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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第1部:再会と蒼い海 〈ファーストシーズン・帰郷編〉
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第5章:部活の顧問《断章1》

【SIDE:鳴海朔也】


 新学期が始まってから数日、俺も初授業を何とかこなしていた。

 授業をするにあたって授業計画ってのがあって、大体ここまで一時間で教えるという流れがあるのだ。

 授業の範囲を考えたり、時間配分とかも調整したりとこれが授業を考える上で、慣れない序盤では一番難しく悩む所でもあった。

 雑談等でこの計画通りに授業が進まない事もあるしな。

 それでも、これは慣れていくしかないだろう。

 教師なんてものは慣れだ、慣れしかない。

 俺は気持ちを切り替えて毎日を忙しく過ごしていた。

 

「……鳴海先生。ちょっといいかしら?」

 

 ある日の放課後、村瀬先生が俺に声をかけてくる。

 担任でもある彼女と副担任である俺は話す機会も多い。

 

「入学式の時に言ったわよね、ひとりだけ問題になりそうな子がいるって」

「それが何か?俺の授業には出ているようですが……」

「……出てないのよ、私の授業だけにはね」

 

 彼女は頭を抱えながら軽くため息をつく。

 問題があると言う生徒の名前は黒崎千津(くろさき ちづ)。

 入学してから早5日が過ぎて、授業も本格的に始まった。

 彼女は入学式を休み、オリエンテーリングも休んだ。

 だが、授業には来ており、俺の方の授業には問題なく出ていた。

 一見すると、真面目そうな女の子で、どこもサボるようには見えないのだが。

 

「……またボイコットされたの。授業を2回も!昨日も、今日も休んだのよ?」

「ですが、今日の4時間目の俺の国語の時間にはいましたけど?」

「5時間目の私の授業にはいなかったという事は昼休憩に帰ったということ? 何なのかしら……? これ、不登校の類?」

 

 さっそくこんな風に休まれるとは思っていなかったのだろう。

 予想以上にへこんでいる様子の村瀬先生。

 

「まだ不登校気味だと決めつけるの早いのでは?学校をサボる生徒と言うのは珍しい事ではないでしょう?」

 

 中学と違い、高校ぐらいになれば授業をサボったりする生徒も珍しくない。

 それが義務教育の違い、と勘違いしている子が多い。

 

「それが珍しいのよ。この学校では都会の高校みたいに町に遊びいける場所もないから、ほとんどサボるような子はいないの。だから、これまではこういう問題も中々なかったんだけど」

 

 なるほど、それは一理あるな。

 都会のように誘惑もない以上、サボり癖は個人の問題というわけだ。

 

「学校に来たくない理由があるのでしょうか?」

「まだ様子見だけど、来週も続くようなら私も担任として動かないと。説教とかあんまり苦手なんだけどね。そういうのは自分が嫌いだから」

 

 村瀬先生にとっては黒崎の事が悩みの種になり始めているようだ。

 問題が大きくならないように祈るしかない。

 

「……鳴海先生の授業には出ているのよね?」

「はい、一応は。俺の方から声をかけて見ましょうか?」

「うーん。まだ動かないで。私も判断つけるには早い気がするの。こちらが勝手に変なプレッシャーと言うか、目をつけられてる的な印象を抱かせるのは嫌だもの」

 

 黒崎千津か……。

 優秀な生徒だと聞いているが、授業をサボるなど入学早々、少し問題がありそうだ。

 これ以上、問題が大きくならない事を祈りたい。

 

「あっ、鳴海先生。これとは別件なんだけど、見回り当番の話は聞いてる?」

「はい。放課後の校舎内の鍵の確認ですよね」

「そうそう。今日からしばらく、慣れてもらうために鳴海先生にしてもらいたいの」

 

 ……これって、押し付けられている?

 と、言葉に出す事も出来ず、それが新人というものだ。

 まだまだ仕事も覚えていないひよっこが文句を一人前に言うには早すぎる。

 

「分かりました。鍵はこれを使えばいいんですか」

「えぇ。と言っても、気にして欲しいのは玄関付近と屋上付近だけなんだけどね。まだ残っている生徒もいるから確認だけをしておいて」

「はい。それじゃ、行ってきます」 


 俺は鍵の束を持ちながら、見回りをする事にした。

 

 

 

 

 放課後の校舎は意外と静かだった。

 まだ部活が本格的に一年生を加えて始まっていない事もあり、放課後はワリと静かだ。

 村瀬先生いわく、来週には部活の勧誘が始まるので賑やかになるそうだけど。

 窓際やトイレの窓など確認して、閉め忘れがないかを見ていく。

 

「屋上のカギは……あれ? 誰かいるのか?」

 

 俺は屋上まで来るとドアが開いている事に気づく。

 この学校の屋上は生徒は出入りが自由なので、閉じ込めてしまっては悪いので確認しなくてはいけないのだ。

 俺は屋上へと踏み込むとそこには夕日に照らされるように人影があった。

 長い髪の少女の影、俺はその顔に見覚えがあった。

 

「あの子は、確か……?」

 

 名前は望月要もちづき かなめ

 天文部の部活をしている女の子だ。

 春休み中に一度だけ会ったの思い出した。

 今日はひとりなのか、屋上でポツンとフェンスに持たれている。

 

