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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第5部:私だけの太陽 〈大学生編〉
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第1章:好きになっていく《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


 大切な人と思える女の子に俺は出会えた気がする。

 ただし、言うまでもなく千歳は変わった子だ。

 少しばかり普通の子とは違う、独特の雰囲気を持つ。

 天然系というか、のんびりとした雰囲気も魅力なのだろう。 

 俺達は親しくなればなるほどに、相手を強く想い始めていた。

 

「デートってアクアリウムでいいのか?」

「いいよ。私は生き物さんが好きなのです」

「動物園とか水族館とか?」

「そうだよ。苦手なのは虫くらいかな」

 

 可愛いものが好きと言う事か。

 

「私は動物好きだから家でもペットを飼ってるの」

「へぇ、犬か猫か? 小動物か?」 

「私が飼ってるのはパピオンって種類の犬だよ。家には他にいろんな動物がいるんだ。家族それぞれ、動物好きだから自分のペットを飼っていてね。家はにぎやかだよ」

 

 なるほどなぁ、千歳はお嬢様だからな。

 実家も広いんだろうし、ペットなんて飼うスペースもたくさんあるんだろう。

 

「兄弟がいるんだっけ。他に何か飼ってるのか?」 

「私のお姉ちゃんはヘビを飼ってるの。ヘビは餌がねずみだから私は可哀そうで飼えないけど、瞳がすっごく可愛いんだ」

「ヘビ……お姉ちゃんは中々の趣味だな」

 

 この妹にして、その姉ありということか。

 ヘビくらいでは千歳はビビる事もないらしい。

 俺も田舎にいた頃は時折、ヘビと遭遇することはあった。

 だが、どうにもあの舌を出すしぐさが怖くてな……。

 

「ほら、千歳。飽くアクアリウムに入るぞ」

 

 今日のメインはデート、俺達はアクアリウムに入る事にした。

 大型水槽の前には子供やカップル連れが楽しそうに魚を見ている。

 

「朔也ちゃんは水族館は来たりするの?」

「誰かと遊びにって感じで来ることはあるかな。魚も好きだからな。俺が昔、住んでいた田舎の町は海だけが綺麗な町でさ。よく海で遊んだっけ。サンゴ礁とかに、いろんな魚がいるんだよ。懐かしい」

「海が見える町っていいよね。私、朔也ちゃんの住んでた町に行ってみたいな」

 

 あの町には何もない、都会にあるものはほとんどないのだ。

 コンビニ、ファミレス、大手外食チェーン、あげていくときりがない。

 都会になれた俺には戻りたいとも思えない不便な町だ。

 

「海以外に何もない町だぜ。今も多分、何も変わってないんじゃないか」

「逆に都会は私には過ごしにくいもん。ごちゃごちゃしてるのは苦手。海に触れられる町、いいなぁ。朔也ちゃん。いつか私を連れて行ってね?」

「あんな場所が良いとは俺は思えないけどな。機会があればつれていってやるよ」

 

 中学卒業と同時に都会に出てきて以来、戻りたいと思っていたはずの田舎町。

 いつしか、俺の中で過去になりかけているのに気付く。

 神奈や千沙子、斎藤……多くの友人達を裏切るように残して都会に来た。

 その思い出は大事だが、あの町に戻りたいとは思えなくなってる。

 ……時間が立つってこういう事なんだな。

 

「田舎はしょせん、田舎だよ」

「めっ。そーいうことは言っちゃダメだよ? 綺麗な自然があるって素晴らしいんだから。都会育ちの私には羨ましいくらいだよ」

「はいはい……千歳は好きそうだよなぁ」

 

 千歳にたしなめられて、俺は苦笑する。

 彼女の長い髪をポンッと撫でて、水槽の方へ興味を促す。

 

「千歳は何でも好きなんだろ? 魚の中で特別に好きっていうのは?」

「あえて言うなら、アリゲーター・ガー」

「何だ、それ?」

 

 千歳は適当に目に入った魚を言ったらしい。

 すぐ近くにある水槽をのぞきこんだ。

 

「ぬわぁ!?」

 

 思わず驚くのはその外観だ。

 まるでワ二の様に鋭い歯が並ぶ口の長い魚。

 肉食だよな、こいつ……間違いない。

 

「ワニにそっくりだから、アリゲーター・ガーって言うの。淡水魚ですっごく大きい魚なんだよ。このつぶらな瞳が可愛い」

「どこが可愛いのやら。それ、さっきのヘビと同じ理由だから」

「……むぅ、少し怖い顔をしていても瞳は皆可愛いんだよ。朔也ちゃんには分からないのかな。ガーさんの魅力を誰も理解してくれない」

「分かりません、千歳のセンスにはちょいとついていけない」


 このワニもどきの魚のどこが可愛いのやら……。

 瞳だけ、確かに普通の魚っぽいけどさ。

 口元は鋭い歯が並び、今にもかまれそうな怖い印象しかないぜ。

 

「千歳の好きっていうセンスだけは理解不能だ。千歳ワールドだな」

「ひどいっ。朔也ちゃんの意地悪~っ」

「だったら、女の子らしく熱帯魚でも見て可愛いって言ってくれ」

「それは可愛いけど、なんて言うのかな。ウサギが可愛いのは当たり前だけど、怖そうに見えたりする動物も実は可愛いってギャップがいいのに。ほら、人間だって怖そうな人は実は優しかったら好印象になるでしょ?」

 

