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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第1部:再会と蒼い海 〈ファーストシーズン・帰郷編〉
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第4章:危険な女《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


 俺は仕事が終わってから斎藤の家を訪れる。

 斎藤は漁師なので明日の朝早くから仕事のために寝るのが早い。

 そのため、少ししか時間が取れなかったが、昨日の話を聞こうとしたのだ。

 

「昨日の事? あー、お前が酔い潰れたことか?」

「そうだ。その件に関して質問がある」

「送って行ったのは俺と相坂、それと君島もいたぞ」

 

 彼は特に疑問に思う事もなく答えてくれる。

 俺が思っている以上に変な展開ではなかったのか?

 

「いや、帰り際のことは実際、お前の様子を伺うどころじゃなくてな」

「どういう意味だ?」

「誰がお前の介抱をするかで揉めてたんだよ。相坂と君島。ふたりとも、自分が家まで送るときかなかった。鳴海ってモテるな。ふたりをどう思うよ?」

 

 からかう口調の斎藤だが俺は笑う事ができない。

 昨日の千沙子との事件が俺を追い詰めているのだ。

 

「……ノーコメントだ。それで最終的にはどうなった?」

「君島が家の中までお前を送った。こっちは酒が入って不機嫌な相坂を送るので精一杯だったんだ。君島もすぐに帰ったんじゃないか」

「そ、そうなのか。アイツにはまた礼を言っておくよ」

 

 そのまま帰らずに俺達は……ぬぎゃー。

 俺も大学時代は女の子遊びがそれなりにあった。

 だが、酔った勢いで相手を襲う展開はあっても襲われた展開はない。

 ……しかも、知り合い同士って最悪だ。

 後腐れあり過ぎて身動きとりにくい。

 ああいう関係は後腐れない者同士だからいいのに。

 

「君島と言えば、お前と昔からなぜか仲がよかったな。昔からだが、美女だし、お前もああいうタイプを恋人にすればいいんじゃないのか?」

「君島とはそー言う関係じゃないさ」

「お前の本命って誰だよ。ここは相坂を応援するべきか?」

 

 斎藤的には神奈を応援しているらしい。

 昔から神奈が俺に好意を抱いてる事には気づいていた。

 

「神奈も俺に好意を向けてくれているは知ってるが、妹みたいな感じだからな。女としてどうこうって言う気にはいまいちなれないんだよ」

「相手の気持ちを知って弄ぶとは人が悪い。都会は人間をダメにさせるのか?」

「失礼な事を言うな。俺も悪い意味で成長したんじゃない。とはいえ、昔の話だ。今、アイツが俺を思ってる確証はない」

 

 そうだ、あれから7年が過ぎてお互いに知らない事も多い。

 成長という意味では神奈も女として色っぽくなったと思う。

 

「妹みたいだ、幼馴染だっていうんじゃなくて、ひとりの女として相坂を見てやれよ?」

「ずいぶんと、神奈の応援してくるな」

「幼馴染だからさ。出来ればお前らがくっついて、幸せになって欲しいって勝手な願望だよ。鳴海が幸せになるのなら誰を選んでもかまわないけどさ」

 

 俺は「斎藤っていい奴だな」と褒めながら神奈の事を考える。

 成長したと言う意味では、俺も神奈に対する考えを変えなければいけないか。

 いつまでも昔のような意識ではいけないのだろう。

 

「考えておくよ。神奈もいい女に成長したからな」

「……このナンパ野郎め。俺はお前の師匠として一言、言わせてくれ」

「師匠と思ってはいないが、何だ?」

「東京でどれだけ遊んできたか知らないが、この町ではあんまり女を泣かせるなよ。こんな田舎じゃ噂も早い。下手すりゃお前の評価を下げることになる」

 

 俺は肩をすくめて「俺はそこまで軟派じゃないぞ」と否定しておく。

 心配してくれるのはありがたいが、女泣かせなどあまりしない。

 それに今の俺は恋愛という事においては少し臆病気味でもあるからな。

 

「そういや、もうひとり……君島とはどうなんだ?」

「別に……君島は俺なんて相手にしてないよ」

「そうか? 俺から見れば、昨日なんか積極的なアプローチに見えたが」

「気のせいだって。気のせいに違いない」

 

 俺は誤魔化すと、斎藤と別れて自宅に帰る事にする。

 夜道を歩いていると、月明かりがすごく綺麗だった。

 星もよく綺麗に見えて、東京とは違うのだと実感する。

 

「……ん?誰からだろう?」

 

 俺が家の玄関を開けて、家に入った時に携帯電話が鳴る。

 着信の名前を見ると『君島千沙子』と表示された。

 俺は今朝の事を思い出すが、無視もできずに電話に出た。

 

「千沙子か?」

『こんばんは、朔也クン。今、時間は大丈夫かな』

「仕事が終わって家に帰って来たところだ。そうだ、朝は後片付けしてくれてありがとう。綺麗に片付いていて、その、面倒をかけたな」

 

 俺は周囲を見渡す。

 昨日と違い、整理整頓されて綺麗に掃除されている。

 これもすべて千沙子がしてくれたのだろう。

 わざわざ掃除までしてくれるとは感謝の言葉しかない。

 

『うん。あの、朔也クン。私……言いたい事があって』

 

 今朝は言えなかったが、ちゃんと話をしなければいけない。

 本当なら直接会って話す所だが、どうにも顔を見合わせるのは恥ずかしさがある。

 俺は覚悟を決めて電話越しに彼女の言葉を待つ。

 

