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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第6部:変わる未来 〈セカンドシーズン・学園編〉
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第3章:運命の人《断章3》

【SIDE:鳴海朔也】


 今年の新入生の要注意人物、星野茉莉。

 クラスの自己紹介でまさかの俺に告白したきた美少女だ。

 ……これからどうなるんだろうか、激しく不安だ。

 入学式を終え、生徒も帰宅した後の午後。

 

「はぁ……」

 

 昼飯を食べ終わり、缶コーヒーを飲みながら職員室でぼんやりとする。

 星野ショックのせいで何もやる気がでねー。

 俺の横の席に座る村瀬先生は呆れた声で言う。

 

「ホント、鳴海先生は入学式早々からやってくれるじゃない」

「俺のせいってわけでもないでしょうに」

 

 あの子に関しては思い当たるような事がない。

 今時、保健室に連れて行っただけで恋が始まるなんて誰が思う?

 

「新入生の女の子にいきなり告白された先生なんて初めてじゃない? 何で先生ってそんなに手が早いかなぁ。私は悲しい。後輩が生徒に手を出す鬼畜教師だったなんて」

「待ってください。俺は何もしてませんってば」

 

 教師になると決めて、絶対にしないと思っていた事。

 それは生徒との恋愛。

 さすがの俺も、生徒相手に手を出すきは皆無なのだ。

 禁断の恋愛なんてのは、俺の教師人生を縮めるだけだし。

 

「……しかも、相手はあの星野茉莉。朝、助けた女の子の心をわしづかみ?」

「ぐふっ。村瀬先生、今日は俺にトゲがありますね」

「そりゃ、最初から問題を起こされたら誰だって嫌になるわ。そう思うでしょ?」

「お、怒ってる、実はめっちゃ怒っていません?」


 不満そうな彼女の気持ちは理解できる、なにせ妙なとばっちりだ。

 自分の受け持ちのクラスの生徒が副担任に堂々との告白。

 この問題に間接的に関わる事になったのだから。

 当事者の俺としては頭が痛いだけの問題である。

 

「怪我した女の子を助けたくらいで惚れられるとは、俺ってかなりモテますね」

「こら、自分で言うなぁ。反省してない」

「冗談です。俺も子供相手は全然、興味がないのでありえないです。正直、あのくらいの年頃の女の子の気持ちはいまいち分かりません」

「私も分からないけどねぇ。最近の子供の考える事なんて」

 

 大人と子供、たった数年の年の差でも相手の気持ちは分からなくなる。

 年上に憧れる世代なのかねぇ。

 明日にでもなれば忘れているだろう、そんなものだと思いたい。

 

「そうだ、村瀬先生。星野茉莉の事を知ってましたけど、彼女は何か特別なんですか?」

 

 電話で聞いた時に意味深な言葉を言っていた気がする。

 

「鳴海先生も、美浜町が地元なら名前くらいは聞いた事があるはずよ。星野家。彼女はあそこの家の出身なの。つまりは我が町きってのお嬢様」

「……星野ってあの星野ですか?」

「あの星野よ。代々町長を輩出している名家の星野家。そのご令嬢、それが彼女ってわけ。我がままなお嬢様よ」

 

 この美浜町には古くから大きな地主の名家がふたつある。

 ひとつは神奈の親戚筋である相坂家。

 今、美浜ロイヤルホテルが建っている周辺の土地を古くから所有している。

 もうひとつは古くからの大地主の星野家。

 かつては、町のほとんどの土地が星野家の所有だったと言う。

 旧家と呼ばれる古い家柄で、家も山に建てられている豪邸だ。

 冗談とも思える数十メートルの長い壁。

 広すぎる敷地に建てられているお屋敷はこの学校からも見える。

 

「彼女は星野家の星野さんだったわけですね」

「そう言う事。それもかなりの我が侭姫なの。甘やかされて育てられた、お姫様だからやりたい放題、好き放題。鳴海先生、新学期早々、まずい相手にロックオンされたわねぇ」

「おー、すげーっす」

 

 思わず、顔をひきつらせてしまった。


「星野家には三姉妹でね。上のお姉さんとは私も親しいんだけど、末っ子の茉莉に関してはあんまり知らない子なんだ。仲がいいってわけでもないし」

「友人の妹なんて、顔見知り程度のものですよね」

「ちなみに、星野家三姉妹はかなりの美人揃いだから、鳴海先生は気に入るかもね。権力と言う壁を気にしないだけの自信があれば、だけど」

「星野家を敵に回す気は俺にもないんですが……」


 星野家の影響力は美浜町においてかなりのものだと容易に想像できる。

 

「……ほわちゃん、鳴海先生どうしたの?」

 

 北沢先生が職員室に入ってきたので視線をそちらに向ける。

 

「結衣先輩。聞いてよ、鳴海先生ってね」

「な、何でもないですよ。俺は何でもありません」

「慌てちゃって怪しいわ。ほわちゃん、教えなさい」

 

 しまった、北沢先生にも興味を持たれてしまった。

 その後、俺は北沢先生にもからかわれてしまうのだった。

 

 

 

 

 始業式を終えた翌日の夜。

 俺達、美浜高校の教師達は一軒の居酒屋に集まっていた。

 北沢先生を含めて、新しく赴任してきた3人の先生の歓迎会である。

 そろぞれが盛り上がる中で、俺達のテーブルでひとり不満を嘆く女性がいる。

 

「ちょっと、お父さん。どうして、私だけお酒はダメなの!?」

「真白、せめて今日くらいは大人しくしてなさい」

 

