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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第7部:愛の証明 〈学園編・村瀬真白END〉
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第4章:複雑な乙女心《断章1》

【SIDE:鳴海朔也】


 人を愛するって事とちゃんと向き合ってこなかった。

 そんな過去を持つ俺が、今になって本当の恋をしようとしている。

 以前から気になっていた真白ちゃんと付き合い始めることになった。

 同じ学校の教師であり、先輩であり、友人であった彼女と付き合い始めた事は俺にとってどのような変化をもたらすのか。

 真面目な恋愛をして、人を愛する気持ちと向き合ってみたくなった。

 俺は変わりたいと思ったんだ。

 

 

 

 

「……どう?朔也君。これで大丈夫?」

「ありがとう。助かったよ、真白ちゃん」

 

 俺の額に絆創膏を貼りながら、治療してくれる。

 放課後の保健室、俺は真白ちゃんに傷の手当てをしてもらっていた。

 

「赤くなってるね。大した事はないと思うけど。痛かった?」

「油断していたからね、正直、かなり痛かった」

 

 先程、俺にある悲劇がおきたのだ。

 運動場を歩いていた俺にサッカー部のサッカーボールが飛んできて顔面直撃。

 サッカーボールって意外と硬いので当たると非常に痛い。

 保険医の先生は既に帰ってしまったようで、近くを通りがかった彼女が手当してくれたのだった。

 

「生徒に怒らなかったの?」

「……よけられなかった自分が悪いから、生徒は責められないな」

 

 考え事をしていたので、ボールの存在に寸前まで気付けなかった。

 普通ならよけられるのに、よけられなかった恥ずかしさもある。

 

「朔也君は優しいんだね?」

「俺は生徒思いの良い先生なんだ」

「ふふっ。自分で言ってるし」

 

 治療を終えて職員室に戻ることにした。

 放課後の学校は落ち着いてのんびりとしている。

 

「……もうすぐ夏だね。真白ちゃん、夏休みにどこか行かない?」

「生徒みたいな事を言うけど、先生にお休みはないんだよ?」

「ですよねぇ。現実って世知辛い。そうだ、一緒の時期に休暇とって旅行にでも行かない? そうしようよ」

「いいなぁ。旅行なら私も行きたい」

 

 俺の提案に彼女も嬉しそうに笑う。

 恋人同士になって距離がすごく近づいた。

 些細なことでもいい。

 もっとお互いの事を分かりあえたらいい。

 

「……そうだ。話は変わるんだけど、日曜日に私の家に来てくれないかな。両親が会いたがってるんだ。朔也君と付き合ってる話をしたら、自分達もお話をしたいって」

 

 真白ちゃんの父親と言えば、この学校の校長先生である。

 そう言えば、以前に校長先生からは彼女との交際に関してのクギを刺されていた。

 

「えっと、反対されるとか?」

「ううん、全然、むしろ歓迎されてる方じゃない? お父さんも朔也君の事を気に入ってるから問題はないよ。単純にお食事でもして話をしたいんだって。ダメかな?」

「そう言うことならいいよ」

 

 今後の事も考えれば挨拶もしておくべきだろう。

 少し緊張はするが、そのうちに慣れていくと思う。

 

「うわぁ、綺麗」

 

 俺達は窓辺から差し込む夕焼けを見た。

 

「真白ちゃんは夕焼けが好きだったよね」

「……うん。大好き、見てると心も落ち着くし和むじゃない」

 

 真っ赤な夕日を眺めながら、2人っきりの時間を楽しんだ。

 

 

 

 

 日曜日のお昼時、俺は真白ちゃんの家を訪れていた。

 昼食を一緒に食べながら談話を楽しむ。

 彼女の両親に交際の事実を告げると良好な反応を見せてくれた。

 

「鳴海さんが真白と付き合うなんて。いいことじゃない。真白も以前から気になっていたようだもの。これからもよろしくお願いしますね、鳴海さん」

「……ふたりの交際を反対する気はないが、節度のある交際をだな」

「お父さん。私はもう子供じゃないんだから、そーいう発言はされてもね」

 

 校長先生としては娘である彼女がどういう相手と付き合うのかは気になるんだろう。

 以前にもそんな事を言われてたからな。

 

「特に鳴海先生には色々と女性の噂が多い。その辺も気にしているよ」

「……気をつけます」

 

 うぐっ、痛い所をつかれてしまった。

 けれど、真白ちゃんは笑って話を流す。

 

「いいじゃない、噂くらい。それだけ皆から興味も人気もあるってことだもの。他人から魅力のない人より良いと私は思うわ」

 

 こういう真白ちゃんの寛容さがある所は好きだ。

 噂されて変な誤解をされるのは嫌だからな。

 しばらくして、和やかな食事会も終わり、俺は真白ちゃんとふたりになった。

 ソファーに座りながら、俺の肩にもたれるように彼女は甘えてくる。

 

「いいご両親だよなぁ。真白ちゃんも大好きだろ」

「何かそれを認めるのは恥ずかしいんだけど。ほら、私は親にとっては初めて生まれた女の子だから、小さい頃から可愛がってもらっていたの。ただ、私のバイク趣味にはあんまり好意的ではないのがねぇ。そういう朔也君はどうなの?」

「ん? 両親と仲が良いかってこと?」

 

 男にとっての親はあんまり仲が良くなかったりする。

 だが、うちの親父は厳しくはない。

 

「何て言うか、悪友に近い感じ。言いたい事も言えるし。適度にいい関係だよ」

 

 何よりも、俺の好きなようにさせてくれている。

 教師になる事も、この町に戻る事も。

 この町に戻るのは文句こそ言われたが、大した反対はなかったからな。

 

「今度は朔也君の両親に会いたいな」

「そう言う事なら今年の夏はこっちに両親でも招待するか」

「あははっ。いいね、私もお出迎えの対応をするよ」

 

 久々にたまには美浜町に来たいという事を母が言ってたのを思い出した。

 いい機会だし、真白ちゃんを親に紹介するのも良いだろう。

 

「今年の夏は旅行だけじゃなくて、忙しい夏になりそうだ」

「……夏には面倒くさい研修もあるけどね」

「先生は大変です」

 

 夏休み、教師も生徒同様に楽しいだけならいいのだが。

 教師生活も楽ではない。

 

「……さっきの話だけど、朔也君は女の子の噂が絶えないよね。たくさんの女の子との関係とか、噂とか町でもたまに聞くもの。いつも連れている女の子が違うとか。女友達が多いのは事実なんでしょ?」

「まぁ、適度には。深い関係の相手はいないけど」

 

 良いお友達程度の付き合いの女性が多いのは本当だ。

 

「……噂が流されまくる彼氏にホントはちょっとだけ心配だったり」

「俺は真白ちゃん一筋ですよ、ホントだよ?」

「だといいんだけど。気にしないようにしてるけど、気になるのも乙女心なの」

「ご心配をおかけします」

 

 真白ちゃんを抱きしめながら、俺は彼女の不安を打ち消そうと笑顔を見せた。

 人の噂に翻弄されること。

 まさか、俺達にあんな事件が待ち受けていたなんて――。

 

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