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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第6部:変わる未来 〈セカンドシーズン・学園編〉
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第1章:舞い散る桜《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 村瀬さんと山桜を観賞していた。

 桜の巨木はいくら見ていても飽きない。

 食事を終えると、村瀬さんが俺に言った。

 

「東京にいた頃はこんな風に落ち着いて桜を見る事はなかったなぁ」

「同感ですね」

「東京の桜を見る宴会っていうとごちゃごちゃしてたわよね。やっぱり、桜は落ち着いてみるものだって思う」

「先日の宴会も似たようなものでしたが」

 

 俺の一言に彼女は顔を真っ赤にさせる。

 

「う、うぅ……あれは、その……」

 

 そう、3日前くらいの事である。

 俺達は学校の仲の良い先生方とお花見の宴会をした。

 すると、またしても去年の悪夢再来とばかりに村瀬さんはやりおった。

 

「村瀬さんって酔うと子供みたいになります」

「いやー、やめてー」

 

 耳をふさいで、嫌がる彼女。

 彼女は酔うとすごく可愛くなる。

 何しろ、一人称が“真白ちゃん”になるのだ。

 その夜も、村瀬さんを家まで送り、去年と同じような展開を迎えた。

 

「……真白ちゃん」

「いやー、いじめないで!?」

「可愛いですけどね。普段の時にそう呼んでもいいですか?」

「お願いだからやめて。あんまり覚えてないけど、いつも友達からも言われるの。何で、後輩の前で失態ばかりするかなぁ」

 

 自分の失態に落ち込む彼女。

 酔うと冷静になるタイプ、笑い上戸に泣き上戸、彼女みたいな子供っぽくなったり。

 酔った状態って言うのは人それぞれ違って面白い。

 深層心理と言うのか、本当の彼女は意外と可愛い性格なのかもしれない。

 普段からは想像できないけどな。

 

「鳴海君は女の子をいじめるのが本当に好きだなぁ」

「それはよく言われるます。俺は女の子に意地悪なんだって。そうなのかもしれませんね。女の人を意地悪して困ってるのを見るのは楽しいです」

「……さらりと笑顔で言うなんて嫌な人だ。この人、嫌い」

「冗談ですよ、冗談。さすがにそこまでひどいやつじゃありません」

 

 俺が笑顔で言うと彼女は「絶対、本気だわ」と警戒されてしまう。

 実際のところはどうなのだろうか。

 相手の気を引きたくて意地悪する、まるで子供だな。

 だけど、どうやら俺はそういう子供じみた性格も昔からあるらしい。

 そよ風が吹いて、村瀬さんの茶色の髪に花びらがついた。

 

「少しジッとしていてくださいね」

「え? あ、うん」

 

 俺がそれを払ってあげると、彼女と顔が近づいた。

 分かってはいたが、彼女は綺麗な顔立ちをしている。

 こうしてじっくり見つめると改めて見惚れる。

 あまり派手めではないけども、美人と呼ぶにふさわしい。

 

「……ていっ」

 

 なぜか、見つめ合っていたらおでこを指先で攻撃された。

 いわゆるデコピンってやつだ。

 

「痛いっす。何をするんですか?」

「見つめられると、身の危険を感じてつい……」

「何もしませんって。少しは信頼してください」

「教師の後輩としては頼りにもなるし、信頼もしてるわ。けれど、鳴海朔也と言う“男の人”としての信頼はまったくしてませんっ」


 はっきり言われたら傷つくよ!?

 後輩として信頼されても男としての信頼がないのは辛い。

 

「少しくらい男としての信頼もして欲しいものです」

「無理~。自分のさっきの発言を思い出してよ」

「えっと……真白ちゃん?」

「ち、違うってば!? そのネタ禁止! それはもうやーめーてー」

 

 満開の桜と午後の陽気。

 木漏れ日をあびながら、照れて悶える彼女が可愛かった。

 

 

 

 

 桜を見終えて、俺達はバイクに乗って美浜町に戻ってきたのだが、アクシデント発生。

 どうにも山を降りてから、バイクのタイヤ付近がぐらつく感じがし始めた。

 

「鳴海君、どうしたの?」

「バイクの足まわりに違和感が……故障か?」

「タイヤ回りかな? 原因は分からないけど、まだ動きそうね。ここなら私の家が近いから来て。バイクを見てあげるわ」

 

 俺が村瀬さんの家につくとちょうど、うちの高校の校長先生が庭の水やりをしていた。

 校長は村瀬さんのお父さんなのだ。

 白髪まじりの髪に口髭が似合う、好々爺という印象が強い。

 

「おや、おかえり。真白、鳴海先生と一緒に出かけてたのかい?」

「まぁね。ガレージ開けるからそこをどいて」

 

 ガレージを開けると、村瀬さんはバイクを中に入れるように言う。

 

