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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第7部:愛の証明 〈学園編・村瀬真白END〉
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序章:罪と悪夢

学園編の続きから。村瀬真白ルートです。

【SIDE:鳴海朔也】


 俺は恋愛らしい恋愛を千歳と出会うまでした事がなかった。

 それまでは恋愛をしていたと勘違いしていただけ。

 人を愛する気持ち、愛しく想う心。

 それを理解できていなかったのかもしれない。

 俺の初めての恋人、高校1年の夏の前に相手から告白された。

 可愛くて、性格もよくて俺は初めての恋人を愛していたつもりだった。

 

「……朔也って、私のこと、ホントに好きなの?」

 

 付き合い始めて数ヵ月後、俺に対して彼女はそんな言葉を言った。

 最初、なんでそんな事を言われたのか分からなくて。

 

「普通に好きだけど?」

「だったら、なんで、愛してくれないのかな」

「そんなことないって。今日もこうやって、デートだってしてるじゃん?」

 

 今日だって映画を見て、楽しんでたつもりなのに何が不満なのやら。

 付き合ってから、俺なりに彼女を愛してたつもりなんだけどな。

 俺はなぜ、彼女が不機嫌なのか理由も分からず、困惑するしかない。

 

「そう言うことを言ってるんじゃないの」

「どーいうことを言ってるんだよ? はっきり言えって」

「朔也は私が愛しても、愛し返してくれないんだよ。それがすごく寂しくて、虚しい。愛されてる実感がない」

「そうか? 俺は俺なりに愛してるつもりだぜ」

 

 どんなに伝えようとしていても、相手に伝わらない想い。

 自分では人を愛してるつもり。

 そう、あくまでもつもりで、それを彼女は不満でしかなくて。

 

「はぁ? ……意味が分からんね」

 

 俺はそんな彼女の“辛さ”も理解してやれなかった。

 こっちは愛してるのに、愛されてないと嘆く彼女の気持ち。

 愛情という価値観の違い、そのすれ違いが、亀裂を生む。

 刹那、パンっという音と共に俺の頬に鋭い痛みが走る。

 

「――最低ッ!」

 

 なぜ、叩かれたのかも理解していない俺に、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。

 愛してるって想い。

 人は言葉や態度で想いを伝えて愛を深める。

 でも、俺の考える愛が他人の考える愛と違ったら、どんなに伝えても無意味だよな?

 俺の考えてる愛は……女が求めてる愛とはどうやら違っていたらしい。

 その後、時をかけずに当然のことながら破局にいたった。

 昔の恋人の記憶は今でも時々思い出す。

 愛って言うのは一体、何なのか。

 その答えが未だにはっきりと俺になかった。


 

 

 

 ……。

 7月に入り、学校内は期末テスト間近で慌ただしく、さらに夏休みになると言う期待に溢れて、にぎやかになっていた。

 職員室で俺は天文部の夏合宿の予定を考えていた。

 部活顧問としてはこう言うのもしっかりと計画せねばならない。


「次の天文部の合宿は海かな」


 夏のお盆前には流星群が近づくので流れ星がよく見える。

 流星群、去年も見たがとても綺麗だった。

 海ならば邪魔する雲も風で流れやすいので綺麗に見えるだろう。


「それに海ならば、水着着用でオッケー。花火とかもできるし」


 ……別にうちは女の子ばかりだから皆の水着姿が気になったわけじゃないよ?

