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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第7部:愛の証明 〈学園編・村瀬真白END〉
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第1章:恋愛観《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 学校に出勤しても気分は変わらずブルーだった。

 これは今日1日、引きずるかもなぁ。

 職員会議と朝のHRも終わり、まもなく一時間目の授業が始まる。

 授業のある先生方が職員室を出ていくのを見ていた。

 

「鳴海先生は1時間目はないの?」

「今日はありません。2時間目からですね」

 

 隣の席に座る村瀬先生が話しかけてくる。

 

「そっか。私と同じだ。今日は何だか元気ない?」

「ですねぇ。ちょっと嫌な夢を見たもので」

「夢? どういう夢を見たの?」

 

 興味ありげに村瀬先生は尋ねてくる。

 どういう夢だったのか。

 思い出すのも嫌な夢だった。

 

「昔の自分の夢です。大学時代の頃の自分。俺が一番嫌いな時ですね」

「……自分が嫌いってそんな頃があったんだ」

「ありますよ。俺も人並みに生きてますから。そういう先生はありません?」

「んー。言われてみればあるけど。それが人生で一番嫌いという自分だったかどうかは分からないかなぁ。確かに嫌な自分ってあるよね」

 

 誰にだってあるものさ。

 黒歴史と呼べる嫌な頃の自分ってやつくらいは。

 

「……鳴海先生の昔っていつ頃?」

「俺が19、20歳くらいの頃でしょうか。あの当時、大学に入ったばかりの俺はそれはひどい男だったんです。自分で言うのもアレですが、女の敵ってやつですよ」

「鳴海先生が女の敵? 今と同じじゃない」


 ……ひどい。 


「モテる男の宿命ってやつですよ。何人もの女の子達から好かれていましたが、俺はその気持ちを弄んでしまったわけです」

 

 あえて、そういう言い方をしてみる。

 本当の話をしたら、ドン引きされるだろうからな。

 予想通り、村瀬先生は呆れた顔をする。

 

「ホント、最低だったんだねぇ」

「ですねぇ……そんな過去の自分を思い出して凹んでるんです」

「過去は変えられないからしょうがないよね。私も似たような経験があるよ」

 

 過去は変えられない、確かにその通りだ。

 だからこそ、今と言う一瞬を悔いのないように生きるしかない。

 

「鳴海先生って、そんなに女の子にモテていたの?」

「それなりに。常に女の子に困ることのない生活をしてました」

「……こいつ、嫌な奴。女の子に刺されちゃえばいいのに」

 

 あきれ果てて見捨てないでください。

 彼女の冷たい視線が心に突き刺さる。

 

「そんな嫌な奴だからこそ、俺は自分の過去が嫌いなんです」

「いろんな女の子に好かれて素晴らしい人生じゃないの?」

「そう思えたのは、本当の恋を知らない時まででした。本当の愛を知って俺は変わったんですよ。愛が俺を変えたのです!」

「愛が自分を変えたとか、堂々と言うと何かキモいねー」

 

 ひどっ!?

 村瀬先生らしい厳しい言葉に俺は肩をすくめる。

 

「ホントなんですけどね」

「……要約すると昔の嫌な自分を思い返して、憂鬱なんだ?」

「そうです。あの頃に傷つけた数多くの女の子達を思い出しては、胸が痛むんです」

「ふーん。何だか意外な感じ。今の先生とはイメージが全然違う」

 

 昔は不良少年だったが、今は更生したようなものだ。

 人はやり直せる、そういう意味では俺も立ち直らなければならない。

 

「ほら、元気出しなさい。頭を撫でてあげよう」

「お子様扱いされても……」

 

 俺の頭を撫でる村瀬先生は微笑を見せた。

 

「そんな過去を持つ、鳴海先生の理想な恋愛ってどんなのか気になる」

「……俺の恋愛観なんて単純なものですよ」

「どういうもの?」

 

 恋愛の価値観ってのは人それぞれ違う。

 恋愛相手にどのような理想を求めるのか。

 俺にとっての恋愛観。

 恋愛相手に求める恋愛の条件。

 

「ありきたりな幸せでもいい。隣にいて微笑んでくれて、安心感をくれる女性。それだけでいいですね。あとは可愛ければOKみたいな」

「……何か普通?」

 

 というよりも、千歳がそう言う女の子だったからだ。

 俺の傍で笑うだけでよかった。

 それだけで俺は心が和み、幸せになれたのだから。

 

「村瀬先生はどうなんです? やはりお金持ちのイケメンとかですか」

「いつ私がそういう男にめがくらんだの?」

「勝手なイメージです。好きになるような男はどういうタイプでしょう」

「私は皆から愛されてる人を好きになる。ほら、何て言う言うか、人から愛される人って信頼ができるじゃない?」

 

 信頼か、俺には縁遠い言葉ですなぁ。

 俺の人生では、嘘つき呼ばわりされる事も多くある。

 女の子にはぜひとも、信頼されたいものだ。

 

「それって、他人から愛されてる人が好きって意味ですか?つまり、彼女がいる男とか」

「……うぅ」

「え? もしかして、そういう系の男が?」

「ち、違うからね? 今の沈黙は呆れただけ。そんな横取りするような恋ばかりしてるわけじゃないの」

 

 略奪愛が大好きとか、イメージしてしまった。

 村瀬先生はそういう性格ではないが、世の中にはそう言う人もいる。

 彼女持ちの相手から奪うのが好きって、厄介なタイプの人もね。

 

「手には届かない人を好きになる」

「え?」

「……恋愛ってうまくいかないから、難しいよね」

 

 彼女が呟いた言葉にどれほどの意味があるのか。

 俺は分からないけども、一瞬だけ見せた村瀬先生の横顔は寂しそうに見えた。


「つまりは横恋慕と略奪愛に燃えていると」

「言ってません」

「浮気だけはやめておいた方がいいですよ。先生のイメージも悪くなります」

「しないから!?」


 冗談はさておき。 

 こんな風にお互いの恋愛観を語りあうのは新鮮だな。


「よーし、鳴海先生。今日は飲みに行くぞー」

「えー」

「なんで嫌そうなの? 私とお酒を飲むのは嫌なワケ?」

 

 女性から飲みに誘われるのは嬉しいが、真白ちゃん化されるのも面倒だ。

 

「村瀬先生とお酒なんて飲むと何をされてしまうのかドキドキします」

「な、何もしないってば……」

「冗談ですよ。そうやって気を使ってくれるのは嬉しいです。ぜひ、行きましょう。嫌な事はお酒を飲んで忘れる。大人の気持ちの切り替え方ですね」

 

 そんな話をまだ1時間目の朝からするのもどうかと思うけどな。

 

「人生いろいろとあるけど、頑張りなよ。鳴海先生」

「村瀬先生に励まされて元気が出ました。今日も一日、頑張ります」

「……うん」

 

 明るい彼女の笑顔に癒されて、俺は悪夢の事を振り切ることにした。

 人生は常に前向きに、だ。

 嫌な過去もあるけどさ、前を向いていればきっと良い未来が切り開けるはずだから。

 

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