーを悩殺できる露出の多い服を買うの」

「……中身がこれだからなぁ」

「ひどいっ。もういい、私も本気になるからね!?」

 

 結局、服やらアクセサリーを買う茉莉に付き合わされてしまった。

 茉莉と遊んでると、妹っぽくて可愛いらしい。

 昔から年下の従妹とか神奈とかによく甘えられたっけ。


「……別に嫌いじゃないけどな」


 どうにも俺は妹属性みたいな甘えられる事に弱い。

 

「ふふっ、いいのがあってよかったぁ」

 

 服を買うだけ買った茉莉は満足の様子。

 しかも、お値段もかなりのものを遠慮もせずに買っていた。

 俺には真似できないお金の使い方である。

 

「茉莉がお嬢様なんだってのを思い知らされるな」

「そう? ただ散財するだけだと怒られるんだよ? これでも、お金の扱いはちゃんとお姉ちゃんに教育されてます、ぐすっ」

「雫さんか。いろいろと大変なのね」

 

 その名を聞けば、もう詳しい説明がいらないな。

 

「雫さんと言えば、意外と言うと失礼かもしれないが、お嬢様らしくないよな」

「……あー、分かる。お姉ちゃん、オシャレも気にしないタイプだもん。あれだよ、女の子なのにブランド物とか全く興味ないんだから。着飾る事をほとんどしないし」

「お嬢様っぽいのは高級車くらいかな。お金の使い方も、きっちりしてそうだ」

「無駄使いしないし、飲んでるワインも安物だし。もう、お金があるのに使わないのは日本の経済のためによくないよ。あるモノは使う、それが私の主義です」

「まるで正反対の姉妹だな。あと、お前の言い方は何かムカつく」

 

 庶民をなめるな、皆は頑張ってるんだよ。

 お金がある人はいいですな。

 

「……ところで、最近、お姉ちゃんと急接近中みたいだけど、まさかセンセーとくっつきそうとかそんなことはないよね?」

「ないだろう?」

「だよね!? よかったぁ。お姉ちゃん相手だと絶対に勝てないもん」

 

 雫さんと恋人関係になるなんて想像できないっての。

 意外と可愛い所があったり、優しさがあったりする所に惹かれる事もあるが、向こうが俺をどう思ってるとか考えるとなぁ。

 ……俺、今も嫌われたままだし。

 

「雫お姉ちゃんと付き合える男の人なんているの? 自分の姉の事だけど、他人にすすめたくもない。いつかお姉ちゃんも結婚する日が……くるのかなぁ?」

「俺のコメントは求めるな。命が危なくて言えません」

 

 俺も茉莉と同感だったが、本人には到底、言えないことだ。

 

 

 

 

 電車に乗り、再び美浜町に戻ってくると夕方の時間帯だった。

 

「はぁ、寂れた田舎に到着、っと」

「そのテンションの低さはなんだ」

「んー、私にはこの町があってないんだよ。魅力もよく分からないし?」

「田舎的雰囲気が魅力の観光地だ……それしか俺も言えない」


 茉莉の年頃なら遊ぶ場所が大事なのは分かる。

 仕方ない事だが、外に出て大人になってから魅力に気付いてもらおう。

 

「そうだ、お姉ちゃんに会いに行かない?」

「雫さん?」

「違います。自分で会いたいなんて言わないもんっ。由愛お姉ちゃんだよ」

 

 ……ホントに茉莉と雫さんって相性が悪いようだ。

 由愛ちゃんと言えば、駅前のカフェでアルバイトをしている。

 ちょうど、近くまで来ているので由愛ちゃんに会いに行くことにした。

 雰囲気の良いオシャレなカフェ。

 コーヒーの味もよくて俺も何度か利用した事がある。

 由愛ちゃんが働いてるのは知らなかったが。

 

「いらっしゃいませ」

 

 お店に入ると店内は夕方と言う時間なのか客はまばらだった。

 ちょうど由愛ちゃんがこちらに気付いて接客してくれる。

 

「あら、朔也さん。お店に来てくれたんですか?」

「私もいるよー、お姉ちゃん」

「茉莉ちゃんもこんにちは。ふたりとも仲良くデートですか?」

「一緒に遊んできただけ。今度は由愛ちゃんも一緒にどう?」

 

 俺が誘うと嬉しそうに「いいですね」と笑う。

 

「席にご案内します。こちらへどうぞ」

 

