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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第5部:私だけの太陽 〈大学生編〉
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第3章:夢の始まり《断章3》

【SIDE:一色千歳】


 私にとって大きな決断。

 自分の夢を追い続けるために。

 留学という選択肢を選んだ事に後悔はない。

 けれども、大好きな朔也ちゃんとの別れは寂しくて。

 不安も大きくて、どうしようもない気持ちを胸に抱いていた。

 遠距離恋愛はダメになりやすい。

 そんなのは想像しなくても分かる。

 私だって、ずっと傍にいたいよ。

 でも、アメリカに行く事に決めたのは彼の後押しもあったから。

 応援してくれる気持ち。

 それが嬉しくて、私は夢を叶えるための留学を選んだんだ。

 私は翻訳家になりたい。

 小さな頃から家にはお父様の好む海外の著書の本がたくさんあった。

 海外もの本などの難しい文章を翻訳していく、翻訳家と言う職業に憧れたのも小さな頃からだった。

 同じように朔也ちゃんにも教師になりたい夢がある。

 夢を持つ者同士、惹かれあい、応援し合ってきた。

 朔也ちゃんも夢を目指すために努力してるし。

 私は留学と言う道を進んで翻訳家になるために頑張っていた。

 正直、この1年と言う月日は長くもあり、短くもあったように感じる。

 慣れない海外の生活。

 いくら英語が堪能でも、生活の雰囲気も、しきたりも何もかもが違う。

 新鮮味はあるけども、大変な毎日を過ごしていた。

 日本とアメリカ、本当に遠い距離の恋愛。

 朔也ちゃんとの関係に不安もあったけども、彼は私の心の支えだった。

 それでも、私も忙しくなり始めると連絡したくても連絡できない日々が続く。

 薄々は感じていた。

 朔也ちゃんの中で私への心変わりがあるんじゃないかって。

 私の事なんて、もういらないって言われちゃうんじゃないか。

 恋人解消、破局、嫌な事ばかり考えてしまう不安。

 そんな我慢を続けていた日々の中で、彼との電話の最中に私は泣いてしまった。

 辛くて、寂しくて、彼に会いたくて。

 朔也ちゃんは私にとっては太陽だもん。

 いつも私を照らしてくれる存在。

 優しく見守り、愛してくれる大切な人。

 絶対に失いたくない。

 彼もまた、私を大事に思い続けてくれていた。

 

『千歳、お前が帰ってくるまで俺は待ってるからな』

 

 朔也ちゃんは私を励ましてくれた。

 私との関係を続けてくれる意思を示してくれた。

 私は本当にいい人と付き合えていると思う。

 留学してる間に私が学び、得た知識や経験はかなり大きなものだった。

 今回の留学で私はちゃんと成長できた事を自覚できていたもの。

 やっぱり、この決断は間違いじゃなかった。

 早く、日本に帰って朔也ちゃんに会いたい。

 

 

 

 

 そして、1年という月日は流れて、私はアメリカから日本に向かう飛行機の中にいた。

 

「うぅ、信じてたのに」

 

 座席に座り、窓の外の雲海を眺めながら私は頬を膨らませて拗ねていた。

 飛行機に乗る直前、友人から情報を手に入れたの。


「朔也ちゃんが浮気してたかもって……そりゃ、するよね」


 実のところ、信じていると言いながらも信じれきれていなかった。

 だって、あの朔也ちゃんだもん。

 不安は的中、彼の女癖の悪さだけはどうしようもない。

 何て言うのかな、女の子からとにかく彼はモテる。


「性格も優しくて、カッコいいし……それゆえに、朔也ちゃんの周囲には女の子が多いからずっと心配だったのに」


 付き合ってみて、本当に人気がある事に思い知らされた。

 私がいない間、浮気しないのは無理だろうって。

 

「でも、信じてたのにー!」

 

 私はそう呟きながら悶々とした怒りを覚える。

 日本に帰ったら朔也ちゃんを問い詰めて、怒って……許してあげるつもりだ。

 だって、悪いのは私のせいでもあるから。

 私の我がままで留学して、一年も傍にいなかったんだもの。

 それを待ってくれていた。

 それだけでも感謝する事で、嬉しい事だ。

 

「……早く日本に帰りたい。朔也ちゃんに会いたいよ」

 

 まもなく、日本の空港が近付いている。

 アナウンスが流れて、私は窓の外から夜景を見ていた。

 雨が降りしきる真っ暗な空。

 そして……一瞬で、その世界が一転する。

 

「きゃっ!?」

 

 激しく飛行機内が揺れたと思うと、何かの爆発するような音がした。

 

「な、何?」

 

 翼が燃える炎が窓の外に見えた。

 その様子を見ていた人々が一斉に叫び声をあげる。


「な、なんだ!? エンジンから火を噴いたぞ!?」

「落ちる、このままじゃ飛行機が墜落するぞ! 何かに掴まれ」

「お母さん、お母さん!?」

「い、いやぁ。誰か……たすけ――」


 周囲の人々の騒ぐ声、パニックに陥る機内。

 私は不安と恐怖で身動き一つできないでいた。

 そして、大きな衝撃が私たちに襲いかかる。


「きゃっ!?」


 縦にも横にも揺れる機内を私達は吹き飛ばされてしまう。

 飛行機が不時着する瞬間、私は朔也ちゃんの顔を思い出す。

 いやだよ、死にたくない。

 

「――朔也……ちゃん――!?」

 

 怖いよ、怖い。

 私は彼の名を呼びながら、床に叩きつけられて気を失った。

 

 

 

 

 私が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。

 見慣れない天井に薄く眼を見開いて、私は呟いた。

 

「……ここは……どこ?」

 

 やがて、看護師の人が気付いて先生を呼びに行く。

 どうやら、私は病院に入院しているみたいだ。

 しばらくして、家族が病室を訪れて事情を説明してくれた。

 数日前、私の乗っていた飛行機は着地の際、エンジントラブルで着陸に失敗。

 機体は炎上して多くの死傷者を出した事故にあった。

 多くの人々が負傷したように、私の怪我もひどくて、両足を骨折していた。

 目が覚めてから数時間後、朔也ちゃんが病室にやってきてくれた。

 

「千歳……本当によかった。生きてくれていて、よかった」

 

 安堵する彼に手を握り締められた。

 

「……朔也ちゃん」

「あの事故はひどかったんだ。本当に、ひどくて……」

 

 運が悪ければ私も死んでいたかもしれない。

 そういう恐怖を抱いてしまう。

 

「私は大丈夫だよ、朔也ちゃん。こんな形になったけども……ただいま」

「あぁ、おかえり。千歳」

 

 恋人との再会。

 こんな風な再会にはなったけども、1年ぶりの朔也ちゃんの手の温もりは変わらなかったんだ。

 

「1年間、待っていてくれてありがとう……」

 

 飛行機事故からの生還に周囲は喜んでくれた。

 だけど、この事件が私と朔也ちゃんの関係を大きく変えてしまう事になる。

 そして、私自身の運命、人生さえも……。

 そんな現実が待ち受けているなんて、まだこの時は思いもしていなかったの。

 

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