犯行の動機
「し、失敗って……」
「熊は平気で生きてたんだ。あと、これはそうなってしまったことが本当に悔やまれるんだけど、人間も平気だった」
「……それはどういうこと?」
一酸化炭素の濃度が高い狩猟小屋にカルト卿は飛び込んだ。
一酸化炭素はわずかな時間でも、吸い込むのは本当にマズい……はず。
それなのにカルト卿は生きていた。生きているどころか、巨大熊に痛烈な一撃を与えている。
「……それは……この世界では、炭素とか酸素とかが無いとか――」
「それも考えた。でも、私はこの現象はゲーム制作者が、《《一酸化炭素中毒を設定し忘れた》》んだと考えてる」
私の中で一番納得できるのがこの考え方なんだよね。エリーが一酸化炭素の知識については、私にとってはおあつらえ向きな状態だったので、それを利用させてもらおう。
何しろこれはエリーさえ説得できればいいのだから。
未だ言葉を失ったままのエリーに、私は追撃を加える。
「……だってエリー。あなただって一酸化炭素中毒の事はすぐに思い付かなかった。それぐらいの認識が普通だと思う。だからゲーム制作者も忘れていた」
「ちょ、ちょっと待って。今度はわたしから確認したいことがたくさん出て来たわ。えっと……そうだ! もう一回一酸化炭素中毒が起きるかどうか確認してみるとか……」
残酷なようだが、その検証を思い付いてくれたのは頼もしい、
だけど、私はそれを否定する。
「恐らくもう一酸化炭素中毒は設定されていると思う。私が、随分慌ててしまったから。ゲーム制作者もミスに気付いたと考えるべき」
「そこよ。その『ゲーム制作者』って何? それに現在進行形でゲーム作ってるみたいな……」
「その説明の前に、もう少しだけこの考え方の補強をさせて――ねぇ、エリー。あなたトイレに行く?」
それはエリーの意表を突いてしまったのだろう。フル・フラットが小刻みに震えている。
去来している感情は、戸惑いか怒りか。
「そ! そ、そんなの当たり前でしょ!!」
「確信できる? どういう風にしたか思い出せる? 毎日同じじゃないでしょ? それって変なのはわかるよね? 昨日は? 一昨日は?」
矢継ぎ早に、エリーの記憶を疑ってみせた。
「そ、そんな……君が下品な聖女だからって……そ、そんなこと……」
「うん。私もその記憶に違和感を覚えたのはうんこ聖女と呼ばれた頃。それで意識したせいだと思う。確かに『トイレに行った』って記憶だけはある。でも、結果だけがクローズアップされているような不均衡さというか違和感を感じて……結局今もそれをぬぐうことが出来ないまま」
そう。
実は「うんこ聖女」と呼ばれたことは、こんな効果もあったんだよね。
そして、そこから――
「――それがあったから熊退治に『悪巧み』を組み込んだの。この違和感の正体を確かめるために。最初はトイレの違和感。そうじゃないと変でしょ? 私がいきなり熊で一酸化炭素中毒が起きるかを確かめようとするなんて」




