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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第6部:変わる未来 〈セカンドシーズン・学園編〉
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第4章:一歩前進《断章1》

【SIDE:鳴海朔也】


 日曜日の事である。

 俺は朝から朝食のためにパンをトースターにいれて焼き始める。

 食パン、コーヒー、リンゴとヨーグルト、これが俺の朝の定番だ。

 こんな穏やかな休日はのんびりと過ごすに限る。

 ……そろそろ、休日にひとりが寂しいので本当に恋人でも作ろうか。

 

「今日は平和だ。釣り日和だ、よし釣りをしよう。斎藤でも誘うか」

 

 なんて思って、すぐに恋人ができるわけもなく。

 外は快晴、良い釣り日和なので、趣味の釣りをすると決めた。

 

「今の時期は何が釣れるんだっけな」

 

 俺がテレビを見ながらパンが焼けるのを待っているとインターホーンが鳴る。

 

「朝から早いな。誰だ?」

 

 こんな時間に来るのは神奈辺りだと予想した。

 俺は「はいよ」と返事して、玄関に出る。

 

「どちらさま……って、え!?」

 

 ドアを開けて、俺は思わずすぐさま閉めたくなった。

 なぜならば、そこにいたのは一人の少女だったからだ。

 黒髪ショートの美少女は満面の笑みを浮かべていた。

 

「――ふふっ、ついに見つけたよ。鳴海センセー♪」

「星野茉莉!? な、なぜ、俺の家にっ!?」

 

 可憐な容姿に小悪魔的な瞳。

 数週間前で中学生だとは思えない大人びた魅惑の唇。

 

「鳴海センセー、貴方に会いにやってきました♪」

 

 星野茉莉が俺の家をつきとめて、やってきたのだった。

 キッチンで食パンを焼いてたトースターがチーンと言う音がした。

 俺の平穏な日曜日が、波乱の朝になったぜ……。

 

 

 

 

 ……10分後。

 

「どうして俺の家が分かった?」

 

 食事が終わるまで待ってもらい、俺はソファーに座る彼女と向き合う。

 彼女は俺の出したジュースを飲みながら言う。

 

「私を誰だと思ってるの? この町で私が調べられない情報なんてないよ」

「怖っ!? 星野家、怖すぎだろ」

「そんなに怖がらなくてもいいじゃん。ちなみに、私のお母さんが知っていただけ。鳴海先生って町でもそれなりに噂になってる人らしいじゃない」

 

 狭い町ではちょっとした事が噂になったりする。

 俺の事もどこかで聞いていたかもしれない。

 

「センセーに改めてお礼を言いに来ただけだから」

 

 星野は意外としっかりとしているのだろうか。

 いや、待て、そんな子がいきなり教師の家を調べて尋ねてくる事はしない。

 

「そう言うのは口実で、鳴海センセーに会いに来たの」

「あっさり認めて、自分で口実とか言うな。そこは心の中に留めておきなさい」

 

 この子、手強いわ。

 俺は彼女に告白された事を思い出して、改めて確認をしておく。

 

「……あー、なんていうか告白の件なんだが」

「私は鳴海センセーが好きになっちゃった。私自身も、人を好きになるなんて思わなかったんだけどね。こうもあっさりと人を好きになるって気持ちが芽生えるなんて」

「いきなりあんな場所で告白するとかありえないだろ」

 

 こちらは説教モードなのに、当の本人はしれっとしている。

 

「思い立ったら即行動。私はそういう女の子です。覚えておいて?」

「ぐぅ。人の事も考えてくれ。ちなみについでに言うが、何で俺なんだ? ちょっと助けたくらいで好きになられるのも困るわけだが」

「ん? それはちょっと違うかな。センセーに助けてもらったのは嬉しかったけども、好きになった理由とは違うね。私が好きになったのは、その少し前」

 

 彼女は瑞々しく潤う可愛らしい唇から小悪魔的な発言をした。

 

「――センセーは一目惚れって信じる?」

「信じないことはないが。第一印象でイケるかどうかは判断する」


 合コン攻略の基本だね。


「私は信じる、鳴海センセーを初めてみた時に私は直感で思ったの。私にはこの人しかいない。私の運命の人なんだって。だから、好きになっちゃった」


 可愛い顔して可愛い事を言ってもダメだっての。

 

「一目惚れされるほどに俺が魅力的なのは分かった」

「あははっ。すっごく自信満々だ。私は男の人のそう言う強気さ、好きだよ」

 

 この子、手強いわ(二回目)。

 思いこみが激しいとか、そう言う類じゃないのが困る。

 

「クラスメイトの前で告白したのは、もう想いが収まらなかったんだ。入学式の間、先生にもう一度会えたら告白しようって決めてたの」

「早すぎだっ! しかも、人前で告白なんて、俺の教師人生を終わらせるつもりか」

 

 もしも、教頭の耳にでも入れば……想像したくもない恐ろしい事になるぜ。

 早めの対応、悪戯好きな小悪魔にはお仕置きしておくべきか悩む。

 彼女は俺の不満そうな顔を見て、ちろっと小さく舌を出す。

 

