ルールに泣かされルールに救われる
プロサッカーリーグの2部に位置する地方クラブ『片山サンバスター』はその年のリーグ戦で圧倒的な攻撃力を見せてクラブ創設初の2位に入る。
トップリーグに昇格するためには2位までに入るか3位から6位までのプレーオフで勝たなければならない。プレーオフは短期決戦ゆえに不確定要素が多く来季の編成も出遅れるため2位で自動昇格出来た事は来季に向けてかなりのポジティブ要素だ。
しかしサンバスターサポーターに笑顔は無かった。1部に参加するためのライセンスが下りなかったからだ。スタジアムの収容人数だけは選手達にはどうしようも無い。
そうと決まれば後はあっという間だ。地方の躍進したクラブなど昇格できても草狩り場になるのに成績以外の要因で上がれないのであれば選手は上のステージへと出ていく。エースのジョビーニョを筆頭に主力は次々と1部に移籍する。
控えゴールキーパーであった草壁はスポーツニュースでかつての仲間達が1部や欧州で活躍する姿を見る。
その後のサンバスターは成績が低迷、スポンサーが次々と離れマトモな補強も出来ない程の資金難に陥る。
完全に明暗が分かれた格好にメディアやSNSからは嘲笑の嵐だ。
草壁自身はサンバスターのユース上がりの生え抜きだ。黄金期の正ゴールキーパーの活躍を見ていつか自分もゴールマウスを守るために日々練習を積んだ。
しかし皮肉にも最悪の形でアッサリと明け渡される事になった。
草壁も自分が代表に選ばれるような名手だとは思っていない。だが黄金期の主力が全員抜けてその後もどんどん流出するディフェンス陣では統率など取れるはずが無く次々と失点を繰り返す。
心の何処かでサッカーをチームを嫌いになっていた自分がいた。
「いつ勝つんだよ!ボケェ!」
「気持ちで負けてんだよ!プロ辞めちまえ!」
続く連敗、出口の見えないトンネルにサポーターも選手も心が折れていた。
草壁は心がプツンと切れてサポーターに向けて反論してしまう。
「補強もままならないでスタンドからは野次でどう勝てってんだよ!俺らも精一杯やってんだよ!」
草壁の反論にサポーターは怒声を浴びせる、チームスタッフが選手達を連れてロッカールームへ下がらせるのであった。
後日のスポーツニュースで映る自分の醜態に草壁は愕然とする。SNSでは動画が回され三流キーパーの遠吠えとして批判される。
そしてついにサンバスターの最下位が確定する。最下位争いに敗れての結果にサポーターの怒りは頂点に達しフロントの退陣を要求する。退任が決まっている監督は肩の荷が下りたのか安らかな顔だ。
ロッカールームはお通夜モードだった。自分達がチームを衰退させてしまったと言う罪悪感に押し潰され特に若手は涙を流す。
最年長の草壁は何も言えなかった。
しかし運命の神様とは何処までも悪戯が好きなものだ。3部リーグの上位2チームが2部のライセンス交付基準を満たしておらず昇格を見送られた。
草壁は笑うしか無かった。かつて自分達を絶望に叩き落とした冷徹なライセンス制度が皮肉にも今度は無様に負けた自分達の首の皮一枚を繋ぎ止めてくれたのだから。
それでも断トツの最下位の恥さらしと言う扱いに変わりは無い。
翌日のファン感謝祭は異様な空気に包まれていた。
「残留おめでと~、来季もライセンス交付するなって上に泣きついてみたら?」
他力での残留に何の価値も無いと言うかのような罵声をあげるコアサポ。
草壁はマイクを握る。
「数年前、僕達は制度に殺されました。でも今日、この制度に生かされました。恥さらし····でしょうね。この恥を僕達は一生忘れない。ライセンスに見合うチームになって必ず上に行きます!」
サポーターと仲間達からの拍手が響いた。
草壁は巻き起こる自分とチームのコールに手を振りながら檀上から降りるのであった。
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翌シーズン。サンバスターは昇格プレーオフ争いに絡めるまでに復活した。要因はかつてのエースであるジョビーニョの復帰である。
1部で活躍し母国のブラジルに戻るも通用せずに出戻る形になったのだ。
だがその挫折を経た彼は黄金期よりも成長し絶対的エースとして君臨する。
そしてもう一つ挙げるとしたら守備陣であろう。昨年から誰一人移籍せずに覚醒した守護神の草壁を中心に失点を大幅に減らしている。
スタジアムの改修工事も終わり今季のライセンス交付も確実視されている。
運命に弄ばれたクラブの逆襲はここから始まるのだ。
ぶっちゃけ黄金期はジョビーニョ頼みの糞サッカーだったため他の主力は全員落ちぶれてます。