 女の子にそう言うギャップ萌えなんて求めてない。

 イメージ通りに可愛いものに可愛いと言ってくれ。

 その後も千歳は普通の女の子が好きそうにもない魚ばかり、俺に見せようとする。

 色とりどり、形もそれぞれ違う魚の入った水槽を眺めて歩く。


「……深海魚ってグロい形のもあるから、たまにびびるわ」

「東京湾には深海ザメがたくさんいるんだって」

「ふーん」


 こうして水槽を眺めながら歩いてみると、アクアリウムってのは新しい発見があって面白いものだ。

 子供のころと違って別の視点からみると面白いと思えるものも違ってくる。

 

「朔也ちゃんっ、見て!」

「次はなんだ? 光るクラゲか、分裂するクラゲか?」

「違うよ。もうすぐペンギンショーが始まるんだって。見てみたい」

「……ようやく女の子らしい反応してくれて俺は嬉しいよ」

 

 ペンギンショーの案内を見てようやく、女の子っぽい反応を示す千歳。

 彼女が先程まで楽しんでいた宇宙人にしか思えない気色の悪いクラゲのコーナーを抜けていく。

 

「ほら、早く行こうよ」

 

 千歳が急かすように俺の手をつかむ。

 天然だから無意識なんだろうけどさ。

 こういう何気ない仕草を平然とできる彼女の性格は嫌いじゃない。

 純粋ゆえに美しい、俺は千歳に惚れている。

 

「朔也ちゃんの手は大きいねぇ。男の子ってみんな、こういう手なのかな」

「そんなものだ。女の子は大抵、小さな手だな」

 

 そして、体温が冷たい子が多い。

 女の子に冷え症が多いって言うのがよく分かる。

 千歳もひんやりとした手の温もりが伝わる。

 

「くすっ」

 

 ペンギンショーに向かう間も、途中の水槽を眺めながら楽しそうにしている千歳。

 

「何が楽しいんだ? 変な魚でもいたか」

「違うよ。楽しいのは朔也ちゃんと一緒にデートしてること。すごく楽しいねっ」

「そりゃ、どうも」

 

 満面の笑みで言われると俺が照れくさくなる。

 こんなナンパ男が相手で悪いね。

 

「……ペンギンを見に行くんだろ。早くいくぞ」

「そうだ、ペンギンさんの足は短いように見えて実は長いの。中に折りたたんで座っているような形なんだよ。知ってた?」

「それは嘘だろ……?」


 あのまるっころい身体のどこに足を折りたためるというのか。

 

「ホントだよ。骨格を見れば分かるの。生き物って不思議で面白いでしょ?」

「へぇ、それは知らなかった。腹の中にも隠してるのか」

 

 面白いという意味では俺にとっては千歳の方が面白いけどな。

 色々と知っていて、子供みたいに無邪気で、見ていて飽きない。

 本当に傍にいると本当に楽しい女の子だ。

 今まで傍においてた女の子達とは根本的に何かが違う、これが純粋ゆえの魅力なのだろうか。

 

 

 

 

 ペンギンショーを満喫した俺達は帰り際にアイスクリーム屋に寄っていた。

 公園の露天のお店で買ったアイスを食べながら千歳は言うんだ。

 

「朔也ちゃん。今日のデートは最高だったよ。また一緒に遊んでね?」

「俺は別にいけどさ。千歳は良いのか? 俺みたいなチャラい男と遊んでて、楽しいか? 悪影響を与えてるとしか自分でも思えん」

 

 自分で言うのも何だか、別に真面目でも何でもない。

 女の子との恋愛やらに関しては自分主義で結構ひどい方だ。

 俺にとって千歳は住んでる世界が違う気がする。

 ここまでくれば誰だって分かる、千歳が俺に好意を抱いてることも……。

 

「朔也ちゃんって私の心配をしてくれてるでしょ? そう言う所も好きなんだ」

「千歳……」

「私は恋愛経験もないし、今まで好きだと思えた人もいない。でもね、朔也ちゃんは私にとって今までの男の人の中で何かが違う、特別な人なんだって思う」

「……どうだろうな? それは勘違いかもしれないぞ」

 

 アイスを食べ終わった千歳は俺に向き合いながら、

 

「違わないよ。朔也ちゃんは意地悪さんだけど、傍にいると安心できるの。とても心が温かい人なんだよ。それが分かるから……私は朔也ちゃんが好きなんだ」

 

 ためらいもなく俺に告白をしてくる。

 千歳の真っすぐな瞳が俺をとらえて離さない。

 

「私は少し他人とずれてるよね。それを朔也ちゃんは自然に受け止めてくれるじゃない。笑うでもなく、けなすでもなく、自然に私をそのまま受け止めてくれる。そう言う所、誰にでもできるわけじゃないから。私は朔也ちゃんが好きなんだ」

 

 可愛らしい笑みを浮かべる千歳。

 俺もまた彼女に他人とは違う何かを感じて惹かれていた。

 不思議ちゃん、って一言では片付けられない特別な雰囲気が千歳の魅力なんだ。

 

「千歳、俺も好きだ。真面目な恋愛なんて今までした事がなかったけどさ。それでも、俺は好きだって思う。ホントに俺みたいな奴で後悔しないか?幻滅するかもしれないぞ」

「するわけないよ。だって、私が好きになった人だもんっ」

 

 ……好き。

 誰かから愛されるってこんなにも心が満たされるものだったんだ。

 躊躇することなく言い放つ千歳は背伸びをして俺に軽いキスをしてくる。

 

「――大好きだよ、朔也ちゃん」

 

 キスの余韻。

 想いが伝わる最初のキスはほんのりとアイスの香りがした。

 俺と千歳の交際。

 大学2年の夏から始まるこの恋はどんな物語になるんだろうか。

 期待と不安が入り混じるけども、俺は断言できる事がひとつだけある。

 この“恋愛”はきっと俺の人生で特別なものになるはずだ――。

 

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