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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第6部:変わる未来 〈セカンドシーズン・学園編〉
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第8章:星に願いを《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


 天文部員が文字通り、総力を駆使して作り上げた食事を食べ終わり、適当に夜になるまで自由行動として時間を潰す。

 援護要員として来てくれた村瀬さんと結衣さんも星を見ていくことにしたらしい。

 

「……要さん、いつも弟がお世話になってるそうね」

「八尋君のお姉さんなんですよね。お話は聞いてますよ」

「ふふっ。貴方とは前からお話がしたかったんだ」

 

 結衣さんは八尋の意中の相手、要に近付いている。

 その様子をはらはらとしながら眺めている八尋が傍目には面白い。

 笑ってられるのは俺がある意味、結衣さんに嫌われる立場から解放されたせいか。

 千津と桃花ちゃんは川に足をつけながら遊んでいる。

 軽く水をかけられて千津が声を上げる。

 

「ちょっと、桃花。水かけないで、冷たいからっ」

「あははっ。もう少し暑くなったら泳いで楽しめるのにね」

 

 相変わらず、仲のいいふたりだな。

 俺も川のせせらぎを聞きながら木陰で寝そべっていた。

 

「……川釣りしたいな。ここって何が釣れるんだ?」

 

 それほど大きな川ではないが、魚も釣れそうな雰囲気だ。

 のんびりとした時間を過ごしていた。

 その静寂をかき乱す、茉莉の声が響く。

 

「鳴海センセー、助けて!」

 

 いきなり、俺に助けを求めてきた茉莉は俺の後ろに隠れる。

 

「む、村瀬センセーにやられちゃうよぉ」

「……は?」

「待ちなさい、星野さん。もう逃げられないわよ」

 

 茉莉を追いかけてきたのは村瀬さんだった。

 しかも、何だか不機嫌っぽい。

 

「や、やだぁ。こっちに来ないでぇ。あっちに行って」

「鳴海君。後ろにいる子ウサギをこちらに渡してもらえる?」

「穏やかな様子ではありませんね?」

 

 ほのぼのとしながらも険悪な雰囲気。

 この二人の仲はよろしくない。

 

「当然。その子には、先生として、女として、指導が必要みたい」

「……茉莉、お前は彼女に何をしたのだ」

「な、何もしてないよ。ホントだよ?」

 

 二人の相性は以前から悪いのは分かっている。

 何をしたのかも容易に想像できるぞ。

 どうせ、村瀬さんに年齢的な事を言ってからかったとかそんな程度の事だろう。

 俺は後ろに隠れていた茉莉の首根っこを掴みながら先生に引き渡す。

 

「や、やめて~っ。センセー、ひどいよ。私を裏切るなんて」

「お前が悪さをしたに違いない」

「何も事情を聞いてないのに私が悪い子扱いはやめてよ。いや~、連れて行かないで~。助けて、先生っ。私、何でもするからぁ」

「鳴海君、協力に感謝するわ。ほら、こっちにきなさい。貴方には前からちゃんと生徒指導をした方がいいと思ってたの」

 

 そのまま、嫌がる茉莉は引きずられていってしまった。

 だが、その数分後、村瀬さんだけがこちらに戻ってくる。

 どうやら、茉莉は再び逃走を図ったらしく、千津たちの所から声が聞こえる。

 

「また逃げられちゃったわ。逃げ足だけは早いのね、あの子」

「村瀬さん。茉莉が何をしたんですか?」

「……聞きたい?」

「いえ、君子危うきに近付かず。俺は自分から危険な事を聞く趣味はありません」

 

 俺も茉莉と同じ目にあいそうで怖い。

 彼女は肩をすくめながら「賢明ね」と微笑しながら、俺の隣に座る。

 

「村瀬さんって茉莉と以前から面識があるんですか?」

 

 ただの先生と生徒と言う関係ではない気がした。

 

「まぁね。星野のお姉ちゃん達、雫さんとか由愛さんは私の友達だもの。年の離れた彼女とはそれほど親しくはなかったけども顔なじみではあるわ」

「そう言えば、そんな事を言ってましたっけ。茉莉のお姉さんって美人ですか?」

「美人ではあるけど、個性が強い子達だよ。一番上のお姉さんは結衣先輩と同い年、今は町役場で働いてるの。雫さんはものすごく気が強くて怖い、私でも怖い。逆に由愛さんは、すっごく穏やかな性格なの」

 

 怖い姉に穏やかな姉、正反対の性格の姉に囲まれて茉莉は育ったのか。

 気が強い方の村瀬さんでも怖いと思うお姉さんってどんな人なんだろう。

 

「それにしても、鳴海君は美人にしか興味がないの?」

「……あはは」

「ちなみに、私が興味があるのは……鳴海君だったりするんだけど?」

 

 上目遣いにこちらを見つめる彼女。

 不意打ちはずるいぜ。

 あんまり、可愛い顔をするのはなしにして欲しい。

 ……俺だって本気になりますよ、村瀬さん?

