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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第7部:愛の証明 〈学園編・村瀬真白END〉
142/232

第1章:恋愛観《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


「そうわけで、今日は夏合宿の話をしたいのだが」

 

 放課後になり、天文部の部活に出ると、茉莉しかいない。

 

「……茉莉オンリーとはどういうことだ」

「今日はセンセーとふたりっきり」

「ええいっ、近寄るな。で、他の子達は?」

「ふふふっ。私のプラン通りに動いてくれているはず」

 

 俺にじゃれてくる茉莉を適当に相手しながら尋ねる。

 

「プラン? 何の話だ? 夏合宿の計画を立てておきたいんだけどさ」

「センセーが私に頼んだんじゃない。もっちー部長とやひろんの仲を進展させてって。私、頑張りました。センセーのちゅーのために!」

「……は? プランってあっちかよ。桃花ちゃんと千津はあちらに?」

「うん。今日はねぇ、実はやひろんともっちー部長にはデートをしてもらってます」

 

 確かにその件は茉莉に任せたが、行動が早いな。

 どんなプランか知らないが、うまくいくのだろうか。

 

「それはいいが部活のない日にしてくれよ」

「ダメだよ。だって、合宿の準備を名目にふたりっきりにさせる作戦なんだから。私の作戦は完璧だよ。今頃はふたりでお買い物の途中のはず。縮まる距離、お互いを意識し合えばあとは流れに任せて……」

 

 そんなに簡単にうまくいくものなのかね。

 確かに八尋には要は心は許しているであろう。

 だが、過去の騒動で男が苦手なのも事実。

 あっさりと結ばれるようには到底思えない。

 

「大丈夫。そのためのサポートにもも先輩とちー先輩がいるんだから。そろそろ、定時報告の時間のはず。恋愛の悩みは茉莉ちゃんにお任せあれ。私に任せてもらえれば、すべてうまくいって、センセーからチューしてもらうんだ」

 

 どこからそんな自信があるのやら。

 俺は茉莉しかいないので、勝手に計画を進めることにした。

 部室である教室に次の夏合宿の計画を黒板に書いて行く。

 

「あっ、ちー先輩から連絡がきた。はい、もしもし。んー、順調ですかぁ?」

 

 好きなようにしてくれ。

 だが、電話をしている茉莉はどこか慌てた様子を見せた。

 

「え? あ? え? ち、違いますよー。せ、責任者は鳴海センセーです」

 

 なんだ、何の話だ?

 事態が変わったようで、茉莉が戸惑い始める。

 

「センセー……電話を代わって欲しいって」

「誰が?」

「出れば分かると思う。ごめんなさい、失敗しちゃった」

 

 ……何やら俺も嫌な予感がする。

 俺が電話を代わると、相手は女性の声だった。

 

『……鳴海先生? これはどーいうことなのかしら』

「き、北沢先生ですか?」

 

 なぜに彼女が電話に出てるんだ?

 戸惑う俺に彼女は容赦のない言葉を放つ。

 

『ひどいよねぇ。私の事を裏切るなんて』

 

 低い声から察するに何やら機嫌が悪そうだ。

 

「いまいち事情がつかめません。何のお話でしょう?」

『今さっき、駅前のスーパーでうちの八尋と要さんがとても楽しそうに歩いてたの。気になって後をつけていたら、先生の所の部員さんがふたり、同じように尾行してたから捕まえて自白させたんだ。そうしたら、面白い計画があるそうじゃない』

 

 やばすぎる人に見つかったな、ふたりとも……。

 北沢先生もやることがひどい。

 桃花ちゃんと千津は現在、北沢先生に尋問を受けていたようだ。

 

「……ち、違うんだよっ。こんなはずじゃ」

 

 俺は目の前で逃げようとする茉莉の首根っこを片手で掴む。

 

