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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第6部:変わる未来 〈セカンドシーズン・学園編〉
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第8章:星に願いを《断章1》

【SODE:鳴海朔也】


 新学期が始まり、早1ヵ月も過ぎ去り、気がつけばGW真っ最中。

 そして、今日から1泊2日の天文部合宿が始まる。

 俺が天文部の顧問をしてからは長期休みのたびに何度か体験してきた。

 山だったり、海だったり、田舎はいくらでも星が見れる場所があるので変わる。

 今回は久々に七森公園での観測だ。

 朝から去年同様に準備をして、目的地の七森公園に到着。

 既にキャンプ場で待機していたのは家が近い、茉莉だった。

 

「鳴海センセー、おはよー♪」

「おぅ。さすがに家が近いだけあって早いな」

 

 星野家のお屋敷は七森公園のすぐ近くにある。

 この辺り一帯は元から彼女達の一族の所有する土地だったらしい。

 町の再開発に伴い、本来はここにロイヤルホテルが建つ予定だったが、いろいろとあってその計画はなくなってしまい、今は整備された公園になったそうだ。

 七森公園はキャンプ場としての整備もされており、長期の休みになればここもキャンプをする家族連れで賑わっている。

 

「まだ公園になる前に、小さい頃はお姉ちゃん達とよく一緒に遊んでたの」

「そうか。公園として整備されてからもよく来たりするのか?」

「うん。近いからよく散歩程度にね。でも、ここから星を見ようと思ったのは久し振り。一昨年の流星群以来かなぁ。あの時は町の皆と一緒にここで空を見上げたっけ」

 

 八尋も要も同じ星空に影響を受けて、星を好きになった。

 一昨年の流星群ってのは本当にすごかったらしい。

 ちなみにその頃の俺は星の見えない東京暮らし。

 星より女の子に興味がありました。

 しかも、確かあの頃は千歳もいなくて、他の女の子と半同棲していて……。

 ハッ、余計な事を考えるのをやめよう。

 自分の黒歴史を思い出しそうになってしまった。

 

「車から荷物を下ろすのを手伝ってくれ」

「あれ? もも先輩は? 一緒に来るんじゃなかったの?」

「桃花ちゃんと千津は食料の買い出しだ。何でも今日はスーパーの大安売りの日なんだとさ。前日に買うよりすっごくお得だって言い張られてさ。今頃、ふたりで買い物中だ。桃花ちゃんは、ああみえて主婦目線な所があるんだよ」

「なるほどねぇ。もっちー部長とやひろん待ちって事かぁ。それまではふたりっきりだね、鳴海センセー。むちゅー」

「ええいっ。俺を誘惑するならもっと大人になってからしてくれ。荷物を下ろすぞ」

「ちぇっ。センセーがつれない。でも、一緒にいられるのは好き」

 

 小悪魔の笑顔に俺は頭を抱えて悩まされていた。

 この子の扱いだけは、一ヶ月経っても慣れやしない。

 ……今でも、クラスに授業に行くたびに告白されるのだから。

 “恋愛”をすることを楽しんでいる茉莉。

 彼女の想いが本当の恋かどうか分からんが、日々退屈な人生からは抜け出せてるようだ……それに巻き込まれる俺が可哀想だけど。

 

「お、重い、センセー……助けてぇ」

 

 茉莉の声に振り向くと大型テントを一人で持ち上げようとしていた。

 

「ちょっ、おまっ。テントを一人で持とうとするな」

「うぅ、だって軽そうに見えたんだもん。これ、意外に重いよ」

「女の子ひとりじゃ重いだろうな。そっちは俺がやるから、茉莉は……」

 

 そして、何だかんだ言いながらも、茉莉という少女は“良い子”なのである。

 純粋な意味での小悪魔っぷりに俺は翻弄されてばかりいる。

 その後、メンバー全員が集合して、美浜高校天文部、GW合宿が開始された。

 

 

 

 

 まずは寝床のテント張りだ。

 女子4人と男子2人、それぞれのテントを張る。

 俺と八尋はさっさと自分たち用のテントを張り終えた。

 

「朔也先生。これ、どうすればいいんだっけ」

「……またかよ、千津。お前って頭がいいのに、妙な所で覚えが悪いな」

「うわぁ、呆れないでよ。もういい、先生には教えてもらわない。ねぇ、北沢君。こっちにきてテント張りの手伝いをしてよ」

 

 彼女たちが悪戦苦闘しながらテント張りをしている間に、要達の所へ向かう。

 要は望遠鏡、桃花ちゃんはカメラのセッティング中だ。

 

「どうだ、この位置からで大丈夫そうか?」

「はい。場所も位置は問題ないです。今日は夜も曇のない夜空が見えそうです。いい星空がきっと見えると思いますよ」

 

 それぞれが作業を分担して効率的に準備を行う。

 そう、何事も作業分担は大事だ。

 それぞれが得意分野で協力作業をしていけば、何事もスムーズにすすむ。

 だけど、それぞれの苦手分野があるとして、ここにいる全員がそれができないという衝撃の事実を知ったのならどうすればいいのだろうか?

