第2章:屋上の夕焼け《断章2》
【SIDE:鳴海朔也】
屋上で村瀬先生と雑談をしていたら、思わぬハプニング発生!
鍵を閉められてしまい、出られなくなってしまったのだ。
「う、嘘、閉じ込められちゃった?」
俺も代わって扉を開けようとするが中から鍵をかけられてしまった様子だ。
「今日の見回りって確か教頭先生でした」
「……うわっ、あの人かぁ。多分、春休み中で生徒も屋上にいないだろうって確認もせずに鍵をかけちゃったんだなぁ。普段は偉そうに人を注意するくせに自分の時は適当じゃん。ここを出たら文句を言ってやるんだから!」
教頭に対して普段から不満があったらしく村瀬先生は怒る。
同感なのだが、立場の弱い俺には真似できないわ。
「教頭に言ったら、学生みたいに屋上で何やってたんだって逆に怒られませんか?」
「うっ、あの人ならありえる。もう最悪だぁ。今、誰か職員室に残ってないかな」
「残念ながら俺が帰る時にはすでにほとんどの先生が帰ってましたね」
時計を見ると夕方の6時前、春休み中は定時に帰れる事が多い。
職員室に残っていると思われる先生はかなり少ないはずだ。
「どうしよう、どうしようぉ」
慌てふためく村瀬先生。
俺達はどうしようもなく、屋上から下を眺めるが、誰もいない。
辺りは夕暮れ、もうすぐ暗くなるだろう。
そうなると、人が助けに来るのは全くなくなってしまう。
「そうだ、職員室に電話をすれば……」
俺は携帯電話を探そうとスーツのポケットを確かめる。
だが、ポケットにあるべきはずの感触がない。
「あっ、しまった。なんでこんな時にないんだ」
そうだ、携帯は鞄の中にいれっぱなしだった。
いつもなら、いれておくのにこう言う日に限って違う行動をしてしまう。
ホント、タイミングが悪い時ってあるよな。
「……先生もないの? 私も職員室に置きっぱなしなの」
「マジッすか」
まったく2人そろって運がない事に、同時にため息をついた。
「はぁ……」
閉じ込められてしまい、身動きが取れないままだ。
とりあえず、俺は何とかしようとフェンスをよじ登る。
「鳴海先生、危ないわよ」
「いえ、ここから職員室を覗くだけです」
屋上の真下を覗くような形になり、職員室を確認する。
幸いにもまだ電気がついていた。
「よかった……まだ誰か先生はいるはず」
職員室から出てきた所を、叫べば気付いてくれるだろう。
俺はフェンスから降りると、おどおどとする村瀬先生に言う。
「職員室に誰かまだ残ってるみたいです。これなら、誰かが通るのを待っていればいいでしょう」
「だったらいいんだけど。……気付かれなかったら明日までここ?」
そうなると、非常にまずい。
こんな場所でお泊りなんてのはごめんこうむる。
俺達はフェンスの下を見下ろした状態で待機するしかない。
「風が出てきた。村瀬先生、寒くないですか?」
「……少し寒いかも」
春先なので、まだ夜の気温は高くないのだ。
日が沈み始めた事もあり、辺りは薄暗い。
俺は自分の着ているスーツの上着を村瀬先生に渡した。
「どうぞ、村瀬先生。その姿じゃ寒いでしょ」
「ありがとう。でも、先生は?」
「俺は大丈夫ですよ。俺が見張ってるので、座っていてください」
「……こう言う時、男の子っぽくて頼りになるね」
俺は彼女に微笑しながら「普段から頼りにしてください」と明るく言った。
疲れた様子でフェンスにもたれるように座る彼女。
「……明日から新学期なのに、何やってるんだろうね、私達」
「同感です」
後悔してもどうにかなる事ではない。
気分を紛らわせるために俺は何か話題を探す。
「そう言えば、北沢先生と幼馴染って言ってましたけど、彼女はどういうタイプの人なんでしょうか? 人当たりは良さそうな感じでした」
「結衣先輩? 先輩は面倒見のいいタイプだね。小さい頃はよく近所の子供たちのお姉さんとして皆が周囲に集まってたの。私もその一人。私は兄ふたりでお姉ちゃんがいなかったから、ずっと姉のように慕っていたわ」
「いいですね、そういうのって」
俺の場合は周囲には同年代の子ばかりがいた。
兄妹もいないので、兄貴や姉には憧れたものだ。
「鳴海先生は兄妹はいる?」
「いません。俺は一人っ子です。東京にいた頃は近くに住んでいた従妹が本当の妹みたいに慕ってくれていましたけどね。俺も兄か姉は欲しかったですよ」
