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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第6部:変わる未来 〈セカンドシーズン・学園編〉
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第2章:屋上の夕焼け《断章1》

【SIDE:鳴海朔也】


 新学期も間もなく、4月に入ると慌ただしい日々になる。

 俺はその日、朝から入学式の準備をしていた。

 こんな雑用は下っ端な俺の役目だったりする。

 

「鳴海先生~。こっちの作業終わりましたよ」

「おっ、早いな。あとは椅子の方を並べてくれるか?」

「分かりました。皆でさっさと終わらせてしまいましょう」

 

 手伝いさせられている生徒達が体育館に準備をしていた。

 まだ春休みもあと少し残ってるのにご苦労なことだ。

 

「鳴海先生、いいかな?」

「はい、白井先生。どうかしましたか?」

「体育館の倉庫の鍵を預かってないかい? 先生が持っているって聞いたんだけど」

「預かってます。こっちにあるので少し待っていてください」

 

 忙しく体育館を駆けまわり、入学式の準備を進めていく。

 朝からお昼くらいまでぶっ通しで作業を続けた。

 大変面倒な準備作業を終えて、俺が職員室に戻ると見慣れぬ美人なお姉さんがいた。

 

「貴方が噂の鳴海先生? H大出身の若い先生がいるって聞いたんだけど」

「はい、そうですけど」

「初めまして、私は今度、赴任してきた北沢結衣(きたざわ ゆい)よ」

「こちらこそ、初めまして。鳴海朔也です」

 

 職員室での視線をくぎ付けにする北沢先生。

 かなりセクシーな色気のある容姿。

 スタイルも抜群によく、つい胸元に目線が向いてしまう。

 ……美人が来ると聞いてたが想像以上だぜ。

 これは男子生徒諸君には憧れる存在になるだろう。

 

「数学を担当する事になっているの。鳴海先生、よろしく」

 

 差し出されたその手を俺は握手する。

 美人ににっこりと微笑まれると見惚れてしまいます。

 北沢先生は25歳、俺の2歳上だな。

 隣街の高校から赴任してきたらしい。

 教師っていうのは転勤がよくあるので、慣れてきた頃に飛ばされる可能性がある。

 

「鳴海先生って村瀬先生と仲が良いって聞いたんだけども、付き合ってたりする?」

「違いますよ。村瀬先生とそう言う関係ではないんです。彼女と知り合いですか?」

「ほわちゃんとは幼馴染なの。家も近所だから仲が良かったわ」

 

 北沢先生は美浜町に住んでおり、村瀬先生と長い付き合いらしい。

 

「先生はこの美浜高校の出身者ですか。俺は中学までこっちにいましたが、卒業後に親の転勤で東京に行ったんです。だから、高校も向こうでしたね」

「そっか。ここに来たのは久し振りだけど、全然変わってなくて安心したわ」

 

 妖艶な微笑に俺のテンションは上昇中だ。

 

「くすっ。鳴海先生みたいなカッコいい人がいるといろいろと面白くなりそうね」

 

 おおっ、何やら好意的な印象の予感……がするぜ。

 ちなみに、なぜ村瀬さんが“ほわちゃん”と呼ばれているのかと聞いてみた。

 

「ほわちゃん? 友達からは昔からそう呼ばれてたわよ。あの子の名前、真白じゃない。白=ホワイトでほわちゃん。小学校時代からの愛称で、親しい友人からはそう呼ばれてるわ」

「……なるほど」

 

 でも、俺が呼んだら嫌がりそうだな。

 彼女と雑談をしていると職員室に村瀬先生が戻ってきた。

 

「久しぶりね、ほわちゃん」

「……あれ? ゆ、結衣先輩!?」

 

 北沢先生が職員室にいた事に彼女は驚いていた。

 彼女は知らされていなかったらしい。

 

「もしかして、新しく来る先生って、先輩だったの?」

「そうよ。隠していてごめんなさいね。貴方を驚かせたくて」

「びっくりだよ、先輩~。もうっ、教えてくれてもいいのに」

 

 笑顔の彼女達を見ていると本当に親しいのだと見て分かる。

 

「ホントに仲が良いんだな」

 

 俺にとっては神奈や斎藤みたいな関係なんだろうか。

 楽しそうに会話していた北沢先生は校長に呼ばれて校長室に行ってしまう。

 タイミングを見計らい、俺は村瀬先生に尋ねてみる。

 

「北沢先生と昔から仲が良かったと聞きましたけど」

「幼馴染のお姉ちゃん。高校卒業以来、あまり会う機会は少なかったけども、まさかこっちに赴任してくるなんて驚いたぁ」

「彼女、すごく美人ですよね。綺麗な女性は素敵で大好きです」

 

 北沢先生みたいな年上美人もまた好みの範疇ではある。

 ものすごく色っぽくていいじゃないか。

 

「美人大好きな鳴海先生はすでに手を出す気満々?」

「あはは……まぁ、美人に弱いのは事実ですけど」

 

 俺に対して呆れた声で彼女は言った。

 

