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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第6部:変わる未来 〈セカンドシーズン・学園編〉
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第5章:危機再び《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


 授業中、俺は黒板に板書しながら教室内を見渡す。

 国語の時間、ただいま課題のプリントを与えて問題を解かせている最中だ。

 こういうのんびりとした時間は授業を脱線しない程度に雑談する事が多い。

 

「鳴海先生。聞いても良いですか?」

「なんだ、三浦。どこか分からんところでもあるか?」

「いいえ。先生って、高校時代はモテましたか?」

 

 男子生徒の質問に俺は「そっちかよ」と突っ込んだ。

 他の生徒も気になってるようなので、俺は話しやる事にした。

 この手の雑談も時には授業に必要なことでもある。

 

「そうだな。はっきり言えば、恋人は途切れた事がなかったな」

「……うわぁ、私たちの前でも堂々と言っちゃうし」

「俺の人生の半分は恋愛で出来ていると言っても過言ではない」

「自信満々だよ。どれだけモテたんだ。羨ましいっ」

 

 この世代になると恋愛に興味がわくのも自然な事だろう。

 たまには生徒のタメになる話もしてやろう。

 

「お前らも学生時代に犯罪以外は色んな事をしたらいいさ。特に恋はいいぞ。恋愛は人を強くも弱くもするものだ」

「恋愛ばかりしてたら先生みたいになるんですか」

「……今、その発言したのは誰だ。高坂か、お前、テストで減点な」

「ひでぇ!?」

 

 まるでこの俺が軟派な印象を抱かれてるようではないか。

 

「例えば、好きな子ができたとする。でも、その相手に自分は似つかわしくない。でも好きだ。どうすればいい、長岡?」

「……えっと、私なら諦めます。身分不相応な恋はしても辛いだけです」

「諦めるのか? 好きな男の子ができて自分から簡単に諦めるのはいかんぞ」

 

 最初から諦めてしまうのはもったいない。

 恋は可能性だ、努力次第で可能性はいくらでもあげられる。

 

「綺麗になって、その子に気にいられるようにする、とか?」

「そう。相手に気にいられるように自分を磨く。性格が悪ければ、容姿がよくなければ変える努力をしていく。意識する事だけでも大きく違ってくるぞ。男子でも女子でも関係ない。恋をすれば人は変わるってわけだ」

「……なるほど」

 

 若いうちはそうやって色んな経験を積むのが一番いい。


「お前らの年で一番大切なのは成功体験を積む事だ。これが成長につながる一番大事なことなんだからな。恋愛での成功体験、それは将来に必要なものにもなる。若い頃にしっかりと恋をしておきなさい」

「……先生が言うと重みがあります」

「人を想うってのには力があるんだよ。恋愛が人を変える、想いの力は人を動かす。青春時代、子供はそうやって大人になっていくものだ」


 俺も若い頃はいろいろと経験したものさ。

 

「そうして、出来上がった大人が今の鳴海先生だと」

「はははっ……高坂。余計なひと言でオチをつけたがるとは、テスト赤点決定だ」

「まだテストも受けてないのに!?」

 

 和やか雰囲気の教室内が笑いにつつまれる。

 

「高校時代、人生のたった3年だけどな。ここで出来る友人は一生ものだし、思い出だって大人になって思い返す事も多い。たった3年の記憶が人生の中でも、ずっと思い出に残るんだ。いい思い出を作れるように青春を謳歌しろよ」

 

 青春時代、人生で最も特別な時間だと思う。

 恋に部活に、勉強にアルバイト。

 何でもいいから満足のいく日常を送るのが一番だ。

 

「恋愛しろよ。今しかできない恋ってのがある。学生時代、多少遊びまくってもいいんだ。大人になれば恋の形も意味も変わるだからさ」

「それじゃ、先生が今、一年生に好かれまくってるのもしょうがないんですね」

「……恋をするなら子供同士にしなさい。お願いだから!」

 

 俺の辛辣な一言に皆は「頑張って先生!」と励ましの言葉をくれたのだった。

 頑張るよ、俺。

 

 

 

 

 職員室で暇な時間に俺は小テストの作成をしていた。

 ノートパソコンに文章を打ち込んでいく。

 授業の時間割の都合で今日はもう午後からは授業がないのだ。

 

「鳴海先生、コーヒーいる?」

 

 ぴたっと俺の頬にコーヒーの冷たい缶の感触。

 振り返ると村瀬先生が缶を持って微笑んでいた。

 

「村瀬先生。どうもです」

「間違えて、無糖のコーヒーを押しちゃったからあげるわ」

「先生は苦いのダメなんですか?」

「苦いのは大の苦手。甘いココアが好きなの」

 

 俺は遠慮なく受け取り、コーヒーの缶を開けて飲む。

 

「そういえば、最近、結衣先輩と仲が良いみたいだね?」

「えぇ。先日、お昼をごちそうになりました。手作り料理、よかったです」

「……へぇ、そうなんだ」

 

 どことなく、素っ気ない言葉と態度。

 北沢先生と仲良くなるのはまずいことなのだろうか?