「話が大体、見えてきました。その計画を指揮をしているのが俺だと?」

『話を聞けばあのふたりをくっつけるのが目的らしいわねぇ。どういうことか説明してもらえる?そうじゃないと鳴海先生の事を許せそうにないなぁ。せっかく仲良くしようと優しくしてあげたのに。私を裏切るのかしら?』

 

 やべぇ、相手は大層なお怒りのご様子。

 俺が関わっていないのに、とばっちりを受けてるではないか。

 まずい、このままでは俺が再び彼女に嫌われてしまう。

 

「お待ちください、北沢先生。どうやら誤解しているようだが、その件には俺は無関係です。主犯は星野茉莉。彼女が勝手にいろいろと企んでいたようです。俺ではありません!」

「ひどいっ。先生の頼みだったのに。むぐっ」

 

 俺は捕まえた茉莉の口をふさいでおく。

 また彼女に嫌われる事になることは避けなくてはいけない。

 

『責任逃れ? 生徒に罪を押し付けると?』

「本当です。何ならその二人に聞いてもいい。俺は無実です。約束は守る男ですよ?」

『……ふーん。それならいいんだけど。そこにいる茉莉さんに言っておいてもらえるからな? 余計な事をすると、いろんな意味で危ないよって』

 

 怖い脅しが来た!?

 威圧的な物言いの彼女はさらに容赦なく言うのだ。

 

『今からそっちに行くから。彼女がいるのなら受け渡しをしてくれる?』

 

 北沢先生に逆らえる事もなく、俺は「はい」と頷くしかなかった。

 ……数十分後、にこやかな笑顔を浮かべる彼女に茉莉は連れて行かれた。

 

「このあと、雫に会う予定があるの。一緒に来るよね、茉莉さん?」

「――お、お姉ちゃんも!? いーやー。連れて行かないでー」

「うふふっ。楽しいことになりそうだわ」

「し、雫お姉ちゃんだけはマジで勘弁して、にゃー! センセー、助けてー」

 

 引きずられていく茉莉を俺はただ見ていることしかできない。

 くっ、なんてことだ。


「……茉莉は犠牲になったのだ」


 誰もいなくなった部屋で俺は呟く。

 

「恋愛って難しいね」

 

 恋をするのも、応援するのも命がけだぜ。

 その日、結局、茉莉は帰ってこなかった……合掌。 

 


 

 

 それから入れ違いになるように八尋と要が戻ってきた。

 仲よさそうに笑い合っている姿が印象的だ。

 

「遅くなってすみません。合宿のために消耗品を買ってきました」

「ご苦労さん。なんだ、何かいい事でもあったのか? ふたりとも楽しそうだな」

 

 笑顔の彼らに俺はそう告げると、どちらも顔を赤らめながら、

 

「べ、別になんでもないですよ?」

「そういう風に見えましたか、先生?」

「……見えたから言ったんだけどな」

 

 何て言うか2人の雰囲気が恋人のそれに近い。

 これはもう、俺達が何とかしなくてもくっつくのでは?

 茉莉の恋愛計画は予想以上の効果があったらしい。

 彼女の犠牲は無駄ではなかったんだな。

 

「おっ、桃花ちゃん達が帰ってきた」

 

 教室に帰ってきた桃花ちゃんと千津は何やらぐったりした様子を見せる。

 

「……どーした、ふたりとも。怖いお姉さんにでもあったような顔をして」

「はぁ……なんでもないよ、うん、何でもないです。大人しくてます」

「人の恋路に協力したら、お姉さんに怒られちゃうんだよ。お兄ちゃん」

 

 邪魔したら馬に蹴られて、協力したらお姉さんに叱られるとは……。

 

「あれ? 鳴海先生、茉莉さんはどうしたんですか?」

 

 茉莉がいないのに気づいた八尋が俺に尋ねる。

 俺は遠い目をして言ってやるのだ。

 

「今と言う時間を大切にしなさい」

「は?」

「その時間を作ってくれた彼女は犠牲になったのだ」

 

 事情を知らない要と八尋は不思議な顔をするのだった。

 ……青春に犠牲はつきものなんだぜ。

 

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