第4章:バースデー《断章3》
【SIDE:鳴海朔也】
由愛ちゃんの20歳の誕生日。
初めてのお酒と言うことで、ワインを開けることになった。
この前、雫さんと一緒に飲みに行った事を思いだす。
「雫さん、お酒に強かったですよね?」
「普通よ、特別に強いわけではないもの。鳴海は思ってたより酒癖が悪くなかった」
……お酒を飲んだ俺はどんな想像をされていたのか気になる。
ワイングラスにワインを注ぎこむと、由愛ちゃんは興味深そうに見つめる。
「いつも姉さんが飲んでいるのは見ますけど、私も飲める年になったんですね」
初めてのお酒に興味深々というところか。
「……センセー、私も飲みたい」
「未成年はダメ。ジュースで我慢しなさい」
「えーっ。私だけ仲間はずれはひどいよ」
茉莉がふてくされるが、こればかりはしょうがない。
俺達は乾杯をして、ワインを飲み始めた。
雫さんは由愛ちゃんの反応を見ている
「どう? 美味しい?」
「……少しだけ苦いですけど、美味しいと思います」
酒には相性の良しあしがあるからな。
ワインがいけてもビールがダメとか、日本酒ダメでもチューハイならいけるとか。
自分に合う酒を好きになるものだ。
ちなみに俺は断然、生ビール派です。
「そう言えば、お酒を飲み始めた頃って絶対に恥ずかしい経験ってしますよね。自分のお酒を飲める限界が分からない頃は無茶したりするものです。俺も若い頃は無茶しました」
「お前の失敗談はどうでもいいけど。真白は今でもお酒に付き合うと子供っぽくなったりする、あれかしら?」
真白ちゃん化、確かにあれは可愛らしい。
酔えば人が変わる、人それぞれなのが面白い。
「そうやって、女を酔わせてひどい目に合わせたりしてきたのね、鳴海」
「……そ、そんなことはないですよ?」
深酔いしすぎて、翌朝、なぜか隣に見知った美人(千沙子)が……という経験はした事がありますが。
それはさておき、ゆっくりと由愛ちゃんはワインを飲み続けている。
味が気に入ったらしく、おかわりまでしている。
それを羨ましそうに見ながらジュースを茉莉は飲んでいた。
「いいなぁ、由愛お姉ちゃん。私も早くお酒が飲める年になりたい」
「茉莉が20歳になったら、どんな風になってるのやら」
「センセーを余裕で誘惑出来るほどの美人になってる予定だよ」
「……危険だ、いろんな意味で危険だ」
その頃は高校生でもなくなってるので、俺も大ピンチかもしれない。
誘惑されたら俺は……耐えられる自信がありません。
何気に茉莉も美少女なので将来が楽しみではある。
「……ロリコンが犯罪者の目をしてるわ」
「し、してませんよ。俺はロリではないので誤解を招くことは言わないで下さいよ」
今のご時世、そう言うの厳しい目があるのだから冗談でもやめてもらいたい。
「……?」
ふわっとした茶色の髪が俺の視界の前になびく。
いつのまにか、俺の横に来ていた由愛ちゃん。
彼女はあろうことか、俺の膝の上に頭をのせ始めたのだ。
「え? あ? え?」
「な、何をしてるの、お姉ちゃん!?」
由愛ちゃんの思いもしない行動に戸惑う俺達。
「ふにゅー、朔也さん」
彼女の紅潮した顔が猫のように可愛らしい。
どうやら、お酒に酔ってしまったようだ。
「……可愛いなぁ」
「にやけてるんじゃない、変態。こら、由愛。変態の膝からどきなさい」
思わず呟いた一言に強烈な言葉が返ってくる。
雫さん、怖すぎです。
どうやら、由愛ちゃんは酔っているらしい。
「いーやーです。私はここがいいんです」
俺にギュッと甘えてくる由愛ちゃん。
可愛すぎてお持ち帰りしたい!
「雫さん、俺は全く気にしないのでこのままにしておきましょう」
「黙れ、変態。お前の意見は聞いてない、変態」
変態って二度も言わなくてもいいじゃないか。
由愛ちゃんを膝枕した状態を満喫中。
その分、雫さんの怒りのボルテージは上昇中。
命がけの幸せって、どうなんでしょう。
「由愛、酔ってるのね。さっさとどいて、もう寝なさい」
「頭がふわふわしてます」
「それを酔っていると言うの。初めてお酒を飲んだのだから仕方ないけども。ほら、離れなさい、由愛ってば」
雫さんが俺から強引に由愛ちゃんを引き離そうとする。
「……いや~、朔也さんの傍が良いんでーす」
彼女はまるで子供のように俺に抱きつき始めた。
甘い彼女の香りにドキドキさせられる。
「朔也さん、むぎゅー」
おぅ、中々にボリュームのある膨らみの感触が……ファンタスティック。
そうか、由愛ちゃんは酔うと甘えたがりになる村瀬さんと同じ属性か!
「……鳴海センセー、目がやらしい」
「これは事故です」
「むぅ、私もセンセーに甘えたいのに。お姉ちゃんだけずるい」
茉莉は茉莉で妙な方向で拗ねてる。
「……はぁ。由愛にお酒を飲ますんじゃなかった。もうっ、しっかりしてよ」
結局、由愛ちゃんが酔って眠ってしまうまで、雫さんとの戦いは続いた。
先程まで抱きついていた由愛ちゃんの温もりがなくなり、少しさびしい中での後片付けをすることに。
由愛ちゃんを部屋まで連れて行った雫さんが戻ってくる。
「鳴海、ずいぶんとおいしい思いをしたわね」
「……男の役得ですよ」
「ふんっ。まぁ、お前が無理やりしたわけじゃないからこれ以上は責めないけど。由愛にはお酒のちゃんとした飲み方を教えてあげないといけないわ。そうじゃないと、真白みたいになってしまう。自分の妹がああいう風になるのは見たくない」
……えらい言われようですよ、村瀬さん。
俺としてはあんな風に甘えてくれた由愛ちゃんが可愛くて好きなのだが。
「雫さんもあんな風にお酒を飲んだら甘えたりします?」
「私はお酒を飲むと逆に冷静になっていくの。後片付けから会計まで仕切るタイプよ。酔って人に甘えるタイプじゃない。そんな可愛い性格はしてないわ」
「……でしょうねぇ」
でも、一度でいいから今日の由愛ちゃんみたいな雫さんも見てみたかったり。
雫さんはテーブルの上を片付けながら、誕生日プレゼントの箱を手にする。
それは俺が由愛ちゃんにあげたオルゴールだ。
彼女がその箱をあけると綺麗なメロディーが流れ始める。
「オルゴールか。お前のチョイスにしては良い所に目を付けたわ」
「由愛ちゃん、可愛いのが好きだって聞いたので」
「昔からオルゴールが好きなのよ。酔い潰れたこと以外は由愛にとっては良い20歳の誕生日になったと思う。ありがとう」
彼女からお礼を言われて俺は何だか照れくさくなった。
雫さんって、俺が思っている以上に妹想いの姉なんだと実感したのだった。