 

「結衣先輩、料理もすごく上手だって言った通りだったでしょ」

「本当ですね。めっちゃ美味しかったです」

「……でも、どうしてそう言う事に?」

「たまたま会ったんですよ。そうしたらお昼でもどうかって誘われたんです」

 

 あれは幸運だった、またぜひ機会があればと望んでます。

 

「ふーん。結衣先輩の餌付け作戦なのね」

「なんで俺が餌付けされるんですか」

「都合のいいように扱うために、とか悪女的な意味で? 私もやってみようかな。今度、私も料理を作ってあげよっか?」

 

 ……餌付けって俺は猫か。

 悪戯っぽい表情を見せる彼女に俺は「変な下心がないのならぜひ」と返した。

 

「それにしても、結衣先輩も鳴海先生に興味でもあるのかな」

「どうでしょう? ちなみに俺は彼女に興味はあります」

「うん。鳴海先生の事は聞いてないし、聞かなくても分かるよ」

「……さり気にグサッとくる言葉を言いますね、村瀬先生」

 

 彼女は結構、毒を吐くから怖いのだ。

 そうだ、あの秘密の事について聞いてみようかな。

 

「村瀬先生。前に北沢先生に秘密があるって言ってたの分かりました」

「……ついに分かった?」

「まさか、あの人がブラコンだったなんて想像もしてませんでしたよ」

 

 弟の八尋を度を超えて可愛がっている。

 あんなお姉さんっぷりをみるはめになるとは想定外だ。

 

「昔からなんだよ。八尋君の事、世界で一番大事にしてる。あれだから彼氏ができても、長続きしてないみたい。何でもかんでも弟最優先。それが鳴海先生が知りたがっていた美人の秘密だよ。どう、びっくりした? 幻滅した?」

「……幻滅はしませんが驚きはしました」

「一応、言っておくと恋愛的な要素はないけどね。大事なだけ」

「そっち系ではないんですね」


 恋愛的ならヤバいけど。

 

「鳴海先生も、結衣先輩を狙うのはいいけど、障害は大きいよ? あと、これはアドバイス的なもの。何があっても、八尋君の悪口禁止。これ、レッドカード」

「そんなことはしませんよ」

 

 一応、生徒なのだからそんな真似はしないし、八尋は話せば真面目な良い奴だ。

 

「まぁね。ついでにイエローカードも教えてあげる。鳴海先生の場合はこっちが累積でレッドカードになるかも。それはね、結衣先輩と八尋君の関係に口出しすること。弟のこと、かまいすぎとか言うだけでも不満になるから要注意」

「そこまでですか?」

「私でも気を使うんだから。ブラコンは結衣先輩の最大の弱点にして、欠点だもの。嫌われたらどうしようもない。先輩って優しい良い人に見えて、結構、怖い一面もあるからねぇ。地雷を踏んだらひどいめにあうわ」

「……気を付けます」

 

 ブラコン姉には要注意、発言ひとつでフラグブレイクの可能性あり。

 迂闊な発言には気を付けよう。

 

 

 

 

 仕事帰りに俺は海岸沿いの道で八尋と出会った。

 防波堤の上に座る彼は砂浜に視線を向けている。

 

「よぅ、八尋。こんなとこでなにやってるんだ」

「鳴海先生。いえ、なんとなくです」

「ふむ、黄昏たい年頃なのか。おや、あれは……」

 

 そして、俺が気付いたのは海岸の砂浜にいる人影だ。

 犬を散歩する可憐な美少女、要である。

 

「なんだ、要か。スピカの散歩中かな」

「先生、あの人の事を知ってるんですか?」

「ん? まぁな。うちの生徒で、俺が顧問をしてる天文部の部長。3年の望月要だ」

「……望月要さん、って名前なんですね」

 

 八尋が彼女に向ける視線の意味に、俺は気付く。


「あのロイヤルホテルの支配人の娘。良い所のお嬢様だ」

「……確かに気品を感じる穏やかな印象を抱きます」


 その横顔に俺は思わずピンっときた。

 こやつ、まさか……?

 

「なぁ、八尋。もしかしてさ、要が気になるのか?」

「へ? あ、あ、いや、その……」

「分かりやすい態度だな。そうか、美人な先輩が気になるのか」

「ち、違いますから!? 妙な誤解はしないでください。それにあの人、望月さんもこの前、ちょっとここで話しただけの関係で別に恋愛とか、そういう不埒な感情を抱くような関係では決してないですから!? ホントに違いますから」

 

 自分で暴露してるじゃないか。

 意外や意外、普段、真面目系なだけにそっち系は弱いらしい。

 この事実、ブラコンの結衣さんが知ると悲しみそうだ。

 

「みなまで言うな、同じ男として美人に惹かれる気持ちはよく分かる」

「……先生と同じにしないでください」

「では、この件はお姉さんである結衣さんに報告しよう」

「すみません。お願いです、姉さんにだけは絶対に内緒にしてくださいっ」

 

 頭を下げて懇願されてしまった。

 ……ブラコンの姉を持つ弟の心境も、大変なものらしい。

 

「八尋。ホントにあの要が気になるのか?」

「綺麗な人だなって思う程度です。いつも、この辺で犬の散歩してるみたいですね。僕もこの時間はよくここで海を見ていたりするので……」

「それで、こうやって眺めちゃうわけねぇ。惹かれてるのか?」

 

 俺の問いに彼は照れくさそうに「多分ですけど」と頷いた。

 純粋な男の片思いってやつか。

 よし、応援してやろうではないか。

 

「今度、機会があったら要を紹介してやるよ。お近づきになれるチャンスだぞ」

「……はい」

 

 夕焼けの空、砂浜を歩く美少女と犬を眺める純情少年の肩を俺は軽く叩いた。

 

 

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