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蒼い海への誘い  作者: 南条仁
第1部:再会と蒼い海 〈ファーストシーズン・帰郷編〉
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第3章:2つの歓迎会《断章2》

【SIDE:鳴海朔也】


「と言うわけで、本日の夜にお前の歓迎会をすることになった」

「いきなりだな、おい……」

 

 翌朝、俺は身動きできない程の疲れを抱いていた。

 昨日の歓迎会の二日酔いが抜けずに頭が痛い。

 俺でこの調子なら村瀬先生は記憶飛んでそうだな。

 それはそれで、彼女のためにはいいのだろう。

 何もなかったことにしてあげるのが大人の対応。

 明日、何を聞かれても誤魔化してあげる事にしよう。

 

「ふわぁ、すまん。ちょっと疲れ気味でな。それで、何で今日なんだ?」

 

 俺は頭を抱えながら玄関に立つ斎藤に言う。

 

「今日は日曜だからな。皆が集まれるのは今日がいいだろ?」

「……そう言う事情なら仕方ない」

「それに花見も見ごろがピークだからさ。夜桜の花見もかねて、集まろうと声をかけた。お前が帰って来た事を皆、歓迎してくれていたぞ?」

 

 夜桜か、この町にも桜並木が立ち並ぶ場所くらいある。

 

「懐かしい面々に会えるのは嬉しいが、眠いのでもうひと眠りする」

「……本気で眠そうだな。そんなので仕事とか大丈夫か?」

「頑張るさ。昨日は、学校の先生たちと歓迎会で飲まされ、ぐはぁ……」

「お疲れというわけか。いろいろと準備があるから、夕方に迎えに来るぞ。それまで休んでろ。俺はこれから相坂の所へ食べ物系の相談に行くからって……もう聞いてないか。今日はお前が主役なんだからしっかりしてくれよ」

 

 斎藤の言葉に頷くと俺は再び、布団に戻り倒れるように眠りにつく。


「すまんが任せる。俺は体力を回復したい」


 やばい、この眠気には勝てない……。

 もう寝ます、おやすみなさい。

 


  

 

 夕方まで寝ていたら二日酔いも醒めて俺は元気になっていた。

 

「――鳴海朔也、完全復活!」

 

 自分で言ってれば世話ないのだが。

 

「丸一日かけて復活したのは時間の無駄ともいえるのだが」

 

 睡眠とドリンク剤に頼った事もあり、見事な復活を遂げていた。

 それを呆れた顔をしている斎藤が口を出す。

 

「元気になったのはいいが、これから買いだしに行くぞ?」

 

「おぅよ、って俺達が行くのか?」

 

 そもそも、どういう面々が集まってくれているのかも知らないんだけどな。

 

「相坂とか女性組は食事を作ってくれている。場所の確保をしてくれている奴もいるし、俺達だけ何もせずはいかんだろ? ビールとかジュースとか飲み物系の買い出しだ」

 

 斎藤の軽トラでスーパーへ買い出し。

 俺はビールの箱と値段を比べてどれを買おうか悩みながら、

 

「どれだけの人数が来るのか分かってるのか?」

「それくらい分かってる。あと、これが酒飲む人数と飲まない人数だ」

 

 何でも電話をかけた時に、誰が何を飲むか既に聞いておいたのだとか。

 

「斎藤って気配りスキル、半端ねぇ。お前、合コンだと仕切るタイプだな。モテるぞ」


 俺の知らない間に責任感が芽生えたり、仕切りやになっていたりと、俺の知らない一面が増えているようだ。

 名前と何を飲むかが書かれたメモを見ていると今日来る面々は中学時代を過ごした懐かしい同級生が多かった。

 

「へぇ、30人もくるのか。よく集まってくれたものだ」

 

 主に中学で同じクラスだった子が多い。

 

「一応、こっちに残ってる知り合いはほとんど来るぞ。ぷち同窓会って感じだな」

 