 ウェイトレスの格好も可愛らしくていい。

 由愛ちゃんは本当に癒し系です。

 俺の心のオアシス、最高だ。

 

「……鳴海センセー、鼻の下が伸びてる」

「そんなことありません」

 

 少し緩み過ぎたようだ、ちょいと反省。

 

「ご注文は何しますか?」

「俺はアイスコーヒーで。えっと、茉莉は何だ?」

「マンゴージュース! ここのジュース、大好き。センセーのおごり?」

「あぁ。これくらいならいいよ」

 

 茉莉が追加でケーキを注文すると、由愛ちゃんが「少々、お待ちください」とにこやかに対応してくれる。

 あの笑顔はカフェとか接客業がよく似合うよな。

 

「……星野家三姉妹って個性的だよな」

「個性的? どーいう意味?」

「厳しく怖い雫さんに、優しくて笑顔の素敵な由愛ちゃん。無邪気な茉莉。こうも性格が違う姉妹って、一緒に暮らしていてどうよ?」

 

 姉妹って似るイメージがあるがこちらの姉妹は全然違う。

 茉莉は「んー」と考える仕草を見せる。

 

「正直に言うと、私は雫お姉ちゃんが苦手だから。もう、いつも意地悪してくるし、怖いし。それに比べて甘やかせてくれる由愛お姉ちゃんは大好き。姉妹で性格が違うのって……大変だよ、いろんな意味で」

 

 げんなりとした表情で言う茉莉には説得力がある。

 茉莉みたいな妹だと可愛がりたくなると思う。

 

「雫さんのも姉妹愛かもよ?」

「絶対に違うから。あれは人をいじめて楽しむドSなお姉さん、危険人物です」

 

 妹にそこまで断言されてしまう雫さんっていったい……。

 

「お待たせしました、マンゴージュースとアイスコーヒーです」

 

 ちょうど由愛ちゃんがアイスコーヒーを持ってきてくれた。

 

「ありがとう。暑い時はアイスコーヒーがいいよな」

 

 俺は乾いた喉をうるおしながら、由愛ちゃんにも聞いてみる。

 

「……雫姉さんですか? そうですね、私は好きですよ」

「由愛お姉ちゃん。そこまで良い人ぶらなくてもいいんだよ?」

「茉莉ちゃんは姉さんの魅力を知らないんです。あの人は厳しさの中に、優しさもある方なんです。不器用ながらも、包み込んでくれるような温もりを持っています」

 

 優しさとか温かさって、雫さんの評価の言葉じゃないよね。

 

「ありえないよ。我が家の魔女だよ、魔女」

「ふふっ。昔の話をしましょう。あれはまだ私が子供だった頃、茉莉ちゃんが生まれた時の話です。実は茉莉ちゃんが生まれて、一番に可愛がっていたのは雫姉さんなんですよ」

「え?」

「もう毎日、付きっきりで面倒をみて、お世話もしてあげてました」

「う、嘘だぁ。お姉ちゃんが?」


 信じられないと言った茉莉の顔。

 

「本当です。赤ちゃんだった茉莉ちゃんのほっぺを指で触っては『可愛くて、可愛くて仕方がない』って笑ってました」

「あ、ありえない」

「10歳も離れた妹。茉莉ちゃんと言う妹ができた事に一番喜んでいたのは姉さんです。今もちゃんと、茉莉ちゃんを妹として愛してるんですよ」

 

 彼女の言葉に俺達は黙り込んでしまう。

 あの怖いお姉さんにそんな一面があったなんて。

 昔のこととはいえ、姉妹としての愛情は確かにあったのか。

 

「そんな話を聞くと、いいお姉さんなのかもしれないな」

「む、昔の事だから私は騙されませんっ。今は違うもん」

「いいえ、変わりません。だって、今でも茉莉ちゃんの寝顔を見た時は嬉しそうに笑うんですよ。『昔と同じで無垢で可愛いね』って。本人には面と向かって言うことはないかもしれませんけど、愛している事だけは事実です」

 

 自分が人から愛されているかどうか。

 案外、分かりにくい物なのかもしれない。

 だけど、ちゃんと愛されているんだって。

 雫さんなりの姉妹の愛情、確かに存在するようだ。

 茉莉は何だか気恥ずかしそうに赤くなっていた。

 

「うぅ、私も愛されてるのかな?」

「今度、本人に聞いてみればいいじゃないか」

 

 その時はどんな言葉が帰ってくるんだろうね?

 俺はまだ雫さんという女性の事をよく知らないんだな。

 

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