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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第6部:変わる未来 〈セカンドシーズン・学園編〉
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第3章:運命の人《断章2》

【SIDE:星野茉莉】


 この世界は楽しい?

 その質問の問いにイエスかノーかで答えると、私の答えは限定つきのノー。

 この町にいる限り、面白くも楽しくもない。

 海しか魅力がない町には刺激が何一つもない。

 田舎町の美浜町で生まれ育って15年。

 のんびりとしたこの町で暮らすと、普通につまらない日常しかない。

 飽き飽きとして代わり映えしない毎日に嫌になってうんざりしてる。

 高校卒業後は絶対に町から出て行ってやると心に決めていた。

 そんな私は運命を変えてくれる人に出会った。

 日々の生活に潤いと刺激を与えてくれる、素敵な日常の始まり――。

 

 

 

 

 高校生になったと言う実感を初めてのしたのは新しい制服を着て鏡を見た時だ。

 地味な中学の制服よりも、高校の可愛い制服だけは気にいっている。

 今日は入学式、朝から友達と宮内奈央(みやうち なお)と一緒に高校に登校した。

 愛称、みやちーは昔からの親友だ。

 私の家は旧家で、自分で言うのもなんだけどもお嬢様だったりする。

 だから、普通の子とは壁も作られたりするので、友人は多くない。

 初めての校舎を歩きながら、辺りを見渡す。

 

「みやちー。少し早く来すぎたかな。まだあんまり人がいないね」

「その辺でも歩いてみる?」

「そうしよっか。今日からここで3年間通うんだ」

 

 ここでの学校生活が始まるけれど、ドキドキも期待も何もない。

 何も期待していないって言うのが正解かもしれない。

 

「ねぇ、茉莉ちゃんって彼氏とか作らないの?」

「んー。だって、良い人いないし、高校に入っても、ほとんどが知り合いだから新しい出会いに期待するのはゼロでしょ」

「そこまでバッサリ言わなくてもいいのに。ほら、北沢君とかどう? 頭も良い上に容姿もよくて人気もある。それに優しい。良い男の子じゃない。どう?」

 

 北沢八尋、同じ中学でも周囲から評判の男の子だった。

 私も何度か話した事があるけども、誰からも好印象を抱かれる人だと想う。

 だけども、あの子には私の求める刺激はなさそうだ。

 

「ああいう真面目系って、つまらない感じがしない?」

「そうかな。そこが良いと思うけど。茉莉ちゃんは美人なのに、彼氏とか全然、作らないのがもったいない。恋とかしたことがある?」

「私にだって初恋くらいはあるよ。憧れ程度だったけどね」

 

 初恋は親戚の男の子、私が小学校を上がる頃には結婚してしまったけども。

 私は人を本当の意味で好きになった事はないかもしれない。

 

「そう言う、みやちーだって恋人はいないでしょ」

「残念でした。私は春休み中に初彼氏ができたのです」

 

 嬉しそうに笑う彼女。

 みやちーの携帯の待ち受けには見知らぬ男の子と二人で写る写真がある。

 

「嘘……いつのまに?ていうか、誰?」

「美浜第二中学の子だよ。今日から同じ高校になるから楽しみなんだ」

「えー。みやちー、どこで知り合ったの?」

「友達の紹介。春休みに遊んでたら互いに気になって、みたいな感じ?」

 

 彼女に恋人ができたなんて知らなかったし、思いもしていなかった。

 しかも、他校相手なんて……いつのまに出会いを求めてたんだ。

 

「なんかずるいなぁ」

「そう思うのだったら、茉莉ちゃんだって好きな人くらい作りなよ」

「……うーん。好きな人がいれば、私だって積極的になるんだけど。私ってね、多分、年上好きなんだ。だから、先輩とかが狙いかなぁ……」

 

 運命の人がいれば、私だって恋をしたい。

 恋に憧れる、その気持ちは私にだって人並みにあるのだから。

 校舎の中を歩きながら、私達は適当に見まわる。

 良い時間になったので、体育館に行こうとしていた。

 

「……あれ? あれ?」

 

 気がつけば、私は自分の携帯電話がない事に気付く。

 さっきまであったはずなのに、どこかに落とした?

 

「どうしたの、茉莉ちゃん?」

「まずいよ、携帯忘れてきた。多分、さっき、手を洗った場所かも」

「もうっ、何やってるの。すぐに取りに戻らないと」

「うん。でも、みやちーは先に体育館に行って。遅刻したらまずいでしょ」

 

 入学式までの時間的にはそんなに余裕もない。

 これは私の責任なんだし、彼女を巻き込む必要はない。

 

「みやちーまで遅刻なんて嫌だし。すぐに見つけて戻るから」

「分かった。遅れそうなら、先生に言っておくからね」

 

 みやちーと別れた私は走って来た道を戻る。

 幸いにも、手洗い場に置き忘れていた私の携帯電話はすぐに見つかった。

 

「よかった。でも、ここどこだろ?」

 