 逆を言えばメモに名前のない同級生は既にこの町を出ていってしまったと言う事だ。

 俺が言うのも何だが、それは寂しい事だと言える。

 

「ビールは箱買いで、ジュースはペットボトルでいいな」

「代金は皆で折半するから気にするな。荷物持ち頼むぞ」

 

 適当なお菓子系も購入してから花見会場へと向かう。

 地元では桜公園と呼ばれる通り、桜が綺麗な場所だ。

 

「ここ、ずいぶんと整備されてないか?」

「観光地ってのは目に見える場所から綺麗にしていくものだろ?」

「なるほど。例のホテル絡みか」

 

 高台の高級ホテルはこの町にとっては切り札なのだろう。

 利権がらみとかややこしそうなので、俺は詳しい話は聞いていないが。

 あのホテルがこちらに建ってからいろんなものが変わろうとしているようだ。

 昔と違い、綺麗に整備された桜公園には大勢の人々が花見をしている。

 その中でも、若い連中が集まってるのが待ち合わせ場所だった。

 

「遅いわよ、朔也?」

 

 俺をまず出迎えたのは神奈だった。

 

「悪い。これでも急いできたんだ」

「嘘つけ。二日酔いで寝込んでいたくせに」 

「あ、こら。斎藤、ばらすなよ」

 

 神奈は「昨日は学校の先生達と?」とある程度の事情は知っている様子だ。

 

「ひどい目にあわされた、一部の人にな」

 

 そして、その人は明日には記憶がなくて困った顔で俺に何があったか問うだろう。

 大人の対応と悪戯心が両天秤。

 ここで悪戯心に傾いたら、俺は先輩相手に主導権を握れるかもしれない。

 

「それはさておいて。皆はもう来ているんだな」

「ひとりだけ遅れてる子がいるけど、それ以外は皆来てる。先にはじめておいてって言われてるから、もう始めましょうか?」

 

 俺は皆の前に出ると一斉に視線がこちらを向く。

 そして、声をそろえて言うのだ。

 

「「――えっと、誰?」」

 

 俺、泣きたい……。

 感動の意味じゃなくて悲しい意味で大泣きをしたい。

 自分の存在を疑問で返されるほど悲しい物はない。

 

「皆、ひどいや。俺の事、忘れているなんて」

「お前が外見、変わり過ぎなんだよ。面影なんてほとんどないじゃないか」

「そうは言うが地味にショックなんだ」

「……幼馴染の私ですらびっくりしたくらいだもん。仕方ないよ、朔也」

 

 斎藤や神奈に慰められながら、俺は皆に挨拶をする。

 

「えっと、皆、久しぶり。7年ぶりに美浜町に帰って来た鳴海朔也だ」

「えー、嘘? あの鳴海君ってこんなに変わってたの!? カッコいいっ」

「これは驚いたな。さすがに7年ってのは人を変えるものだ」

「東京クオリティーってやつか。都会っ子は全然違うなぁ」

 

 皆がそれぞれ、俺の変化に驚いてる様子。

 周りの人間の顔を見渡すと、名前を思い出せる程度には面影がある。

 

「皆、朔也が町に戻ってきたのが嬉しいんだよ」

 

 神奈の言うとおり、俺はここでも歓迎をされているようだ。

 こういう人の温かさは東京ではほとんど感じられなかったので、何か照れくさい。

 

「鳴海に聞きたいことはいろいろあるだろうが、その前に今回の趣旨はお花見でもあるからな。ほら、皆、飲み物をまず持て」

 

 仕切りやの斎藤が皆に声をかけて、飲み物を手渡す。

 冷えたビールの缶を手にした俺達は満開の桜の木の下に集まる。

 約30人ほどの中学の同級生がここに集まっている。

 それだけで懐かしさで俺は込み上げるものがあった。

 