 誰にでもない言い訳をしながら計画を立て始めていた。

 そんな時に茉莉が職員室に入って俺の所にやってくる。

 

「鳴海センセー、分からないことがあるの。教えてー」

「茉莉か? 何だ、分からないことって」

「センセーの攻略法。恋愛の連立方程式を教えてください」

 

 うむ、俺の攻略法は……未成年にはとても無理だ。

 いろんな意味で、な。

 

「……茉莉、俺は数学教師じゃないから分からないや。というわけで、却下」

「ひどっ!? センセー、私に冷たい~っ。じゃぁ、源氏物語みたいに……」

「俺はあそこまでひどい男でありません」

 

 俺は茉莉の相手にも慣れて、簡単にたしなめる。

 

「むー。センセーの反応が寂しい。まぁ、いいや。あのね、もっちー部長からの伝言を頼まれたの。今度の夏合宿は海がいいねって。海の方が流れ星は綺麗に見えそうだもん」

「なんでそんな事を茉莉に頼んだのだ、要は。了解した。要は忙しいのか?」

「んー、そうみたい。私もさっきすれ違った時に伝言を頼まれたんだ」


 ちょうどそのことを考えていたからタイミング的には良かった。

 

「次は夏合宿の計画の話をしようと言っていたからな。こちらもそのつもりだったし別にいいんだが。わざわざいいに来なくても、次の部活の時に言ってくれればいいのに」

「鳴海センセーに会いに来たついでだよ。もうじきテスト期間になると職員室にも入れなくなるし。こうして、センセーとの距離を縮めたいだけ。さぁ、私を愛して」

 

 俺の背後に抱きつくな、茉莉。

 他の先生方の視線が痛い。

 と思ったら、皆さんはこっちをあえて見てなかった。


「ある意味、俺は見捨てられてる!?」


 星野家には我関せず。

 教頭と同様に他の先生方は、見て見ぬふりを決め込んでいるようだ。

 

「はぁ……」

「あー、ため息ついてる。小さな幸せ、逃げちゃうよ」

「誰のせいだ、誰の。そういや、八尋と要の関係はどうだ? 進展してそうか?」

「……どーだろー。2人とも奥手だもんね。思いあっているのは分かるけど、進展まではしてないんじゃないかなぁ。私みたいに恋はアタックしなきゃ始まらないと思うの」

 

 それはそれで問題があると言うことに気付きなさい。

 

「センセーは2人が気になるの?」

「部員同士の事だからなぁ。下手な介入はできないが応援くらいはしてやりたい」

「だったら、私に良い作戦があるよ。2人をくっつけるために必要なのはイベントです。ふふふっ、私に任せて。恋愛は私の得意分野だから、うまくふたりを恋人関係にして見せる」

 

 どう考えても、嫌な予感しかしない。

 

「先に言っておくが、それで本当にうまくいったら、北沢先生に――されるから気をつけろ。……お姉さんは怖いぞ」

「……北沢センセー? お姉ちゃんの友達だから知ってる。あの人、普段は穏やかなのに、やひろんの事になると目の色が変わるもん。私も知ってる」

 

 ブラコンお姉さんは怖いのですよ。

 

「まぁ、見ていてよ。あのふたりが上手くいったら、私にチューしてね?」

「何でだ!?」

「約束したから。忘れないでねぇ? やひろん達の恋は私にお任せあれ」

「あ、こらっ。勝手に約束するな。待て、茉莉!」

 

 茉莉は笑顔を俺に見せて「じゃぁね」と立ち去って行く。

 くっ、勝手な約束をしおって……。

 

「生徒とチューかぁ。これは危険な香りがするわ」

「はっ!? 村瀬先生? いつのまに」

 

 背後の声に振りかえると、村瀬先生が白い目で俺を見ていた。

 軽蔑であろうと他の先生方と違い、意識してくれるのは嬉しいです。

 

「キスなんてしませんよ」

「いいんじゃないの。ほっぺにチューくらい。本当に八尋君と要さんの仲がくっつくんだったら、それくらいはしてあげてもいいと思う。結衣先輩からは平手でパチンかな」

「俺がやられるの確定ですか」

「……いろんな責任をとるのが先生の役目でしょ、鳴海先生?」

 

 村瀬先生にからかわれながら俺はうなだれる。

 また彼女に嫌われるのは辛いっす。

 

「恋愛かぁ……。子供の恋は単純でいいわよねぇ」

 

 なぜか彼女は俺の方を見て言うのだった。

 夏の訪れ、今年の夏はどんな夏になるのだろうか。

 

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