 今度は自分がどちらから来たのか、それが分からなくなってしまった。

 まだ慣れない校舎、どこに行けばいいのか。

 

「……迷子の私、どこ行くの?」

 

 独り言を呟きながら、とりあえずは1階を目指す事にする。

 1階に出れば、誰かに尋ねることもできるはず。

 

『――新入生の皆さん、体育館に集合してください。まもなく、入学式が……』

 

 校内放送がかかって、私は慌てて駆け足気味に階段を下りていく。

 

「入学式が始まっちゃう」

 

 一応、みやちーに報告しておこう。

 私が彼女にメールを打っていた時に事故は起こる。

 駆け足&メールに気を取られて足元を見ていなかった。

 

「……え?」

 

 ガクッと足を階段にひっかけて、私はバランスを崩す。

 しまったと思った時にはもう遅くて、思いっきり地面にお尻から落ちていた。

 転げ落ちるような高さじゃなくてよかったけども、お尻が痛い。

 こんな所、誰かに見られたら恥ずかしいなぁ……あ?

 私の視線の向こう、こちらにやってくる男の人。

 

「大丈夫かい?」

 

 うわっ、誰かに見られてた。

 ショックと恥ずかしさで私は赤くなる。

 でも、男の人の顔を見た瞬間に私は別の意味で顔を赤くした。

 この町にはいそうにない、カッコいい大人の男性。

 年は若いからまだ新しい先生かもしれない。

 彼を見た瞬間、私の中に今まで感じた事のない想いが芽生える。

 温かくて、心をときめかせる気持ち。

 見つけた、私の運命の人――。

 と、想いを強くした同時に、私の足に激痛がはしる。

 どうやら転んだ時に足をひねってしまったらしい。

 涙目になって痛みに耐えてると、先生が私の足に「悪いな、少し触るぞ」と言って触った。

 

「捻挫だな。落ちた時に足首を捻ったんだよ。ほら、立てるか?保健室に行こうか。肩を貸そう。どうした?傷が痛むのか?」

 

 ……優しいな、先生。

 私は彼に視線を奪われ続けていた。

 どうしよう、この気持ち……まさか私、一目惚れしてる?

 

「私、抱っこが良い」

「え? い、いや。歩けないほど痛いのか?」

「立てないほどに痛いから抱っこして?」

 

 私が甘える態度で彼に言うと困った顔を見せる。

 困らせてもいい、私に少しでも意識してもらえるなら。

 

「えっと……背中に背負うと言うので、手を打たないか?」

「いや。お姫様抱っこが良いよ」

「……ったく、甘えたがりなお嬢様だな」 


 ホントは冗談のつもりだった。

 けれども、優しい彼はそんな私の我が侭をすんなりと受け入れてくれる。

 彼に抱きあげられると、初めての経験なのでドキドキした。

 

「こんな風にされるのって、気持ちがいいね。まるでお姫様みたい。先生のお名前は?」

「鳴海朔也、一年の担当だ。もしかしたら、星野のクラスの副担任になるかもしれない」

「ホント!? 鳴海センセー♪」

 

 鳴海朔也、それが彼の名前なんだ。

 彼の腕に抱かれながら間近に彼の顔を見つめ続ける。

 そのまま保健室まで行く間、私の心臓の鼓動は高鳴ったままだった。

 

 

 

 

 幸いにも私の足は全治数日程度の軽い捻挫だった。

 湿布を貼ってもらうと、何とか自分でも立って歩ける。

 入学式を終えて教室に入ると、みやちーも同じクラスなので近付いてくる。

 

「怪我をしたって聞いたけど大丈夫なの?」

「あのあと、階段で転んだの。でもね、みやちー。私、恋をしたかもしれない」

「……えっと、階段で転んで怪我をしたのに、恋をしたって意味が分からない」

 

 私はさっきの出来事を彼女に話す。

 すると、何とも呆れた顔をされてしまった。

 

「茉莉ちゃん、恋愛経験が少ないとは言え……それはないわぁ」

「なんで、呆れ気味? センセー、本当にカッコイイよ?」

「そう言う問題じゃなくて。カッコいい人に助けられたくらいで恋をする?」

「それは違う。私がいいなって思ったのは一目見た時からだから。怪我をした所を助けてくれて、よけいに好きになったって言うのが正しい」

 

 人を好きになったのは初めてだから、どこからが恋って言うのはよく分からない。

 でも、今の私は強く彼を想ってる……これは恋なんだとその気持ちだけは確信できる。

 

「相手は先生だし、少女漫画のシチュじゃないんだから、相手にもされないってば」

「それは分かってるけど。何とか振り向かせたいって思わない?」

 

 最初から無理と諦めるのは面白くない。

 

「鳴海センセーをどうにかして私に振り向かせたいな。とりあえず、先制攻撃しとく?」

 

 もし、またセンセーにあえたら告白でもしてみようかな。

 つまらないと思っていた高校生活。

 思わぬ所から私は楽しみになりはじめていた――。

 

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