子供心に頼れる年上と言うのは憧れた。
誰かに頼られるのもいいが、時には頼りたくもなる。
「結衣先輩がここに来るなんて思わなかった。彼女、前は隣街の高校の教師だったの。同じ職場で働くことになるなんて」
「よかったじゃないですか」
そういや、北沢先生には秘密があるって言ってたな。
「あの美人さんの秘密は何でしょう?」
「きっと、鳴海先生も驚くよ。うん、少なくとも私はあれはある意味“欠点”みたいなものだと思ってる。悪いとは言えないけども、度が行き過ぎてる感があるんだよね」
彼女を慕う村瀬先生が呆れてる。
……どんな趣味か、秘密があるのか余計に気になるではないか。
「美人の秘密は気になります。村瀬先生で言うと“真白ちゃん”並ですか」
「――真白ちゃんって言うなぁ、真白パンチ!」
「げふっ!?」
どんな攻撃だ、それは……。
意地悪な男にはそれ相当の仕返しをくらいました。
「わ、私をそう呼ぶのは本当にやめてくれないかなぁ? 気にしてるんだから」
「……可愛いのに。それでは、ほわちゃんで」
「やだ。鳴海先生に言われると嫌だっ」
あからさまな拒否反応。
嫌がると思っていたが、そこまで嫌がられるとは思わなかったぜ。
これ以上、彼女をいじめるのはやめておこう。
「いつか鳴海先生の弱みを見つけてやるわ」
「あぁ、俺の弱みは美人です。それ以上のものはありません」
「……こいつ、嫌な奴。こいつ嫌い。誰かに刺されればいいのに」
ついに嫌われた!?
俺に対して白い目で睨みつける彼女、いじめすぎは要注意です。
そんなやり取りをしていると、運動場を歩く影を見つける。
「あれは……誰かいる? おーい」
ようやく見つけた人影に声をかけた。
屋上に閉じ込められて1時間。
自宅に帰ろうと通りがかった校長に救助された。
校長には「大人ふたりが何やってるんだ」と心底呆れられてしまったが。
本当にご迷惑とお手数をおかけしました。
「ふぅ、無事に帰れてよかった。腹減った。神奈の店に直接行くか」
俺が帰路を歩いていると、砂浜を犬と散歩している少女をみかける。
彼女は俺のよく知る女の子、望月要だった。
「よぉ、要。またワンコの散歩か?」
「鳴海先生。お疲れ様です、今帰りですか?」
「あぁ。ちょっといろいろとあってな」
本当にいろいろとあった1日だった。
足元にすり寄ってくる飼い犬のトイプードル、名前はスピカだ。
「ワンっ」
「おー、スピカ。お前はいつもぬいぐるみみたいだな。いいもの食ってるか?」
「くぅーん」
頭を撫でてやると舌を出して、こちらを見上げる。
望月要はロイヤルホテルの経営者の娘であり、俺が顧問をしている天文部の部長であるため、生徒として親しい。
「新学期になったら、天文部のメンバーを集めなきゃいけないな」
「はい。ふたりがやめちゃって困ってます」
春休み最後の天文部の活動で、橋爪と木下という女の子達がやめてしまった。
ふたりとも3年になると言う事で受験勉強に専念したいと、早めの引退をしたのだ。
……そう言う理由なら止める事も出来ず。
天文部は再び、廃部の危機に陥ってしまっている。
「要は最後まで続けるんだな」
「せっかくの楽しい部活動ですから最後まで続けたいです」
「これで要にまでやめられると本当に廃部で困る」
「私はやめませんよ。先生にはこれからも天文部の顧問をお願いしますね」
彼女は柔らかな微笑みを見せて言う。
以前に比べてずいぶんと明るい顔を見せるようになったものだ。
「今年もまたメンバー集めが大変だ」
「……去年は先生に救われましたから。今年は迷惑をかけないように早めに頑張ろうと思っています。新入生で星に興味を持ってくれる人がいればいいですね」
「だな。千津や桃花ちゃんにも頑張ってもらおう」
残った部員3人で部員集めをしてもらう。
俺があまりでしゃばるのは、よろしくない。
「今年も1年の国語を担当するから、興味ありそうな子がいたら誘ってみるよ」
「えぇ、お願いします」
教師って言う仕事はこうして生徒と触れ合う事もひとつだ。
大変だけどもやりがいがあって、満足している。
「もう暗くなってきている。気をつけて帰るんだぞ」
「はい。それでは、明後日の新学期にお会いしましょう」
要とスピカを見送り、夜の砂浜を眺めながら神奈の店へと歩いて行った―。