 お酒を注文しようとした村瀬先生に父親である校長がストップをかけたのだ。

 代わりに運ばれてきたウーロン茶を彼女は睨みつける。

 

「お酒に弱くて、毎回、酔い潰れて、また鳴海先生のお世話になるのが目に見えてるだろう。最初からジュースか烏龍茶にしておきなさい」

「うぐっ。でも、せっかくの飲み会なのに!」

「それとも、また鳴海先生にお世話になるのが目的かい?」

 

 校長の呆れた声に居酒屋内は大爆笑。

 彼女のお酒癖の悪さは皆の知る所である。

 

「な、なぁっ!? そんな事ないしっ。違うんだからね」

 

 親にからかわれた子供、いつになっても立場が変わる事はない。

 村瀬先生は顔を赤らめて拗ねていた。

 

「うぇーん。この人達、嫌いだ」

「よしよし。ほわちゃん、今度、別の機会にお酒を飲みにつれて行ってあげるから。ただし、私は優しいから真白ちゃん化したら他人事のように放って帰るわ」

「えー。結衣先輩、厳しいよ。全然、優しくないよ」

「……真白ちゃんの相手は私でも面倒だもの」

 

 拗ねた彼女はおつまみを食べ始めていた。

 和やかな雰囲気の中で、俺もビールを飲みながら村瀬先生に話しかける。

 

「ほら、拗ねないでください。これ、美味しいですよ」

「……食べる」

 

 俺が差し出した焼き鳥を食べる彼女。

 ……拗ねる姿は可愛い。

 

「俺、真白ちゃんも結構好きですけどね。可愛くていいじゃないですか」

「や、やめて~。今日はお酒飲まない、うん、そうする……」

「今度、ふたりで飲みに行きましょう。俺はちゃんと最後まで面倒をみてあげますよ。真白ちゃんは可愛いですから、えぇ、最後まで……はぁ」

「ため息つかないでくれる!?」

 

 年上なのに可愛らしい、それが俺が今の村瀬先生に抱いてる印象だ。

 最近になって素の彼女が分かってきた気がする。

 そんなやり取りを見ていた北沢先生が微笑む。

 

「鳴海先生ってお兄ちゃん属性あるわね」

「……はい?」

「頼りになるってこと。ほわちゃんは末妹だから必然的に、甘えられるよりは甘えたい。そう言う意味では甘えさせてくれる鳴海先生と相性がいいのかな」

 

 北沢先生の言葉に村瀬先生が動揺する。

 

「な、何言っちゃってるの?」

「あら、ほわちゃんだって、鳴海先生の事を気に入ってるんでしょ?」

「う、うぅ。違います、私は年下趣味じゃないのでーす」

「でも、俺と村瀬先生って実際は3ヵ月くらいしか違わないんですよ」

 

 俺が5月生まれ、村瀬先生は2月生まれ。

 学校の学年的にひとつ上だったから年上に思うが、年齢的には実際はほとんど変わらないのだ。

 社会人になれば、そういう学年の縛りも関係なくなるし。

 

「ほわちゃんとそう変わらないんだ。鳴海先生は年上と年下のどちらが好み?」

「俺は年齢はあまり関係ないです。美人かどうか、それが一番気になります」

「美少女ならロリ相手でオッケーなのよ、この人」

「村瀬先生、妙な印象を持たれる言い方はやめてください」

 

 余計なひと言をチクリ、俺の邪魔をしないでもらいたい。

 追加で来た揚げ物を村瀬先生の方に置いて、北沢先生と話をする。

 この美人とはお近づきにぜひなりたいのだ。

 

「ほわちゃんみたいな子はどう?」

「いいですけど。村瀬先生、俺と付き合う気ありますか?」

「入学式初日から生徒に手を出すような人は好みではありません」

「出してませんからっ!?」

 

 そこ重要、俺の人生に関わることになったらどうしてくれる。

 実際は俺達は恋愛関係に発展するにはまだまだ遠そうな感じだ。

 

「北沢先生はどうです? 好みのタイプ、興味あります」

「そうね、私は……」

「先生は先輩に変な幻想を抱いているようだけど、実は結衣先輩の好みは――はぐっ!?」

 

 何かをしゃべろうとする村瀬先生に北沢先生がいきなり唐揚げを口に放り込んだ。

 

「失言禁止。ほわちゃんはそれでも食べていればいいわ」

「むぐっ。あ、熱い、これ熱いよ!?」

「大人しくしてなさい」

 

 ……このふたりの立場関係、面白いな。

 気心しれた幼馴染、姉妹みたいな関係なのだと言うのがよく分かる。

 そして、気になる北沢先生の秘密とはなんだ……?

 村瀬先生の視線が俺の手元のビールに向けられている。

 

「お酒飲みます? 揚げ物にビールは美味しいですよね?」

「目の前で変な誘惑しないでよ。心が揺らぐじゃない」

「村瀬先生もノンアルコールならいいんじゃないですか?」

「……酔った感じがしないとお酒じゃない」

 

 酔うとダメなくせに、意外に文句の多い人である。

 

「何だか村瀬先生を酔わせたくなってきました」

「はっ、鳴海先生の目が野獣の目に!?」

「いいわよ、鳴海先生。私が許可します。やっちゃって」

「なんで結衣先輩が許可するの!? い、いや、お酒をこっちに持ってこないで~」

 

 慌てふためく村瀬先生をいじりながら、楽しい時間が過ぎていく。

 

「……うぅ、この人達、嫌な奴。意地悪な人嫌い」

 

 イジメすぎて、さらに嫌われてしまったようだが。

 

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