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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第7部:愛の証明 〈学園編・村瀬真白END〉
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最終章:愛の証明

【SIDE:鳴海朔也】


 それは突然に起きた事件。

 俺と真白ちゃんにとって重大な危機を迎えていた。

 

「嘘つき! 朔也君の嘘つき! 私、朔也君の事を信じていいのか分からないよ」

 

 俺にそう言って、俺の前から真白ちゃんは立ち去って行く。

 追いかける事も出来ずに、何もできずにいた。

 ようやく、ハッとした俺は帰り支度をしてから職員室を後にする。

 一度、家に戻り、私服に着替えた後、真白ちゃんの家を訪れる。

 対応してくれた真白ちゃんのお母さんの話では家にはまだ帰ってきていないらしい。

 

「どこにいるんだ?」

 

 俺は町中を探してみることにした。

 夏の夜は日が落ちるのが遅い。

 夕暮れの海を見るのが好きな彼女、そのために海辺を探していた。

 

「……真白ちゃん、見つけた」

 

 ようやく見つけられたのはいつか彼女に案内された事のある浜辺だった。

 ここから見る夕日が好きなんだと言っていたのを思い出す。

 

「俺が嘘つきってどういう意味か、説明してもらえないかな?」

 

 浜辺のテトラポットの上に座る彼女の横に俺も座る。

 彼女は俺の方に視線を向けることなく、逃げる事もなく海を見ている。

 

「……俺の事が嫌いになったんだよね? どうして?」

「どうして? 貴方がそれを聞くんだ、分からないの?」

 

 俺は彼女を傷つけた、それは事実だろう。

 脳裏によぎるのはこれまでの自分のしてきた恋愛の過去。

 

『アンタみたいな嘘つきの言う事なんて信じないよ』

 

 ……やめてくれ。

 

『女の愛し方も知らないくせに恋なんてするな』

 

 やめてくれよ、思い出したくはないんだ。


『女に刺されて死んじゃえばいいのに!』


 あ、これは思い出さないで。

 リアルにマジ凹みするやつだから。

 人を愛せなかった自分の過去と向き合うこと。

 ずっと避けてきた自分の黒歴史を、俺はまた繰り返そうとしているのか?

 せっかく、愛せるようになった女の子をまた手離すような真似を。

 ……それだけは嫌だ。

 

「ごめん、真白ちゃん……俺が悪かった。すまない、許して欲しい。俺は、恋愛については本当に愚鈍なんだ。些細な事で相手を傷つけしまう」

「……」

「だけど、俺は真白ちゃんだけは……嫌われたくない。俺に悪い所があるのなら直すから、許して欲しい」

 

 俺が頭を下げると、真白ちゃんは慌てた様子を見せる。

 

「はぁ、そんなに謝られると、何だか怒る気も失せるわ。謝るのは私の方なのよ。朔也君に悪気がないのは分かってるのに勝手に不機嫌になってる。こっちこそごめんね」

「……話をしてくれるかな?」

 

 話によると彼女は先程の俺と結衣さんの姿を見ていたらしい。

 泣いてる彼女を抱きしめていれば、確かに不安になるような変な仲だと思われる。

 

「誤解をさせたかもしれない。あれは別に変な関係じゃない。信じてもらえないと思うけど、本当だ。ただ、泣いてる彼女を……」

「うん。どういう事情だったかは分からないけども、浮気じゃないってのは分かってるつもりなの。頭では分かっていても、心が受け付けないって事はあるよね?」

 

 彼女は俺の肩にもたれかかってくる。

 それを受け入れながら、彼女は俺に話すのだ。

 

「ふたりを見ていてたら、昔の私の悪い癖を思い出したの。前にもあんな風に結衣先輩を抱きしめる彼氏とのシーンを見た事があったの。あの頃の私の話を覚えてる? 私は人の彼氏や好きな人を好きになる癖があるって」

「あぁ、そういう癖があるんだって言ったよね」

「あの時も、結衣先輩を抱きしめていたのは私の好きだった人。手が届かないと分かっていても、その幸せを見ると辛い。人の彼氏なのに、嫉妬したりしている自分がいたあの頃の気持ちを思いだしてしまったの」


 本気で好きだったんだなぁ。 

 さっき、俺が向き合ってこなかった恋愛を思い出したような事が彼女にもあった。

 互いに恋愛には過去に心の傷があるからな。

 

「……まだまだだよな、俺達ってさ」

「そうだね。付き合ってうまくいってるつもりだったけども……全然ダメだね」

「恋愛が下手な人間同士。ステップアップも大変だ」

「良い大人なのに。何やってるんだよ、って感じ」

 

 思わず笑い合ってしまう。

 お互いを信じて、愛し合っているつもり。

 それは、まだ“つもり”レベルだったのだ。

 俺達が本当の意味で互いを信じあい、愛していると呼べるにはまだ時間が浅すぎた。

 

「朔也君……好きだよ。この気持ちは本気だから」

「……分かってるさ。俺も真白ちゃんが好きだ」

「ふふっ、おかしいよね。まるで学生みたいな恋愛してる」

「しょうがないでしょ、俺達の恋愛はまだまだ彼らと同じレベルだ」

 

 大人であっても、恋愛経験があっても。

 俺と真白ちゃんのふたりは、恋愛の仕方がまるで初心者のようだ。

 

「まずは互いを信じる所から始めなきゃな」

「……朔也君がいろんな女の子と噂になるのが悪いと思う」

「返す言葉がない。悪いのは俺です」

「冗談だよ。たくさんの人に愛される素敵な人だって思うと嬉しい私は少し変かな」

 

 もっとお互いに分かりあってこの関係を深めていきたい。

 