『――本当は昨日、何もなかったって言ったら怒るかしら?』

「……はい?」

 

 相手の思わぬ言葉に間抜けな言葉で返す。

 

『ごめんなさい。私も昨日は酔っていて、朔也クンを家まで送ったらそのまま寝てしまったみたいで……だから、その、昨日は……何もなかったの』

 

 彼女は恥ずかしそうに言葉を選びながら言う。

 

「本当に……?」

『うん。今朝起きて、私もなぜか服を脱いじゃっていて恥ずかしかったし、何となくそれっぽい雰囲気だから言ってみただけで、本当に何もないと思う。朔也クンをからかってごめんなさい』

 

 謝ってくる彼女に俺はホッと安堵する。

 何もなかった事を確認できてよかった。

 

「そうだったのか」

『……変な冗談を言って怒った?』

「怒らないけど、千沙子でもそう言う冗談を言うんだな」

『くすっ。私も驚いてたの。朔也クンと再会出来た事も、あんな形で朝を迎えるなんてね。朔也クンにその気があるなら、今度は本当にしてみる?』

 

 俺は千沙子の発言に何と言えばいいのか分からない。

 照れるのでもなく、相手の本気度を確かめるわけにもいかず。

 今、相手が本気で俺に向かってきたらきっと俺はそれを受け止められない。

 

『……それも冗談っ。朔也クン、黙られると逆に恥ずかしいわ』

「すまん。千沙子から聞く事がないと思った台詞でびっくりした」

『ふふっ。そう? 朔也クンとなら、いつでも歓迎するけどね』

 

 その冗談はどう受け取ればいいのやら。

 本気で取ったら、いろいろと問題になりそうだ。

 

『そうだ、ひとつ言い忘れてたわ。机の上に紙袋あるでしょ?』

「紙袋?あぁ、あるな。これは何だ?」

『昨日汚しちゃったシーツ、新しいのに代えておいたから。それじゃ、おやすみなさい』

「え?お、おい、千沙子!?それ、どーいう意味って……切れてる」


 俺は携帯電話を片手に呆然としながら新しいシーツを眺める。 

 


「あの、千沙子さん。昨日は本当に何もなかったんだよな?」


 もう一度言う……本当に、何もなかったのか?

 どこからどこまでが本当で、どこからが千沙子の冗談なのかが分からなくて。

 俺は真新しい布団シーツを片づけながら、ため息をついて悩むしかなかった。

 

 

 

 

 悩んでいても仕方ないので、腹も減ったし、いつものように神奈の店を訪れる。

 最近は夕食を食べるためにずっとここに通い続けている。

 値段も手ごろだし、家からも近いので便利なのだ。

 

「こんばんは……って、いきなり何だ!?」

 

 店に入った瞬間に殺気めいたものを飛ばされビビる。

 今日の神奈は不機嫌なのか、入るや否や、俺を睨みつけて来たのだ。


「包丁持ちながら睨むな、マジで修羅場になるからさ」


 俺は神奈の不機嫌さに緊張しながら顔色を伺う。

 

「あら、来たの? 朔也、来たんだ。どうして来たの?」

「い、いや、腹減ったから来たんだけど……何だよ、来ちゃダメなのか?」

「ふんっ。昨日、あれだけ千沙子にデレっとしてたくせに」

 

 なるほど、昨日の事を根に持ってるらしい。

 横では彼女の姉の美帆みほさんが苦笑している。

 

「こら、神奈。朔也さんを睨まないの。お客様でしょう」

「いいのよ、こんな奴。昨日だって、全然かまってくれなかったし」

 

 そういや、あの歓迎会は他の奴らとの話が中心で神奈とはほとんど話せなかった。

 もしや、それを拗ねているのか?

 

「悪かったって。俺も昔の仲間たちと話がしたくてさ。別に神奈の事をないがしろにしたわけではない。本当だ、信じてくれ」

 

 俺はとりあえず、他の客に迷惑にならないようにカウンター席に座る。

 

「朔也君、今日は何にする?」

「美帆さんにお任せで。あとビールを一杯だけ」

「分かったわ。神奈、大人しくしておいてね」

 

 美帆さんのお任せコースにしておけば、定食のように夕食を揃えてくれる。

 俺は目の前で起こる神奈の機嫌を直そうと言葉を選ぶ。

 

「そう、怒るなよ?俺と神奈はいつだって会えるじゃないか」

「……もうひとつ。昨日、千沙子さんが朔也を家に送ったでしょ。もちろん、“何もなかった”と思っていいわよね?何一つ、過ちは起きなかった、と」

 

 ごめんなさい、それは俺も真実が知りたい。

 俺はつい目を泳がせながら、「と、当然だ」と誤魔化す。

 

「今、目が泳いだわ。もしかして、何かあったの?」

「ほ、包丁を持ちながら、俺に詰め寄るな。マジで怖いっ!?」

「うるさい~っ。千沙子だけは絶対にダメだからね!? 分かってる?」

 

 しばらくは神奈の怒りは収まりそうもない。


「ていうか、お前らってそんなに仲が悪かったっけ?」

「ふんっ、知らない」


 不機嫌な幼馴染に翻弄されて、俺は食事を満足に楽しめなかった。

 俺の知らない所で、女の子同士の仲に亀裂が入っている様子。

 時の流れは何を変えたのだろうか。

  

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