「先輩に手を出すのはダメだからね? それにあの人を攻略するのは相当に難しいと思うよ。だって、あの人は昔から……」

「むむっ。北沢先生に何か秘密が?」

「……それは、まぁ、秘密にしておくわ。いずれ分かる時がくるかもね」

 

 あいまいな言葉で誤魔化されてしまった。

 何だろう、美女の秘密……実に気になりますぞ。

 

「とにかく、先輩に余計な事はしないように」

「それなら、村瀬先生ならいいんですか? 俺は先生でもOKですよ?」

 

 冗談めいた口調で言うと「私もダメです」と軽く頭をはたかれてしまった。

 中々にガードの堅い人である。 

 

 

 


 その日の夕方、俺は校舎で教頭に押し付けられた雑用をこなしていた。

 宅配便で届いたばかり備品の袋を両手に抱えて倉庫の空き教室まで移動中だ。

 ええいっ、さっさと帰っていればよかったのに教頭に捕まったのが悪かった。

 雑用ってのは若手教師の宿命だな。

 

「鳴海先生。さよなら~」

「おぅ、明日で春休みも終わりだから新学期も頑張れよ」

「うん。またねー」

 

 生徒達が続々と部活を終えて帰宅して行くのを見送る。

 もうすぐ新学期、明日は入学式、明後日からは始業式なのだ。

 目的地の教室につくと、俺は両手の荷物をおろして、棚に並べていく。

 仕事を終えて埃臭い教室から逃げるように足早に立ち去る。

 

「さぁて、帰るか。春休みも終わりでまた忙しくなるな」

 

 新学期となれば、必然といろいろと忙しくなる。

 こんな風に落ち着いてる時間もしばらくはさよならだ。

 

「……あれ?」

 

 廊下を歩いていると、屋上へ向かう階段を上がる人影を見つける。

 こんな時間に誰だろうか?

 俺は気になって、その後を追い、屋上に行くと風に髪をなびかせる美人がひとり。

 

「村瀬先生、こんな時間に何やってるんですか」

「鳴海先生だ。あれ、今日は見回り?」

「違います。教頭先生に頼まれた雑用をしてただけです。先生は?」

 

 彼女はフェンスに持たれると、眼下に広がる光景を見下ろした。

 校門付近には見頃を終えて散り始めた桜の木々が見える。

 

「ただ桜が綺麗だなぁ、とか見たかっただけ。ここから見る景色ってのは、私が好きな場所でもあるんだよ。高校の時から、たまにここにきてたっけ」

「……先生って黄昏れるのが好きですよね?」

「何も考えずにいられる時間っては好きだよ」

 

 この前もひとりで夕焼けを見ていたのを思い出した。

 夕焼けの朱色に染まる桜並木、ゆっくりと太陽が沈んでいく。

 

「そうだ、先生の高校時代ってどんな子でした?」

「私? んー、普通の生徒だったと思うけど? 結衣先輩と同じテニスの部活をしていたの。部活優先で恋愛とかも、あんまりしていなかったし。思えば、地味な方だったかなぁ。あの頃に戻れるなら、もっと青春楽しめばいいのにと言ってあげたい」

「大人になって分かるんですよね、青春の大切さって」

「そうそう。生徒達を見てると、もったいないって思ったりするわ。あのくらいの年頃じゃないとできない事も多いのに」

 

 青春の大切さ。

 学生時代にできた友人は大抵長い付き合いなったりするしな。

 未だに学生時代の出来事は思い出として友人と語り合う事がある。

 たった数年の学生時代。

 だが、人生でも大きな価値のあるものだと大人になって思い知る。

 

「鳴海先生の高校時代って容易に想像できそう。女の子と楽しく遊んでたでしょ」

「……正解です」

 

 あっさりと当てられて苦笑いで答えておく。

 実際、部活もしていなくて、遊んでばかりの毎日だった。

 今になって俺も部活くらいやっておいたらもっと思い出もあったんだろうか。

 俺も友達のように女の子の水着目当てで水泳部に入っておくんだった。

 ……そんなことを考えて後悔してみたり。

 

「そういう先生は学生時代に彼氏とかいたんでしょう?」

「ふふっ、想像に任せるわ」

「……想像しました。うわぁ、先生って意外に大胆だったんですな」

「みょ、妙な想像はしないで!? ふつうの学生でした!」

 

 慌てた彼女に怒られてしまった。

 村瀬先生の過去については北沢先生においおい聞いてみればいいだろう。

 

「さて、と。いい時間になってきたし、帰りましょうか」

「春とはいえ、夕暮れ時は肌寒くなってきますからね」

「私としては花粉症の季節が終わってくれた事が何よりよ」

「自分は影響がないからいいですが、ひどい人は大変らしいですね」

 

 俺達は屋上から帰ろうと扉のドアを開けようとする。

 ――ガチャ、ガチャ。

 

「……あ、あれ? え?」

「どうしました、村瀬先生?」

「う、嘘……ドアに鍵がしまってる。も、もしかして……私達、閉じ込めれた?」

 

 顔を青ざめさせて戸惑う村瀬先生。

 思わぬハプニング発生。

 屋上の扉の鍵を閉められてしまったらしい――。

 

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