 

 

 

 

 仮眠をしてるうちに夜になり、夕食を楽しみながら、天文部の合宿は本格始動。

 これまでの時間はただの親睦会みたいなものだからな。

 ここからが本番、夜明けまで星を眺めることになる。

 

「というわけで、夜になりました。天文部合宿、開始だ」

「……鳴海君、誰も聞いてないよ?」

 

 俺の傍にいるのは同じく片づけを手伝ってくれた村瀬さんだけだった。

 皆はすでに望遠鏡を覗いたり、星の位置をチェックしたりしている。


「くっ、俺がバーベキューに使った炭の片づけをしてる間にすでに合宿は始まっていた。ちくしょう、出遅れたぜ」

「……顧問の存在があまりない部活なのねぇ」

「生徒の自主性を尊重していると言ってください」


 火の後始末は大人がするべきだと言う意見で、俺一人、暗い夜の川辺で使用後の炭と対決していたのだ。

 奴らは中々にしぶとくて、処理が大変でした。

 

「バーベキューの後片付けしてあげている俺を待つ気はないのか。うちの部員は顧問をないがしろにしすぎな気がします」

「あはは、顧問も大変だねぇ」

 

 村瀬さんに慰められながら、俺達も皆の所に行く。

 

「……朔也さん、お疲れ様」

「どうも。結衣さんはこんな風に星を眺めた事はあります?」

「普通に、星空を見上げる事はあるけども、望遠鏡を使っての本格的なのはないわ」

「いい機会ですから結衣さんも楽しんでくださいよ」

 

 穏やか会話、先日までの険悪さが皆無だぜ。

 あの条件さえ守っていれば、結衣さんも普段の彼女でいてくれる。

 すまん、八尋……美人なお姉さんの誘惑に俺は負けた。

 

「今日はいい感じに晴れて星も綺麗だな」

「鳴海センセー。もも先輩が流れ星を見たって」

「桃花ちゃんが?それはラッキーだな。俺も見た事があるけど、あれは綺麗なものだ」

 

 今日は流星群ではないので、そんなに見れないだろう。

 夏場なら、見放題なんだけどな。

 今の春の空は、春の大三角形を観賞するのが目的である。

 去年は北斗七星の見方を教わったのを思い出す。

 

「私も見たいなぁ。そして願うの、センセーとの恋愛成就を!」

「……そんなもの星に願うな、迷惑だ」

「ひどいっ。乙女心が分かってないよ、鳴海センセー」

 

 頬を膨らませてる茉莉に俺は笑いながら頭を撫でる。

 

「拗ねてないで、お前も望遠鏡をのぞいてこい。本物の星空はすごいぞ」

「もうっ。子供扱いしないでよ。こんなの事で機嫌よくなったりしないんだからっ」

 

 とか言いながらも、すっかり機嫌はなおってる。

 単純な子だな。

 

「もも先輩。私も星が見たい~っ」

 

 望遠鏡を楽しそうに覗く茉莉に俺は微笑して見守っていた。

 見上げる空は、満天の星が輝いている。

 無数の星々の輝く光、宇宙は広大だ。

 

「はい、どうぞ。朔也さん。落ち着いて星を見るのも楽しいわね」

「ありがとうございます」

 

 俺はホットコーヒーを淹れてくれた結衣さんに感謝をする。

 まだ春先、夜になると少しだけ肌寒い。

 

「……朔也さんが八尋に介入した事は許せていないわ。でも、この部活に誘ってくれた事は感謝している。あの子の楽しそうな顔は姉としては嬉しいもの」

 

 八尋はこの部活の女の子達にも受け入れられている。

 今も望遠鏡の前でカメラをセットしながら星の写真を撮っていた。

 

「やひろん。カメラで写真を撮るとどんな風に見えるの?」

「……綺麗に撮れてますよ。桃花先輩、これでいいですよね?」

「うわぁ、上手に撮れてる。写真担当は八尋君の方がイイね」

 

 皆と一緒に楽しむ姿に結衣さんも嬉しいらしい。

 

「ただ、やっぱり、女の子ばかりの部活だって言うのは不愉快でもあるけども」

 

 結衣さんが邪魔しようとするが、俺はこの件には関わらないと決めた。

 八尋なら自分で何とかするだろうし、結衣さんと喧嘩もしたくないからな。

 ……決して、結衣さんの色仕掛けに屈したわけじゃないよ、ホントだよ?

 俺は満天の星空を見上げる。

 

「やはり、宇宙は壮大だな」

 

 星の一つ一つは光る点にしか見えないのに。

 何百万年もかけて、地球に届いた星の光。

 星が綺麗だと思うのは当然のことなのかもしれない。

 いつのまにか、隣に来ていた村瀬さんが微笑みながら、

 

「……鳴海君ってちゃんと顧問の先生をしてるんだ」

「村瀬さん。その言い方はどうかと思います。俺なりに仕事をしてますから」

「ごめんねぇ。先生らしい所を見て、関心したんだよ」

 

 まぁ、俺自身、部活の顧問なんてできるとは思っていなかったからな。

 何しろ、俺は部活経験がないのだから、その顧問というのも想像でしかなかった。

 これも良い経験になる。

 

「……星に願いを。鳴海君なら何か願い事をする?」

「そうですね。では、まず身近なことから。村瀬さんと仲良くなれますように」

「星野と同じ事を言うし。だから、私も同じ答えを返してあげる。そんなことは星に願うことじゃないでしょ。それに星に願うまでもないじゃない?」

 

 気がつけば、村瀬さんの手が俺の手の上に重ねられている。


「願わなくても叶うものですかねぇ」

「誠意さえあれば」

「あはは……」


 星空の下で、俺はほんの少し照れくさくなりながらその手を握り返したのだった。

 

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