「驚かせてごめんね。いきなり告白してでも、センセーに意識して欲しかったんだよ?」

「十分、悪い意味で意識させてもらった」

「だって、私の気持ちを知って欲しかったの。だから、先制攻撃してみました」

 

 こちらを見上げてくる潤んだ瞳。

 その可愛らしい微笑みは危険すぎる。

 ……ハッ、待て、俺。

 いくら美人に弱くても、子供相手にドキッとしてるんじゃない。

 

「お前くらいの年頃が大人に憧れるのは分かる。けどな、子供は子供らしく年相応の恋愛をしろ」

 

 俺の言葉に彼女はふと真顔に戻ると自分の事を語りだした。

 

「私さ、この町に住んで何も楽しい事がなかったんだ」

「何でだよ。星野家って言えば大地主のお嬢様じゃないか」

「それがどうしたの?って感じ。皆に誤解されてるけども、ただの田舎の金持ちなんて世間じゃ大したステータスじゃないよ」

 

 庶民からすれば十分すぎると思うのだが、彼女には満足できるものじゃないようだ。

 

「そのせいで、変な壁も作られるの。特別扱いされるのは気持ちが良い事もあるけども、ほとんどは寂しい気持ちの方が多い。私の家の事を気にして、同級生まであんまり近づいてこなかったりするし、友達もあんまりいないから」

「それは、辛いものがあるな」

 

 特別視されるのが良い事ばかりではない。

 彼女が家の事で孤独感を抱いているなんて。

 

「でしょ? それにここは田舎町で何もないじゃん。楽しい事が何もない。だから、私、高校卒業したら絶対に都会へ行きたいんだ。そうすれば、こんなつまらない生活からも解放されるんじゃないかって」

「都会は都会でそんなに楽しくも優しくもないけどな」

 

 俺自身、この町から外へ出て分かること。

 何でも揃う町には誘惑も魅力もたくさんあるが、それが全ていいとは限らない。

 だが、彼女くらいの年頃ならば都会の方が様々な魅力があるのは事実だ。

 

「そう言うわけで嫌気になってた私の人生に、鳴海センセーっていう運命の人が現れて劇的に変化し始めてるの。今はセンセーに恋してすごく楽しい」

「……そこに繋がるのか」

「私にとっては大きな影響があるんだってば」

 

 彼女の話を聞いてると、どうにも恋に憧れてるだけなんだよな。

 恋は楽しい、幸せだ。

 単純なものではないのだが、経験のない子に言葉で理解しろというものでもない。

 それに子供の恋と大人の恋には大きな違いがある。

 俺は大人だ、子供の彼女の恋の価値観とは合わない。

 しかし、星野茉莉と言う少女は、こちらの思っているよりも素直な女の子だった。

 

「最初に皆の前で告白しておいてなんだけども、センセーがすぐに私に恋をしてくれるなんて思ってない。まだまだお互いに知らない事だらけだし。センセーが子供相手にする気もなさそうなのは分かってる」

「……それだけ分かってるのなら、理解してくれよ」

「でも、可能性はゼロじゃない。高校の3年間をかけてでも、恋を成就するために頑張りたい。恋って楽しい事でしょ?」

 

 彼女が見つけた楽しさってのが俺への恋だってのか。

 どんな理由であれ、彼女は俺を好きらしい。

 ……これは参ったね。

 無下に想いを否定するだけでどうにかできる相手ではなさそうだ。

 

「俺は星野が想いを抱くような相手とは限らんぞ?」

「……ううん。センセーは優しいじゃない。少しだけでも接すれば分かるよ。センセーは私の信頼できる人だってことくらい」

 

 疑いのない眼差しが俺には眩しく思える。

 自分で言うのもなんだが、これだけ女の子に信頼されるのは何だか嬉しい。

 自業自得、普段の行いのせいもあり、俺の周囲にいる女の人達ってのはどうにも、俺を信頼してくれてないのだ。

 

「そうだ、鳴海センセー。携帯のメアド教えてよ?」

「……やだ。生徒に個人的な連絡先を教えるわけがないだろう」

「ふーん。そう言う事を言うんだ。私は寂しい」

 

 拒否されても笑顔を崩さない星野。

 むしろ、その笑みに迫力を感じるのは気のせいか?

 やばい子を敵に回しそうになっているのではないか?。


「……」

「……ふふっ」


 無言の圧力。

 彼女相手だと何だかとんでもない事になりそうで怖い。

 俺は笑顔で俺を脅す相手に屈した。

 

「やった!センセーの連絡先ゲット」

「うぐっ。必要ない時以外の連絡はなしだからな」

「私にはセンセーの存在がいつも必要だから、いつでもいい?」

「俺の必要ない時に決まってるだろう!?」

 

 この俺が相手に戸惑い、困惑させられる女の子に出会うとは思わなかった。

 

「鳴海センセーとの距離が少し近づいた気がする。一歩前進かな」

 

 嬉しそうな彼女を前に、俺は何とも言えない表情を浮かべるだけしかなった。

 ……恋に積極的な女の子は手強いわ(三度目)。

 

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