第2章:太陽に恋して《断章1》
【SIDE:一色千歳】
私が朔也ちゃんと出会ったのは、大学の中庭。
大好きな花を眺めていた私に彼は普通に接してくれていた。
私は自分でも思うほどに子供っぽい。
だから、大学でお話をあわせてくれる男の人ってあまりいなかった。
それなのに朔也ちゃんは私に自然に接してくれるの。
そういうところがいいなって……初めて私も男の人に興味を抱いたの。
「ち、千歳? さっき、一緒にいた男って」
「んー? 朔也ちゃんのこと?」
「うわっ、やっぱり、あの鳴海朔也?」
大学の講義中に友達の麻耶から私は心配そうな声をかけられる。
「何で、千歳みたいな子が悪名名高い鳴海と一緒にいるわけ? アイツの噂、知ってるでしょ?」
「朔也ちゃんの噂って何のこと?」
「知らないの? あの鳴海朔也って言えば、顔はかなりいいけど、女好きで有名な奴じゃない。この前、私の友達が付き合っていたんだけど、ひと月持たずに捨てられたって」
私は教授の講義をノートに書き写しながら、
「朔也ちゃん、カッコいいもんね」
「大体、千歳がどうして鳴海と一緒にいるの?」
「この前、知り合ったの。何だか、すっごく面白いっていうか、一緒にいると楽しい人だよね。ああいう雰囲気の男の人、今までいなかったから」
「……千歳が男に興味を持つのは珍しいけど、よりにもよって鳴海ってどうなのよ。女癖が悪い奴なんだから付き合っても、痛い目をみるだけよ。千歳は純情だもの。弄ばれて捨てられるだけかもしれない」
私は麻耶ちゃんが心配してくれるのは嬉しく思いながらも、朔也ちゃんの悪口を言われるのは何だか嫌な気がした。
「大丈夫だよ、麻耶ちゃん。あのね、朔也ちゃんは優しいの。それに温かい人だもん」
「温かい? あの鳴海が?」
「私は向日葵だとしたら、彼は太陽。私を優しく照らしてくれる気がする」
「千歳のそういう天然な所、嫌いじゃないけどさぁ。太陽ねぇ? 千歳とは相性がいいってことかな?」
「相性はいいよ。うん、断言できるもの」
私にとって自然に接する事の出来る男の人。
お互いの波長が合うって、いいことだよ。
「朔也ちゃんと一緒にいるだけで、満たされる。私は幸せなのです」
「……ふぅ、千歳って天然のワリにこうと決めたら頑固な所もあるわよね。私が何を言っても無駄か。弄ばれるかもよ?」
「あのね、弄ばれるってどういうこと?」
私が素で質問すると麻耶ちゃんは呆れた顔を見せる。
「……本気で言ってるのよね?」
「そうだけど?」
「はぁ、鳴海もよく千歳を相手にしようと思ったわ。手ごわい相手よ、こちらも」
「麻耶ちゃん?」
「何でもないわ。とにかく、変な事をされかけたら私たちに相談すること」
私たちは講義においていかれないように、集中することに。
でも、私は朔也ちゃんの事ばかり考えていたんだ。
彼のことをもっと知りたいって。
数日後、私は朔也ちゃんにデートに誘われてしまった。
私は電話で麻耶ちゃんに相談する。
『デートの約束ぅ!?』
「声が大きいよ、麻耶ちゃん」
『ごめん。マジでびっくりしたわ。あの鳴海め、ついに狙ってきたわね』
「デートは私の方もしたかったんだ。だから、いいの」
この流れになったのは突然だったけども、私としては楽しみだ。
『どこに行くの?』
「まだ決めていないよ。好きな所に連れて行ってくれるって」
『……変な所に連れ込まれないようにしなさい。ホテルとか絶対についていかないで。貴方にはまだ早い。それよりもアイツからデートのお誘いなんてね』
麻耶ちゃんからの警告。
どうにも、彼女は朔也ちゃんを悪者に思ってる所があるの。
「大丈夫だよ。朔也ちゃんは良い人だから」
『本当にいい人は恋人を月単位で変えたりしないわ。そうよ、確か前の恋人とも別れてからちょっとしか経ってないって。それで次は千歳? まったく、手を出すのが早すぎでしょうに。千歳、後悔する事になるかもよ?』
「後悔なんてしないよ。麻耶ちゃん。私は朔也ちゃんが好きなんだと思うの」
恋がどういう気持ちなのか。
私にはまだ分かっていないけども。
彼の傍にいたい。
その気持ちだけは確かに強くある。
『……好きとか、千歳から聞くなんて。はぁ、よりによって何で鳴海なのよ。もっと他にもいるじゃない? 相手が悪すぎるわ』
「そうかな?」
『千歳……貴方は鳴海と恋人になりたいの?』
「恋人か。いいよね、ロマンティックで」
『現実の恋人なんてロマンティックを求めるのは最初だけよ。映画みたいなハッピーエンドなんて迎えられる可能性の方が少ないんだから』
朔也ちゃんと恋人になる。
今は友達だけど、恋人になったらもっと幸せになれる?
「私は……今以上に幸せな気持ちになれるのなら、朔也ちゃんと恋人になりたい」
『……千歳みたいな純粋なタイプに相性が悪いとしか思えない。それでも、千歳が鳴海を好きなら仕方ないわ。それにデートに誘うくらいだもの、相手にもその気があるんでしょ。私は千歳を応援している。好きにしたらいいと思う』
「ありがと。麻耶ちゃん」
『でも、できればもっと真面目で良いやつに惚れてほしかった。友人として心配しなくちゃいけない状況はとても悲しい』
それから彼女は私に出来る限りのアドバイスをしてくれる。
恋愛の経験もない私にとっては、知識的にも参考になる。
『そうだ、千歳。彼と付き合えるようになったら、部屋にいきなさい。別に変な意味じゃなくてね。あの男の部屋は絶対に他の女の子の私物が置いてあったりするから』
「お部屋チェック?」
『そう、絶対にしておいた方がいいわよ。元カノの私物とか見たらムッとするでしょ?』
私は「どうして?」と不思議な気持ちで頷いていた。
その後、本当にムッとする気持ちになるとは思いもしないで。
「好きな人と恋人になるのって大変なんだね」
『想いが通じ合う事がまず問題。その後はどう付き合っていけるかじゃないの」
「私……朔也ちゃんと恋人になれるかな」
『それは千歳次第よ。くれぐれも相手が狼産だと言う事を気をつけて』
彼とのデートを楽しみにしながらも、「恋人になれるかな?」という不安もある。
恋は難しい。
だけど、面白い。
今まで自分が経験したこともない、不思議な感じがする。
わくわく感とドキドキ感。
「……私、好きなんだ」
彼の事を想うたびに、私の中に溢れる気持ちに気付く。
初めての恋。
私は20年の人生で初恋をしてしまった。
「朔也ちゃん……」
太陽みたいな男の子に恋をした。
その初恋は、私にとって人生を変えてしまうほどの大きな影響を与える。
私の恋の始まり。
これはまだプロローグなんだ……。