「……寂しそうに見えるのは気のせいか?」

 

 何かあったのだろうか。

 俺はどの道、鍵を閉めなくてはいけないので彼女に話しかける。

 

「望月、だったよな? こんな場所で何を黄昏れているんだ?」

「え?あっ……新しく入った先生でしたよね、えっと、名前は……」

「鳴海朔也。顔は覚えてくれていたようだ」

「はい。この学校で若い先生は珍しいですから」

 

 彼女は俺がここに来た理由を察しているらしく「見回りですか」と、慌てて出ていく準備をしようとする。

「慌てなくてもいいよ。それよりも何かあったのか? こんな場所で?」

「……その、何と言えばいいのか……天文部がなくなりそうなんです」

 

 彼女はとても寂しそうにそう告げる。

 思えばこの子は会ってからずっと笑顔らしい笑顔は見ていないな。

 

「部活がなくなる?」

「さっき、職員室に呼ばれて、来週の部活の勧誘についての話を受けたんです」

「そう言えば来週から勧誘合戦が始まるって聞いたな」

「私達の天文部の顧問は去年に定年で退職されて、今年から顧問もいなくなってしまうんです。それに加えて今年はメンバーも3人しかいなくて、このままでは廃部になってしまうかもしれません」

 

 何でもこの学校の部活は5人いなければ部活ではなくなり、同好会扱いになってしまう。

 同好会では顧問は必要がないが、その分だけ予算がつかなかったり、ちゃんとした部室が与えられないなど、問題も多々あるそうだ。

 

「天文部はどうしてもお金がかかりますから、学校からの部費って大事なんです」

「前に会った時も望遠鏡を買ってたな」

「あれは去年の部費で買いそろえたものです。高価なものですから……」

 

 部費の問題だけではなく、部室も追い出されるとなると天文部のような特殊な部活は問題が大きいだろう。

 

「さすがにすぐに廃部というわけではないんですけど。少なくとも、顧問の先生は見つけておかないといけなくて。困っていたんです」

 

 様々な申請や管理等、部活を見張る責任者は必要である。

 部活か、俺は高校時代は帰宅部だったからな……よく分からん。

 

「新しい部員は来週に探し集める事で集まるかもしれません。でも、顧問になってくれる先生を探すのはもっと難しくて、どうすればいいのか」

 

 ただでさえ、この学校は教師の数もそれほど多くない。

 既に部活を受け持つ先生も多い中で、掛け持ちなどで新規に見つけるのは難しいだろう。

 

「なるほどなぁ。望月は天文部の部長なのか?」

 

「え? あ、はい……今年からはそうなりました。元々、人数も少なくて、先輩も3年生だった人が卒業していなくなり、今では同学年の3人だけです」

 

 普通の部活なら3年生の生徒がいたりして部長を務めるのだが、先輩がいないために2年生の望月が部長をする事になったらしい。

 

「天文部ってどういう部活をするんだ?」

「主に星の観察&観測ですね。流れ星を見たり、星の動きをみたり……長期休みだとキャンプみたいな事をして、夜中に観察したりもします」

「望月は星が好きなのか?」

「はいっ。私、小さな頃から星が大好きなんです。星とか宇宙とかに興味があるんですよ。綺麗な星の一つ一つを眺めるのも楽しいですし、天の川のような壮大な宇宙の素晴らしさをこの目で見る事もすごく感動するんです」

 

 それまで物静かだった彼女が星の話になると雄弁に語りだす。

 

「去年は流星群が夏場に見る機会があったんですけど、すっごく綺麗でした。幻想的と言うのはああいう光景の事を言うのだと思いました。流れ星ってすぐに消えてしまうんですけど、もうその刹那的な星の輝きが……あぅ」

 

 彼女はいきなり黙り込むと顔を真っ赤にさせる。

 

「す、すみません、いきなり語りだしてしまって……」

「いや、いいさ。それだけ何か好きな事があるって素晴らしい事だと思う。趣味とか好きなモノがあって、それを部活として打ち込めるのはいいことだ。大切な今と言う時間を過ごす、青春時代を満喫するのは良い事だと思う」

 

 むしろ、驚いたと言うのは俺の本音だ。

 大人しそうな性格だが、星の事となるとこんなにも明るく振る舞えるのだろう。

 本当に心の底から宇宙や星について興味があり、好奇心を抱いているに違いない。

 そう思うと、彼女達の天文部を廃部にさせるには可哀想だ。

 だからと言って、俺に廃部撤回の名案が浮かぶわけもない。

 

「……あ、あの、鳴海先生は部活の顧問はしてますか?」

「俺? まったく、してないよ。高校時代、部活していなかったからよく分からないからね」

 

 教頭からは部活の顧問はしてもしなくてもいいものだと聞かされている。

 できればしなさい。

 という無言のプレッシャーを与えられてはいるけども。

 

「あ、あの、鳴海先生。無理を承知で言います。私達、天文部の顧問になってもらえませんか?」

 

 夕焼けに染まりながら望月は真剣な顔で俺に言葉を告げる。

 俺に天文部の顧問になって欲しいだって……?

 

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