 

「「……」」

 

 ある事実を前に沈黙する天文部員全員。

 

「あのさ、おかしくないか?」

「な、何がでしょうか?」

「これまでの合宿で“これ”に困ったのは俺の記憶する限り、一度だけだった気がする」

 

 要達の前にあるのは昼食の材料の野菜や肉だ。

 定番のバーベキューを楽しもうと思っていた。

 だが、しかし、ここに大きな問題が発生。

 

「ここにいる誰も料理できないって、何で?」

「……うぅ、先生、忘れてました。私達、料理ができません」

 

 要のカミングアウトに俺は去年の春を思い出す。

 要に千津、桃花ちゃんの3人が料理経験がなく、料理ができなかったのだ。

 そこを急きょ、神奈という助っ人に頼んで指導してもらったのが去年の話。

 

「待てよ、おかしくないか? その後の何度かの合宿は普通に料理もできたよな? 俺、去年の最初以外にそこで困った記憶がない。どーいうことなのだ?」

「それはね、朔也先生……私たちがズルをしてました。ごめんなさい」

 

 千津の謝罪の言葉につられて、申し訳なさそうに皆が視線をそらす。

 結局、付け焼刃の神奈の指導で彼女たちの料理の腕はあがらなかった。

 料理をする、それを継続して覚える努力をしなかったのである。

 元部員の橋爪と木下、料理ができた彼女達に合宿の時は任せっきりだったそうだ。

 俺には料理ができるようになったという誤解をさせるように企んでいたらしい。

 だが、2人がやめてしまった今、その嘘が公になったわけだ。

 

「つまり、ずるしてたので、去年同様にお前たちは料理ができない、と?」

「はい。その通りです、スキル的には去年と全然変わってません」

 

 反省の色もないとは先生は悲しいです。

 

「はぁ。何で努力をしないかね。お前ら、これからお嫁さんになるのなら料理は必須だぞ。いい加減に覚えなさい。料理のできない俺が言える事でもないが」

 

 だが、今年は違う、戦力がひとりいるじゃないか。

 一人の新入部員に期待の眼差しが向けられる。

 

「……え? わ、私?」

 

 そう、ある意味期待のルーキー、茉莉が最後の希望だ。

 

「茉莉まで料理ができないなんて、先生を失望させるような事を言わないよな?」

「はぅ!? わ、私は、料理だけは……その、えっと、うぅ……ごめんなさい、センセー。私も料理できないの。包丁すらほとんど持ったことがなくて。センセーに初めて期待されたのにぃ、ぐすっ」

 

 やばい、涙目になって今にも泣きそうだ。

 茉莉って案外、打たれ弱い性格らしい。

 

「ちゃんとお姉ちゃん達に料理を教わっておけばよかった。ごめんね、センセー。料理もできないダメな子で……」

「い、いや、そこまで落ち込まなくても」

「ひっく、でもぉ……うぅっ、今度から料理を覚えるから許して、嫌いにならないで。お嫁さんにしたくないって言われたらショックだもん」

 

 待て、茉莉……この状況だと俺がお前を泣かせてるみたいじゃないか。

 そして、当たり前のように俺に皆が白い目を向けた。

 

「朔也先生、サイテー。一途な星野を泣かすなんて」

「先生。さすがに料理ができないからって、そこまで責めるのはひどいと思います」

「……お兄ちゃん、料理ができない女の子に価値がないと思ってるんだね。ひどい」

 

 三者三様の言葉で女の子たちに責められる。

 この状況は俺が悪いのか?

 

「わ、悪かったよ。ったく、何で成長してないお前らにまで責められるかね」

「そうだ、今回も神奈さんに来てもらうのは?」

「……ダメだ。アイツ、昨日からお姉さんと東京に旅行に行ってるんだよ」

 

 神奈はGW中はお店を閉めて、東京に住む両親に会いに出かけている。

 それゆえに、昨日の俺の夕食はわびしくカップラーメンだった。

 頼りになる神奈の不在に皆もがっかりする。

 

「これ、どうするの? 私達に料理させちゃってもいいのかな」

「自分で不安になるな、千津。俺も怪我だけはしてもらいたくない」

 

 手つかずの材料を前に不安になり、黙り込んでしまう俺達。

 ここで彼女達に怪我をさせるわけにもいかない。

 

「……あの、料理ができる人なら心当たりがありますよ」

 

 今まで発言権がなくて黙っていた八尋が発言する。

 

「八尋、お前は料理ができるのか?」

「いえ、僕も無理ですけど。うちの姉さんを呼ぶのはどうでしょうか?」

 

 うちの姉=北沢先生……。

 ただいま、一方的に嫌われて険悪の仲になりつつある。

 こちらは仲良くしたいと思っても願いはかなわず。

 そんな状況の北沢先生が果たしてきてくれるだろうか?

 

「……頼めるかどうか、聞いてもらえるか?」

「はい。分かりました。一応、事情を話してみます」

 

 今は彼に任せるしかない。

 八尋は電話をし終えると何やらひと騒動あったようで、彼は少し表情を変えていた。

 

「……ね、姉さんは大丈夫だそうです。すぐに来てくれるんですが」

「どうした? 俺がいるから嫌とか?」

「それとなく、似た事も言ってましたが、それよりも、僕が興味ある女性は誰か見極めるとか怖い事を言ってました。……地雷踏んだかもしれません」

「……なんてこった」

 

 俺達はそろってため息をついてうなだれる。

 危機を脱するつもりが、自分達をさらなる危機に追い込む始末。

 ……この合宿、早速、いろんな意味で大ピンチだ。

  

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