「……魅力的な恋人がいると大変ですな」

「そーいうこと、自分で言わないの。すぐ調子に乗るんだからぁ」


 彼女は許してくれたらしくて、俺にキスをしてきた。

 甘えられるのは好きだよ。 

 俺達が本当の恋人になれるにはまだ時間がかかりそうだな。

 

 

 

 

 暑い8月になり、俺と真白ちゃんはバイクで旅行に出かけていた。

 こんな風にふたりで泊りがけのバイク旅行に行くのは初めてだ。

 旅館に向かう山道で休憩するためにバイクを止めた。

 

「風が気持ちいい。やっぱり、バイクを走らせるには山の方が楽しいね」

「……真白ちゃんに追いつくのが俺は精一杯だ」

「朔也クンも大型バイクの免許を取ればいいじゃない。パワーあるマシンは楽しいよ」

 

 真白ちゃんは女性ライダーとしてはカッコいい。

 ただ、維持費を考えても大型バイクに手が届きません。

 

「個人的には将来の事も考えて車が欲しいかな」

「ふふっ。そっか、それじゃ朔也クンには頑張ってもらわないとねー」

 

 嬉しそうに笑いながら俺の手を握り締めてくる。

 俺達が結婚して子供ができたりしたら、さすがにバイクじゃ行動できないからな。

 遠い未来の事だけども、容易に想像できる。

 

「……朔也クンの御両親はいつ来るの?」

「今週末って言ってたよ。都合が悪くて、盆休みには来れないからその前にって」

「そっかぁ。それじゃ、その時にはご挨拶しないとね。うちの両親もまじえて、話がしたいな。……私達、結婚するわけだし」

 

 彼女は空に向けて左手をあげる。

 そのくすり指は銀色の婚約指輪がつけられていた。

 

「婚約指輪っていいよねぇ。思っていた以上に、付け心地がいいの」

「頑張って贈ったかいがあるよ」

 

 遡る事、一週間前のことである。

 俺達はまたまた些細な事で喧嘩した。

 本当に些細な事だったので、すぐに仲直りしたわけなのだが、その際に勢い余って俺は彼女に「結婚しちゃおう」と言ってしまったのだ。

 ……いや、ほら、喧嘩したあと仲直りした時って、仲良くなりすぎて変なテンションになるじゃないか。

 決して軽い気持ちじゃないが、タイミング的にはどうかと思うシチュではある。

 だが、真白ちゃんはその勢い余っての告白に対してOKをくれた。

 結婚することになった翌日には指輪も買いに行って、互いの両親に報告という流れになって……今に至る。

 慌ただしい日々は過ぎ、ようやく落ち着いた週末。

 以前から予約していた旅館を目指して、ただいま旅行中ってわけだ。

 

「……ここは空気が澄んでいいわよね」

「俺達が住んでいる町はどうしても海の匂いがするしね」

「潮風香る町ってのも悪くはないけども、木々の自然の香りも私は好きだな」

 

 バイクにもたれながら彼女は森の木々を見渡す。

 夏というのに、良い風が吹いてとても心地よい。

 木漏れ日を浴びながらのんびりと昼寝でもしたい気持ちになる。

 

「私、都会から田舎に戻ってきてよかった。戻るのためらっていたけども、私はこっちの方が合ってたみたい」

「それにイケメンの彼氏もできたから」

「だーかーら、そう言う事は自分で言わない。私の台詞をとらないで」

 

 じゃれつく彼女に俺は笑いかける。

 真白ちゃんとの過ごす毎日は楽しくて。

 日々充実していて、飽きる事がない。

 

「……俺も田舎町に戻ってきてよかったと思う。ここに来るまでに、忘れられない事があって、それを乗り越えるために、この町のいろんな人が俺を支えてくれて。真白ちゃんみたいな美人で可愛い性格の女性とも出会えたわけだし」

「可愛い性格って言うなぁ」

「あはは、ホントに人の出会いって意味では最高に俺にとっていい場所だよ」

 

 最初は絶望しかなかった。

 美浜町に戻ってきて俺は心の傷を癒し、立ち直ることができた。

 気心しれた大事な仲間達がいて――。

 俺を先生と呼んで慕ってくれる生徒達がいて――。

 誰よりも愛しい大切な女の子がいて――。

 これ以上はないくらいに満たされた日々を過ごせるのは、あの町に戻ってきたおかげだ。

 

「さぁて、そろそろ出発しますか。目的地の温泉旅館はなんと部屋に温泉がついてる。混浴だよ、混浴……楽しみだなぁ」

「露骨にエッチなのはやめなさい。顔がにやけてるっ!」

「まぁ、それが俺のキャラだから仕方ない。真白ちゃん、覚悟はしておいてね」

「……ホントにもうっ。こいつ、嫌な奴」

 

 恥ずかしがってるだけで、嫌そうにしてないって事はOKってことだ。

 混浴温泉は真白ちゃんとの夜の楽しみにしておこう。

 バイクのエンジンをふかしながら、俺はヘルメットをかぶる。

 

「あと1時間ほどのドライブを楽しもう」

「だねぇ。全力で飛ばすからついてきて」

「そのバイクで全力で飛ばされたら、俺は絶対について行けないってば」

 

 真白ちゃんは俺に満面の笑みを浮かべながら、


「愛してるよ、朔也君。大好き」


 愛する妻ができました。

 恋愛下手なふたりが歩むのは、自分達に合わせた不器用な恋の道。

 これからも喧嘩したりするだろうけど、俺はこの子を手放す気はない。 

 夏の眩しい太陽の下を2台のバイクが爽快に山道を走りぬけていった。

 新しい恋を成就させ、俺は今、新しい幸せを手に入れたのだ――。

 

【 THE END 】

 

学園ルート、完結編です。次回は星野家編です。星野茉莉の姉妹たちと関わって行くお話になります。

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