「たまにはメンテしてる?」

「自分で出来る範囲ではしてますけど」

「んー、パーツの劣化かなぁ。この子のタイヤの部品を前に代えたのはいつだっけ」

 

 元々、このオートバイは村瀬さんのものだ。

 使っていない愛車を譲ってもらった事もあり、扱いに関しては彼女はよく分かっている。

 ガレージの中にはバイクのパーツや道具が置かれていた。

 

「真白。バイクが故障でもしたのか?」

「そうみたい。お父さん、鳴海君を中にいれてあげて。適当に話でもしておいてよ。すぐに直せそうなら直してしまうから」

 

 バイク修理を手伝おうと思うが、彼女の方が詳しいので邪魔になりそうだ。

 村瀬さんはすぐにも作業に入ってしまう。

 

「そう言う事なら、お茶でもいれよう。どうぞ、鳴海先生」

「は、はい……」

 

 そう言われて、俺は思わぬ形で村瀬さんの家に入ることになった。

 立派な家で、俺は少し緊張しながらも応接間に通される。

 やがて、彼は紅茶のカップを俺の前に置いた。

 

「紅茶でいいかな。僕が淹れられるのはこれくらいでね」

「いえ、ありがとうございます」

 

 校長とふたりっきりになるのは数えるほどしかない。

 彼には人当たりのいい印象がある。

 

「真白は年が近い鳴海先生とは親しくしているようだね」

「お世話になっていますよ。先輩として頼りにさせてもらっています」

「教師としてはまだまだあの子も未熟だよ。まぁ、それは時間が経てば誰だって慣れるものだ。僕は鳴海先生のように優秀な人がこんな田舎の高校に来てくれた事に感謝している。大変だろうが、これからも頑張ってほしい。期待しているよ」

 

 教師と言う仕事は一年目が肝心だと言われている。

 想像以上の大変さに一年目でやめてしまう人が多いのも現実だからだ。

 

「それにしても真白の趣味は女性らしくなくて困る。普通、あのくらいの年の子はああいうバイクに乗ったりしないものだろう?心配ではあるが、好きにさせてしまう。あの子は私が年をとってから生まれた子なのでつい甘やかせてしまうんだよ」

「なるほど。村瀬さんに兄弟はいるんですか?」

「あぁ。少し離れているが兄がふたりいるよ。ふたりとも今は都会の方に出て行ってしまっている。真白も東京の大学に行っていたから、ここに戻ってくるとは思わなくてね」

 

 彼女いわく、就職先が決まらずに校長の誘いもあってこの町の教師になったらしい。

 だが、校長の口から語られたのは思いもよらぬ言葉だった。

 

「あの子は僕達、夫婦のために戻ってきてくれたんだよ。就職先としてうちの学校に教師として面接に来たのが、あの子だったのには本当に驚いたものだ。東京暮らしに慣れて、もう戻ってくる事がないと諦めていたものさ」

 

 俺はふと彼女と最初に出会った時の事を思い出した。

 実際の所は、ちゃんと親を想っての帰郷だったわけだ。

 

「僕達のために戻ってきてくれた。真白の気持ちは素直に嬉しかったな」

「親思いの方なんですね」

「ははっ。本人は素直じゃないけれど。真白は優しい子だが、それを表に出すのを恥ずかしがる。照れくさいと言うのだろうか、少しばかり不器用なタイプだ。私としては可愛い娘である事に代わりはない」

 

 村瀬さんも親思いで、いい家庭なんだと思う。

 

「鳴海先生はあの子と気が合うようだ。これからも仲良くしてあげてくれ」

 

 俺は頷いて答えると、「お付き合いを認めるかどうかは分からんがね」と笑われる。

 しばらく雑談をしていると、村瀬さんが疲れた様子で声をかけてきた。

 

「鳴海君、修理が終わったよ。やっぱり、パーツの劣化みたい。早めに気付いてくれてよかった。新しいのに代えて直しておいたから、一度乗ってみて」

 

 俺は校長に紅茶の礼を言ってからリビングを立ち去る。

 ガレージには修理したてのオートバイ、どうやら他もメンテしてくれたようだ。

 

「修理してもらって、ありがとうございます。いい感じですよ、このバイク。前よりも調子もよさそうだ。そう言えば、村瀬さん」

「なぁに?」

「村瀬さんの事、少し誤解してたかもしれません。ずいぶんと親思いの方なんですね」

 

 俺の発言に彼女は最初はきょとん、とワケも分からない表情をしていた。

 だが、先程の校長との会話で何かがあったのだと察すると顔を赤らめる。

 

「ち、違うんだからね? 別に私は……。うぅ、やっぱり、鳴海君は意地悪だわ」

 

 俺は彼女に、親思いで恥ずかしがりやな一面がある事を知った。

 ……村瀬さんと言う女性は俺が思っている以上に“優しい人”なんだな。

 

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