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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第7部:愛の証明 〈学園編・村瀬真白END〉
147/232

第3章:恋と愛《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 昨日の真白ちゃん事件から一夜が過ぎた。

 朝から俺はどうにも落ち着かずにいた。

 村瀬さんは何の話をしたいのだろう?

 

「……分らないなぁ。俺に相談とか?」

 

 そもそも、昨夜の飲み会の時にも、どうやら、悩みがあった様子。

 真白ちゃん化していなければ、その事を話すつもりだったのかもしれない。

 

「それにしても、村瀬さんって……可愛いよな」

 

 これを本人言うとしょげてしまうんだろうけども。

 見た目は美人で綺麗なお人だが、内面的な可愛さがある。

 

「真白ちゃんって普通に呼んだら怒られるだろうか」

 

 なんて事を考えながら待っているとインターホンが鳴った。

 相手は村瀬さんで、緊張した面持ちで俺に挨拶する。

 

「……おはよう、鳴海君」

「おはようございます。二日酔いは大丈夫ですか?」

「ていうか、昨日の失態を映像で見て酔いなんてさめてたし」

「あはは……」

 

 笑って誤魔化しておいてあげよう。

 家の中へ入ってもらうことにした。

 彼女は俺に話があるって言っていたけど、何の話だろう。

 

「……昨日、言おうと思ったことなんだけどね」

「えぇ、何か相談でもありました」 

「相談とかじゃないんだ。えっと、鳴海君って、どういう風に恋愛をしたりする?」

 

 数日前に見た悪夢。

 あの時の話の続きだろうか。

 

「どういう風にって、例えば一目惚れとかそういうことですよね?」

「うん。鳴海君はどういうシチュで相手を好きになったりするの?」

「その時によりますよ。合コンだったり、友達の紹介だったり。まぁ、自分で言っちゃうと嫌味っぽく聞こえるでしょうが、俺は自分から告白するって事はあんまりないですね。大抵は向こうから告白される事が多いです」

「……へぇ、鳴海君って本当にモテるんだ」

 

 それゆえに、散々な恋愛を繰り返してきたわけだ。

 告白されたら、相手を気に入れば付き合う。

 俺の恋愛はそういう意味では恋愛に対しては受け身的な所がある。

 

「自分から人を好きになった事はないの?」

「……一度だけ。その相手が最後の恋人です」

「今でもその子の事が忘れられない?」

「自分にとっては大切で忘れたくない相手ですけども、もうふっきってはいますよ。彼女との恋は終わっていますから」

 

 長い時間がかかったが、俺はようやく千歳を振り切れた。

 だから、今は新しい恋をしているのだ。

 村瀬さんは「そっか」と小さく頷いて安堵した様子を見せる。

 

「村瀬さんはどうなんですか?どういう恋愛をしています?」

「恥ずかしいけども、知ってもらいたいから話すよ。私は人が好きになった男を好きになる、悪い癖があるんだ」

「前に、皆に愛されるような人を好きになるって言ってましたよね?」

「うん。厳密に言うと、それって彼女がいる男の子を好きになるって意味なの」

 

 思いもよらない告白だった。

 世の中には恋人がいる人ばかり好きになってしまう人もいる。

 それは分かるが……村瀬さんがそっちのタイプだったとは。

 

「つまり、奪略愛が好みだと?」

「違うの。そう誤解されるかもしれないけども違う。私は奪った経験はないし、そんな勇気もないけども。私は誰かを愛する人を見てるのが好きで、私もそんな風に好かれたいって思ったりして……」

 

 他人の彼氏が好きになる。

 それは、何と言えばいいのか分からないけども、辛い片思いがお好きらしい。

 

「片思いですよね、辛くはないんですか?」

 

 彼女はどこか気恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「辛いけど、楽しい方が勝ってるの。バカな話でしょ。相手は私じゃなくて彼女の子を愛しているのに。その姿を見てると私も幸せな気持ちになったりする。そのうちに、私も相手の男の子を好きになったりして」

「相手を奪って、修羅場になるんですね。分かります」

「全然、分かってないよ!? だから、違うんだってば」

 

 ここでからかうのは失礼だな。

 

「……どうして、そんな恋愛をするようになったんですか?」

 

 物事には大抵、理由やきっかけがあるはずだ。

 最初のきっかけは何だったのか、俺は気になる。

 

「私の初恋の相手って小学生の時なんだけどさ。結衣先輩を好きな男の子だったの。私がいくら彼の事を好きでも、彼は結衣先輩だけを見ていて。初めて好きになった人が、自分じゃない誰かを好きだって知った日は泣いたっけな」

「……結衣さんって男にモテたんですねぇ」

「ブラコン癖があるから付き合っても、破局も早いけどね。でも、見た目はすごく綺麗だもの。雰囲気も良くて、接しやすいから同級生には人気が高かったのよ」

 

 俺も噂程度には聞いた事があった。

 年上のクラスにかなり人気の美少女がいるって話は子供の頃に聞いた覚えがある。

 それが結衣さんだったとしたら、納得できる話だ。

 

「それがきっかけで?」

「多分ね。それからはずっと、結衣先輩や美帆さん、友達の恋人とか、好きになっていた気がするな。カッコよかったり、優しかったり。皆は彼氏にどこか惹かれる魅力があるから、好きになるわけでしょう。だから、私は……」

「そんな彼らを好きになった?」

 

 頷いた彼女の横顔はどこか寂しそうにも見えた。

 何となく事情は分った。

 村瀬さんがそんな恋愛をしてきたなんて思わなかった。

 

「前に雫さんに相談したら、それは私に自信がないせいだって言われたの。自分の判断に自信がないから、他人の女が付き合う男を好きになるんだって」

「……なるほど。安心感って言うのは分かります」

 

 恋人にする相手を信頼できるのかっていうのは大きな問題でもある。

 下手に変な子を好きになっても、面倒なだけだからな。

 

「だから、今回も最初のきっかけは同じだったの。結衣先輩と仲良くしている男の人がいて、その人を見ていたら私もだんだんと惹かれていて。彼はいつも周囲の皆に愛される素敵な人なんだ」

 

 彼女には好きな人がいる。

 その事実に俺はどう反応すればいいんだ?

 

「相手の事が好きなんですか?」

「うん。自分の気持ちに気付くのに、時間はたいしてかからなかったの。私はいつもそうだ。いつだって、好きになるのは他人が愛してる人。……でもね、今回だけはいつもと違う気がしていた。だって、私はもう少し前から彼を意識してた」

「村瀬さん……?」

「だからこそ、迷うんだ。この気持ちは、私のものなのかな。私は自分で好きになったのか、それとも、やっぱりいつもと同じように人が愛していたから好きになったのか。この自分の気持ちが本物なのか分からないの」

 

 不安を口にする彼女が俺の方を向いて言うんだ。

 

「自分の気持ちすら分からないなんて、まともな恋愛をしてないせいだ。だけど、鳴海君には聞いて欲しかったの。私が好きなのは、意識してるのは……鳴海君なんだよ?」

 

 村瀬さんの告白が、俺の心に衝撃を与えるのだった――。

 

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