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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第7部:愛の証明 〈学園編・村瀬真白END〉
148/232

第3章:恋と愛《断章3》

【SIDE:村瀬真白】


 また、私が酔っ払ってある事をしでかした。

 今回はいつもよりもひどい、片思いの相手に絡んでキスをしたの。

 頬とは言えキスをして、さらに告白までしている。

 記憶がない自分の行動。

 それゆえに、私は驚きと恥ずかしさと、嬉しさも実感したの。


「……私、鳴海君が好きなんだなぁ」


 無邪気に笑いながら彼にキスをしている自分の映像を思い出す。

 あんな事をしてしまったことに対して、恥ずかしさで胸がいっぱいになる。

 

『真白ちゃんは朔也ちゃんの事が好きなんだよ』

 

 あの言葉は偽ることのない自分の本音。

 普段なら勇気もなくて言えない言葉。

 だけど、考えれば考えるほどに分からないのは自分の気持ち。

 果たして、この想いはホントに私の気持ちなのかどうか。

 

「自分の気持ちに気付くのに、時間はたいしてかからなかったの。私はいつもそうだ。いつだって、好きになるのは他人が愛してる人。……でもね、今回だけはいつもと違う気がしていた。だって、私はもう少し前から彼を意識してた」

 

 鳴海君は私の告白を驚きの表情で聞いている。

 勇気を持って、彼を愛している事を告げることにした。

 この気持ちを、私の想いを知って欲しいから。

 





「村瀬さん……?」

 

 鳴海君に私は自分の悪い癖を話した。

 他人に愛されている人を好きになる。

 はっきり言えば、面倒くさい女だ。

 彼がこんな私を受け入れてくれるか分からない。

 でも、諦めきれないから私は覚悟を決めて言うんだ。

 

「私は自分で好きになったのか、それとも、やっぱりいつもと同じように人が愛していたから好きになったのか。この自分の気持ちが本物なのか分からないの」

 

 自分の気持ちに自信が持てない。

 散々、他人の恋愛相手に恋ばかりしてきたから。

 この気持ちが本当に自分のものなのか、分からないんだ。

 

「でもね、いつも私の頭の中には鳴海君の事が思い浮かぶんだ」

 

 それでも、私は鳴海君が好きだ。

 この気持ちだけは、誰かの気持ちのせいじゃないと信じたい。

 

「自分の気持ちすら分からないなんて、まともな恋愛をしてないせいだね。でも、鳴海君には聞いて欲しかったの。私が好きなのは、意識してるのは鳴海君なんだよ」

 

 彼を好きなこの気持ちは事実。

 愛しくて、愛しくて。

 ただ、遠くから見つめているだけでいい。

 今までの恋愛とは違う。

 告白をして、ちゃんと自分の恋人になってもらいたいと思った。

 

「……いつからですか?」

「ほら、前に鳴海君が結衣先輩にフラれて弱った時があったじゃない」

「泥酔してしまった日の事ですね」

「あの時くらいから私は自分の中にある想いに気付いた。前から気になってたけど、鳴海君に愛されたいって思えたんだ」

 

 これまでの私の恋愛は他人から見れば略奪愛と揶揄されても仕方のない。

 叶わなかった初恋から続く、屈折している想いの連続だった。

 今回だけはいつもとは違い、自分で決めた恋心。

 今の気持ちは私だけのものなんだって……信じたいの。

 

「……」

 

 鳴海君は何も言わずに私の瞳を見つめてくる。

 ……ダメなのかな。

 幻滅とかされちゃってるのかな。

 考えれば考えるほどのこの沈黙が辛い。

 嫌な想像しかできないでいると、やがて彼は私の手をそっと握る。

 

「嬉しいですよ、その気持ち。村瀬さんが悩む気持ちも分かります。俺も自分の事を恋愛が下手だと思ってますから。正しい恋愛がどういうものか分かっていない。分からないから、悩んでばかりいるんです」

「鳴海君……」

「以前に話した通り、俺はまともな恋愛をしてきていません。恋愛よりも性欲ばかりを求めたりしてきた。けれど、こんな俺だけど、ここ最近は気になる人がいたんです。その人は俺よりも少しだけ年上の先輩で、酔うとすごく可愛くなる人でした」

 

 その相手が誰なのか、私は理解する。

 込み上げてくるのは嬉しさ。

 私の身体を彼はゆっくりと抱きしめながら囁く。

 

「恋愛に不慣れな者同士、本当の恋愛って奴を一緒に見つけてみませんか?」

「……私でもいいの?」

「俺は本当の恋を知りたいと思うんです。その相手になって欲しい」

 

 笑顔を見せる彼に私は頷いて答える。

 

「ありがとう。嬉しい……すごく嬉しいよ、鳴海君」

 

 まともな恋愛をしてきていない者同士。

 だからこそ、今度こそはちゃんとした恋愛をしてみたい。

 私は鳴海君との交際で、自分を変えていきたいと思ったんだ。

 

「昨日、告白された時にドキッとしました。嬉しかったんですよ」

「酔った勢いだったんでしょう。普段の私じゃ絶対に言えないもの。自分を制御できなくなるからお酒って怖い」

「……真白ちゃんか。そうだ、恋人になるのなら、真白ちゃんって呼んでもいいですか」

 

 思わぬ彼の提案に言葉を詰まらせる。

 真白ちゃんなんて子供の頃に呼ばれて以来だ。

 

「ま、真白ちゃん? 私の方が年上なのに」

「そもそも、3ヵ月程度しか誕生日も違わないんだから、いいよね?」

 

 いきなり口調をくだいて話しかけられる。

 これまで互いにあった年の差の意識を無くす。

 親しみやすくなるためにはいい事なのかもしれない。

 実際にはさほど離れていないし、私も今さら気にしていない。

 今の私達に必要なのはお互いの距離感を近付けることだもの。

 

「分かったわ。お好きにどうぞ、朔也ちゃん」

「それはやめて欲しいんだけど。男にちゃん付けはいらないって」

「えー。自分が言われたら嫌なんだ?」

 

 それ以外の理由があるような気もした。

 過去の恋人の誰かにそう呼ばれていたのかもしれない。

 妥当な所で、朔也君と呼ぶことにした。

 

「朔也君。なんか照れくさい気持ちにならない?」

「真白ちゃんが照れてる姿が可愛い」

「やめてよ、恥ずかしいから」

 

 もちろん、彼に名前を呼ばれるのは嫌いじゃない。

 自然に慣れるなるまでは大変そうだ。

 

「そう言えば、真白ちゃんって、どうして酔う時に自分でそう呼んでたんだ?」

「……小さな頃は一人称をそう呼んでいた時期があったのよ」

「そうだったんだ。真白ちゃんって、可愛い名前だよな」

 

 私の生まれた日は3月の春の季節。

 その日は珍しく真っ白な雪が降っていたらしくて、真白という名前を付けたそうだ。

 私達はお互いに見つめ合うと、どちらからともなくキスをかわす。

 愛しさが溢れていく、この胸の高鳴りが止まらない。

 不器用な恋ばかりしてきた私たちは、ようやく“恋愛”を始めたんだ――。

 

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