「飲み物はそれぞれ持ったな? よし、それじゃ始めようか。ここにいる皆は覚えているだろう。この町から俺達の中で一番最初に去ってしまった鳴海朔也という男を。でもな、こいつはわざわざ東京から戻ってきてくれたんだぞ」

 

 皆が俺に好意的な視線を向ける。

 皆の前で挨拶をしろと斎藤に促された。

 

「あ、こほんっ。久しぶりだな、皆。この町に戻ってくる事になった理由は、俺がこの町の高校の教師になったからなんだ」

「あの鳴海が高校の教師だって?」

「それって、あの美浜高校のことだよね?」

「俺は教師になりたい夢をずっと抱いて、その夢をかなえる事ができたんだ。そして、俺は故郷である美浜町に戻ってきた」

 

 俺は皆の顔を見合わせて、正直な本音を告げる。

 

「実は本音で言うと、歓迎なんてされないと思ってた。中学卒業と同時に一番最初に町を去ったのは俺だからな。でも、違った。温かく迎えてくれた事、本当に嬉しい」

「何言ってるんだよ、鳴海。俺達は去って行った奴らが帰ってくるのを待ってた」

「それぞれ事情があって出ていってしまう。それは仕方ない事じゃない」

「それでも、こうして戻ってきてくれるってのが一番嬉しいことなんだよ?」

 

 彼らの声に俺は神奈が言っていた言葉を思い出す。

 たくさんの人が町から減りゆく中で、戻ってくる人間はほとんどいない、と。

 去りゆく側と残される側。

 改めてその意識の違いを思い知らされた気がした。

 

「……皆、ありがとう」

「俺達はこの町が好きだ。ひとりでも多く、戻ってきてくれる事を望んでいるんだ。鳴海、お前が最初に出ていった奴だがな。最初に戻ってきてくれたのもお前なんだよ」

 

 それまで黙っていた斎藤がそう言って笑う。

 皆の笑い声が俺にとっては一番の喜びだった。

 

「さて、冷えたビールが温くなる前にさっさと始めるか。皆、準備はOKか?」

 

 俺達はそれぞれの飲み物を軽く上にあげる。

 

「――満開の桜と、7年ぶりの同級生との再会を祝して乾杯!」

「「――乾杯~っ!!」」

 

 斎藤の音頭で宴会の始まりだ。

 あちらこちらで質問攻めにあいながらもこの時間を楽しむ。

 

「おっ、この料理って神奈の作った奴か?」

「そうよ、女性陣で作ったの。ほら、朔也は唐揚げとか好きでしょ」

「サンキュー。サクッとしていて美味いな」

 

 俺は魚の唐揚げを食べながらビールを飲み、この雰囲気を味わう。

 夜桜が舞う光景は立派な夜景として楽しむ。

 かつてよく遊んでいた仲間たちと共に、再会を喜びながら。

 しばらくしてから、ひとりの女性が訪れる。

 

「――ごめん、遅れたわ。あら、皆も変わりはないようね」

「おっ、来たか。まだ始まったばかりだ。君島、ほら、お前も適当に座れよ」

 

 斎藤に君島と呼ばれた美女は俺の姿に気づいて微笑む。

 

「君島って、あの君島なのか?」

「……朔也クンよね?全然見た目も変わって驚いたわ」

「君島こそ、その、綺麗になってるじゃないか」

「ありがとう。……おかえりなさい、朔也クン」

 

 思わず、見惚れずにはいられない。

 ドキッ……心臓が高く鼓動する。

 その微笑みを見せた相手は俺にとって、ある意味忘れられない相手。

 

「うん。ただいま。本当に久しぶりだな、君島」

 

 言葉を詰まらせながら俺は挨拶をする。

 ショートカットの髪型、妖艶な魅力を溢れさせる女性。

 彼女の名前は君島千沙子(きみしま ちさこ)。

 俺の同級生の中でもトップクラスの美少女であり、人気者だった女の子。

 そして、7年前、美浜町を出ていく寸前に俺は彼女に告白された事があった――。

 

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